<守宮さん>・中

 

 

……ひんやりとしたものが顔に当たっている。

それは、僕の額と目の上を塞いでいた。

「……?」

激情が去った後の虚脱感は、とても深かった。

怒りが失われると、残るのは後悔だけ。

「……」

苦い口の中が、さらに苦くなった。

「あ……気が付きましたか?」

静かな声。

小さく、大人しいけど、綺麗な声。

「守宮、か……?」

「はい……」

寝かされていた布団から、身を起こす。

「あ、まだ起きないで……体力が回復してません」

そんな大げさな、と言おうとして、守宮の言うとおりだということに気がつく。

「お食事、してなかったんでしょう?」

考えてみれば、風邪で食欲がないまま、一日半ばかり食べていなかった。

「……うん」

「これを食べてください」

守宮が、椀を差し出す。

「森田君が作ったお雑炊ですけど……」

「ああ、すまん……」

先ほど見せた失態を思い出して、僕は真っ赤になった。

言われるまま箸を取り、一口すする。

「……これは……!?」

それは、僕の味ではなかった。

深い滋養と、暖かな味が加わっている。

思わず、三、四口をかきこむ。

かっと、身体が熱くなり、額と頬と頭に上った熱は逆に下がっていった。

 

足された味の正体に僕はもう気が付いていた。

「これは……あの蟹か?」

「はい」

僕が柱に叩きつけて、殺してしまった蟹。

守宮は、それを雑炊の中に混ぜたのだ。

「生命は、大切なものです。いたずらに殺してはいけません。

だから、もし、殺してしまったら、それは大切に使うのです」

涼やかな守宮の声は、小さかったけど、心に響いた。

だからかも知れない。

今日まで大切に飼っていた蟹を食べていることに、僕は嫌悪感を覚えなかった。

夕闇が迫る中、僕は、一心に雑炊をすすった。

守宮が、どれだけ丁寧にそれを扱い、僕の雑炊に混ぜたのか、僕にはよく分かった。

下衆な蟹は、最上級の同族にも匹敵する滋味を醸し出していた。

それだけでなく、何か他のものも混ぜられていて、

そしてそれは、ものすごい薬効があったようだ。

「うまい……」

食べ終わって、箸を置いたとき、僕は風邪が完全に吹き飛んでいることを自覚していた。

「そうですか、よかった……」

夕暮れの光の中で、クラスメイトの美少女の白い髪が金色に輝く。

赤味を帯びた、妖しいまでに美しい金色に。

かっ。

身体が熱くなる。

先ほどまで僕を苦しめていた熱とは違う、熱が。

ごくり、と喉が鳴る。

僕は、いったい、どうしたのだろうか。

「……いけません……」

守宮が静かにつぶやいた。

「え……」

「森田君の体力をはやく回復させようとして、少し入れすぎました」

白い美少女は、目を伏せた。

「な、何を……?」

「……私の尻尾です」

「え……?!」

守宮は、スカートの中から生える白い尾を振って見せた。

「尻尾持ち」。

獣人の証しである白灰色の尾の先端は、わずかに切り落とされていた。

「古来から、ヤモリの尻尾は強力な精力剤として知られています。

体力の回復には、一番のお薬です。あ……大丈夫です。

尻尾は、根元から切れてもまた再生します、これくらいなら、一晩で」

目を伏せながら話す守宮に、僕の視線は釘付けになった。

呼吸が、荒くなる。

僕の……いや、守宮の吐息も。

「いけません……少し、多く入れすぎました」

精力剤。

それも、とびっきり強力な。

下半身の中心が堅くそそり立つのを、僕は自覚した。

「や、守宮……」

帰ってくれ、やばい、と言おうとして、僕はそれを息とともに飲み込んだ。

守宮が、伏せていた目をあげて、こちらを見たから。

静かな、だがらんらんと光るのは、<純血種>にあらざる者の瞳。

「いけません……」

白いおかっぱの美少女は、さっきと同じことばをつぶやいた。

だけど、それは、さっきと違う響きをもって僕の耳に伝わる。

「貴方を欲情させてしまいました。……そして、私も……」

すっと、音もなく美しい影が僕ににじり寄った。

「森田君……」

何かを抑え、そしてそれが抑えきれなくなっている声。

「な、何?」

「……もうしわけありません。私は、貴方に欲情してしまいました」

小さく、大人しい、守宮の声。

いつもと違わず、そしてまったく異なる声。

「貴方を、……犯します」

──そして、白いクラスメイトは、僕の上にのしかかってきた。

 

「ちょ、ちょっと……」

僕は、自分の上にのしかかかってくる美しいものに抗おうとして、もがいた。

だけど、僕の身体は言うことを聞かない。

それは、風邪で体力を消耗していたから?

