<日不見先輩>・下

 

 

「せ、先輩。子どもって、処女って……?!」

「言ったとおりよ。君は、私と交わって赤さんを作るの。

処女って言うのは……地竜は普通一匹しか子供作れないし、

子どもを作れる相手以外に交わらないから。

君も童貞なんでしょ。釣り合いは取れていると思うわ」

釣り合いって、こんな美女のヴァージンと、僕みたいなどこにでもいる男の童貞じゃ……、

って、それどころの話ではない。

「ちょっ、そ、そんなっ、待っ……!」

予想外のことに、僕は慌てて後ずさりしようと思ったけど、

それは、日不見先輩が握っている僕のおち×ちんを、きゅっとひねったので、

身を捩ってその刺激を耐えなければならなくなったので、簡単に阻止された。

「あう、あう」

声も満足に出せないでいる僕の耳元で、先輩がささやく。

「ほら、君のおち×ちんはこんなに元気。私の手は騙せないわよ。

君のここから想いが伝わってくるわ。私と交わりたいと思っているんでしょ、トモヤ?」

「う、うわあっ……」

僕のモノをしごく先輩の手は、とても繊細で、淫らだった。

「いいわよ、トモヤ。私も君となら交わりたい。

子どもを作るのなら、好きな男の子との間に欲しいもの」

静かな、だけど熱っぽい声。

好きな男の子、と聞いて限界まで顔を真っ赤にしている僕は、

こんな状況でも、さらに頬が赤くなるということができるということを知った。

僕は、かすれた声で質問した。

「子ども……作らなきゃ、って……」

「――私ね、明日、あの石段を降りて行くの」

先輩は、ちらりと玄室の奥にある階段を「見た」。

「あれ、私のご先祖さまが地の底に封じた「悪いもの」の<檻>に通じていて、

私は、明日からそれを封じる役目に就くの。死ぬまで、ずっと。

いいえ。たとえ死んでも、次の地竜が十分に育つまでは<檻>を封じ続けなければならない。

……二年前に死んだ母様のように」

 

「死んでも、って」

僕は絶句した。

「ことば通りよ。地竜は、亡者の女王。死した後も怨念で<檻>を封じることができる。

それにも限界があるけどね。母様が張った結界は、今年の夏を越えられない」

「先輩は……その後を継ぐのですか」

地の底へ通じる石段は、僕の目にもはっきりと禍々しく見えた。

先輩は、答えず、また僕のおち×ちんをきゅっと握り、僕は身悶えた。

「そうよ。私はあそこに降りていって、亡者と不浄の長虫の女王に、なる。

地の底でこの神社の祭神となるから、巫女は今日でおしまい」

さっき廊下でそう言っていたことを思い出す。

あれは、先輩が巫女ではなく女神になるという意味だったんだ。

下半身から伝わる快感と興奮を抑えようと、必死で考えをめぐらす僕を「見て」、

日不見先輩はくすりと笑った。

そして、僕の耳元に唇を近づけてささやく。

「それに――今日、処女もなくしちゃうから、巫女を辞めるのにちょうどいいと思わない?」

「しょ、処女って」

話がまたそこに戻る。

理性と頭脳を振り絞って必死に構築していた考えなど、千々に吹き飛ぶ。

それを先輩は楽しそうに眺めた。

「言ったでしょ、私、君と交わって赤さんを作るの。

私の次にこの神社の守護神になる、地竜の娘を、ね」

セックス、妊娠、出産。

そんな単語が、快感で虹色に点滅する脳裏によぎった。

「だ、だめだよ、そんなこと……」

「あら、何が? 私と交わりたくない、と言うの?」

先輩は、柳眉をつり上げた。

それは……したい。

先輩と、セックス、ものすごく、したい。

でも……。

「い、いや、そ、そうじゃなくて、子どもとか……」

ことばは圧倒的に足りなかったけど、僕が言わんとしたことは伝わったのだろうか。

怒ったようにつりあがっていた先輩の眉が、憂いに翳った。

 

