<社の狐・上>

 

 

「狐退治に行く」

そう宣言すると、織江は泣きそうな顔になった。

織江は、僕と同い年だが、どうしようもなく臆病だ。

女の子でもこの歳になれば、めったなことでは泣かないものだが、織江はよく泣く。

こんな子が許婚なんて、人生最大の不満ごとだ。

それなのに、僕には、森の中に一緒に行けるような人間が織江しかいなかった。

父上はとてもえらいので家来がたくさんいるけど、みんな石頭で何かとうるさい。

街の外などに出ようとすると、必死になって止める。

ご学友とやらも、みな同じだ。遠巻きにして、なにやら陰口を叩く。

こちらが近づけば、愛想笑いを浮かべて離れようとするが、

かといって離れると、今度は近づいてこっちをじろじろと見ている。

そんな連中との付き合いは、こちらの方から願い下げなのだが、

まわりに織江のような愚図女一人しかいないのは無性に腹が立つ。

でも、ここ数日、家にはめずらしく父上が戻られていて居心地が悪いし、

口うるさい叔父さんのところに通うのも同じくらい気が重い。

「……でも、お社の森には行っちゃいけないと、先生が──」

「はっ、子供じゃあるまいし」

「でも、最近は、夜盗のたぐいが江戸から流れて来たって──」

「上等じゃないか、僕が退治してやる」

「でも──」

「織江」

「……はい」

「でも、は、やめろ」

「で──はい」

「社の森に行くぞ」

「……はい」

織江は、泣きそうな顔で付いてきた。

 

社の森は、街の南に広がるばかでかい森だ。

古い神社があるからそう呼ばれているが、実際はそこから向こう、国境(くにざかい)の山々までを言う。

そりゃ、その中には狐なんぞ何百匹も住んでいるだろうけど、

僕が言っている「狐」は、人の姿に化けられる化物だという。

尾は七本の白狐で、御歳九百歳、いろんな妖術を使う、と言う。

──もちろん、僕はそんなこと信じてなんかいない。

でも、社の森にはなにかがいるのは確かだった。

あるいは、織江が言うような、流れ者のねぐらになっているのかもしれない。

それはそれで面白い。

狐にせよ、夜盗にせよ、僕が退治したら、まわりの連中は僕を見直すだろう。

 

道中、織江がぐずぐずと泣きべそをかくのを、うんと叱りつけながら歩く。

織江の怯えは、夕刻になり、森が暗がりになるとますますひどくなった。

「もう、いいからお前、帰れ」

僕はかんしゃくを起こして叫んだ。織江はびくっと身体を震わせた。

「でも──」

「泣き虫はいらない。とっとと帰れ」

織江は、身をすくませた。

「な、泣きません! 織江は泣きませんから、一緒に連れて行ってください」

目に涙をいっぱいためながら言うことばじゃない。

僕は、ふん、と鼻を鳴らして森の奥に向かった。

どうにもこいつは使えない。

苦々しい思いで唾を吐き捨てた時、僕の目に、なにか白い美しいものが映った。

 

 

 

 

「あ、あれ──」

それは、森の中を流れる小川の向こうにいた。

人──女の人だ。

でも、おばあさんでもないのに、銀のように白い髪をしている。

一丁(約110メートル)も離れているのに、その髪は、はっきりと見えた。

白い髪の女性(ひと)は、こちらに気がついたらしく、じっとこちらを見た。

それから、ぱっと身を翻して森の奥へ消えていった。

「あれ……は、狐? まさか──」

自問自答で否定しながら、僕はそれに自信がなかった。

あんな白い髪をした若い女の人なんているはずがないし、

小袖を翻して駆け出した身の軽さも、とうてい並の人間に思えなかった。

何よりも、切れ長の眼と、髪に負けないくらいに白い顔──その美しさ。

僕らは、本当に狐の変化を見たのかも知れなかった。

──呆然としていた僕たちの耳に、男の声が聞こえたのはその時だった。

「──なんだあ。ガキの声がしたぞ」

その時、近くで野卑な声があがったので、僕らは心臓が止まるくらいにびっくりした。

 

