<学園祭の美少女>その3

 

 

──僕が向かったのは、旧部室棟の裏手にある倉庫だった。

旧部室棟自体が来年取り壊される予定で、その裏手の倉庫に近づく人間はめったにいない。

ましてや、こんな忙しい日には。

倉庫は、思ったとおり、誰もいなかった。

「んっ……ちゅ……」

さびて重たい鉄の扉を閉めるのももどかしく、ぼくは美月さんともう一度口付けをかわす。

目を閉じた美月さんは、制服姿とあいまって、あどけないほどに可憐だ。

僕は、同い年の美少女とキスをしているような錯覚を抱いた。

「ふわ……彰さん……」

美月さんの潤んだ瞳やしっとりとした黒髪は、

倉庫の窓から入り込む、秋の午前のやわらかな陽光に、宝石のように輝いて見えた。

「……」

ごくりとつばを飲みこんだ僕は、美月さんの胸元に手を伸ばした。

清楚な美少女には似つかわしくないくらいに、大きく実った胸乳は、

ブレザーをぱんぱんに押し上げている。

こうしてみてみると、やっぱり美月さんは胸が大きい。

──昨日の晩、たっぷりこの中身を見せてもらったばかりだというのに、

僕の好奇心と欲望は、まるではじめて触れるもののような熱心さでそれを揉むことを命じた。

「んんっ……」

布地越しにゆっくりと触れると、美月さんはびくんと身体を震わせた。

力をこめすぎないように注意しながらきゅっと掴むと、もっと強く反応する。

美月さんのおっぱいは、すごく柔らかいのに、すごく張りがあるんだ。

僕の手は、ゴムまりのような弾力と、つきたてのお餅のような柔らかさを感じ取っていた。

 

「だめ……おっぱい、そんなに揉んじゃ……私……」

美月さんが身をよじった。

声が甘くかすれている。

「……濡れちゃう?」

僕が意地悪に聞いた。

「……!!」

美月さんが、顔を真っ赤にしてうつむく。

眼鏡越しのその表情は、はじめて見る、そして誰よりもよく知っているものだ。

「あれれ〜。返事がないよ〜、どうしたのかな〜?」

「巴里書房」のエロ小説の大ファンの美月さんは、ことばで責められるのが大好きだ。

僕は、美月さんが一番好きな方法で、美月さんを責めることにした。

「……おっぱいもまれて、濡れちゃうの、美月さん?」

「そ、そんなこと……」

「そうだよね。普通の女の子なら、おっぱい触られたくらいじゃ濡れないよねー。

でも美月さんはエッチだから、おまんこ濡れちゃうんじゃない?」

「……!!」

耳元でささやかれた女性器の卑称に、美月さんは激しく反応した。

「……確かめてあげようか?」

「……え?」

「美月さんのおま×こが濡れているか、僕が見てあげる」

「そ、そんなっ……」

「確かめなくていいの?」

「そ、それはっ……」

耳たぶまで真っ赤になった美月さんの答えは決まっている。

「……確かめて……ください」

その様子があまりにも可愛いので、僕はさらに意地悪をしたくなった。

「ふうん。――僕、女の子のあそこって、見るの、はじめてなんだ……」

「……え?」

美月さんはちょっとびっくりしたような表情になった。

でも、僕がさらに続けて、

「美月さんも、男の子にあそこ見られるのは、はじめて、でしょ?」

とささやくと、僕のしようとしていることを悟ったのだろう、

真っ赤になりながら、小さく「……はい」とうなずいた。

「……女の子のあそこってどんなふうになってるのかなあ?

