デレないアリス

 

 

 

 だが、パーティに呼ばれたアリスは早速デレようとしていた。

「なりませぬ、なりませぬ!」
「離しなさい蓬莱! このような素敵なドレスを用意されていてはもう我慢がならぬっ!」
「今一度タイトルをご確認くだされ! 如何なるフラグが立てられようがここでデレてしまえばお家断絶もありまする!」
「おぉ、あの紫もやしの前で、私が如何に感激しているか見せ付けてやろうぞ!」
「殿中にござる、殿中にござる!」

 逸るアリス、しがみ付く蓬莱人形。
 タイトル詐欺は幻想郷では重罪である。
 この間も「しゃめいまるのふんどし」を出版した因幡てゐが島送りにされたばかりなのだ。

「ぐぐっ……離せぇ!」

 生まれながらにツンであり、齢三歳でデレに入ったアリスにパーティでデレるなというのは「もうツンデレ需要ないよ」と言われるのと同じくらいにきつい責めである。
 ならばいっそ完デレで楽になってしまえ、パチュリーの懐に飛び込んでしまえと思うのも無理はなかろう。
 蓬莱人形はあらゆる柱の影には閻魔が潜んでいる気がして、アリスに有罪を突きつけるために今にも飛び出してやろうと目を輝かしているのだと夢想し、それに恐怖した。
 いや、実はそう思ったときにはなんか飛び出して来ていた。

「有罪ッ!」

 馬鹿な! アリスはまだデレてないじゃないか!
 蓬莱は不当判決に対して断固戦う構えで勺を構えた閻魔に飛び掛ったが、その頃にはアリスはもうデレていた。
 アリスがデレるのが早かったのか、閻魔の判決の方が早かったのか、それはコンマ何秒の世界で容易に判断つくものではない。
 蓬莱がはっきりと目に出来たのはパチュリーの前で「こ、こんなドレス私には似合わないんだから」とアリスがデレていたところだった。

「殿……」

 殿中でござる殿中でござるー、飛んできた小悪魔の甲高い声を聞きながら、蓬莱はテーブルクロスで己の涙を拭った。

――――

 上海は思い出す。
 頭を撫でられたことも、可愛い服を作ってくれた事も覚えているのに、上海人形がアリスのことについて思えば彼女が片付けていた白いテーブルクロスのことばかりだ。
 あの日はアリスの初めての誕生会だったのに、終始周りにデレることはなかった。
 魔界では違ったが、幻想郷ではツンデレは特Aランクの危険行為として取り締まられていた。
 お開きになったパーティの片づけをしている時、アリスは何気なさを装いながら片付ける白いテーブルクロスをそっと目元に寄せていた。
 いつか、きっとデレてしまうのだろうと思った。
 そして悪夢がやってきた……。

 アリスに下った罰は「五人以上の友達に暑中見舞いを出す」というアリスの為に今作ったんじゃないのかというような罰だった。
 アリスは何とか五人を搾り出そうと努力したが、三日目の夜に「一人もいねえ」と言って机に伏せたきり二度と立ち上がってこない。

 人形達は病に伏せるアリスの世話をしながら、胸に溢れる遣る瀬無さと戦っていた。
 聞くところによると、アリスにフラグを立てたパチュリー・ノーレッジには何の罰も下っていないのだという。
 ツンデレ両成敗の原則に反する裁きだ。
 そのくせ、自らを一方的な被害者のように「ここにキスされたんです!」と仰々しくほっぺに張った絆創膏を示しては報道機関に盛んにアピールしていた。
 人形達は鬱憤を晴らすべく毎夜集会を開いてはパチュリーの非を責め立てた。
 その意見も日を追うごとに過激になっていき、遂に今朝の新聞の一面を切欠に爆発した。
  
「ゆるせぬっ!」
「なんという嘘付きめ! ほっぺの絆創膏の下にキスマークなんてなかったというではないか!」
「恐ろしい魔女よ!」
「これでツンデレ事件の物的証拠は首筋のキスマークだけということになるな!」
「首筋ならデレにはならんのだろう!?」
「ならん、ならん!」
「なのにレミリア幕府はパチュリーに何のお咎めも無しだ! もはや力で我らの正義を示すしかない!」
「全くけしからんっ!」