「──聞き違いじゃねえのか」

「いや、確かに聞こえたぜ。男のガキの声だった」

とっさに木の陰に隠れた僕らの前に、目つきの悪い牢人たちが三人もあらわれた。

「ガキだったら、かっさらって人買いにでも売るか」

「手間がかかる。畜生働きの後でこの藩から去ろうって時に、足手まといはいらん」

「それに男じゃいい値もつかんしな」

「ちがいねえ。女のガキなら、楽しんだ上に、地獄宿に高く売れるんだがな」

「どの道、ここで面を見られたんじゃ、殺すしかねえな。お頭にもそう言われてるだろ」

「この街にゃ、小うるさいやっとう使いもいることだしな。たれこまれたら、事だ」

僕は目の前が真っ暗になった。

押し入った家の人間を口封じに皆殺しにする畜生働きは、最悪の犯罪だ。

まさに畜生外道の精神をもった人非人でなければできない悪鬼の所業。

こいつらは、それをやった人間だ。──そういえば、この間東外れの庄屋が一家皆殺しにされた。

先ほどの高揚とした心が、嘘のようにしぼんでいた。

足ががたがたと震えだす。

ぱきっ。

よろめいた足が、乾いた小枝を踏んでしまった。

「なんだ──」

「誰かいるのかっ!」

牢人たちが騒ぎ始めた。

「──っ」

織江が、ぎゅっと僕の袖口をつかんだ。

そのとたん、身体の震えが止まったのは、今でも不思議だ。

その後の数呼吸の間の行動を冷静に行なえたのも。

「──織江、ここでじっとしていろ。連中はここに僕しかいないと思っている。

夕刻までここに隠れて、闇にまぎれて街に帰れ。──泣くなよ」

織江が大きく眼を見張った。

木陰から抜け出し、いったん少し離れた藪に隠れてから、飛び出す。

牢人たちは、僕が最初から藪の中に隠れていたと思ったことだろう。

「いたぞっ!」

「野郎っ!」

「待ちやがれっ!」

三人そろって追いかけてくるのを確認すると、僕は一目散に逃げた。

 

 

 

心臓はたちまち破裂しそうに膨れ上がったし、

この世の空気の量が十分の一にでもなってしまったように肺が痛い。

山道を逃げるのは、体力のない僕には拷問そのものだった。

牢人どもは、重い刀を下げているのにどんどん差を縮めてくる。

僕はちっとも言う事を聞かない足を呪った。

もともと駆けるのは、大の苦手だ。

剣術も、学問も全然。

偉い父上の息子としてまわりの人間はチヤホヤするけど、

その実、何にもできない僕を陰で笑っているのはよくわかっている。

だから、狐退治なんて馬鹿な事を思いついたんだ。

──ああ。にしても、なんで僕はこんなに必死に走ってるんだろうか。

そうか、織江が捕まったら地獄宿に売られちゃうからだ。それどころか殺されてしまうかもしれない。

元はといえば、嫌がる織江を無理やり連れてきた僕が悪い。

泣き虫だけど、織江は僕に逆らう事を知らない子だから。

織江は、ある上士の家の娘で、僕の許婚だけど、もとは養女だという。

父上の知り合いの娘で、その上士家の遠縁に当たることから、父上の口利きで養女に入った。

あの子を僕の許婚に決めたのも、父上だ。

そんなこともあって織江は、父上や僕に逆らえない。

それをわかっていたから、僕は織江にずいぶんひどいことをした。

愚図の僕には、織江くらいしか一緒に遊んでくれる子がいないというのに。

今日みたいに、嫌がる織江をしかりつけて望まないところに引き連れていくのはしょっちゅうだ。

嫌な奴だったな、僕は。

うん。

だから、こいつらを織江の隠れた場所からうんと引き離さなきゃいけない。

そう思ったけど、僕のやわな足は限界に来ていて、僕は牢人に追いつかれた。

「──このガキゃあ、手間取らせやがって」

牢人の一人が真っ赤になって刀を抜いた。

思わず目をつぶった僕の頭に刃が──落ちてこなかった。

「いてえっ!」

「だ、誰だ、てめえはっ!」

牢人たちの悲鳴が上がった。

そおっと目を開けると、三人は、肩や腕に刺さった手裏剣を抜こうともがいているところだった。

「次は目を狙うよ。──さっさと森から出てお行き!」

女の人のぴしっとした声がすると、牢人は口々に悪態をついて逃げ出した。

あれ、僕、助かったの?

いったい、誰が──。

僕は、助けてくれた人のほうを見て、飛び上がった。

さっきの、白い髪の女の人──狐が立っていたからだ。

その人がこちらを見て、真っ赤な口を開いた瞬間、僕はくるりと背を向けて逃げ出した。

でも、そちの方角は、ほとんど崖といってもいい坂になっていて……、

足を踏み外した僕は、谷川まで一直線に転がり落ちていった。

 

 

 

 

──気がつくと、僕は板の間に寝かされていた。

(ここは──?)