……美月さんのは、どんなふうになってるの?」

僕は美月さんのおっぱいを揉みながら、スカートをもう片方の手の平でゆっくり上から下へなぞった。

布地越しにでも伝わるのだろうか、美月さんは電流が走ったようにびくっと身体を震わせる。

「……あ。そういや、僕、スカートめくりってしたことないんだっけ。美月さんで、してみてもいい?」

大嘘。

子供の頃、それくらいしたことはある。

第一、今だってコスプレ衣装を集めたり、着たりするのが趣味の美月さん相手に、何百回もしている。

だけど、美月さんは「男の子がはじめてスカートめくりする標的にされた」ことに

くらくらするくらいに興奮を覚えている。

──僕は、自分でも呆れるくらい、美月さんを恥ずかしがらせる──悦ばせる方法を思いつく。

「…す、スカートめくり……ですか……?」

「うん。美月さんのパンツ、見たいんだ──いいよね?」

「……はい……」

美月さんがこくりとうなずくやいなや、僕は大胆にブレザーのスカートをまくりあげた。

「きゃっ──」

予想以上の乱暴な扱いに、美月さんが小さな悲鳴を上げて、――悦ぶ。

「わ、純白……」

もともと美月さんは、白とかピンクとかの下着をつけることが多いけど、

今日のショーツは、今どき、女子中学生でも着けるかどうかあやしいくらいに

清楚でシンプルなショーツだった。

いかにも嫁入り前の旧家の娘が穿きそうなそれは、

――たぶん、美月さんが高校時代に実際に穿いていたような種類のものだろう。

そう思うと、僕の興奮はさらに高まった。

「可愛いパンツだね……」

「……」

答えようがなくて、もじもじと身をよじらせる美月さん。

僕は、さらに彼女を悦ばせることにした。

「はら、両手でここを持って。――自分でパンツ見せて。僕に見せたいんでしょう?」

「あ……」

まくりあげたスカートの端っこを美月さんに持たせる。

美月さんは、立ったまま、下着を僕に見せる格好になった。

めくられて無理やり見られるのではなく、──自分の意思でスカートをたくしあげて。

「……!」

ぎゅっと目をつぶった美月さんは、恥ずかしさに震えている。

でも、それは嫌がっているのではなくて……。

「あれ……、美月さん、パンツのここ、なんか湿ってるよ……」

僕はショーツの中心をそっと指でなで上げた。

「ひっ……!」

美月さんが小さくのけぞる。

シンプルで上品なショーツは、清楚な分、性器を包むものとしてはなにか物足りないかもしれない。

でも、今、それは、最高のアクセントを自らの内側からにじませはじめた。

指先に感じる湿り気と温かさ。

「美月さん、――これ、なあに?」

「……そ、それはっ……」

「ひょっとして、これ、愛液っていうやつなのかな?」

「……!!」

恥ずかしさと興奮と悦びに、美月さんの足ががくがくと震えだした。

「……やっぱり、美月さん、濡れているんだ。おっぱい揉まれて、濡れちゃったんだ」

「……!!」

スカートの中をのぞきこみながら、そう追い討ちをかけると、美月さんの震えは大きくなった。

「ふうん……パンツの中って……どうなってるんだろう?」

僕は、美月さんの下着に手をかけた。

「あっ……」

するり。

立ったままの格好だから、ショーツは楽に脱がすことが出来た。

そうでなくても、美月さんの下着を脱がすことにかけては、僕は世界一の腕前だ。

……もっとも、僕以外にそんなことができる人間もいないけど。

倉庫の埃っぽい空気の中で見る美月さんの肌は、いつにもまして白く見えた。

見慣れた飾り毛さえも、未成熟な娘のもののように見えるから不思議だ。

「んーと……濡れてる……」

ショーツを下ろすときに、細い糸をひくくらいに美月さんのあそこは潤っていた。

「……!」

美月さんは、目をつぶって震えている。

──それだけで、美月さんが何を期待しているのか、僕にはよくわかった。

 

