<ママは依存女・3>
へえ。
キミって、モテないの?
意外だなー。
だって彼女いるじゃん、キミ。
え、幼稚園からの腐れ縁で、別にそんなんじゃないって?
ふうん、そんなものかなー。
でもエッチはしたことあるんでしょ、その娘と。
えーっ。○学生の時からー?
早すぎるぞ、それ!
んー?
……そう、別れちゃうかもしれないんだ。
……というより、「いつか別れなきゃならないだろう」って……覚めてるのね、けっこう。
ふうん。
その娘、社長さんの娘なんだー。
いるよねー。「住む世界が違う」っていう人。
あ、その会社、知ってる。すごい大企業じゃない。
そういや、その娘本人のことも聞いたことあるな。
あたしらといっしょで大学生なのに、自分でも会社立ち上げてるんだって?
化粧品とお花の会社でしょ?
こないだ雑誌に載ってた。
「天才女社長あらわる!」って
すごいよねー。
──それにめちゃくちゃ美人だし。
「そうなの?」って……モデルか、女優並じゃない。
「普段から見てるから、あんまり感じない」って……この贅沢モン。
まあ、恋の悩みならおねーさんが聞いてあげるよ。
コイバナとワイ談は得意中の得意だから、あたし。あはは。
あ、店員さん、生中ふたつ追加してー。
まあ、飲め飲め、飲みなさい。
んで、キミは、彼女との行く末を悩んでるわけねー。
え?
悩んでないの?
「なるようにしかならないでしょ?」って、意外とクールなのね。
……クールと言うか、なんというか。
案外やきもきしてるの、彼女のほうじゃないの?
うん?
「それはないよ、あはは」って、いやいや分かりませんよ、男と女は。
意外な女が、変な男にひっかかるものなのよ。
あはは、キミも変といっちゃあ変な男だよー。
こんなにモテそうなのに、「今までモテたことない」って真顔で言うんだもん。
えー。
「女の子と仲良くなれない」って?
声くらいかけられるでしょ?
ん?
「最初はいいんだけど、次の日当たりからすぐに避けられちゃうんだ」って?
ふうん。
いっつもそうなんだ。
なんか、会話がよくないとか、気付かないところがあるかもね。
よーし、じゃあ今日は、おねーさんがババーンっと相談に乗ってあげよう!
キミ、かわいーし。
あ、店員さん、焼酎セットちょーだい。
──んで、どーなのよ。
彼女とのエッチは?
んんー。酔ってないよ。
酔ってなくてもワイ談するから、あたし。あはは。
で、どーなのよ?
ちゃんとエッチしてるの?
あら、会えば毎回?
い、意外と激しいのね……。
え、でも全然普通だって?
「お尻でエッチさせてくれないし……」って、キミねえ……。
どこのアダルトビデオでそんなん覚えたの?
フツー、そんなことはしません。――女の子、怒っちゃうよ?
そうよ。
そういうものなの。
フツーはお尻でなんかしないし、顔射とかもしません。
キミ、アダルトビデオの見すぎ。
最近、そういう男多いのよねー。
こないだもさー、「顔にぶっかけていい?」とかいう男がいたからぶん殴っちゃった。
まったく、女をなんだと思ってるのかって。
ん? どしたの、変な顔して。
え、それ、彼女さんOKなの?
……あれと、
……そ、それも?
……ないないない!
普通、それない!
精子なんかフツー、飲まないよ。うん。
ヒニンはするって、フツー。
ピルまで飲んで中出し好きの彼氏にあわせないって、絶対。
あっはっはぁー。
キミ、何、ふたりに分身してるのー?
もう一軒行こう!
ダイジョウブ、酔ってませんよ、あたしゃ。
今日はまだ日本酒飲んでないし、
キミのワイ談も全部聞いてないぞー!
え、酒より〆のラーメンのほうがいい?
あー、あたしもそんな気分だわ。
じゃ、來々軒でタンメンでも食べよっか。
美容のために少し野菜摂っておかないと。
……しっかし、キミもやるもんだねー。
彼女さんのほうがキミにめろめろなんじゃないのー?
いやいやいや、そんなことあるって。
どう考えても、彼女さんのほうがキミに合わせまくってるてば。
んんー──おわっと!!
あ、あぶないわねー!