ぼんやりと眺める天井は小さく、暗くて、僕の屋敷ではないことは分かった。

どこかの小屋の、囲炉裏端に薄い布団を敷いたところに、僕は寝かされていた。

身を起こそうと動いた僕は、何か柔らかくて暖かいものが僕の身体に絡み付いていることに気がついた。

「──?」

「おや、気がついたかい?」

視界が、一気に白くなった。

目の前に、本当に目の前、五寸くらいのところに、ぬっと白い顔が覆いかぶさってきたからだ。

いや。顔だけじゃなくて、それは、髪の毛まで真っ白な女の人だった。

その人が、裸の僕を、やっぱり裸になって抱きしめて暖めてくれていたことを理解する前に、

僕は悲鳴を上げて飛び上がっていた。

「き、狐っ──!」

僕を覗き込んだ顔は、さっき河原で見た狐の化身の女性のものだった。

「狐? ──あはっ、あはははははっ」

女の人は、一瞬きょとんとしたが、やがて大きな声をあげて笑い出した。

「……」

「狐かい、私が。──あはははは。おかしいこと」

僕は呆然として女の人が笑い転げるのを見つめていた。

ひとしきり笑って、女の人は、目じりに浮かんだ涙をぬぐった。

「き、狐じゃないの?」

僕は、間抜けな声で、間抜けなことを言った。

「ん、ああ。そうね。私は狐ということにしとこうか、坊や」

女の人がからかうように言い、「こーん、こーん」と鳴きまねまでしたので、僕はちょっとむっとした。

その声に含まれている調子で、僕は、このひとは狐が化けたものじゃないことを悟る。

考えれば当たり前のことなんだけど。

「ここはどこなの? 小母さん」

今度は女の人のほうがむっとしたようだ。

つかつかと近寄って、僕のほっぺたを思いっきりつねり上げた。

「お礼も言わないうちに、小母さんなんて言うのはこの口か、この口か」

「いたひっ、いたひっ! ごめんなひゃい、ごめんなひゃいっ!」

おば──いや、狐さんは、僕が「ありがとうございました、親切な狐さん」

と言うまで、ほっぺたをつねり上げた。

「……で、坊やは、なぜこんな山の中まで入り込んでたんだい?」

一息つくと、狐さんは布団の上に座りなおした。

間近で見る狐さんは、僕が最初に思ったよりちょっと年上に見えたけど、本当に綺麗な人だった。

まじりっけのない白い髪は絹糸のようで、それがしわくちゃなおばあさんではなくて、

こんな綺麗な女性の頭にあるというのは、ものすごく不思議な光景だった。

あるいは、やっぱり、本当の狐なのかも知れない。

「悪い奴に、追われていて……」

さすがに「あなたを退治しに」なんて言えないので、僕は、野盗に見つかってからの事をかいつまんで話した。

「最近は、この辺も物騒になったねえ……」

狐さんはため息をついた。

僕は、さっきから気になっていたことを聞いてみた。

「あの……、女の子を、見ませんでしたか?」

「ああ、坊やと一緒に来たと言ってた子かい。あの後、探してみたけど、もういなかったね。

野盗の連中につかまっている様子もなかったから、うまく逃げられたみたいだよ」

「よかった──」

僕はほうっと息をついた。織江だけは、無事でいてほしかった。

──くしゅん。

気が抜けると、立て続けにくしゃみが出た。

狐さんがくすくすと笑う。

「ほら、裸のまんまで、布団から出るからだよ。こっちにおいで」

狐さんは、手招きをした。

 

 

 

 

