<ばばさまのぷれぜんと>
「ばばさまー、ばばさまー!」
学校が終わったのだろう。
ゆう坊がわしの土蔵に駆け込んできた。
狭くて急な階段をどたどたと音を立てて登ってくる。
登りきったところを待ち構えて──脳天に拳骨。
「いたーいっ!」
頭を抱えて泣きべそをかくゆう坊を、わしは睨みすえた。
「ばばさまではない。姉さまと呼べといったはずじゃ!」
「だって、ばばさまはうちのおじいちゃんよりずっとずっと年上なんでしょ?
だったら、やっぱりばばさまだよー」
ええい。
座敷童子のわしに、なんと無礼なことをいうわらすじゃ。
もっとも、本屋敷の奥座敷が空襲で焼け落ち、土蔵に住むようになったわしは、
外見(そとみ)は変わらぬが、中身は少々変わってきたような気がする。
だいたい「わし」などということばなど、それまで使っていなかったのでのう。
ひょっとしたら、わしはもう座敷童子ではない、別の妖怪なのかも知れぬ。
「で、何用じゃ、ゆう坊?」
わしは土蔵の主の一人息子を眺めた。
なんとまあ、父親や祖父やその先祖たちの子供の頃と同じ姿かたちであることよ。
今は髯など蓄え、旧家の当主として威張ったなりをしている男どもの
可愛かった在りし日を思い出して、わしはゆう坊に悟られぬように微笑した。
「えっとね。今日、僕、お誕生日!」
「ほほう」
「お誕生日!」
「それは、今聞いたぞ」
「……お誕生日……」
同じ言葉を繰り返しながら、ゆう坊はだんだんと元気がなくなってくる。
なんじゃ、どうしたのじゃ?
「ゆう坊、どうした?」
「……プレゼント、ないの……?」
「ぷれぜんと……?」
「……バースデイ・プレゼント……」
「……ばあすでい・ぷれぜんと?」
聞いたこともない単語が飛び出てきて、わしは混乱した。
「お誕生日の贈り物!」
ゆう坊は意を決したように言った。
「むむ、年を取ったことの祝いと言うことかえ?」
「うーん、たぶん、そう」
「それなら、お年玉をやったじゃろう」
正月を迎えると、みな数え年で年が増える。
それを祝うのも正月とお年玉の意味のひとつだ。
じゃが──。
「それはそれー! お誕生日はお誕生日―!!」
<しんちゅうぐん>が持ち込んだ風習では、
歳を取るのは正月ではなく、誕生日を迎えた日であるようじゃ。
たしかに、数え年では大晦日に産まれた子は、
産まれて二日で数えの二歳になるから、一月に生まれた子に比べて不公平といえば不公平になるわ。
しかし──。
わしは腕を組んで考えた。
正月のお年玉の時は、わしも前々から準備しておったので問題がなかったが、
今はあいにくと持ち合わせがない。
座敷童子のくせに、と言うでない。
座敷の代わりに土蔵にこもるようになってから、財を成す力はのうなってしまったわい。
ま、代わりに「物を守る」力は上がったようじゃがな。
さて、さてどうしたものか。
わしは、こちらを見上げながら期待に目を輝かせているゆう坊を見た。
ふと、思いついたことがある。
身も心も幼い女であった座敷童子のころには思いつきもしなかった解決法。
「ふむ。……<ぷれぜんと>は、わし自身じゃ。
ぬしに、女子と言うものを教えてつかわす。ゆう坊、こちらの褥に来よ……。」
和服の帯を解きながら、わしは舌なめずりをした。
「え……と、恥ずかしい」
ゆう坊が、もじもじと躊躇しておる。
「恥ずかしがることはない。大人になれば誰でもすることじゃ」
「えっと、僕、まだ子ども……」
「うるさいわい。さっさと脱がぬか、ほれ!」
業を煮やしてわしは手を伸ばした。
どうもこの家の男どもは、肝心なときに弱腰じゃ。
この子の祖父など、初夜の時に……。
ああ、いやいや。
座敷童子の頃、奥座敷で見聞きした事を思い出してしもうたわい。
あの頃は、わしはわらすの妖怪であったから、
おのことおなごの密かごとは見ても聞いても、
何のことじゃかよう分からぬでおったが、
こうして蔵童子に変わってからは、
それがどういうことか、よっく分かるようになってしもうた。
多分それは、この土蔵が、代々の当主が蓄えてきた
「春画」を収めるための蔵であったせいじゃろう。
わしはそれを守るようになってから、どうにも身が火照ってならぬ。
妖怪は、棲家によって中身まで変わってしまうのじゃ。
じゃとしたら、わしが淫心を抱いてしまうようになってしまったのは、
この子のおやじ殿とか、おじじ殿のせいということになる。
ゆう坊に、たんとその償いをしてもらっても、バチは当たるまいて。
わしは、そうつぶやいて、ゆう坊のような
年端もいかぬ男の子に手を出すことに心の折り合いをつけた。
「ばばさま、だめだって」
「姉さまじゃ、と言うておろうに」
どうにも、この「半ずぼん」というのは脱がしにくい。