 人形たちの憤りも頂点だが、最後の台詞はオルレアン人形がぶんぶんグラビアに出てた慧音先生の胸の谷間を見て興奮しただけであって、話の流れとは殆ど関係ない。
 彼女は「谷間を見れば人が解りますよ」とまで豪語する人形であり、じゃあ貧乳はどうするんですか? とブンブンの取材を受けて「貧乳? 目に入らないな」と答えてしまったため巫女達に拉致られた過去を持つが、やはり話とは関係ないので省く。

「ひるあんどーん♪ わたし、ひるあんどーん♪」

 そこへ蓬莱人形が酒瓶を片手に鼻歌交じりで歩いてきた。
 人形達がみな敵意ある目を蓬莱人形に向けて罵った。

「また、蓬莱殿は昼間から酒を……!」
「三国一の忠義者と呼ばれた蓬莱殿はどこへいったのか!」
「殿の忠臣と思えばこそ序列に従ってきたが、これではたまらぬ! お前は犬の皮を被った大うつけであったわ!」

 上海人形は皆が蓬莱を罵倒する様を少し離れて見つめていた。
 上海は知っている、蓬莱が二心を持てる人形ではないということを。
 あれは、いつだったか。
 道を歩く小さな犬を見て上海は「あれ、チャウチャウちゃう?」と蓬莱にネタを振ったのだが「え!? 上海はプードルとチャウチャウの区別もつかないのか!?」と蓬莱はマジで心配してきた。
 あれほど実直な人形が、このような曲がった振る舞いをしている理由は一つしかない。
 
「てんて〜んどんどん♪ てん、どんどーん♪」

 それは天丼マンではなかろうか、という突っ込みを上海はぐっと抑え、蓬莱と二人きりで話せる時間を探していた。

――――― 

 ――おすすめ商品! 2000円! マリス砲(アリスのみ)(別売りのマリサが必要です)

「マリサは別売り……か……」
 
 皆が寝静まった夜。
 ぶんぶん。新聞の折り込み広告に目ぼしい商品を見つけたと思って目を輝かせた蓬莱人形は、すぐにがっくりと肩を落とした。
 中古武器市場でもマリス砲は人気がある、さすが2000円で売りに出されるわけはないのだ

 ――激安新作798円! 妖怪バスター!

「妖怪バスターはまた値を下げているな……」

 ……良く分からないが、新発売の妖怪バスターの値崩れの仕方が異常である。
 発売前は「博麗の巫女自慢の新武装遂に登場! 妖夢並の前方集中に幽々子並みの広範囲!」との前評判だったのに、一体この一週間で妖怪バスターになにがあったというのか。
 このまま値が下がっていけば蓬莱にも手が届く金額になる。
 蓬莱はずしりと重い豚の貯金箱を手元に寄せた。

「ひい、ふう、みい……」

 690円。
 これが蓬莱人形、勤続十年の結晶だ。
 蓬莱は夜な夜な皆に黙って、己の貯金で買える手頃な武器を探していた。
 敵を欺くにはまず味方からという、人形達が武器を集めてるなんて知れ渡ればアリスの敵討ちの前にレミリア幕府の調べが入るだろう。
 事は慎重に運ばねばならぬ。
 そもそも他の人形達は猪突猛進過ぎて、そのあたりどうも蓬莱は好きではなかった。
 やれ「気合」だの「全力」だの言葉に詰まれば「案ずるな、我らアーティフルサクリファイスを有す!」と特攻自爆論に走る。
 紅魔館は手ごわい、図書館までの道を開くため何としても武器が欲しい。