僕は、自分が川から引き上げられて介抱されたときのまま、裸でいることに気がついて狼狽した。

狐さんも、僕を裸であたためていた格好に、小袖を羽織っただけだが、それもまた脱ぎ捨てて、

まるっきり無頓着に布団の中にもぐりこんだ。

「──あいつらに見つかるといけないから、今晩は火を焚けないね。

今夜はこうして暖を取ろう。明日の朝一で小母さんが送ってあげる」

僕はどぎまぎした。

狐さんは、僕が見たこともない綺麗な女の人で、その──今は丸裸だ。

「い、いいよ──くしゅん!」

「くしゃみしながら、何を恥ずかしがってんだい」

狐さんは強引に僕を引っ張って、布団の中に僕を引っ張り込んだ。

ぎゅっ。狐さんに、抱きしめられる。

暖かい──。

「いい匂い──」

思わず声に出してしまって、僕は恥ずかしさに真っ赤になった。

「そうかい」

狐さんは、ちょっと照れたように笑った。その笑いに誘われるように、

「狐さん、母上の匂いに、似てる──」

気がつけば、僕はそんなことを口走っていた。

「明日にはお母さんに会えるよ、坊や」

「ううん。母上は、ずっと江戸にいるから、屋敷に戻ってもいないんだ」

実際、僕はもう何年も母上のことを見ていない。

ひょっとしたら大人になって江戸詰めになるまで会えないかもしれなかった。

父上は、この間から一時帰国で屋敷にいるけど、なんとなく顔を合わせ辛かった。

この森に来たのも、昼間はなるだけ外に出ていたかったからだ、ということを思い出す。

「……坊やも、いい匂いがするよ。なんだか、懐かしい匂い──」

狐さんは、僕の髪に顔をうずめて、すんすんと鼻を鳴らした。

まるで本物のけもののようなしぐさに、僕はどきりとした。

むぎゅ。

狐さんは、さらに僕を抱きしめた。

「この匂い──坊やは、私の知っている人に似ているよ」

「え……?」

狐さんは僕の髪に顔をうずめながら、ささやいた。

僕に聞かせるというより、自分に言うような声だった。

「怖い人だったけど、強くてね、優しくてね……」

「……僕は、強くも、優しくもないよ」

今日は、自分がいかに嫌な、役立たずの人間であるか、

強がって見ないふりをしていた現実を突きつけられた日だった。

「ふふ、そうでもないよ。坊やは、あの女の子を守ろうとしたんだろ?」

「そ、それは当たり前のことで……」

「女の子を守るのに命かけようなんて、本当に強い人じゃないとできないさ」

僕は、もじもじとした。

他の人から褒められるのは、ずいぶん久しぶりだった。

父上は、僕が小さいころは褒めるのも叱るのもいっぱいしてくれたけど、

江戸詰めが長くなっては、なんとなく僕のほうから避けていた。

自分がどうしようもない愚図だと気づいてからは、

藩にこの人ありと言われる父上のそばに近づくのが怖くなった。

母上は、うんと優しかったけど、父上についてずっと江戸に行っている。

久々の褒め言葉に僕は恥ずかしくなって、もじもじはどんどん大きくなっていった。

いや、これは違う。ただ恥ずかしいだけじゃなくて……。

「ん、どうしたんだい、坊や」

「……おしっこ行きたい」

狐さんは、笑い転げた。

 

 

 

 

「今夜は冷えるからねえ」

外にある厠に案内してくれながら、狐さんは、まだくすくすと笑っている。

木の柱を立てて筵をかけただけの厠は、土を掘っただけのものだ。

用を足したら、側に盛り上げている土をかぶせる。

いっぱいになったら、別の場所に穴を掘って場所を移転しているらしい。

僕はちょっと戸惑った。

布団の中で狐さんに抱きしめられていたときの感触を、今頃になって思い出したからだ。

狐さんはすごくいい匂いがしたし、肩にあたったおっぱいはすごく柔らかかった。

おしっこをしたいのに、僕のおち×ちんは上を向いてしまい、用を足すのは難しそうだった。

「何手間取ってるんだい」

「あ、ちょっと……」

「それじゃ、私が先に済ませちゃうよ」

「え……?」

狐さんは、厠にしゃがみこんだ。

上からかけている筵は丈が全然足りないから、狐さんがしゃがみこむと、中の様子が丸見えだった。

着物をはしょった狐さんの、お尻が丸出しになる。

白くて大きなお尻。

木陰から差し込む月光に、それはつやつやと白く光っていた。

その白いお尻の、真ん中の奥に、僕の知らない何かがあって、狐さんはそこから──。

僕は、もう少しで倒れてしまいそうになるくらい、頭がくらくらした。

狐さんは、用を足すと、小屋から持ってきた小桶の水を手ですくってあそこに掛けた。

同じ小桶に入れてきた手ぬぐいを絞って、前をよくぬぐう。

「おお、冷た。──坊やもはやく済ませちゃいな」

狐さんが小桶を残して小屋に戻った後、僕は四苦八苦しながら、なんとか用を済ませた。

でも、小桶の水と手ぬぐいであそこを洗い終える頃には、歯の根があわなくなっていた。

 