「……いいのよ。それは私の義務だから。地竜は、絶えてはならない血筋だから。

もし絶えてしまったら、この国、までとは言わないけど、その半分くらいは壊滅ね」

「え……?」

「亡霊どもが自由に地上に出て行くようになったら、生者は衰えるしかないわ。

めだった破壊はなにもないけど、生きとし生きるものすべてが活力を失い、緩慢な死を迎える。

それができる連中が、この下の<檻>にいるのよ。

でも、私が入る限りは大丈夫。そんなこと、させないから」

先輩は、ひっそりと笑った。

それは、そうした者を、封じることができる強力な<女王>の微笑だった。

<力を持つ者>の恐ろしい微笑だったけど、

その時、なぜか、僕はそれを怖いとは感じなかった。

「先輩……」

僕が思わずつぶやくと、先輩は、すっと息を飲んで、その微笑を引っ込めた。

代わりに、別の微笑がその美貌に浮かぶ。

いたずらっぽい、先輩の微笑が。

「まあ、後継者を作ることは私の義務だけど、権利でもあるのよね。

好きになった男の子との子どもを産んでいいって、結構贅沢なことのよ。……わかる?」

「え……」

「母様が亡くなってから、私は<学園>に転入したわ。

世界中の獣人が集まるあそこなら、私と子供が作れる男の子がいると思って。

でも、<学園>でさえ、地竜と子を為す<因子>を持つ人を探すのは難しかった」

「……」

「私ね、恐かったの。期限の時間は刻一刻と近づいてくるし、

それに、もし、運よくそういう男の子に会えても、

その人の事を好きになれるか、わからなかったから」

「……」

「たとえ、好きになれない男の子だったとしても、私と子供を作れる<因子>を持つ人なら、

私は一族の定めによって、その人と交わらねばならない。交わって子を為さねばならない。

相手の男の子も、私を好きになってくれるかわからない。

私のことを好きになれなくて、嫌々私を抱くのかもしれない。

それが、どれだけみじめなことか、わかるかしら?

最初で最後の男(ひと)が、そんな相手だったら──考えただけでも泣きそうになったわ」

 

死と日陰の匂いのする女(ひと)。

それが、どれだけ美しくても好かない人は好かないだろう。

いや、おそらくは、世の中にはそういう人のほうが圧倒的に多いにちがいない。

あの日、部室で先輩を遠巻きにして見ていた同好会の子たちのことを僕は思い出した。

個人的な感情とか、そういうものの前に、<因子>が、遺伝子が拒むのだ。

強力で、恐ろしい<負の力>を持つ竜の存在を。

だが、先輩は、ゆっくりと、だがしっかりと微笑んだ。

僕に向かって。

「でもね、私、最後に君に会えた。私と子を為せる<因子>を持って、

私の事を好きになってくれる男の子に。……ほら、君のここ、こんなに元気。

私と交わりたくて、私の中に精を吐き出したくて、こんなにビクンビクン跳ねている」

「せ、先輩……」

「とても熱いわ、トモヤ。君の想いが私の手の平に伝わってくる。

ふふふ、不思議ね。私、男の人のおち×ちんなんて触るのも初めてなのに、

どうすれば君が喜ぶのか、全部わかるよ」

盲目の龍の手は、最高のセンサーだ。

触れた相手の気持ちさえも、読み取る。

ましてや握っているのが性器ならば、なおさら。

自分でしごくよりも何層倍も気持ちいい刺激に、僕は立ったまま身もだえした。

「ほらあ。また、おつゆがいっぱい出てきたわよ。私の手の平、もうぬるぬる」

「うわあ」

宙にのびた手が、我知らずもがく。

先輩が、僕のおち×ちんをなぶっているのとは逆の手で、それをそっと掴んだ。

「ふふふ」

先輩は、僕の手をゆっくりと下に誘う。

「……え!?」

それが、先輩が唯一身に付けているもの、

暗灰色の袴の中に差し込まれるのを見て、僕は息を飲んだ。

「んっ……」

先輩のお腹の肌があまりにもすべすべしているからだろうか、

僕と先輩の手は、するりと袴の内側にもぐりこんだ。

そして……。

くにゅ。僕の指先が、柔らかくて湿ったものに触れた。

 

「!!」

「――分かる? 私のここ、すごく濡れてるでしょ……」

先輩は、僕から目をそらしながら、言った。

生まれてこの方、日光にあたったことがあるのだろうか、と思うほどに

白い肌の先輩の頬が、赤い。

はじめての指先の感触よりも、その赤らんだ頬に、

僕は、今触れているものが、先輩の「女の子の一番秘密の場所」であることを確信した。

くちゅ。

それが、蜜を吐いて潤んでいることに、僕はさらに興奮し、

握っている先輩がびっくりして振り向くほどにおち×ちんを硬くした。

「せ、先輩。これ、先輩の……」

壊れやすい繊細さと、命の源の生命力とを併せ持つ粘膜の感触に僕の声が震える。

先輩が、真っ赤になって、僕の手を袴の中から抜き出した。

「も、もうっ! そんなに真剣に探られたら恥ずかしいじゃない!!

男の子に触られるのだってはじめてなんだからね!」

混乱しきってあられもないことを言ってしまってから、それに気がついてさらに赤くなる。

可愛い。

さっきまでの余裕たっぷりの表情とは違う、先輩の、生の女の子の顔。

僕は立て続けに唾を飲み込んだ。

そして、おち×ちんは、日不見先輩の手の中でビクンビクンと脈打った。

先輩が、呆れたように笑った。

「ほんと君って助平なのね。――おしおきするわよ」

「え?」

聞き返す前に、先輩が僕の前にひざまずいていた。

「うわあ。牡臭ぁい。すっごく濃密な君の匂い。くらくらきちゃう」

僕の性器に顔を近づけ、盲いた龍は、何度も息を吸った。

先走りの汁でぬるぬるになった僕のそこは、自分でもわかるくらいに

発情しきった若い牡の匂いを発している。

それは、同じく発情しきった若い牝にとっては麻薬よりも強力な興奮剤だった。

先輩は、小さく舌なめずりした後、形のいい唇を開いて、

僕のおち×ちんの先っぽを頬張った。

 