「これって、どこから濡れてるのかな……。僕、女の子のあそこ見るの初めてだからわからないや」

「……」

「ちょっと調べちゃおっ……いいよね、美月さん?」

「……はっ、はいっ……」

「それじゃ、遠慮なく……」

指でいじくると見せかけて──僕はいきなり美月さんの太ももの付け根に顔をうずめた。

「ひっ……あっ……」

美月さんのあそこに口付けをして、強く吸いたてる。

予想外の刺激に、美月さんは身を反らした。

かまわず、僕は、美月さんの女性器の中に、舌を差し入れた。

にゅぷ……じゅぷ……。

柔肉の抗いをゆるさず、粘膜と粘液の海に侵入する。

よくなじんだ、妻の味と匂い──。

中をたっぷりとかき混ぜてから、一度口を離し、秘唇の上にある真珠に口付けをすると、

美月さんは一気に絶頂にのぼりつめた。

「ひっ……ああああっ、い、いきなりそんなっ……」

美月さんの足元がぐらぐらとした。

手が、スカートをまくしあげていられなくなって、僕の頭の上に置かれる。

体重を支えるためと、――もっと強くそれを続けて欲しいという意思の表れ。

僕は、その希望の通りに行為を続けた。

美月さんが手を離してしまったので、僕は、降りてきたスカートの中に、

すっぽり上半身をもぐりこませるような形になったけど、

目の前が暗くたって、唇と舌先は、どこを攻めればいいのか、ちゃあんと分かっている。

淫らな軟体生物が、闇の中でうごめき、美月さんをさらなる絶頂へ向かわせるのには、数分もかからなかった。

 

「――もうっ、ひどいです、彰さん……」

倉庫に転がっていたソファの上で、くたっとなった美月さんが僕をなじった。

「あんなに、いきなり……」

桜色に上気した顔は、成熟した雌が、たっぷりと満足したときにだけ浮かべるもの。

それが、清楚な化粧と真面目そうな眼鏡の下に浮き上がると──こんなに妖しくなるのものなのか。

「ごめん、ごめん。美月さんがあんまり可愛かったから……」

そう答えながら、僕は、今度は自分の欲望が抑えきれないのを感じていた。

美月さんが、くすりと笑った。――全部お見通しだ。

「――んっ……んむっ……」

今度は攻守を変えて交わりが始まった。

ソファに腰をかけた僕の前にひざまずき、美月さんは僕のおち×ちんをしゃぶりはじめた。

美月さんは、フェラチオがすごく得意だ。

最初のときもすごかったけど、夫婦になっての一年間で、何度も僕と交わり、

経験と研究を重ねた美月さんのそれは、ものすごい腕前になっていた。

「ああ、いいよ、美月さん……」

先ほどの余裕の責めは何だったのか、僕は美月さんの手のひらの上で、

──いや、桃色の舌の上で悦楽のダンスを踊った。

「……あう……美月さん、もう……」

耐え切れなくなった僕がかすれた声を上げると、美月さんはにっこりと笑った。

「精子さん、出したいですか、彰さん……?」

「うん……」

「うふふ。最初の濃ぉい、元気な精子さんは、美月のここにくださいね……」

美月さんは、制服のスカートを外しながら言った。

ショーツは先ほど脱がしたままだから、美月さんの下半身は靴下以外何もつけない真っ裸だ。

上半身はブレザーを着たままだから、ハレンチなこと、この上ない。

 