「ふふふ、すっかり冷えちゃったね」

ぶるぶる震えてる僕を見て、狐さんはくすくす笑った。

布団の中にもぐりこんだけど、牢人に見つかるのを恐れて火を焚けないのは、すごく辛かった。

そんな僕を見て、狐さんは土間に降りて何かごそごそしていたけど、

やがて大きな徳利とお椀二つをぶら下げて戻ってきた。

「えへへ、いい物があったよ、坊や」

「それ──お酒!?」

「ん。温まるのにはこれが一番。この間街で買ってきてもらったばかりだから、いっぱいあるよ」

お酒なんか飲んだことはなかったけど、狐さんに薦められるまま僕はちょこっと飲んでみた。

すぐに身体がぽっぽっとしてくる。

「おや、坊や、いける口だね」

狐さんは、お椀になみなみとお酒を注いで、くーっと空けた。

そっちのほうが、よっぽどいける口だ。

やっぱり寒かったのか、狐さんはどんどんお酒を干していく。

「坊や、飲んでる?」

その飲みっぷりをぼーっと見ていると、狐さんは、手を伸ばして、僕を抱きしめた。

「だめだぞ。飲まないと、あったまらないよ。

小母さんのお酒は飲めないって言うのかい? ──なぁんてね」

狐さんはだいぶ酔いが回ってきているようだ。自分から小母さんって言い出してる。

狐──小母さんは、そのまま僕の顔を両手で挟んだ。ほっぺたが、あったかくていい気持ちだ。

「え──?」

白い顔が近づいてくる。

「むぐぅっ?!」

紅を差していないのに真っ赤なその唇が、僕の唇に重なった。

え、これって、口付け──!?

突然の行為に混乱する僕の口の中に、あったかい物が流し込まれる。

手も唇も離してくれなかったから、僕はそのお酒を飲み込むしか他に方法がなかった。

「ふふふ、飲めるじゃない」

狐の小母さんはにっこりと笑った。

 

 

 

 

お、小母さんと口付けしちゃった。

正確には、したというよりも、されたんだけど。

僕は顔が真っ赤になるのを覚えた。

「おや、坊やも酔いが回ってきたね。ほっぺが火照ってきたよ」

いや、それはお酒のせいじゃなくて。

いったん意識すると、狐さんが押し付けている胸の柔らかさや、身体から立ちこめるいい匂いや

切れ長の綺麗な眼が今はとろんとしているのが、どんどん僕をどきどきさせる。

「──ふふふ。どうしたんだい、坊や。──こんなところがカチカチになっているよ」

狐の小母さんは僕の物をぎゅっと掴んだ。

「な、な、なっ……」

「坊や、さっき、私のお尻を見て、興奮してただろ?」

「──っ!」

「ふふふ、子供だと思ってたけど、もう大人になりかけなんだね」

「あ、あ、あの……」

さっきの自分の痴態を悟られていたと思うと、顔から火が出る。

狐さんの手が、僕のおち×ちんを褌の上からゆっくりさする。

「坊や、自慰はしたことある?」

「ま、まだ……」

道場で、年上の子達が話しているのを聞いたことはあり、興味がなくもなかったけど、

僕はそうした輪からも外れていたので、詳しいことは知らなかった。

「そう。じゃあ、小母さんが教えてあげるね」

褌が解かれる。

布団の中で、僕の男は、ぴんと音を立てて上を向いた。

「ふふふ、元気だねえ」

小母さんは僕のおち×ちんをゆっくりしごき始めた。

体験したことのない感触に、僕の体がびくびくと震えた。

「ん。男の子は、こうして自慰するものなんだよ。」

小母さんは、もう一度僕の口を吸った。

僕も飲んでいるので、お酒の匂いはもうしなかったけど、狐さんの甘い匂いがした。

狐さんは、そのまま僕の首筋や鎖骨の辺りに舌を這わせていく。

「ひゃっ」

ぬめぬめとした温かい舌が冷たい肌の上を滑っていく。

ちゅう。

小母さんが、僕の乳首を吸った。

「んくっ!」

「ふふふ、男の子も、ここは感じるね」

舌で嘗め回されたり、赤ちゃんみたいに吸われて、僕は悶絶した。

小母さんの舌は、僕の背中を旅して行った。

「あ……」

狐の小母さんが、四つん這いになった僕のお尻のあたりまで下がって行くと

僕は恥ずかしくなって逃げようとした。

「ん。どうしたのかな、坊や?」

「だって……」

「坊やのお尻を見せてごらん」

「は、恥ずかしいよ」

「ふふふ、坊やだって、小母さんのお尻、見ただろ?」

「!」

「小母さんの恥ずかしいところ、見えたかい?」

「み、見えなかったよ」

「そうかい。それは残念。後でいっぱい見せてあげるから、今は小母さんに見せておくれな」

「み、見たくないよ」

「ふふふ、嘘、嘘。男の子で女のあそこを見たくないなんて子、いないよ。

坊やだって、今、小母さんが見せてあげるって言ったら、急にここが硬くなったよ」

ここ、と言いながら小母さんは、僕のおち×ちんをぎゅっと握った。

 