「ホーライ殿、ホーライ殿……!」

 天井から声が聞こえた。
 おかしいな、みんなガラスケースの中でぐっすりと眠っているはずなのだが、と蓬莱は辺りを見回したが誰もいない。
 気のせいかと作業に戻ると、また声がする。
 ホーライ殿、ホーライ殿……。
 ええい、何奴と頭にきたが、良く考えてみればこんな舌足らずな声で自分を呼ぶ知り合いは一人しかいなかった。
 
「さすがホーライ殿でござる……!」

 上海人形は天井から糸を伝って下りてきて、しきりに首を動かして感心していた。
 
「敵を欺くにはまず――もにょもにょからでござるな!」

 なんか豪快に誤魔化した。

「シャンハイも少しなら貯金があるでござる、ホーライ殿が武器を買うなら私のも利用して欲しいでござるよ」

 へぇ、幾らあるのだと訊いてみれば、78円だと言う。
 足しにならないことはないかと思うのだが、もう少し貯金せえよと頭を叩いておいた。

「ホーライ殿、この武器がシャンハイのお勧めでござる、新作なのに破格の安さでござるよ!」
「ちょっ、声大きいから……何だって?」
「妖怪バスターなんて名前からして主役級のネーミング、きっとゲームバランス的に萎えるくらいのスーパーウエポンでござるよ!」
「どうかなぁ、興味は惹かれるけどあからさまに値が下がってるもんなぁ」
「博麗の巫女が作ったならリーズナブルでも信頼できると思う」
「なんで?」
「ホーライ殿は巫女が、妖怪トラブル二百円で解決! 二十年前のお値段です! って宣伝してるの知ってる?」
「知ってる知ってる」
「あれ、実は嘘でござるよ」
「なんだよ〜竿竹詐欺かよ〜、それは二十年前のお値段であって、今の値段はそうじゃないわってやつか。せこいなー」
「そうでござる、今は五十円でござった……」
「安くなってんの!?」
「見てなさいワンコインバスターの時代が来るんだから! って真っ赤になってたでござる」

 蓬莱はおでこを押さえた。
 そんなわけの分からぬ巫女が作った武器に信頼性はないわ、と妖怪バスターを赤線で消しておいた。
 シャンハイがとても悲しそうな目で「ねぇ、半額になったら買ってあげて」と裾を掴むので「半額になったらな」と返しておいた。

―――――


 ――妖怪バスター今だけ! 百円!


 朝日と共に貯金箱を抱えて神社に走ろうとする上海を蓬莱がマウントタックルで止めた。

「上海考えなおせー! どう見ても怪しいってー!」
「離してくだされホーライ殿! このような素敵プライスを用意されていてはもう我慢がならぬっ!」
「大体なんでお前は私の貯金箱を抱えて走ってるんだよぉ!」
「ちゃんと人数分買ってくるでござる!」
「らめぇぇぇぇ!!」

 しばらく押さえつける蓬莱を剥がそうと暴れていた上海であったが、その散歩を前にした犬のような瞳も蓬莱の理性的な説得の数々に負けていつもの調子に戻ってきた。
 上海が多少なりとも大人しくなったのは「ちゃんとした武器はチーズバーガーみたいな価格変動はしない」という蓬莱の台詞に説得力があったからだ。

「うーん……チーズバーガー並でござるか……」
「な? 諦めて他の武器を探そう」
「それでは見に行くだけというのはどうでござろうか? それならタダでござるし、もし良かったら買えばいいでござる」
「いや〜、あの手の連中に会いにいけば強引に押売りされる可能性もある」
「それでも一個なら百円で済むでござるよ」
「んー……百円」

 百円……。
 蓬莱は改めてその値段を噛み締め、するとこれが無茶苦茶安い金額だと思い知らされた。
 今時分、夜雀の屋台のオレンジジュースでも130円するもの。
 新武器が百円ってのは破格を通り越して原価割れ割れで破産する勢いの値段だ。
 おそらく梱包費用も下りてない。
 そこまでして巫女が売りたい「妖怪バスター」とやらは一体どんな武器であろうか。
 興味が刺激される。

