<禁断少女HR>

 

くそっ、十二時を越えちゃったよ。

今日のうちに前半部分は投下するつもりだったのになあ。

書けないって言うよりは、ノらない感じだ。

何度も同じところを書き直しているけど、まとまらない。

ぴったりとハマらない感じだ。

ああ、三本同時に書こうなんて思いつかなきゃ良かったよ。

つーか、あれだ。

何で明日仕事なんだよ。休みくれってば。

休出手当いらないから、その分丸々逆に会社に払ってもいいから、休ませろ。

休みの日だったら、一日中、この文字たちと戯れていられるじゃないか。

夏休みを題材にしたSSなんて書いている人間が、今年も夏休みなし決定ってのは、

世の中、どこかおかしくないですか。

あー、でも少し良くきたな。

三人娘の区別がだんだん付いて来た。

うん。

この娘とこの娘とこの娘の「主人公が好き」っていうのは微妙に違ってて、全部同じなんだ。

そうそう、こんな感じ。

ヤマ場とラストシーンが、見えてきた。

いつも刺激を受けるあの人の背徳エロスに、今回も頭ガツンってされたし、

チャットでお話した職人さんも、すごい大作書いてきたよ。

そうか、美少女とか萌えとかエロ可愛い、というのはこう書くのか。

こりゃ、僕には真似できない。――なら、僕は、僕の得意分野で思いっきり行くだけだ。

おっぱいバインバイン、お尻バーンの優しいエロいお姉さまに乗っかられちゃうSS。

そう、――<エロSSの女神>様のような女性に……。

おしっ、気合が入ってきたぞ。時間が気にならなくなった。

これは、<書けるモード>だ。

「――それは重畳。だが、いささか趣味が悪いのではないかえ?」

鈴の音が、人の声になった。古風な言い回しの艶やかさよ。

僕は振り向かなかった。

「き、来やがった。──僕のところにも」

声の主が誰なのかは、見なくても分かっていた。

気がつけば、禁欲し始めてから、もう七日だ。

意識して続けたわけでもなく、帰ってきてから寝るまでと、起きてから家を出るまでの時間を

SS書きに費やしていて、しかもこのところ書いているのがいわゆるエロの場面ではなく、

そこにいたるまでの状況説明の場面のため、結果的に僕は禁欲していたのだ。

「やばい」

僕は顔を引きつらせた。

──禁断少女。

こいつはあらゆるSS書きの天敵だ。

「ほう、わかっておるな。――では、わらわと遊ばぬかえ?」

後ろから声が──いや、今度は前からだ。

「なっ」

その子は、今僕がかじりついているPCのモニターの上に腰掛けていた。

黒地にごくわずかな金銀紅の模様が入った和服。

立てば背にまで届くであろう艶やかな黒髪。

白磁よりも滑らかな白い肌。

そして闇より深い黒瞳と、それが収まる美貌。

正真正銘の、ネット伝説。

「か、帰れ。今、やっと調子が出てきたところなんだ」

ああ、それはウソじゃない。

夕飯がてらに飲んだ三杯のソーダ割り梅酒の酔いが、いい感じに抜けてきて、

キーボードを叩く動きがなめらかになってきたところだ。

さっきまでまとまらなかったストーリーが一つに収束しつつある予感。

この時間が一日何度も訪れる人間が、きっとプロになれるのだろう。

僕には、数日に一回、気まぐれにあらわれるだけだ。

その貴重な瞬間を奪おうとする魔物は、――この瞬間にしか現れない存在だ。

あるいは、凡人に一瞬のみ与えられる奇跡の瞬間こそ、この美しい化物の正体なのかも知れない。

 