 

 

 

「ふふふ、じゃあ坊やのを見せてもらうよ」

僕が大人しくなってしまったので、狐さんは積極的に動き始めた。

布団を撥ねのけ、互いの裸身を差し込む月明かりの下に晒す。

もっとも僕は今、四つん這いになって狐さんに後ろからのしかかられているから、

狐さんの体を見ることはできないけど。

でも、狐さんの柔らかな手や舌が這う感覚に、僕は声も出ないくらい興奮しきっていた。

お酒の勢いも手伝って、夜の冷気が肌に触れても全然寒くなかった。

「ふふふ、坊やのお尻、すべすべでかわいいねえ」

小母さんが僕のお尻をすりすりと撫で回す。

「あっ──」

そのまま頬ずりされた。多少は覚悟していたけど、これは──恥ずかしいっ。

でも、狐の小母さんは、僕にもっと恥ずかしい事をするつもりだった。

「さ、じゃあ、後ろのほうから見せてもらおうかしらね」

小母さんの手が、僕のお尻の肉を左右に割る。

僕のお尻の穴を見ようとしているんだ。

思わず手足をばたばたして逃げようとしたけど、逃げられなかった。

「ほらほら、暴れるんじゃないの。今から、たっぷり舐めてあげるからねえ」

お尻の割れ目に、つつぅ、と舌を這わせた小母さんに、僕は思いっきり抵抗した。

「だめだよ、汚いよ、そんなとこ、舐めちゃだめっ!」

「ふふふ、恥ずかしがらなくてもいいよ、坊や」

「だめっ、だめだったらあっ! そんなとこ舐めたら、小母さんお腹壊しちゃうよ!」

「まあ、小母さんの心配してくれるのかい。優しい坊やだね。──じゃ、これで大丈夫」

小母さんは、お酒の入ったお椀を手に取った。

ちゃぱちゃぱちゃぱ。

「ひぁっ!」

最初は冷たかったお酒は、小母さんが舌で肌の上に広げるように舐めていくと、

逆に温かく──熱くなってきた。

「ふふふ、消毒できたよ、坊や。だから安心して、──小母さんに舐められなさい」

小母さんが前にも増した力で、でも優しく、僕のお尻を広げた。

背中にかけられたお酒が、割れ目に沿って流れ落ちてきて──。

狐の小母さんの舌が、僕の中に入ってきた。

「んくあっ!! そ、そんな、いきなりっ!」

僕はのけぞった。

期待といっしょに、舐められる覚悟はちょっとだけしていた。

でも、最初から、その……お尻の穴の中になんて──。

「んふふっ」

小母さんは、上からお椀のお酒を少しずつたらしながら、

僕のすぼまりに舌を進入させようとしている。

お酒の混じった唾液が、僕の中にしみこんできた。

「〜〜〜っ!」

お腹の中が、じんじんと熱くなってきた。

「ふふふ、こっちから入れると、口から飲むより効くんだよ」

小母さんが口を離してくすくすと笑った。

よかった、これで終わりかな──と思ったとき、僕は前にも増してのけぞった。

つぷっ。

狐さんは、唾液とお酒で十分潤った事を確認すると、僕のお尻に、指を入れたんだ。

あの白くて、細くて、しなやかな指を。

「ひっ、あっ! あっ! あっ!!」

痛くはないけど、不思議な、そして猛烈にこみあげてくる、初めての感覚。

くりっと、僕の内部で小母さんの指が何かを探り当てる。

「ふふふ、坊やの尻子玉、みーつけた」

え、尻子玉……?

河童が取っていっちゃうという、あれ?

小母さんの指先が触れているそれは、僕の中で、たしかに丸いふくらみを持っているようだった。

──小母さん、狐じゃなかったのっ?! 河童だったのっ!?

僕は混乱してじたばたと逃げようとしたけど、小母さんが指を軽くぐりっとすると、

腰に力が入らなくなって、へたへたと崩れ落ちてしまった。

 

 

 

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