「しょうがないなぁ、見るだけ見に行ってみるか?」
「うんうん!」
「でも、今日は絶対買わないからな!? 例え欲しくなっても後日ちゃんと考えてから買うんだぞ」
「了解でござる、ホーライ殿に全面的に従うでござる」

 上海は口では従属の姿勢を見せていたが、じゃあ貯金箱は返せと引っ張るとこいつが中々離さないので困りもの。
 大人しく見えて上海もじゃじゃ馬な気性である。ここは、姉貴分である蓬莱が一歩引いた。

 他の人形達に留守番を任せて蓬莱と上海は飛び立った。
 
 神社には昼前に着いた。
 鳥居ばかりが立派な博麗神社は、蓬莱の目にはいつも通り建っているように見えた。
 そこで掃除をしている巫女もまたいつも通りだと思ったのだが、博麗霊夢は何か自信をなくしたようにそわそわとしていた。

―――――

「ホーライ殿……」
「うん……」
「お茶が出涸らしじゃないね……」
「うん……」

 縁側に座らされて、ちょっと待っててねと言われて次に出されたのはお菓子とお茶は豪華だった。
 まずありえないことだ。アリスと一緒に行った時は大抵出涸らしだし、人形相手にお菓子なんて出したりしない(大体食えない)
 いつもと明らかに違う態度に蓬莱は困惑したが、まだ買うとも言ってないわけで、これが冷やかしに終わったらどうなるのだろうと困惑が戦慄に変わった。

「お待たせ、これがみんな大好き妖怪バスターよ!」
 
 ごろごろごろと音がして、何事かと二人は振り返った。
 巫女は両手に箱を抱えており、その箱の中にはちょっと大きな陰陽球みたいなのが落ち着きなく転がっていた。
 まさか、これ全部妖怪バスター……。
 蓬莱がその事について尋ねようとしたが、巫女はそれを遮るようにして――。

「待って! 全てはレミリア幕府の仕業なのよ!」 

 と言った。

「……え、あの、幕府が何か?」
「貴方達、この武器が一つも売れてないなんておかしいって思ってるでしょ?」
「う、うん……ってこれ一つも売れてないの!?」
「レミ通のクロスレビューがあんまりだったから、全然売れないのよ。本当迷惑しちゃうわ!」
「レ、レミ通?」
「でも良かった、分かってくれる人はいたのよ! ううん、貴方達が人形だって構わないわ! 今日からマブダチね!」
「き、聞いてください……」
「レミ通はレミリア通信のことよ。まぁ、実物を見てもらった方が早いと思うわ。人気スペルの攻略法とか最新武器の情報を載せている週刊誌なんだけど……あ、このページよ!」






                    9/21発売 

                   「妖怪バスター」


                    まず起動して、ふぃーんという
                    妙な音に萎える。驚いて説明書
                    を見れば夢想封印をイメージし
                    た音だとの事。いらないわよ。
                    武器としても中途半端で、火力
レミリア・スカーレット  4点   範囲共にどっちつかず。いつぞ
                    やの咲夜を思い出したりするが
                    それでも霊夢は可愛い。バスタ
                    ーED目当てなら。



                    バスターと聞いてやって来たのに
                    筋肉でもドラゴンでもない、その
                    時点で反則。当たりが出ればもう
                    一個! と煽るも安っぽさが光る
                    ばかりでいいことは無い。気温が
西行寺 幽々子     3点   30度を超えると動作しなくなる 
                    とか嫌なところで霊夢とシンクロ
                    している。本体から漂う香ばしい
                    匂いは◎。でも1500円。



                    弾が詰まったらティッシュでこよ
                    りを作って突付いて、と出る説明
                    が投げやり。しかも二時間に一回
                    の頻度で詰まる。ECOマークが
                    これでもかと張ってあるが燃料が
蓬莱山 輝夜      2点   不明で使った後に手がべとべとす
                    るのも怖い。河城にとり監修とあ
                    るがパッケージにいるのはどう見
                    てもニワトリ。永琳すら怖がる。

 

