桜の季節に幽々子が満開
*冥界の白玉楼では、幽々子嬢の扇が満開となり、訪れた人々の目を楽しませている。見ごろは四月末まで。
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あの、聞いてます、幽々子様?
これ、今朝のぶんぶん。新聞の名所見所何でも百選のところです。
あんま出回ってないけど案外影響大きいんですよ、すっかり色物扱いって言うか――おい、聞けよ。
あ、すみません、ちょっと興奮して……。
そろそろ背中の扇も三日連続で開きっぱなしだし、ちょっと休ませてやった方がいいと思うんですよね。
うん……。
春度が足りないわぁ、じゃなくて。
春度は余ってるんです、いらないんです、こっちにもたくさん苦情来てるんですから。
えー、読み上げますよ?
まず匿名希望、春の妖精さん、からです。
(はるきたよ、でばんなかた)
むっちゃ怒ってますよ、片言の日本語で。
物凄い苦労して書いてはりますわ。
今にも殴りこみかけてきそうな勢いですよ、一年に一回の出番ですからねあの人。
その辺ちょっとくらい気を遣ってあげましょうよ〜。
そうですよ、幽々子様のでっかい扇が春過ぎてお株を奪っちゃってんですよ!
わかってんなら扇閉じて! お願い!
……何が弱肉強食ですか。
人気だってね、BGMだってね、色んな要素が絡み合って自分じゃどうしようもないことがあるんですよ。
幽々子様その辺りむっちゃ恵まれてるから分かんないでしょう?
ちょっとくらい自重したって、余りあるバストでちゃらです、謙遜ってのも大事ですよ生きていくには。
はい、次読みます。
(しろちゃんが、ないてる。でばんとらないで)
お便りは友達思いの春の妖精さん(黒)からでした。サンキュー。
物凄い友達思いでこっちが泣けてきますよ。
無茶苦茶出番少ない彼女がこれですよ? 幽々子様なんですか、あなたは、どれだけ目立ちたがり屋なんですか。
自機だけじゃ物足りませんか、あ、いやそれは私もなりましたけどね……。
だから、その「やーいやーい」とかいう子供じみた挑発は止めて下さい、見苦しいです。
まだお便りはあるんですから、次。
(うちの神社に春が来ない)
一生来ねえよ。
ともかくですね、私も従者としてこれ以上幽々子様を野放しにしておくわけにはいかないのですよ。
色々とみんな睨みを利かしてるし、従者は何やってんだ、妖夢は何やってんだ、ブシドーを見せて腹を切れ、とかなりきつい追い込まれ方をされてるのですよ。
力ずくでも幽々子様を止めますから。
え、いいの?
なんか拍子抜けというか……まぁ、それだけ私に負けない自信があるということですか。
スペルカード四枚ルールですね、分かりました。
妖夢のカードを用意した、この伏せた中からランダムに四枚選べと、ふんっ、幽々子様にしては準備がいいことじゃないですか。
今日は手加減しませんからね、一切手加減しませんからね。
一枚目……! えいやっ!
「ゴーストバタフライ」
ゴーストバタフライです……いやいやいやいやいや、私のスペルカードを入れとけよな!?
何で幽々子様のが混ざってんですか!?
私これどうやって使えばいいんですか、私これどうやって戦え――だから使えねえよ! 実質私残り三枚で戦えとかカード選びから理不尽すぎじゃんか!
もう知らない! あぁ、わかった、引きますよ、引きますったら、二枚目、ドロー! モンスターカード!!! 嫌がらせも大概にしろよ!! スペルカードを入れろっていってんでしょうが! しかも絵柄が紫様とかこれ絶対怒られますよ!? 三枚目、ドロー! モンスターカード!! やると思ったよ! 幽々子様だもんなぁ! ダメ押し! 四枚目、ドロー! テレホンカード!! あ、ちょっとまともと思ったら、裏にいいとも専用って書いてあったー!!