「ひどい言われようじゃな。――では、遊ぼうかの」

禁断少女は、唇の端に微笑を浮かべた。

見るものの理想を反映させる美貌に。

「ひ、人の話を聞けよ! ――僕はこのSSを書き上げねばならないんだってば!」

声を上げた僕は、思わず顔を上げ、相手を見てしまった。

完璧な美貌に、理想の微笑を浮かべた少女を。

「ずいぶんと頑張っておるが、このSSのため、かえ?」

禁断少女は、自分が腰掛けているモニターを股の間から覗き込むようにして眺めた。

どきり、と来た。

無造作な仕草は、幼さと高貴さが同居する少女の姿にどこまでもふさわしいエロチックさを持っていた。

「そう……だ」

僕は、つ、と顔を上げ、姿勢を戻した禁断少女に視線を奪われながら、ようよう答えた。

「――<エロSSの女神>様は、ケチでしみったれなんだ。

性欲も時間も、どれもすべて──差し出す書き手にしか会心の一文をくれないよ。

だから、何も言わずに、帰ってくれ!」

<虎殺しの空手家>にもなれそうな勢いで、僕が吠える。

「ふむ。そのための禁欲かえ? ――愚かな」

黒髪を一本たりとも動かさず、静かに応える少女。

「愚かとは何だ、愚かとは!」

僕は、僕のSSを否定されたような気分になり、声を荒げて禁断少女に詰め寄った。

だが、黒衣の少女はひるむこともない。

それどころか、柳眉をしかめて僕をにらみつけた。

白魚どころか、最高級の象牙を切り出してつくったような指が目の前に突き出された。

ことばとともに一本ずつ、立てられていく。

「愚かな点のひとつ。

禁欲とは、つまり、わらわを呼ぶための儀式であり、

他の女──たとえば<エロSSの女神>のためのものではないぞえ」

「……」

僕は、驕慢に言い切った少女のことばに、しかし僕は反論できなかった。

その無表情な美貌に見とれていたからだ。

「ふたつ、――そなたは女子(おなご)の趣味が悪い。

<エロSSの女神>は、今貴様が言ったとおり、吝嗇で嫉妬深い女だ。

しかも年増。――日本の男子(おのこ)ならば、幼な好みが普通であろう」

「……」

女神が聞いたら激怒しそうな内容だ。

でも、僕は、自らが信じる女神がけなされているのに、何も言えなかった。

年上で豊満な美女――たとえば<エロSSの女神>のような──が好みのはずの僕は、

きっちりと揃えられた禁断少女の和服の胸元や、裾に視線が釘付けになっていた。

「みっつ、──良いSSを授けるのは、かの女神だけとは限らぬ、ということを知らぬ」

「……!!」

禁断少女の無機質なまでに整った美貌に、愛くるしい、そして妖しい笑みが浮かんだ。

その笑みを僕に向けたまま、彼女は自分の和服の裾に手をかけた。

はらり。

自分の衣装をどう操ったのか、嵐の只中にあっても1ミクロンも乱れそうにない和服は、

帯より下が合わせ目に沿って易々とはだけ、その内側に守っていたものをさらけ出した。

白い白いほっそりとした足と、――その付け根の部分を。

「せぬかえ? わらわと?」

少女は娼婦のようなことばを吐いても、どこまでも少女だった。

その声に誘われるように僕は彼女に近づいていった。

禁断少女の笑みが深まった。

僕が誘いに乗ってしまった事を確信したのだ。

「ふふふ、――わらわのそそ、舐めてたも」

あくまでも古風な言い回しで禁断少女は僕を誘った。

 