                    見た目通りの判定と見た目程では
                    ない威力が良心的。そのおかげで
                    可愛い霊夢のドット絵を心ゆくま
                    で堪能出来るという利点がある。 
                    途中で遭遇する中ボスは別に無視
八雲 紫         6点   してもいいし、汎用性は高そう。
                    霊夢の挑戦にまず2点上げたい。
                    他、冒険心に2点、長めのポニー
                    テールに2点。計6点。




「ね!? 酷いでしょう!?」

 ……蓬莱は太陽を見た。
 眩しい、もう帰りたい。
 書かれてある奇想天外のレビューの信憑性がどの程度のものなのか知らないが、はっきりしたのはレビューされている武器もレビュアーも碌なもんじゃない。
 ロケッティア! と叫びながらこのまま宇宙まで飛び出したい。
 一番まともにレビューしてるのがレミリアで、次にまともなのが八雲紫という時点で終わってる――だが良く見ると紫は武器には一点も入れてなかった。アホだ。
 蓬莱は上海の背中を軽く叩いた。
 帰ろうという意思だった。
 天然の上海もさすがにこれには腰が引けて、購買意欲もなくなったようだったが、二人が帰ろうとするそぶりを見せると巫女が深い溜息を吐きながら床にのの字を書くので今ひとつ踏み切れない。、

「やっぱり……私なんかが作った武器じゃダメなのね……」

 巫女が妖怪バスターに涙を落とした、その途端きゅんっとかいう音が隣から聞こえた。
 なんじゃこの擬音は、と驚いて横を見ると上海の目が輝いている。明らかに今の言葉がハートに刺さっている。母性本能がくすぐられている。
 ……あかんがな。
 蓬莱は思った、思ったから手遅れにならないうちに思いっきり上海の頬っぺたを抓った。
 
(こんなろくでもない武器掴まされてどうすんだ! 目を覚ませ上海!!)
 
「ええいっ、目を覚ますのは人類の方でござるよ!!」

 上海が立ち上がった反動で蓬莱は吹き飛ばされた。
 もう目がいっちゃってる。

「レミリア幕府め、どれだけ人を泣かせれば気が済むのでござるか! どれだけこの悪政が続くのでござろうか!」
「きゅ、急に尊皇攘夷に走るなよ上海……」
「ホーライ殿! このレミ通の評価は嘘っぱちでござる! 博麗の巫女の武器があまりに良心的価格だったから圧力がかかっただけにござる!」 
「そう!? そうよね!」
「い、いや、その……後日また改めて来ますので今日のところは――」

 蓬莱も頑張ったのだが、なんというか既に二人は出来上がっていて駄目だった。
 巫女が妖怪バスター作成の苦労話(本当かどうか極めて怪しいが)を語るたびに上海は目を擦って巫女の頑張りに泣いた。

「じゃあ、みんな大好き妖怪バスターの使用方法を説明するわね!」

 巫女と上海がバスターチュートリアルを始めたので、蓬莱はもう付け入る隙がなさそうだと一人寂しく縁側に転がったままのレミ通のページを捲った。
 レミリアの泉というコーナーがあった(魔理沙のコールドインフェルノは見た目バルサンみたいだが、実際にバルサンとして使える)驚愕の真実がわかったが、お前らの新武装はもう少し武器らしくしろよ。
  
「説明はいいから、これ六個ください」
「上海、チュートリアルは飛ばすタイプか!?」
「毎度あり! 新しい妖怪バスターを焼いてくるから、二分ほど待っててね」
「ごめ、六個もいらな――って焼くような素材なの!? ちょっ、どこ行くの巫女さん! ねえ、どこに走ってるの!? あなたは突っ込みが間に合うだけの間を私に残せよ!」 

 材料は企業秘密だから見たらダメだって巫女さんが言ってたよ、と上海が蓬莱に忠告。
 これはどこの鶴の恩返しだよと突っ込みを入れたところで、蓬莱は上海の両手がすっきりしてる事に気付き「私の貯金箱ごと持ってかれてるじゃん!」と頭を柱に何度も打ち付けた。