な、何、この車……。
急ブレーキで10センチ手前停車って……あ、腰抜けちゃったわ。
って、ピッカピカのポルシェ……。
運転手、あたしを殺す気かっ!
……って、降りてきた娘、殺る気まんまんでこっち睨みつけてるわよ。
ちょ……え、……キミの彼女さん?
……うわ……。
何、これ。ちょ……背筋が凍るわ。鳥肌が……。
──岩手のおじいちゃんに聞いたことあるわ。
手負いのヒグマとばったり会うと、目見ただけで全身金縛りになるって……。
でも、これ、多分、もっと凶悪でタチが悪いわ。
あ、あたし、今日死ぬのかな……。
……キ、キミ。
状況分かってるの?
彼女さんの怒りのオーラが見えて……なさそうね。
いや、彼女以外の女の子とお酒飲んでるところ抑えられたんだから、
ちょっとは焦ろうよ、謝ろうよ。
じゃないと、二人とも殺されるって……。
……って、彼女さんは何デレデレしてるのよ。
ご主人様をお迎えにきた柴犬の子犬みたいに……スカートの下で尻尾パタパタ振ってるわよ?
さっきまでの殺気は……ひっ! こっち向いたっ!!
狂犬病のドーベルマン、三日間エサ抜きの視線だわっ!!
動いたら殺される。
じっとしてても殺される。
ていうか、「貴女、息をしているから、死刑」って目で睨みつけられてるわっ!
キ、キミ。
ちょっ、來々軒のタンメンはいいから……。
──って、彼女さん、行く気なの?
あ……いやいやいやいや、あたしは遠慮しときます。
たった今、食欲全部なくなりました。
つーか、プレッシャーで吐きそう。
……主に彼女さんからの殺気で……。
ふ、ふたりで行ってくればいいんじゃないかな? その後、デートでもしてくれば?
うん。
そうしたほうがいいよ、きっと。
あたし、まだ死にたくないし。
はい。それじゃ、私はここで。
腰ぬけてるし、ちょっとチビったから立てないけど、
気にしないで行っちゃって。
いいからっ! 彼女さんがご機嫌なうちに、あたしから離れてぇーーー!
……それで、さ。
アイツ、彼女さんと結婚するんだって。
学生結婚よ、学生結婚。
彼女さんが妊娠しちゃってね。
というか、絶対狙ってたわよ、あれ。
「ピル飲んでる」なんて大嘘。
アイツは、「子供で来たからしょーがなく結婚する気になったみたい」って言ってるけど、
大学で女の子と話す機会が増えて、彼女、焦ったんだろうね。
幼稚園から、小、中、高っていっしょの学校だったから、
近づく女は片っ端から始末してこれたんだけど、
大学だけは別々だから、気が気じゃなかったんだろうなー。
まあ、アイツは全然気が付いてないみたいだけど。
え……。結婚式の招待状?
来たけど断ったわよ、もちろん。
「新郎の女友達です」なんてノコノコ出席してみなさい。
九族まで皆殺しよ?
あんたも丁重にお断りしときなさい、……長生きしたければ。
──あの後さ、次の日よ、次の日。
……あたしの下宿に、鉢植えと化粧品のセットが届いたのよ。彼女さんの会社の。
「先日はどうもありがとうございました」って。
デートするのを後押ししてくれたお礼……なのかな。
お花も化粧品も、一番高い、最高級品。
……ぞっとしたな。
だって、さ。――あたし、その週に引越しして、学校にも住所まだ連絡してなかったんだよ。
もちろん、アイツだって、サークルの友達だって誰も知らない。
郵便物も、まだ前の住所から転送してもらってたんだけど、
……でも、しっかり届いたんだ。
……ちゃんと新しいほう、誰にも教えてない住所が書いてあって……。
それも、さ。
あたしが大学から帰って、バイトに行く前の十五分くらいの時間にぴったりと、だよ……?
……皇國ホテルの結婚式って一度見たい気もするけど、
――まあ、命あってのモノダネだわ。
えー。
パパって、高校とか大学とかで、もてなかったの?
うっそー。
だってパパかっこいいよぉ?
「ウソじゃない、結婚式に呼んだ女の子の知り合いは誰も来てくれなかった」って……。
……ふうん。
な、なんとなく理由はわかった気がする……。
……でも、まあ、いいんじゃない?
パパは、ママからモテモテなんだもん。
ほんとだよー。