着物なら、帯を解いてさるまたを下ろすだけでよいのじゃが、
この「ちゃっく」とやらが曲者じゃ。
わしは大儀な思いをしながら、ようやくゆう坊の下半身を裸にした。
「おお、なかなか立派ではないか」
ゆう坊のまら様は、この歳の男(おのこ)のものとは思えぬ。
「やだ、恥ずかしい」
ゆう坊は手で隠そうとするが、わしはその手を押さえた。
「ふうむ、ふむふむ」
毛が生えておらぬことをのぞけば、大きさと形はまことに大したものじゃ。
わしはすっかり嬉しくなって、それを撫でたり擦ったりした。
「ば、ばばさま、なんかこれ……」
ゆう坊の息が荒くなる。
「どうした?」
「なんか……変な感じ……」
「それはゆう坊が男(おのこ)の証しじゃ。ゆう坊は今に立派な男になるぞ」
「そ、そうなの?」
「そうじゃ。大人になって、嫁取りをして、たくさん子どもを作る男になるのじゃ。
だが、それには、ここから精を放てるようにならねばならぬ」
「精って、おしっこのこと?」
「ちがうわ。もっと白くて、どろどろとして、女(おなご)を狂わせるものじゃ」
「そ、そんなの出したことないよう……」
「大丈夫。こうしてこすっておれば、すぐに出てくるぞ」
「えっ…あっ……、ばばさま、止めて、止めてっ、なん、か……来るっ!?」
ゆう坊が叫んだが、わしは手を止めずに、まら様を嬲り続けた。
身もだえしたゆう坊は、わしの手で、初めての精を噴き出した。
暗い土蔵の中で、鮮やかに白い汁が飛ぶ。
わしの顔にまでかかったそれを、わしは指で救ってなめ取った。
「ふ、ああ……な、何これ……」
「これが、ゆう坊の精じゃ。ゆう坊は、立派に男になれるの」
「そ、そうなの?」
「そうじゃ。――おお、元気なこと。
出したばかりなのに、またまら様が勃ってきおったわ」
ゆう坊は恥ずかしそうに身をすくめたが、股ぐらの間の男根は、
覚えたばかりの快感をもとめてまた鎌首をもちあげてきおった。
「だって、ばばさまの裸を見てたら、なんだか……。
女の子の裸なんか、川遊びでいつも見てるのに……」
ゆう坊、助平の血が目覚めてしもうたの。
「ふふ、ならば、もっとよいことを教えてつかわす」
わしは、ゆう坊に床に寝転ぶように命じ、その上に乗った。
「ばばさま……?」
「よいか、ゆう坊。これが女(おなご)のそそというものじゃ。
この中にな、ゆう坊のまら様を入れると、それはそれは気持ちよいものじゃぞ」
「本当?」
「ふふ、確かめてみよ。それ」
わしは自分の入り口にゆう坊の硬い先っぽをあてがい、腰を沈めた。
土蔵のどこかにある春画に、そっくりのものがあったはずじゃ。
なるほど、これはこういう感じであったのか。
ずぶずぶとゆう坊が身体の奥に入り込む感覚に、
わしは不覚にも声を上げて悶えた。
「うあっ、ば、ばばさま……!」
ゆう坊が甘い悲鳴を上げて身を捩った。
「ふむ。ゆう坊、下から突き上げるのじゃ!」
「は、はいっ、ばばさまっ!」
「おお、よいぞ、よいぞ。ゆう坊!」
「ばばさまっ、僕、またっ……」
「が、がまんせい、ゆう坊、もう少しでわしはっ……」
「ううーんっ……」
ゆう坊は、顔を真っ赤にして堪えている。
わしは腰を振るのを激しくして、昂ぶりを勧める。
ゆう坊のもわしのも、毛のない下腹は、餅のように柔らかく、
互いの肉を直に触れ合わせる。
それは、たわしのような強(こわ)い毛の生えた遊女や男客が描かれた春画にはない、
もっと淫らな肉のふれあいじゃった。
「あ、もう、もうだめぇっ!!」
ゆう坊が甘くかすれた声をあげた。
わしも、それで「いく」ことが出来ると悟って、ひときわ深く腰を沈める。
「よいぞ、わしの中に出すのじゃ」
ゆう坊の声を唇ごとなめ取るようにして、わしは口吸いをした。
「!!!」
声なき声をあげながら、ゆう坊はわしの中にたっぷりと精を放った。
──いとおしや。
「ばばさまー、ばばさまー!!」
どたどたと階段を登ってくる音がする。
待ち構えて、脳天に拳骨──をふたつ。
「いたーい!」
「いたいー!」
あたまを抱えたのは、ゆう坊……と、同い年くらいの女童(めわらべ)。
「誰じゃ、おぬしは」
「ええとね、同じ組のみっちゃん」
「美代です」
「……みっちゃんね、今日、お誕生日なんだって! だから……」
「よ、よろしくおねがいします!!」
ゆう坊にさんざん話を聞かされたのだろう、おとなしそうな顔が
興奮と緊張で紅くなっておる。
やれやれ。
あの日以来、いつのまにやら、わしは、
<お誕生日に気持ちいいぷれぜんとをくれる妖怪>にされてしまったようじゃわい。
「……ま、それもよいがの……」
わしは舌なめずりしながらみっちゃんとやらの洋服を脱がし始めた。
FIN