「!!」

体の中で一番敏感な先端を温かく湿ったうろの中に迎え入れられ、僕は痙攣した。

その瞬間、射精しなかったのが奇跡だった。

先輩の唇が、先輩の舌が、先輩の唾液が、僕のおち×ちんにからみつく。

ためらう素振りもなく僕の性器にむしゃぶりついた先輩に、

僕は気が狂ってしまうかと思うくらいの衝撃と快感に襲われた。

「ふわ……美味しい」

ひとしきり口の中の物をしゃぶり続けた龍の娘は、

息継ぎのために口を離したときにそう言った。

「こんなに生臭いのに、牡臭いのに、つがいの男の子のだと、

先走りのおつゆでも、こんなに美味しいのね。

君と私、まちがいなく相性がいいのよ。いいえ、私のつがいは世界中で君しかいない。

私の手と、舌と、唇が、そう言ってる。目で見極めるよりもずっとずっと確かよ」

「あ、ああ……」

僕はそのことばに答えることも出来ず身を震わせた。

射精への欲望が全身を包んでいる。

「ふふふ、私のお口に精液を出したいのね。

私も、君の精液を飲みたい。君の遺伝子を舌の上で味わってお腹の中で感じたい。

でもまだダメよ。君の最初の濃い精子は、赤さんを作るのに貰うわ」

先輩は、意地の悪い、でも優しい微笑を浮かべて、片手で自分の髪をすいた。

黒い絹糸のようにつややかな髪が一本、その指先につままれる。

「うふふ。こらえ性のない男の子には、こうするんだって」

「先輩っ!?」

盲いた娘は、魔法のような器用さで、自分の髪の毛を僕のおち×ちんに巻きつけた。

軽くしばったそれは、肉に食い込む痛みを与えず、しかし確実に僕のそれの律動を抑えた。

「ほら、これで君は射精したくても射精できなくなったわよ。

でもこうして、しごき続ければ──」

「はううっ!!」

僕は情けない悲鳴を上げてのけぞった。

「ねっ、気持ちいいでしょ? これを続けるとね。

君のお玉の中の精子がどんどん濃くなるの。

私の中に出したとき、確実に私を孕ませられるように、どんどん濃くして」

先輩は、そうささやいて僕のおち×ちんを摺り始めた。

 

「うふふ、気持ちいい?」

「あああ……」

どれくらいの間、先輩の手に翻弄されていただろうか。

僕は、もう立っていられなくなって、床にぽてんと尻餅をついていた。

先輩は、その前にしゃがみこんで、僕を弄い続ける。

「うふふ。君って本当に助平なのね」

先輩が楽しくてたまらないというように、言った。

「そ、そんなこと、ありません」

「あら、女の子にこんなにされて気持ちよくなっちゃう男の子は、普通じゃないと思うわ」

「そ、それはっ!」

少しだけ、意地の悪いことばに責められて、僕は身もだえした。

もがいて、手が、空をかきむしる。

痛みではなく、快感で人は悶えることがあるのだ。

「……あ」

その手が、闇を照らす青白い光にきらめいたのを見て、僕は声を上げた。

「……あっ!」

それを「見た」先輩が、慌てたような声になる。

僕の指先は、さきほど、袴の中で先輩の女性器をいじったせいで、濡れている。

先輩の蜜で。

二人はそれを思い出し、両方とも真っ赤になった。

「……」

「……」

僕ののどが、ごくりとなった。

「!」

僕が何をしようとしているのか、悟ったのだろう。

先輩が、慌てて僕の手を掴もうとする。

でも、それより前に僕は、僕の右手を口元に持ってき、

ぺろん。

とそれをなめ取った。

先輩の、蜜。

生々しい女の子の味は、でも、世界中のどんな媚薬よりも強力だった。

 

「あっ、馬鹿っ、なめちゃダメ!!」

先輩が動転しきった声をあげた。

「わ、わた、わたしの……」

「おいしいです。先輩の蜜……」

「!!!」

先輩の美貌が、泣きそうな表情になった。

「あ、あ、あ……」

「せ、先輩っ!?」

先輩は、ぎゅっと自分の肩を抱きしめた。

裸の上半身が、ぶるぶると震えている。

異常事態に、僕は身を起こそうとしたが──先輩に突き飛ばされた。

床の上に転がされて、僕は、呆然と先輩を見つめた。

立ち上がった、日不見先輩を

「……知らない……からね」

「え?」

「もう、知らないから。そんなことしたら、私、私を抑えられなくなっちゃう」

先輩は、袴の紐を解き始めた。

その下着を着けてない、と言った袴を。

すとん。

暗灰色の着物は、石床の上に落ち、白い足でずっと向こうへと蹴やられた。

「せ、先輩……」

僕は、淡い茂みに守られた先輩の股間を見て絶句した。

蜜が溢れてしたたる性器を隠すこともなく仁王立ちになった先輩が、僕を「見る」。

「……犯してあげる」

盲目の龍は、傲慢につぶやいた。

「犯してあげる。君の事を、全部」

「せ、先輩!?」

「もう駄目。君のこと、人間の女の子として好きだったけど、

君があんなことするんだもの、地竜としても好きになっちゃった。

だから、龍の娘のやり方で、君を犯してあげる。

君、もう、人間の女の子で満足できなくなっちゃうかもしれないけど、ごめんね」

そして、先輩は、僕の上に踊りかかった。

 