じゅぷっ……。

ちゅく……ちゅく……。

ソファの上で、美月さんと僕の性器がつながった。

慣れ親しんだ粘膜が、いつもと違った感じで触れている。

美月さんも、普段と違う感じらしい。

小指を噛みながら声を押し殺そうとしているけど、形のいい唇のはしから甘い声がもれる。

「んっ……ふわああ……。あ、彰さん、すごい……」

「んんっ……み、美月さんも……」

学校の中で交わる後ろめたさに、僕は、声くらいは抑えようとしたけど、

下から聞こえる美月さんのあえぎ声に、あっさりとその意思は打ちやぶられてしまった。

「ん……。美月さん、気持ちいいよっ……」

一度声が漏れると、後はもう、一気呵成だ。

「ふっうん……。彰さん、どこがいいのですか……、美月のどこがいいのですかぁ……」

「み、美月さんのおま×こが、気持ちいいっ、気持ちいいよお……」

「あ、彰さんのおち×ちんも、気持ちいいですう……。美月、すごく……」

官能小説ファンの夫婦の、いつもの淫語まじりのセックスになる。

「ああ、いいよ、美月さん……ちょっとここをこうして……」

「はい……あふっ……」

僕は、ソファから立ち上がり、美月さんをもう一度立たせた。

足元がふらつく美月さんを、目の前の跳び箱にしがみつかせる。

「ほら、美月さん、お尻を突き出して……」

「はぁい……」

蕩けそうな声で従う美月さんは、言われたとおりお尻を突き出した。

この部分だけは、いくら美月さんが清楚でも成熟さのほうが勝っている。

白くて、大きくて、綺麗なお尻は、女体の中でもっとも熟れた部分だ。

しっとりと脂の乗ったなめらかさは、夫に毎日抱かれる妻しか持ち得ない。

このお尻は、僕のものだ。

僕だけのものだ。

その所有権を再認識すると、ぼくの男根は、さらに堅くそそりたった。

 

「ああっ……彰さん……来てください……」

美月さんの甘いおねだり声に、僕はわななきながら答えた。

限界まで膨れ上がり、敏感になった僕の先端が、美月さんの中に入り、つながる。

「ふあっ……あああ……んっ……!!」

「おおっ……」

妻も、夫も、互いの肉の甘さに打ち震えて声を上げた。

世界中でたった一人、自分のためにいる牡。

世界中でたった一人、自分のためにいる牝。

一生離してはならない、離すはずもない半身を確認する行為は、短く、そして長く長く続いた。

「――ああっ、彰さん! 私、もう……!!」

「――んっ、美月さん、僕も、もう……!!」

二人が限界に達するのは、まったく同時だった。

「ふわっ……、彰さん、そのまま、そのまま来てくださいっ……。

そのまま美月のおま×こに精子さん、出しちゃってくださいぃっ……」

「う、うん。……いくよ、美月さんっ……」

「はいっ、全部、全部っ……」

びゅくびゅくという音まで耳に届きそうなくらい激しく精が噴き出される。

──僕の愛しい妻の身体の奥深くに。そして美月さんはそれをすべて自分の子宮で受け止めた。

「ふああっ……あああ……んん……」

僕の精を受けた美月さんが、絶頂に達する。

 

「は…あ……」

長い長い射精とその余韻が終わって、僕はゆっくりと美月さんの中から抜け出る。

精液と愛液が混ざってできた粘液の糸が、二人の性器が離れることを嫌がるように長くつながって伸びる。

「ふふふ。……すごくたくさん出しましたね、彰さん……」

まだ身体に力が入らないのだろう。

跳び箱にしがみついたままで、美月さんが微笑んだ。

「う……み、美月さんがあんまり可愛かったから、つい……」

「ふふふ」

美月さんは、くすくすと笑った。

そうすると、やっぱり大人びて見えるから、女の人は不思議だ。

しばらくして、身を起こした美月さんは、ソファに来て、僕の隣に腰掛けた。

「……」

目を閉じて、裸のままの下腹に手を置く。

「どうしたの……?」

「……精子さん、精子さん。美月の卵はここですよ……。はやく登ってきてください……」

微笑みながらそっと呟く。

「……あ……」

わ、忘れてた。

今日は、たしか……。

「赤ちゃんが出来る日に、こんなにいっぱい精子さんもらったら、また授かることができますね。

私、今度は、男の子が欲しいです。彰さんによく似た、元気な男の子が……」

美月さんは、――ことの最中も、わかっていたにちがいない。

「うふふ……」

……僕の精子は、たぶん、すごく素直だ。

美月さんにそう言われたら、猛スピードで子宮の奥に突撃しちゃうに違いない。

白い繊手を下腹──子宮の辺りにおいて微笑む美月さんは、志津留の不思議な力をたくさん持っている。

その美月さんが、こうして招いたのなら──。

僕にも、なんとなくわかった。

今、まさに僕は、三人目の子供の父親になったのだ。

 