強い精力剤である守宮の尻尾を食したから?

──きっと、ちがう。

僕は、良く見知った女の子が、

僕が、全然知らない牝であることに気が付き、

そしてそれに魅入られていたから。

守宮。

大人しくて控えめなクラスメイトは、

今、僕の上で、淫らに大胆に振舞っていた。

僕の上に跨って、膝を深く畳に沈める。

お尻と太ももの裏側で僕に密着して、体重をかける。

たったそれだけで、僕の胴体は床に縫いとめられた。

反射的に、両腕で床を押して状態を起こそうとしたけど、

びくともしない。

多分、僕よりも十キロ以上も軽い女の子は、

物音ひとつ立てずに、圧倒的な力で僕の自由を奪っていた。

「――」

守宮は、無言のまま僕を見詰めた。

その白灰色の瞳は──今や、その色ではなかった。

それは、黄金色に輝いていた。

「や、守宮……」

その色と、輝き方を見て、僕は、

僕の上にいる美しいものが、自分と同じ種族ではないことを「理解」した。

そして、それが欲情しきっているということにも。

 

守宮は、僕を見据えたまま、静かに自分の衣服を脱ぎ始めた。

衣擦れの音を、僕はどこか遠くに聞いた。

金色の眼差しに縫いとめられた僕は、

守宮が僕をまっすぐに見詰めながら制服を脱いでいく姿から目を反らすことができなかった。

クラスメイトの女の子の動きは、一遍の躊躇も一瞬の停滞もなかった。

まるで息を吸って吐くかのように、守宮は僕の前に裸身を晒そうとする。

「駄目だよ、守宮……」

僕は弱々しい声でつぶやいた。

それは、僕に残された理性のかけらの抵抗──ではない。

想像もつかない事態に放り込まれた小動物の混乱が生み出したものだ。

その証拠に、守宮は、手を後ろに回してブラジャーを緩めながら、

「駄目じゃ、ありません」

と一言だけ返事することでそれを封じた。

そのことばと同時に白い清楚なブラジャーは守宮の肌から離れた。

人のものとはとうてい思えないくらい、抜けるように白い肌。

制服の上からは予想も付かないくらいに大ぶりな乳房の先端は、

つつましいくらいに薄い桜色だった。

ごくり。

はじめて生で見る女の子のおっぱいに、思わず僕の喉がなった。

生唾を飲みこむ自分の仕草が、ひどく卑しく、いやらしいもののように思えて、

僕はあわてて首をねじって視線をそらした。

それが、もとに戻された。

ひんやりとして、すべすべしている守宮の手で。

どきりとした。

ひどく間近に、守宮の顔があったから。

僕の上にのしかかっている守宮は、上体を折り曲げて、

僕の顔を覗き込まんばかりにしていた。

 

金色の瞳が、魔性の物のように、僕を見詰める。

「……や、やも……」

「……見たいのでしょう?」

「え……」

白い美少女は静かに言い、僕は絶句した。

守宮は、僕の頬を両手で挟むようにして固定している。

上から覗き込む美貌。

それは、たしかに人外のものだった。

(隣の、もののけ)

不意に、そんな単語が頭に浮かんだ。

それは、平凡なクラスメイトのふりをして、僕の隣に居た。

普通に話し、普通に生活して、僕の隣に居た。

でも、それは、本当の守宮ではなかったんだ。

本当の守宮。

尻尾持ち。

獣人。

純血種ではない、獣の因子を持つ存在。

ぞくり。

僕の背中を冷ややかな恐怖が走った。

今頃気が付いた。

今、僕の上にいる女の子は、僕の知っている女の子ではない。

あまり喋らない、消極的な、おとなしい、あの守宮ではない。

それは、容易に僕の自由を奪う体力と、

僕が今まで見たことのない強い意思を持ち、

15センチの近くで見詰め合っても何を考えているのか、まったくわからない、

<異種>だった。

 

(守宮──)

その女の子に呼びかけようとして、舌が強張っているのを僕は自覚した。

「……」

守宮の、瞬きすらしない金色の瞳が、無表情に僕を見詰める。

そして、守宮は、ゆっくりと顔を沈めてきた。

白い美貌が、さらに僕に近づく。

彼女の唇が、僕のそれに重なるのを、僕は呆然として受け入れた。

 