──びちゃぴちゃという音。

遠くで聞こえるような気がする。

いや、これは間近な音だ。

だって、僕の舌が立てている音だからだ。

僕は、モニターの上で大きく下肢を広げている禁断少女の股間に顔をうずめて

その性器を熱心に舐め上げているところだった。

年端もいかぬ少女に誘(いざな)われるままに行なう行為は、

まさしく禁断の魅力を持って僕の脳髄をとろかせ、沸き立たせた。

僕のしびれきった頭と射抜かれた心は、このままいくらでも禁断少女のそこを舐め続けていたかったけど、

僕の下半身と性欲は、別の行為をはげしく主張した。

「……」

太ももの間から離れて顔をあげた僕に、禁断少女はさらに微笑を深めた。

「ふふふ。まぐわうかえ?」

「え……と」

「よいぞ──」

僕の返事も聞かず──聞いても同じことだったけど──禁断少女はモニターの上からふわりと飛び上がった。

体重を全く感じさせない動きで、僕の上に降りかかる。

すとん。

腰を浮かしかけた姿勢だった僕は、少女とともに椅子に座りなおす格好になった。

「……ふふふ、口取りをしてやろうかと思ったが、そなたの準備、もう整っておるの」

僕の膝の上でどう動いたのか、少女のすべすべとしたお尻の下で僕はズボンもパンツも下げられて、

臨戦態勢レベル5の下半身をむき出しにされていた。

「では、来よ──」

冷たく柔らかな手がいきり立つものをそっと掴む。

それだけで射精するかと思った。

「――あ、待って待ってっ!」

僕は必死になって叫んだ。

射精しかけたからだけではなくて、最後の理性が働いたからだ。

「なんじゃ?」

禁断少女が目をすがめて僕を見る。

そういう表情ですら完璧なまでに美しい。

「えっと、その──コンドーム……」

忘年会のジョーク景品でもらったやつが、どこかの引き出しに入ってるはずだ。

それを──。

「つくづく愚かな男(おのこ)じゃの。――無粋な真似で女子(おなご)に恥をかかせるでない」

禁断少女はものすごく冷たい目で僕を睨んでから、にやりと笑って行為をはじめた。

「あっ、あっ、でも……」

今まで生きてきた上で気付きあげられた常識とか、倫理観とか、保健体育の知識とかが浮かんで、消えた。

つるりとした感覚とともに、自分の先端が潤んだ柔らかい肉に包まれて。

「!!」

僕は声もなくのけぞった。

背中を電流──どころか雷をまとった龍が駆け抜けた。

「ふふ、わらわのそそ、良いであろ。たっぷりと出しや」

少女が耳元でささやいた。

「で、でも中で出したら……」

モラルより、SSの書き手としての意識がそのことばを口に出させた。

自分の作品の中で何度も描いた描写。

避妊行為をしないで、女の人の膣に精子を出しちゃったら──。

「心配するでない。――ちゃんと孕んでやるぞえ」

「うわあっ!」

精神の奥深くの病んだところで期待していた通りの答えに、僕はがくがくと打ち震えた。

激しい上下運動をはじめた禁断少女が、どんな表情をしているのか、

僕は彼女のうねる黒髪の中ではっきりと捉えることが出来た。

「ふふ、そなたも知っているであろ。女子(おなご)の卵は、若いほど孕みやすい。

わらわはついこの間「生まれた」ばかり。――<エロSSの女神>よりずっと孕みやすいぞえ?

おお、子壺が下がってきおった。そそがまらを咥えて離さぬ。

──これは、わらわに子を産ますしかないのう。覚悟をしやれ」

「あううっ……!!」

「――わらわのそそに、出してたも」

その声を聞いた瞬間に、意識がはじけた。

 

「……」

気がつけば、やっぱり朝になっていた。

モニターの前で眠ってしまった以外に、普段と何も変わらぬ朝に。

ズボンもパンツもちゃんとはいている。

だけど、僕は、昨日何があったのか、しっかり覚えていた。

「……」

複雑な表情で、モニターの前の書きかけのSSを眺める。

昨日の晩に高まっていたテンションと、あの時ひらめいた展開は、すでに永久に消え去った。

SS書きの最大の後悔──いわゆる「メモ取っときゃよかった」状態だ。

僕は、<エロSSの女神>に捧げた情熱の代価として受け取る

インスピレーションを失った事を後悔しはじめていた。

禁断少女との一夜は、すさまじいものであったけど、

それは情熱を「消費」するようなものであって、

積み上げた情熱が化学変化を起こしてSSの言霊に変化するあの感覚とは違う。

なんとなく、何かを無駄遣いしたような気がしてしまって、

僕は一人きりの後朝(きぬぎぬ)の中でぼんやりとした。

「……あれ……?」

見るとはなしに見ていたモニターに、僕は違和感を感じた。

(……この書きかけの最後の一行、いつ書いたんだ?)

それは僕の記憶にない、だけど、書いたとしたら、僕以外には書き手が考えられない一文。

その前までのストーリーと完全につながり、とけあっているけど、

今まで、僕が考えていたものとは別の展開に誘う一文。

 

──昨日までの僕には書けなかった物語の最初の一行。

 

「……」

「……言ったであろ。SSをもたらすのは、あの年増の女神だけではない、と」

振り向くと、朝の光の中で黒い和服の少女がくつくつと笑っていた。

向こうが透けて見える影は、しかし、僕の目にはっきりと見えた。

──禁断少女の、豊かに盛り上がったお腹が。

「そなたの、書きかけのSS、わらわの腹の中におる。

やや子に早く会いたければ、早く続きを書き上げるのじゃな」

禁断少女は、おかしそうにくつくつと笑った。

「ま、また君とも会えるの?!」

「禁欲を重ねて、それをかの女神ではなく、わらわを呼ぶことに使えば、の。

──そうそう、良い事を教えてつかわす。

男(おのこ)の精汁は、孕み女に飲ませれば、腹のやや子の一番の滋養になるとか。

……さて、わらわの子の父親は、どれくらい子思いか、のう……?」

禁断少女は、にやりと笑い、柔らかそうな舌を、上品にべぇと突き出して消えた。

 

……畜生。

この忙しい時だってのに、二つもやらなくちゃならないことができたじゃないか。

このSSを、今日見えてきたばかりの新しい展開で書き直して行くこと。

そして、もう一度、禁断少女に会うために禁欲すること。

 

<エロSSの女神>様、申し訳ありません。

僕は、貴女の宿敵に恋をしてしまいました。

 

 

 

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