「ひああああっ!!」

たしかに、それは、人間のセックスとはちがうものだった。

盲目の龍は、目以外の全てを使って相手を愛撫し、感じ取る。

手の平が、指先が、唇が、舌が、身体中の皮膚が、髪の毛までが、そのための道具だ。

先輩の身体の隅々が、僕の身体の隅々までをまさぐり、感知して行く。

それは、僕のというここにいる存在を、今だけでなく、

その過去や未来まですべて感じ取られていく感覚だった。

 

犯してあげる、君の事を、全部。

 

先輩はそういったけど、それは嘘ではなかった。

僕が身を捩るたび、あえぎ声を上げるたび、先輩は僕を「理解」していく。

土の中の長虫が、見ずしてまわりのすべてを知るように。

体中がすべて蕩けてぐずぐずの黒土のようになる感覚。

先輩は、その黒土の女王だった。

ぶつん。

僕の体の下のほうで、何かが切れる小さな音がした。

一瞬、僕は、それが僕の体が人の輪郭をとどめられなくなった崩壊音かと思った。

それくらいに、僕は脳みそから何からすべて蕩けていたけど、

僕の体の一点だけは、人生の中で一番硬く張り詰めていて、今のは、それが立てた音だった。

先輩がまきつけた髪の毛。

僕の、限界にまで膨張しきったおち×ちんが、それを内側から切ったのだ。

「……驚いた。私の髪の毛をちぎるなんて……」

先輩は、心底驚いたようだったけど、その表情は嬉しげだった。

「龍の毛って、ピアノ線より丈夫なはずなんだけど?」

「う、嘘?!」

自分でもびっくりするけど、

「ふふふ、そんなに、射精したかったの? そんなに、私のことが欲しかったの?」

うん、と答える。

そう言われて見ると、もしそれで先輩とつながることができるなら、

今の僕なら、ピアノ線くらい引きちぎってしまいそうな気がする。

びくんびくんと痙攣を始めたこのおち×ちんを、先輩の、あそこに入れることが出来るなら。

その気持ちさえも手の平から読み取ったのだろう、先輩の笑みが濃くなった。

 

「ほんと、しかたない子ね。私のつがいは。

これ以上待たせたら、発狂しちゃいそうね。

うふふ、それは、私も同じなんだけど──じゃあ、しましょ」

先輩は、あっさりと言って、僕の上で姿勢を整えた。

「あ、あ、ちょっ、まだ心の準備が……!」

「そんなもの、必要ないわ。……思いっきり射精していいからね」

僕のおち×ちんを片手で握った先輩が、もう片方の手で自分の性器を割る。

先輩の、女の子の一番大切な部分は、日陰に咲く薄い色の花びらを思わせた。

透明な蜜でたっぷりと潤った花弁は、

太陽の下で咲き誇るどんな花よりも、僕にとって美しく思えた。

 

じゅぷ。

じゅく。

 

ぬれた細い通路は、限界まで怒張した硬い肉の塊を、

驚くほどすんなりと受け入れた。

 

「くっ、……ぅんっ」

先輩が、柳のような眉をわずかにしかめる。

張り付いた粘膜のひだが、割かれて開いていく感触。

破瓜の痛み。

僕は、何かを言おうとしたけど、その前に、先輩がのしかかってきた。

 

ちゅ。

 

先輩は、僕の唇をに自分の唇を重ね、キスを貪ることで、

自分の中を引き裂いて行く痛みを耐えようとしていた。

 

「……んふう」

龍の破瓜は、一瞬だけなのだろうか。

先輩の眉は、すぐに険しさを薄めていった。

 

いや。

痛くなくなったんじゃない。

それを上回る快感が突き上げてきたのだ。

僕にもそれが分かる。

だって、僕も、その感覚を分かち合っていたから。

「んあああっ!」

思わず悲鳴を上げてしまう。

それは、二人の肉と粘膜がぐずぐずに蕩けていっしょになる一体感だった。

手の平や舌で感じていたお互いが、性器と性器でつながることで、

あらゆるものが一つになっていく。

体の全てを、心の全てを。

先輩の<因子>が、遺伝子が。

僕の<因子>が、遺伝子が。

異種間で、子供を作れるというのは、こういうことなのか。

お互いがお互いを生物レベルで感じ取り、

お互いを<つがい>ということを<正式に>認知したとき、

僕は、はじけとぶように、先輩の中に射精していた。

 

どくん、どくん。

びくん、びくん。

びゅく、びゅく。

 

先輩の中に突き入れられた硬い肉の通路に、

僕の遺伝子を乗せた白濁の粘液がものすごい勢いで放たれる。

それは、先輩の体の奥深くに備わったプールに注がれ、

先輩の膣と子宮とを染め上げていく。

遺伝子のプールから、あがった僕の精子たちは、

先輩の肉と粘膜になぶられ、快感にのたうちながら卵に取り込まれていく。

先輩が犯している、僕そのもののように、

僕の精子は、先輩の卵にからめとられた。

 