……ああ、うん。

ちょっと呆然としちゃったけど、すぐに僕は我に返った。

ショックとか後悔とかは、もちろん、ない。

だって僕は、約束したもの。美月さんに、もっともっと僕の子供を産んでもらうって。

「そろそろ戻らないといけませんね。――続きは、今夜に……」

たった一度の交わりだけど、いつもとちがうやり方だったせいか、

美月さんはたっぷり満足したようだった。

いや、たぶん、その前のささやかな「デート」がその充実感を増しているのだろう。

美月さんは、脱ぎ捨ててあったショーツを手に取った。

持ってきていた小さなバッグから桜紙を取り出して、あそこにそっとあてがう。

「うふふ。私の卵に出会うまで、彰さんの精子さん、こぼれませんように」

呪文のようにそっと呟いて、その上からショーツを穿く。

さっきまで、淫らさの象徴だった白い下着は、受胎を守る神聖な鎧と化した。

 

「……そういや、さっき、美月さん、昇降口で何を探してたの?」

ふと思い出して、聞いてみる。

「え……あ、あの……その……」

美月さんはちょっと慌てた様子になった。

「?」

「ええと、そのぅ……」

ちょっと上目遣いの視線に、疑問系の僕の視線を絡ませる。

「……彰さんの下駄箱、探してました……」

「え……?」

何で?、という表情になった僕を見て、美月さんは顔を赤らめた。

「……んんー……」

──やがて、意を決したように美月さんはバッグの中から何かを取り出した。

「……これって……?」

「ええと、ね。彰さんの下駄箱に入れようかなーって、持って来ちゃいました……」

白い封筒をかわいいシールで封をした「それ」は……、

「え、え、これって、ラ、ラブレター?」

こくり、と頷く。

「はい。――たまにはデートしてもらいたいなあって、彰さんに伝えようと思ったんですけど、

──届ける前に、デートしちゃいましたね。うふふ」

僕は、どきどきしてしまった。

「……こんど、もっとちゃんと、デートしようよ。美月さん」

あまりにもどきどきしてしまって、それだけをいうのが精一杯だったけど、

「はい、喜んで──」

美月さんは、花が咲くような笑顔で答えてくれた。

「うふふ。でも彰さんは、その前に、今晩は早く帰ってきてくださいね」

美月さんのことばに、僕は、「さっきの続き」ということばを思い出して、今度は、顔が真っ赤になった。

「うん、絶対早く帰るよ!」

こくこくと、勢いよくうなずく。

「本当ですか? ――嘘ついたら、美月のこと、朝まで虐めていただきますよ」

うふふ、と美月さんは笑った。

美月さんと朝まで──恐ろしく甘美なことだけど、ものすごい気力体力を使う。

この間は、四時半くらいにミイラになるかと思った。

翌日が平日の時は、絶対できないプレイだ。

「あ、あはは」

返事に困って笑う僕に、もう一度くすくす笑いを返した美月さんは、携帯を取り出した。

「――あ。小夜さん? ……そちらはお忙しそうですね……え、大丈夫?

