<パシーナの王様と王妃様のお話>
昔むかし、世界の隅っこに、一つの国がありました。
国は大きかったのですが、なにしろ世界の隅っこにありましたから、
その国はちょっと貧乏で、王様も王妃様も、他の国の王様や女王様よりちょっと貧乏でした。
でも、王妃様は世界一頭がよくて、貞淑で、何より王様のことが大好きでした。
王様は、その王妃様のことが大好きでしたが、ちょっと苦手でもありました。
王妃さまは、王様より三つも年上でしたし、前の王様の一人娘でした。
つまり、王妃様の名前は、最後にド・パシーニャ、
すなわち「パシーナ王国の正当なる後継者たる娘」という文字が付くのです。
ええい、ぶっちゃけて言ってしまうと、
王様は、王妃様と結婚したので王様になれた、というわけです。
そういうわけで、王様は、王妃様にちょっと遠慮していましたし、
どこかで王様らしいことをして、王妃様に、
「自分は王様にふさわしい立派な男なんだぞ」と証明したいと思っていました。
おりしも時は、<海の時代>。
世界の強い国々は船を仕立てて、遠い遠い国を占領してもうけていました。
金や銀や胡椒や煙草、はてはハッピーターンの粉まで手に入るようになったのです。
「君、海の向こうに行かない奴は馬鹿だぜ」
<黒い大陸>の半分を手に入れた隣の国の王様が笑いました。
「海の向こうの富を持たない殿方の、なんてつまらないこと」
<黄色い三角半島>を占領した女王様が鼻で笑いました。
「戦って勝ち取ることができない奴は男じゃない」
<赤い海の向こうの島々>を支配している皇帝も笑いました。
「なにせ、海の向こうには奴隷になる人間がいっぱいいるんだからね。
捕まえればなんだってできるのさ。宝物も、あれも望むがままだよ」
隣の国の王様たちは、意味ありげに笑いました。
「あれ」というのは何のことかわかりませんが、王様は、ともかく、
「よし、僕だって海の向こうに渡って宝物をたくさん手に入れるんだ」と思いました。
そして、船をいっぱい作って、兵隊をいっぱい雇おうとして、
大臣たちにたくさん税金を集めるようにいいました。
その時、王妃様はちょうど湯浴みをしているところでしたが、
髪を洗ってくれる侍女たちが、みんな浮かない顔をしているのに気が付きました。
「お前たちは、いったいどうしてそんなに暗い顔をしているのですか?」
「はい、王妃様。王様が海の向こうの国に攻め込もうとしているので、
私の父と兄と夫が兵隊に取られそうなのです」
「王様が船を作るなら、私の家は、たくさん税金を払わなければなりません」
「今年は雨が多くてリンゴも生りそうにないのに、大変です」
「――あらあら、まあまあ」
王妃様は、にっこりと笑いました。
「大丈夫ですよ、お前たち。王様は、きっと海の向こうに攻め込みません。
それよりも、いつもより丁寧に私を磨いて、いつもより丁寧に髪を結っておくれ」
侍女たちは、顔を見合わせていましたが、
世界一賢い王妃様がそういうなら、と、ほっとして、
いつもよりも念入りに身体を磨きたて、いつもより丁寧に髪を梳いて結い上げました。
王妃様が王様の寝室に入ると、王様はびっくりしました。
結婚してから十年もたちますが、王妃様は美人です。
しかし、今日の王妃様は、いつもより倍も綺麗に見えました。
「ええと、その、いったいなんのようだい?」
居心地が悪そうに、王様は聞きました。
なんとなく、王妃様が自分に言おうとしていることがわかったからです。
なんと言っても、王妃様は、前の王様の娘でしたから、
王様の命令も、大臣たちが何でも報告をするのです。
だから、王様は、先に口を開きました。
「王妃、君が止めてもムダだ。僕は、絶対にやるよ!」
「あらあら、まあまあ」
王妃様は、怖い顔をしてにらみつけている王様の前まで来ました。
ふうわりと、いい香りがします。
いきり立った王様も、王妃様の優しい匂いをかいでちょっと言葉を失います。
王妃様は、王様の目をのぞきこんで言いました。
「それでは、王様は、私よりも、海の向こうの女奴隷たちのほうがいいと言うのですね。
それは、――とても悲しいです」
王様はびっくりしました。
海の向こうの宝物を手に入れようと思っていましたが、
王様は、そんなことなどは考えもしていなかったからです。
「ちょ、ちょっと、王妃。僕はそんなこと……」
「いいえ、私は知っています。
男の人が、海の向こうに行くのは、きっと向こうのきれいな女奴隷といやらしいことをしたいからです」
王妃様は、王様の手を取り、いっしょに並んでベッドに腰掛けました。
王様は、思っても見なかったことに、ことばも返せません。
「海の向こうには宝物がたくさんあります。
たとえば、南国の果実のように甘く大きなおっぱいの女の人」
王妃様は、王様の肩にあごを乗せてささやきました。
「よく育った牛のように豊かなお尻の女の人」
王様の耳にかぐわしい息を吹きかけて続けます。