「たくさん、いったね」

僕の上に突っ伏した先輩が、耳元でささやく。

「わたしも、ものすごく、いっちゃった。これが、セックス、かあ。

一生のほとんどを地の底で<お勤め>して、その後継者を作るためだけに子供を作って。

なんて馬鹿馬鹿しい人生なのかしら、と思っていたけど、その代償がこれなら、悪くないわ」

「……え?」

「母様が生きていた頃にね、聞いたことがあるの。そんな人生、つまらなくないかって。

<お前の父様と交わって、お前を授かったことで十分報われています>って答えられた。

ずっとその意味がわからなかったけど、今ならわかる。

こんなに君と一緒になることが出来て、君の子どもを作れるのなら、

私の一生、十分購(あがな)われるわ」

「先輩……」

明日、地の底で人外の女神になる女性は、僕の上で微笑んだ。

「うふふ、そんな顔しないでよ。私、今ものすごく幸せなんだから。

あ、でも、もっと幸せになってもいい?」

「え、あ、はい」

反射的にうなずくと、先輩は、にまあ、と意地の悪いものに変わった。

龍の娘としてではない、僕の大好きな女の子の笑顔だ。

「じゃあ、これから一晩中、うーんと君のことをいじめてあげる」

「え!?」

「今の交わり、ものすごく気持ちよかったけど、ちょっと真面目すぎたわよね」

何が真面目なのかはよくわからないが、確かにそういう感じがする。

「もうちょっと、こう、君のこと、楽しんでもいいかなって思うの」

先輩が背筋がぞくぞくするような声で、ささやいた。

「私ね、君が甘ぁーい悲鳴上げて悶えるのが好きなんだ。

赤さんは、多分今のでお腹の中に来てくれたから、

これからは、私が好きなようにしても、いいよね?」

「……」

「いいよ、ね?」

「……」

「い、い、よ、ね?」

「……はい」

消え入りそうな声で、僕は自分の死刑執行書にサインをした。

嬉々として。

 

「うふふ」

先輩は心底嬉しそうに微笑んだ。

「ね、――みんな見てるわよ?」

「……え?」

人生最高の射精の余韻に霞む目であたりを見回し、僕は凍りついた。

いつのまにか、玄室は、無数の長虫に満ち溢れていた。

大蛇。大ムカデ。大蜘蛛。名も知らぬ日陰の蟲たち。

向こうに透けて見える朧な影は、瘴気か、それとも亡霊か。

下へ降りる石段から後から後からあふれ出てくるそれらが、

僕らを囲んでいるのを見て、僕は、声にならない声を上げた。

「ふふふ。恐がらなくていいわ。これは、<檻>の中の<もの>ではないわ。

私の眷属、わたしの下僕(しもべ)。女王に仕えるものたち、よ」

先輩は、美貌に、先ほどとは違った微笑を浮かべた。

地の底に君臨する魍魎の女王の微笑み。

一人の女の子としての恥らうようなそれとはちがう、蟲惑的な笑み。

僕は、その魅力に、異界の生命に囲まれながら、それを忘れるくらいに陶然となった。

「せ、先輩……」

「……もうっ……」

先輩が、ふっと息を吐いた。

「まったく、もう、どうしょうもない子ね。

……もうちょっと驚いてくれるかと思ったけど、全然ね。

長虫たちに囲まれているのに、このおち×ちんだって、全然萎えない。

ほんと君って──私と交わるために生まれてきてくれた男の子なんだね」

先輩は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ふふ。じゃあ、助平な助平な私の旦那様のために、うんとサービスしてあげる。

私のやり方で、君のおち×ちんも、お玉さんも、お尻も、ぜぇ〜んぶ犯してあげるから。

あはっ、なあに。このおち×ちん、もうこんなガチガチに復活してるわよ。

私の下僕たちに見られているのが、そんなに興奮するの?」

滑らかにつむぎだされることばの奔流に、僕はただただ身を任せた。

そして日不見先輩は、宣言どおり、僕を犯しつくした。

僕は、先輩の口の中や、顔や、髪の毛や、おっぱいや、お尻や、手や、足や、お尻の穴の中や、

そして子宮の中に、何度も何度も射精させられた。

もう、何もかも空っぽになるまで、先輩は僕を許してくれなかった。

 

 

 