はい……。今、部室裏の倉庫にいます。ああ、宍戸さんならきっと場所が分かると思います。

はい。……はい……。お着替えお願いします……」

──しばらくして、小夜さんが、倉庫に美月さんの着物を届けにきてくれた。

首筋やほっぺにキスマークを付けられ、ブレザー服の胸元は乱れ、

片方の腕に、顔がボコボコになって気絶している宍戸さんを引きずってあらわれた小夜さんが、

今までどんな修羅場に陥っていたのか、――恐ろしくて何も聞けなかった。

はぁはぁと荒い息をつく小夜さんから紙袋を受け取った美月さんは、

中から着物を取り出すと、またたく間に着替えてしまった。

和服に慣れた人は、一人で着付けが出来るというけれど、美月さんのそれはまるで魔法だ。

襟元を正して立ち上がった美月さんからは、とてもさっきまでの乱れようは想像がつかない。

「うふふ。最後に彰さんと陽子の教室に行きたいのですけど……」

「あ、それいいね! 陽子にも顔見せてってよ」

僕は気軽にこたえた。

──それが悲劇の始まりだった。

 

 

ずばばーん!

教室に入るやいなや、喉に稲妻が走った。

「――源龍天一郎直伝、<喉元に逆水平チョップ>!!」

「ぐぶあっ!! ──な、何しやがる、陽子……」

つぶれた喉からは、かすれた声しか出ない。

その襟首を掴んだ陽子は、そのままずりずりと僕を引きずって、

誰もいない階段の片隅に連れ込んだ。鬼のような表情で僕を睨む。

「何しやがるじゃないでしょう、馬鹿従兄弟っ!!

朝から作業おっぽり出して、今まで何やってたのよっ!!」

「それはその……」

……美月さんとセックスしてました、なんて言えるわけがない。

口ごもった僕に、陽子は大逆上した。

「正木先輩から、どっかの知らない美人とデートしてたって聞いたわよ!

あんたねえ、美月ねえという人がいながら……!!」

「あらあら、それ、本当なのですか……?」

後ろから声がかかった。

「美月ねえ……」

ちょうどよかった。ご、誤解を解いてください!

「――ひどいです、彰さん、ぐっすん」

「ちょ、……ちょっと、美月さんっ……!?」

「帰ったら、……たっぷりお仕置きですよぉ……」

くすくす笑う美月さんは、絶対この状況を楽しんでいる。

「……まあ、いいわ。あんたの浮気については美月ねえが怒るのが筋だから、あたしは追及しない。

でも、この忙しい時に準備をサボッって遊んでたことのほうは許さないわよ〜!

バツとして、これから休憩なしでお店手伝って、終わったら夜中まで一人で明日の準備やりなさいっ!!」

「ええー!?」

がっくりと肩を落とす僕に、美月さんが優しい一言を……。

「……うふふ、彰さん。さっきの約束覚えてます?

遅く帰ってきたら、朝まで……ですよぉ……」

そ、そんな……。それ、ずるいよ、美月さん!!

……ただいま時刻は正午ちょうど。

──これから十八時間に及ぶ地獄に、僕は気が遠くなった。

 

                             FIN

 

 

<おまけ>

 

「……はあぁ。……昨日はひどい目にあったなあ……ぐすっ……」

「あら、何をため息をついているのですか、小夜さん?」

「……ひいいっ、み、美月さまっ……。な、何でもありません。

きょ、今日は、オヒガラモヨク、オ肌ノ艶モヨク……」

「うふふ。昨日は彰さんが一晩中……うふふ……してくださったから……」

「ああ……さっき、バス停まで歩いて行く体力もなくてお車で登校なされてましたね……」

「昨日はありがとうございました」

「い、いえっ……で、では失礼しますっ……!」

「あ、ちょっと待って……」

「は、はいいいっ……な、なんでございましょうかっ……」

「小夜さんに迷惑かけちゃったから、……はい、これ」

「え……? ……一週間の温泉旅行……」

「お爺様の知り合いから招待券いただいたの。最高級の旅館ですわよ」

「あ、あ、ありがとうございます……」

「あ、お部屋は二人部屋だから」

「……はい?」

「全身打撲で入院してる宍戸さんが退院したら、お二人でごゆっくり、ね……うふふ……」

「あ……ちょ、ちょっと、美月さまっ……!?」

 

 

 

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