ファーストキスは、キスと呼ぶにはあまりにも深すぎた。

口付け。

それも、魔性の者の。

柔らかくて、冷たくて、いい匂いのする唇は、

重ねられた瞬間に吸い付き、ねじ切るようにして僕の唇をこじ開けた。

「……!」

ぬるぬると湿った、肉の塊が入ってくる。

守宮の舌だ。

それは、僕の歯さえもこじ開けて、口腔内を蹂躙した。

僕の舌を探り当て、からみつく。

かぐわしい香り。

甘い味。

呼吸さえ忘れ、僕は、侵入者にされるがままになった。

「……」

どれだけ長い間続いただろうか。

守宮は、静かに唇を離した。

ほぅ、という小さな吐息を聞いたような気がした。

いや、実際は、守宮はそんなこともしなかったのかも知れない。

守宮と僕の唾液がまざり、銀の糸を引いて離れる唇をつなぐ。

その糸が途切れたとき、僕の心臓は、どきん、と高鳴った。

 

いや。

どきん、では終わらなかった。

どきどき。

どくんどくん。

自分が上半身裸の女の子と密着しているという事実を思い出して、

顔に血が上り、動悸が激しくなる。

そして、血が集まっているのは、ドクドクと脈打っているのは、

顔だけじゃなくて……。

「勃起しましたね……」

守宮が、静かに言い放ち、僕は耳まで真っ赤になった。

「い、いや、その……」

慌てて首を振る。

「……」

守宮は、じっと僕を見詰め、身をくねらせた。

「あっ……」

密着している女の子の動きを受けて、僕は軽い悲鳴を上げた。

「脱がせますね」

守宮は、片手を僕の太ももの上について、腰を浮かせた。

もう片方の手で、器用にズボンのベルトを緩める。

「ちょ、待っ……!」

言い終わる暇もなく、ズボンとパンツが一気に膝下まで引き下ろされた。

僕は恥ずかしさにもがこうとしたが、太ももに乗せられた手は、

まるで何百キロの錘(おもり)のように僕の動きを封じていた。

「元気です」

守宮は、僕のそれを見下ろしてつぶやいた。

そのまま片手で自分のスカートを緩めて脱ぎ捨てる。

ショーツまでも。

全裸になった守宮は、再び下半身裸の僕の上に乗った。

だけど、さっきと決定的にちがうのは──。

「ま、待って守宮、どいて、どいて!」

「なぜです?」

「ふれてる! さわってる!」

今の僕と守宮は、下半身が裸で、それが重なると言うことは、

つまりお互いのむき出しの性器が直接触れ合う状態だ。

先ほどまでのショーツとズボン越しでは、重みと温かさしか感じなかった。

だけど、今は、湿ってすべすべとした肌と、粘膜とが直に密着している。

守宮の女性器が。

「かまいません。――今から私の中に入るものですから」

クラスメイトの女の子は、冷然と言い放ち、僕は絶句した。

 

びくっ。

びくん。

自分の身体には備わっていない、すべすべしたものと触れ合って、

僕は、僕の意識とは無関係に男性自身が硬くなるのを感じた。

「森田君は、今、私とセックスしたくなっています……」

守宮が、教師に当てられて教科書でも読むように、抑揚のない声で言った。

「そ、そんなことは……」

「……ありませんか?」

「……」

守宮の問いに、僕は答えられなかった。

年頃の男として、そういうことに興味がないと言ったら嘘になる。

そして、守宮の生み出した異常な空間の中で、僕が興奮しているのもたしかだった。

でも──。

「や、守宮は、それで……いいの?」

「……!?」

とっさにでた言葉に、守宮は一瞬動きを止めた。

「こ、こんなこと、駄目だよ! こういうのは、大好きな相手としなきゃ駄目だよ。

け、結婚して、旦那さんとなる相手とじゃなきゃ、しちゃいけないんだよ」

夢中でまくしたてた言葉は、小さな頃から培ってきた、

モラルとか貞操観念とか、そういうもろもろの軌範。

誤解を恐れないで言うならば、高級料亭は、そうしたものとは程遠い世界だ。

お金のある男女は、愛人を持つのが一種のステイタスであるし、

上客である有名人、芸能人は、うしろめたい密会の場所としてそれを使う。

でも、傍流に生まれた僕は、父と母が協力し合って店を切り盛りするのを見て育ったし、

なによりも、僕自身がそうしたことがちゃんとしていないのが嫌な性質だった。

「……」

守宮は、一瞬僕から目をそらした。

僕は、ここぞとばかりに言葉を継ごうとして、そのことばを失った。

 