「……せ、んぱい……」

「目が覚めた? うふふ、寝坊すけさんね」

気がつくと、ほの暗い玄室には、僕と先輩しかいなかった。

大蛇や、大ムカデや、大蜘蛛たちは、石段の下へ還ったのだろう。

二人だけの優しい空気に、目覚めた僕は心臓がきゅうっと締め付けられた。

これは、後朝(きぬぎぬ)だ。

男女の別れの儀式。

先輩が、大人の女性の、そして力を持つ者の顔で優しく微笑むのは、

それが別れの時だから。

その証拠に、先輩は新品の巫女装束をびっちりと着込んでいる。

昨日の痴態が嘘のように、一分の隙もないその姿は、

ただの人間の男の子には、あまりにも遠い女神のそれだった。

「先輩……」

ただ、そうつぶやくことだけが、僕にできるただ一つのことだった。

「そんな顔しないで。私は、私の役目に行くだけだから。この娘(こ)と一緒にね」

先輩は、自分のお腹の上に軽く両手を重ねた。

「……」

「だから、君は何も心配しなくていいから。

あっちの石段を登って、昨日のことはひと夏の思い出にしてちょうだい」

「先輩は──向こうの石段を降りるんですか?」

「ええ」

「向こうで、<悪いもの>を封じ続けるんですか? 命を削って」

「ええ、そうね」

「二十年で、死んじゃうんでしょ!?」

「まあ、たぶん。そのくらいで。大丈夫、私のあとはこの娘がいるから」

先輩は、全てを悟った慈母のような微笑をたたえて頷いた。

「そんな……」

僕は、何も言えない無力な自分を悟って、肩を落とした。

「――ん」

先輩は唇に手を当て、何か考えていたけど、

やがて、部屋の真ん中においてあった黒い箱を手に取った。

麻雀牌の箱。

 

「下はヒマだから、これ持って行くわ。

娘が大きくなったら、二人麻雀ね。私もそうやって覚えたから」

先輩は、そう言ってくすくす笑った。

「ね。娘が大きくなって、いつか地上に上る日が来たら、

君も半荘、相手してあげて。きっと私より強くなってるから」

僕は、もう何も言えなくて、床の上にへたりこんでいた。

「ん……それじゃ……ね」

先輩が、カバンを持つ。

部室と、玄室。

たった二日間だけであった、僕のつがいは、くるりと背を向けた。

……僕のつがいが。

……僕のつがいが。

……僕のつがいが?

その時、動けたのは、なぜだろうか。

気がつけば、僕は、立ち上がって先輩の手を掴んでいた。

白くて細くて優しい、手を。

何度も何度も僕を愛撫してくれた手を。

「……トモヤ……」

振り向いた先輩が、見えない目で僕を見つめる。

「先輩。僕――サンマー(三人麻雀)のほうが、得意なんです。

だから、だから……僕、下に付いていきます!!」

地の底にどんな<恐ろしいもの>が居るかは知らない。

でも、日不見先輩を失うことに比べたら、僕にとってそれは大したものではないんだ。

「……」

先輩は、ぽかんと口を開けていたけど、

やがて、顔をくしゃくしゃにして、泣いた。

すごく大きな声で泣いた後、先輩は、女神さまじゃないほうの笑顔を僕に見せた。

ちょっと意地が悪い、でもどきどきするような笑顔で。

「そう。じゃあ、地獄の底に連れてってあげる。

でも、君、あきれるくらい助平ね。

地獄の底まで追いかけても、私に嬲られたいって言うんでしょ?」

「はい!」

そう返事をすると、先輩は、自分から話を振ったくせに真っ赤になった。

 

 

 

 

 

このとき、僕は、地の底で先輩と朽ち果ててもいいと思った。

 

先輩と、娘と、三人麻雀をできればいい、と思った。

 

でも、そのどちらも、かなわぬ夢となった。

 

そして、それから二十年が過ぎ去った……。

 

 

 

 

 

朝。

 

抜けるような青い空は、二十年前と同じだった。

記録的な猛暑が続いているのも、

境内の白砂利の上はどこかひんやりとしているのも、

何もかも、あの日と同じ。

だけど、今朝は、あの奥の院の入口に日不見先輩は立っていない。

あの女(ひと)は、今、この神社の土の下にいるから。

そう思いながら振り向き、僕は息を呑んだ。

「――!」

そこに、あの女(ひと)が立っていたから。

だけど、どきん、と高鳴った心臓の音は、

「どうしました、父様?」

という怪訝そうな声で、一瞬にして落ち着いた。

「ああ、なんでもないよ。……お前があんまりにも母さんに似ていたからびっくりした」

「そりゃ、親子ですもの。――お清め、終わりました」

くすりと笑った淑恵(としえ)、僕の娘は、おっとりとしているが、姿は母親に生き写しだ。

水垢離をしてから着替えた巫女装束がよく似合う。

これから、あの日のあの女(ひと)のように、地の底に赴き女神となるというのに、

淑恵は巫女装束で、と言い張った。

そのほうが、気持ちが引き締まっていいから、という。

母親譲りの美貌が緊張しきっている。

「……怖いかい?」

代わってやりたくても代われない、無力な父親として、せめて励ましの声だけはかけてやりたかった。

「ううん、大丈夫。みんな、やってきたことだもの」

だが、けなげな娘は、頭を振って答えた。

そう。

日不見の一族は、地竜の一族はずっとずっとそうしてきたのだ。

この娘の母親も、そしてこの娘も

 