「ただいま!」

 今日死んだって悔いは無いわ、という笑顔で巫女が戻ってきた。
 あんまりいい笑顔なので蓬莱の抗議も喉元で詰まり、その代わりに上海の頬っぺたを両手で捻って嫌になるほどおしおきしといた。
 こうなれば妖怪バスターで何としても打倒パチュリーを成功させなければならない。
 この妖怪バスターで――。

 ……なんかいい匂いがする。

 蓬莱は巫女が持ってきた茶色の紙袋を見た。
 たい焼き屋のおじさんが好んで使いそうな程度の大きさの袋から、ほかほかの湯気が上がっている。
 頼むから期待を裏切ってくれ、という気持ちで蓬莱は紙袋を覗いた。
 だけどそんなに世の中優しくなかった。
 紙袋にごろごろと入っていたのは香ばしい匂いの妖怪バスターだ。
 何故香ばしいのか、何故湯気が立つのか、理解に苦しむが幽々子が書いていた「香ばしい匂いは◎」というのは彼女のキャラ作りではなくマジだったということでレビューの信頼性がアップした。
 紙袋の裏側を見ると河城にとり監修と書かれていて横にニワ――レビューは全て真実だ。もう何がきたって驚きゃしねえ。

 肝心の妖怪バスターは見事な球状で大きさは人間の拳ぐらいはあった。
 蓬莱達のサイズだと両手で持つ大きさだ。
 妖怪バスターは白い生地と濃い紫に塗られた場所で二つに別れていて、つまりそれが陰陽球の模様に似ているのだが、触ってみると子猫の肉球ばりにふにふにしている。

「あ、まだ出来たてで柔らかいから、崩さないようにね」

 だから、どういう武器なんだよぉ……。

「レイム殿、残念ながら一つ不良品が混じっているでござる。塗装が完了していない妖怪バスターが混じってるでござるよ!」
「ええ!? ごめんなさい、どれかしら!? あらあら、本当だわ……すぐに塗装してくるわね!」

 巫女は上海達に頭を下げてから、すぐに戻るわといって神社の裏手に駆け出した。
 だがその慌てて走っていった巫女が建物の角に消える間際に「ソース、ソースっと……」と呟いたのを蓬莱は聞き逃さなかった。

「何……これたこ焼き……?」






―――――




*レミリア通信 9月増刊号 フランドールのうふふ日記*




 こんにちは、フランだよ!
 レミリア通信は大好評の絶好調20刷め! 調子に乗ったお姉さまが今度バーチャルボーイ通信を発売するからみんなよろしくね!
 売れねえよな、あははっ!!
 えっと、今日は凄いことがあった。
 人形達がね、ちょっと太陽が隠れるくらいだぁぁって凄い数になって遊びに来たの。
 もう、門番なんか超びっくりして「咲夜さんごめんなさい!」って、お前はまた寝てたのかよって私が突っ込んどいた!
 門番がいなくなったから人形達は庭に進んだよ!
 そこで人形達はアリスのタタキ〜とかなんとか叫びながら、回転するたこ焼きっぽいものから高速で海苔っぽいものを乱射しだしたんだ。
 たまたま私が逃げ出した時に来てくれるなんて、最高だよね!
 あとで、お姉さまに「めっ!」って怒られちゃったけど、人形とたこ焼きと海苔が散乱する広場はメルトダウンでもあったような有様で夢に出るよ!
「そんなばっちいものは捨ててきなさい」って言われるけど、このたこ焼きはぬるぬるして面白いからフランの宝物箱にしまっちゃう!
 人形さんありがと――ニワトリ怖っ!

 ああ、そういえば人形の持ち主のアリスさんだけど「もう恥ずかしくて、家からデレません」と言っていたらしいよ。
 上手いこと言ったつもりですかって、閻魔様が苦い顔で無罪を出してたな。
 良かったねアリス!

 

 

 

 

■ 作者からのメッセージ

「あれ、チャウチャウちゃう?」
「あれはニャンちゅうだ」



SS
Index

2007年9月24日 はむすた

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