「――」

守宮は、視線を戻していた。

ただ僕を見詰める。

先ほどと同じように。

だけど、僕はそれだけで何も言えなくなった。

守宮の金色の瞳は、強い力をたたえていた。

「構いません。私たちの交わりは、……貴方たちのものとちがいますから」

 

 

「本能の為すもの」。

 

 

<学園>の授業で習った。

獣人の持つ様々な本能は、純血種の及ぶところではない。

長い歴史の中で理性や「効率の良い遺伝子」と引き換えに少しずつ失った、原初の衝動と情熱。

獣の<因子>を持つ獣人はそれを持っている。

そしてそれを満たすためになら、なんの躊躇いもない。

僕は、不意に悲しくなった。

異質のモノと化した、クラスメイトの下で。

控えめで、大人しくて、物静かな女の子が、僕の全然知らない存在に変わったことが、

そして彼女が、こうして僕の上にのしかかっていることが、

──なぜだか、ものすごく悲しかった。

 

「……擬態、です」

突然、守宮がつぶやいた。

「ぎ、たい……?」

一瞬、何を言っているのかわからなかったが、

僕は、すぐにそれが答えだということに気が付いた。

口に出して言っていない、僕の心の中の疑問と悲しみへの、返答。

「獣は──獣人は、擬態します。生きるために。

純血種の中で獣人が生きていくには、純血種に敵意をもたれないようにする必要があります。

私の場合、それは、大人しく、静かな女の子であることでした」

「や、守宮……?」

「特に、私が<因子>を持っているヤモリは、擬態の名人です。

壁に貼りついたヤモリが周囲の色に溶け込むように、私は、純血種の社会に溶け込んできました。

溶け込んで、必要なものを得てきました」

「――」

「生命の安全を。餌を。成長する環境を。――そして、今、セックスの相手を」

「!!」

「……貴方は、私の擬態に惹かれて、この場に私を招きました」

「や、守宮……」

「古風な、大人しい、静かな女の子。

――森田君が、そうした子が好みなのはすぐにわかりました。

貴方が、私の<因子>と相性がいいことは、

最初に会ったときから分かっていましたから、

後は、貴方が心を許すまで、そういうように擬態するだけ。

森田君が私を招き入れ、――こんな状況を許すまで」

「や、守宮っ!?」

擬態?

擬態?

擬態!?

守宮の瞳は、今や、ぎらぎらと、それ自体が光を放たんばかりに輝き、

呼吸は荒く、肌はうっすらと桜色に染まっていた。

興奮。

それも、とびっきりに強力な、本能の坩堝。

僕の上にのしかかっている女の子の中身、

肌一枚のすぐ下には、むき出しの性欲と生殖本能が渦巻いていた。

 

「――!!」

そして、僕はそれに恐怖を抱いた。

異質な、あまりに異質な、心までも「違う」存在。

「今、私の卵は、貴方の精液を貰えば、仔を孕むことができる状態です。

そして、私は、その機会を逃すつもりはありません」

宣言は、冷ややかなほどに静かだった。

「ちょっ! 待っ……!!」

上ずった僕の声を無視して、守宮は、その白い手を伸ばした。

指先が根元に軽く体重をかけて押さえつけている、僕のその器官の先端に触れる。

「ひゃいっ!」

思わず悲鳴があがった。

性器を女の子に触れられ、背中に電流が走る。

守宮の指は、僕の一番敏感な先っぽを確認するように撫でた。

張り出したものの縁(ふち)を、そのすぐ下の溝を、

ひいやりとした指先が、そっと触れていく。

僕は、声を押し殺して悶えた。

「……にじんでいます」

先端の先端、鈴口をなぞった中指の先に、

粘液の糸がからんでいるのを見て、守宮が言った。

僕はこれ以上ないと言うくらいに頬が紅潮するのを感じた。

「や、守宮、もう、やめ……」

「入れます。森田君の精子をください」

僕の哀願を、クラスメイトの女の子は一顧だにしなかった。

左手で僕の太ももを押さえ、右手で僕自身を握り、

守宮は腰を浮かした。

 