「……」

僕は、ことばを失って、黙り込んだ。

「あの、父様……」

淑恵が小さな声でつぶやいた。

「何だい?」

「母様の玄室まで、手を引いていってくれますか?」

「ああ」

今の僕は、それくらいしかこの子の役に立てない。

僕はそっと手を差し伸べ、生まれつき盲目の娘は黙ってそれを握り締めた。

ひいやりとした、滑らかな手。

それは、二十年前に握ったこの娘の母親の手と同じ感触だった。

「……では、行きましょう」

淑恵はにっこりと笑って歩き出した。

昼なお薄暗い廊下が、まるでバージンロードであるがように、

僕は、暗灰色の袴を穿いた娘をエスコートして歩く。

長い廊下は、しかし、どんなにゆっくりと歩いても、いつか尽きてしまう。

長い石段も、父親の願いを聞き入れることなく、無限に続くことはなかった。

僕たちは、玄室の前に立った。

「父様」

「うん」

わずかな逡巡の後、僕は、その扉に手をかける。

 

 

そして──。

 

 

「ロン! 平和のみ……」

「せっこーいっ!! 心乃枝(ここのえ)、せこすぎよ、それ!」

「あなた、<学園>に入ってからますます麻雀がせこくなったわね」

「……そうですか? 同好会顧問の鵜佐芸(うさげ)助教授の薫陶ですわ」

「あ、あの方、確かにお強いですけど、せせこましい打(ぶ)ち方ですわよね」

「あれ、双葉(ふたば)姉様もあの人と戦(や)ったことがあるんですか?」

「ええ、十年くらい前に、こっちに遊びに来たことがあるのですよ。

矢絵(やえ)、貴女はまだ小さかったから覚えてないかもしれませんが。

父様と母様にこてんぱんにやられてました。私は……その時はハコ点でしたが」

「あ、覚えてる、覚えてる! わたし、千点だけ残った!」

「市花(いちか)姉さまだけがいい勝負しましたっけ」

「あっ、父上だ!」

「おっそーい! 待ちくたびれましたわ!」

「淑恵も、おそーい!」

「わあ、巫女服決まってるねー!」

「これなら初<お勤め>もばっちりじゃない? ばっちりじゃない?」

「淑恵、頑張れー。来週は、静(しず)ねえが頑張るそうだから」

「あら、陸那(りくな)、それはどういうことかしら。わたくし、まだ負けていませんわよ」

「いやいやいやいや、静も陸那も、それ苦しいって。二人ともハコ点寸前じゃん」

「……ツモりました。七対子」

「うわ、ニコニコ厨!! 奈々海(ななみ)、あんたそればっかり!!」

 

──扉を開けると、静寂が一瞬にして破られる。

牌がぶつかる音と卓をかこんだ者たちの会話。

どこの雀荘かと思うくらいの喧騒が、僕らに降りかかる。

そして──。

「智也。代打ち頼めるかしら。そろそろみんなのお昼ごはんの準備したいから」

奥のほうからにこにこしながら、一二三(ひふみ)が立ち上がった。

日不見一二三。

──僕の、奥さんだ。

「こーら、お前たち。淑恵が通れないだろ。道、あけてやりなさい」

「はーい」

「はーい」

娘たちは、まだ勝負が続いている卓を残して、わらわらと立ち上がり、

奥の石段の通りを空ける。

淑恵(としえ)、僕の十四番目の娘はそこを少し緊張した面持ちで通った。

「トッシー、今週は頼んだわよ。がんばれ!」

「あ、下まであたしが付いてってあげる」

先月、はじめて<玄室麻雀>にデビューし、先週めでたく<初負け>をして

今週の<お勤め当番>になった妹を、姉たちがいたわる。

地の底の亡霊どもを鎮めるだけの力を蓄えた娘は、

自分が一人前になった証しでもある<罰ゲーム>を勤めようと、ちょっと誇らしげに進んだ。

「えーと、今、下にいるのは、市花ねえ?」

「うん。今週どーせヒマだから、上がらないで淑恵の<お初>に付き合うって」

「ああ、それなら安心ね。市花ねえ、面倒見いいから」

「ちょっ! あんたのときはあたしが付き添いしてやったじゃん!!」

「……実歌(みか)姉さんは、持ち込んだ麻雀ゲームばっかやっていたよ……」

「あ、あれっ!? そうだっけ!?」

女三人寄ればかしましい、というが、十五人もいれば、そのにぎやかさはものすごい。

 

 