「真珠のような綺麗な色をして、真珠貝のように締りのいいあそこの女の人」
耳たぶをかんでつぶやきます。
「――きっと、王様は、そんな女の人が欲しくて、海の向こうに攻め込もうと言っているのでしょう?」
「そ、そんなことは……」
「……ありませんか?」
「な、ないよっ……!!」
「本当に?」
「本当に!!」
王妃様は、にっこりと微笑んで、王様の手を取りました。
「海の向こうに行かなくても、王様には、この国に
王様だけの荘園をお持ちになっています」
ぎゅっ。
王妃様は、王様の手を自分の胸に押し当てました。
「お、王妃?」
王様は慌てました。
「ほら、王様。あなたのリンゴは、南国の果物のように、どんな殿方にも食べられるわけではありませんわ。
あなたに摘まれることを、あなたに摘まれることだけを待っているのです」
王妃様は、王様の指を自分の柔らかな胸乳にめりこませます。
「王妃……」
自分の妻のことばに、王様は絶句しています。
王様が、王妃様にちょっと気後れしていることをのぞけば、
二人はとても仲良しでした。
二人がむすばれて十年も経ちますから、
そりゃあ男女の仲です、王様と王妃様は何度も何度もまぐわっています。
でも、おとなしい王妃様がこんなに積極的に振舞うのははじめてで、
王様はものすごくドキドキしてしまいました。
(王妃のおっぱいって、こんなに大きかったっけ? それにとても柔らかい……)
指と手のひらから伝わる感触に、王様はぼうっとしてしまいます。
「それに、王様。あなたの牝牛は、海の向こうの牝牛よりおいしいお肉を持っています」
王妃様は、その王様の手を滑らせて、自分のお尻を触らせました。
柔らかくて、弾力のあるお尻に。
ぎゅ。
背中からまわさせた手が、王妃のお尻を触ると、
王妃様は王様の膝の上にしなだれかかりました。
ふうっ。
ふうっ。
王様は、顔を真っ赤にして、息を荒げています。
王妃様は、それを下から見上げてにっこりと微笑みます。
そして、もう一度王様の手をとり、それを自分のスカートの中に導きました。
「あ……」
下着の上から触れてもわかる
柔らかくて、温かくて、湿った、豊潤な谷間。
王様の指先は、王妃様の一番大切なところに導かれていました。
「王妃……!」
「いいのですよ、王様。ここはあなたの荘園ですもの。
あなたが所有し、あなたが耕した、あなたのためのもの。
あなたの指でこんなに開発されて、こんなに潤っているあなたの荘園。でも──」
王妃様は、もっとぴったりと王様に身を寄せながらささやきました。
「――あなたの荘園は、あなたにもっともっと耕されたがっています」
それから、王様は夢中で指を使いました。
荘園が望んでいるように、耕し、掘り下げ、潤し、掘りおこします。
王妃様はそのたびに身を捩って甘い声を上げます。
──それは、海の向こうの南の土地にいる、どんな珍しい鳥よりも綺麗な声でした。
それから、王妃様は、ぼうっとしている王様のズボンを脱がせてあげて、
王様のあそこの部分を優しく愛撫し始めました。
──その唇と手は、真珠よりも白磁よりも美しくて淫靡でした。
王様は、王妃さまの奥深くに突き入り、我を忘れて動きました。
よくなじんだ、とても安心できる柔らかくて温かいものが王様の敏感なそれを包み込みます。
「そう。もっと、もっと──愛していますわ、あなた」
──どんなにうまくしつけた女奴隷からも聞くことが出来ない優しいささやき。
それから王様は、何度も何度も王妃さまの中で爆発しました。
王妃様は、王様の熱いかけらを優しく受け止めました。
そうして、夜通しそれが続いて、窓の外で朝雀が鳴きだすころには、
王様は、海の向こうのことなど、全部忘れてしまいました。
「おはようございます。私のかわいい寝ぼすけさん。朝ごはんの用意が出来ていますよ」
そういって笑う王妃様に、なんだかまたドキドキしてしまったからです。
結局。
パシーナは、海の向こうに行きませんでした。
<海の時代>に一つも植民地を取らずにいたので、あまりお金持ちになれないままでした。
でも、王様は、かわりにパシーナの本国をたくさん良くしました。
灌漑で土地を潤し、山に植林し、いくつも荘園と街を作りました。
真剣で、丁寧で、そして変態的なまでに細部にこだわって。
王様は、パシーナと名がつく二つのものを開発し続けました。
だから。
<海の時代>が終わったとき。
──海の向こうの植民地の奴隷たちが反乱を起こして、たくさんの王様たちが宝物を失ったとき。
税金をいっぱい取られていた市民は怒って革命をおこして、
隣の王様や、女王様や、皇帝はみんなギロチンにかけられてしまいましたが、
パシーナの王様と王妃様は、冠も玉座も荘園も何一つ失いませんでした。
とっても仲の良い王様と王妃様は、まわりに他の王様のいない時代になっても、
ずっとずっと王様と王妃様で、――やっぱりずっとずっと仲良しでした。
めでたし、めでたし。