「あっ……!」

「んっ……!」

つるり、という感触。

肉の抵抗。

何かが引き剥がされる中を推し入っていく感覚。

それらが短い時間で押し寄せ、すぐに、猛烈な快感が襲ってきた。

「な、何、これっ……」

僕の身体の中で一番敏感な器官は、未知の刺激にうち震える。

びくん、びくん。

全ての神経がそこに集まったかのように、僕の体は性器と同調して痙攣した。

「うっ、くっ……」

かすれた声を、僕は必死でかみ殺そうとした。

そうしなければ、この快感に流されてしまいそうだったから。

守宮に、何から何まで屈服されるように思えたから。

そう。

僕の上に乗るクラスメイトは、僕の意思を無視して、

自分の所業を全うしようとしていた。

それに対してできる、僕の精一杯の抵抗は、

ただ、快感の声を出さずにいることだった。

守宮は、わずかに眉をしかめたまま、微動だにせずにいた。

それでも、彼女の身体の中の粘膜はわずかにうねり、

そのわずかなうねりだけで、僕は情けないほど気持ちよくなっていた。

「……くっ……」

また声を押し殺してあえぐように息を吸い込む。

その空気が、かぐわしかった。

目の前に守宮の顔。

「声、出していいですよ」

「――!」

上体を沈め、ぎりぎりまで顔を寄せた人外の者がささやく。

「……我慢しないで声を、出してください。そのほうが気持ちいいですよ」

「!!」

最後の抵抗も、守宮は許さなかった。

食いしばろうとした口元に、守宮の唇が重ねられる。

再度の口付け。

唇を割って入ってきた舌に、口腔を蹂躙されると、

開かれた口は、もうあえぎ声を留めることができなかった。

見透かしたように、守宮が腰を使い始めた。

今までの何倍もの快感が襲い掛かってくる。

僕は、女の子のように甲高い悲鳴を上げた。

 

「気持ちいいですか?」

「ひゃ、ひゃいっ!!」

「気持ちいいですか?」

「き、気持ち、いいっ……ですっ……!!」

「精液、出そうですか?」

「……」

「精液、出そうですか?」

「はいっ……で、出そうっ……!」

「……このまま、中に出してください」

「で、でもっ……」

「出してください」

「は、はいいっ!!」

僕は、守宮の問いかけに抗えなかった。

何度も質問され、守宮の望む選択肢を答えさせられる。

押さえつけられた身体だけでなく、心までも蹂躙されていく感覚。

それは、「自分と異なるもの」への恐怖と、

屈服させられていることへの屈辱感と、

そして猛烈な快楽のまざりあった混沌だった。

「うわっ!!」

跳ねるように僕の身体がはじけた。

頭の中が真っ白になる。

びゅくんっ、びゅくんっ!

どくんっ、どくんっ!

熱い精液が、守宮の身体の中に飲み込まれていく。

金色の瞳をした白い女の子の内部に。

結婚相手でもない女の子の子宮に。

今更ながら僕は、守宮が避妊具を使わないでいることに気が付いた。

獣人にとってのセックス。

それは、純粋なまでに、仔を作る生殖行為そのものだった。

 

「や、守宮、ど、どいて……どいてよっ!!」

「なぜです?」

「赤ちゃん、赤ちゃんできちゃうよ、守宮!!」

「……私はそのつもりです」

「そ、そんな……」

「気持ちいい、でしょう、森田君……?」

金色の瞳を、わずかにすがめて守宮が僕を見詰める。

どきり。

また僕の心臓が何かを感じ取って震える。

何か。

何?

何だろう。

答えを探す前に、守宮が腰をくねらせる。

じゅぷ。

オスとメスがつながる場所から、粘液質な水音が聞こえる。

それは糸を引くほど濃い蜜の汁。

僕は、自分の性器が猛烈な勢いでまた勃起したのを感じた。

そして、守宮の為すがまま、彼女の膣内に射精させられた。

何度も何度も。

甘い悲鳴を上げて最後に達した後、僕は泥の中にうずまるようにして気を失った。

 

「……」

気がつくと、僕は、僕の部屋に一人ぼっちだった。

きちんと布団の中に横たわっている。

(……夢……?)

さきほどの、クラスメイトとの間で起こったことは、悪い夢のように思えた。

守宮が、この部屋に来たと言うこと自体、きっと夢だったんだ。

暗い色の木の天井をぼんやりと見詰めながら、そう考えかけ、

僕は全身を覆うだるさと、部屋の中にわずかに残った守宮の香りで、

あれがまぎれもない現実だったということを認めた。

「……守宮……」

僕は、激しい喪失感を覚えて目を閉じた。

なぜだか、ひどく裏切られたような気がして、

僕はもう一度眠りにつく前に、少し泣いた。

 

 

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