はじまりは、日不見先輩(……今でも妻のことを時々そう呼んでしまう)が、

市花、双葉、実歌の三つ子を産んだことだった。

生物として頂点に近い位置にいる竜は、産まれる子どもの数が少ないが、

僕らの間には、千年以上も産まれたことがない三つ子が生まれた。

あまりの<異常事態>に、僕も一二三もびっくりしたけど、

その子たちを慈しみ、育てるうちに、「前例のない姉妹たち」は、

地竜の定めに対しても「前例のない」対応が出来ることに気がついた。

三人の娘は、早熟で十年も経たずに母親と同じ力を身に付けた。

それは、地霊を鎮める竜が一挙に四匹に増えたことを意味する。

つまり、一人が地の底で役目を果たしている間、他の三人は身体を休めることができるのだ。

もともと地竜の一族の寿命が縮まったのは、あまりに負担が大きい役目を

一瞬の休みなしに続けなければならないからだった。

だけど、たとえば複数の竜が一週間交代で役目に当たるのなら、

地竜は、休んでいる間に持ち前の生命力でたちまちその消耗を回復することが出来る。

それに気がついたとき、僕らは、僕らを悩ませる問題をすべて解決した。

彼女たちが力を蓄えるまでの最初の十年間はさすがに苦しかったけど、

その後は、寿命をすり減らしてまで役目に耐える必要がなくなったので、随分楽になった。

そして、僕と先輩の夫婦の間には次々と娘が産まれ続け、

今では、十四人の<お勤め>が出来る一人前の竜と、まだ幼い七人の竜がいる。

もちろん、僕の奥さんも、まだ十分に余力と寿命を残したままだ。

十五人、いや二十二人の竜。

彼女たちが、全員で負担がかからないサイクルで役目を分担するために

採った選抜方法は、……麻雀。

父親と母親の馴れ初めの趣味を、娘たちはたちまちのうちに覚え、

今では毎週トーナメントを開いて、翌週の<当番>を決める。

一二三の部屋だった玄室は、今では彼女たちの麻雀部屋になっていた。

 

「それじゃ、行ってきます」

淑恵が、にっこりと笑って、石段を降りて行く。

瘴気が漂う地の底も、今の彼女にとってはさほどの問題もない。

目的地までは、もう何度も<お勤め>を勤めた陸那が付き添うし、

下では、もう母親をしのぐほどの力を持つようになった市花が待っている。

僕ら夫婦は、もう何もすることがなくなっていた。

「ん……。することは、あるよ。まずは代打ち」

日不見先輩が、二十年前と変わらぬ美貌と微笑で僕にささやいた。

<当番>を決めるのに、人数が足りない卓には、僕と一二三が入る。

「OK」

卓まで歩いて行くと、すれ違い様、先輩が耳元でささやいた。

「あとは、アレかな。また智也が欲しくなっちゃった。昼ごはんのあと、どうかしら?」

数え切れないくらい交わったのに、今でもぞくっとくる、妻の声と香り。

 

僕は、娘たちに気がつかれないように小さく頷いたけど、

めざとい娘たちはたちまちそれ見破った。

「あー。父さんと母さん、またなんか目配せしてる。やらしー」

「えー、パパとママ、またエッチするのー?」

「まあ、仕方ありませんね。父様と母様はつがいですもの」

「母様は、<父様の愛情と精子が濃いからたくさん子ども作った>って言ってたけど、

愛情は分かるけど、せーしってなあに、父様?」

「こーら、カマトトぶってるんじゃないの!」

「私もはやく旦那欲しいなー」

「あー、私も私もー。高校から<学園>に転入しよーっと」

「やっぱりこっちじゃ、うちの神社、有名だから男の子、けっこう逃げちゃうのよねー」

「母様みたいに、向こうでいい男の子だまくらかして連れてくるしかないか、イヒヒ」

「そう言えばさー、市花ねえって<学園>で見つけた彼氏どうしたの?」

「お盆は実家に帰ってるんだって。だから姉さん、今週はヒマなのよ」

「あ、それで、イチねえ、ちょお不機嫌なんだ」

きゃいきゃいと騒ぎ始めた娘たちに、僕は真っ赤になり、先輩は、くすりと笑った。

 

「……父上、母上。密(みそ)かごとをなさるのなら、次は弟が欲しゅうございます」

淑恵のすぐ上の姉、富美子(とみこ)が爆弾発言をかますと、姉妹たちはいっせいにさえずり始めた。

「あー! それ、いい!! 女ばかり二十一姉妹なんて、ちょっとつまらないしー!」

「これ。獣人は男が生まれにくいのですよ。地竜はなおさら。

ここ五百年ほどは我らの一族は、男の子が授かってないのです」

「あー、だから父上も婿養子なのかー」

「でも、弟……、欲しいです」

「ねー、ねー、産まれたら、あたしが麻雀教えてあげるよ!」

「うん! 絶対強くなるよー。 <哭きの土竜>みたいにかっこよくなりそう!」

「ええー。男は絶対<アオキ>様よっ!!」

「……<銅とプラチナ>の銅様みたいな渋いおぢさまになって欲しいな……」

「お前たち、いい加減にしなさーい!」

先輩が大きな声で怒鳴り、娘たちは蜘蛛の子を散らすように玄室から飛び出していった。

「もうっ、ほんと、誰に似たんだか……」

僕の奥さんは、ため息をつき、それから僕の耳元に口を寄せてささやいた。

「……それはそれとして、男の子作り、頑張ってみる?」

「……うん!」

「それじゃ、お昼食べたら、うーんと犯してあげるわね」

先輩は、僕の大好きな意地悪な笑みを浮かべて玄室を出て行った。

 

二人で地の底に朽ち果てる夢は果たせなかった。

僕らは、地上で、たくさん愛し合う未来を得たから。

 

娘と三人麻雀を楽しむ夢も果たせなかった。

両親と麻雀が大好きな僕らの娘は、争って卓に着き、四人の普通の麻雀にしてしまうから。

 

そして、この二つは、ずっとずっと続いてくれるだろう。

地竜は、つがいと、麻雀が大好きな生き物だから。

 

 

                  FIN

 

 

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