……はぁはぁ。
止しましょう。
反魂蝶―八分咲―を四枚ちゃっかり抱えちゃってる幽々子様とは戦う気もおこりません(チートか、おい)
抱えて落ちるのはボムだけで十分ですよ。
正直、どんなに主人が暗愚でも、従者の私が刃を向けちゃったのはどうかなと今は忸怩たる思いがしております。
――――
*孫を連れて白玉楼を訪れた玉三郎さんも、見事なカリスマ扇に「もう、しらたまろうって言えませんねぇ……」と目を細めて喜んでいた。
――――
く、くそ、この扇閉じないな……!
ものすんごい固い、一体どうやって閉じ――あ、ちょっとダメですよそこの人! 幽々子様の半径五メートル以内は立ち入り禁止! 噛まれるよ!?
黄色いテープ引いとこ……危ないから。
それにしてもここは本当に冥界なんですか、極普通に見物人がぞくぞくやって来てるじゃないですか。
お孫さん連れたお爺さんとかどうやって来たの。
幾ら顕界と冥界の境があやふやになってるからって一般人が来れる場所じゃあ…………霊夢がガイドしてる。
何か霊夢って老人受けいいよな……。
……。
いや、何してんの霊夢!? 一瞬受け入れそうになったよ! ダメだよ、ここは商売禁止!
生活費稼いでるん!? どっちにしろ幽々子様は見世物じゃねえぞ!
巫女らしく賽銭を集めて――コラ待てや永遠亭! 物凄い自然に入ってきたけど、ここに昨日から茣蓙引いて重石して場所確保してたのはあなた達か!?
ダメよ、そういうの認められないよ! 謝ってもダメ!
あ、ごめん鈴仙さん、悪いんだけど、今四バカ引率して入ってきた慧音さんを追い返してくれないかな、ちょっと手が足りないから本当にすみませんけど、ええ……。
だーかーら、酒瓶をあーけーるーなー!!
ああ、もう、こいつら絶対ここを宴会場にする気だよ……!
だから嫌なんだよ幻想郷、暇人ばっかりでさ、ちょっとイベントあると春の虫みたいに凄い勢いで集まるんだから……!
幽々子様、お願いです私ではどうにもなりません、扇閉じてください、あ、壷は買うな!? な!? それは良い壷じゃないんだよ、てゐが嘘を吐いてるんだよ!
ああ、鈴仙さんが頑張ってる……あの人だけだよほんと……。
なんかもう鈴仙さんと組んでさ、二人で北に独立王国とか作りたい……うどみょん王国。
思ったとおり、ミスティアは屋台出してきたなぁ……。
あの子、焼き鰻以外にも、サイダーとか普通に売っているんですね。
商売熱心だわ。
はい、幽々子様? あ、サイダーですか、自分で買ってこいよ。
やっぱりというか紅魔館も来やがった……。
――――
*便利で安心博麗ガイド! 博麗神社のかわいーい巫女さんがお迎えから見送りまで完全サポートします! ただいま白玉楼行きポイント五倍還元中!
――――
メイド長がなんかチラシ配ってますね。
メイド募集でもしてるんでしょうか……あ、手元に来た、まさしくメイド募集。
ふーん……。
年中無給! 賞与ゼロ! 福利厚生無し! ですか。ここまで断言されるとむしろ素敵なコトに思えてくるから不思議ですね。
全くこんな条件で何処のバカが働くんだよ……私以外で。
さみしいなぁ……。
どこかに幸せ落ちてないかなぁ……。
おい、桜の影でいちゃついてる魔理沙、アリス、さっきからバレバレなんだよ、容赦なく死ね。
あ、鈴仙さん、お疲れ様、どうでした?
ですよねー。
いいんですよ、私達じゃ無理ですよ、どうぞ、まあ座ってください。
サイダー飲みます? いやいや遠慮なさらずに。
大変ですよね〜、全然閉じてくれないんですよ、この扇。
あん? 私も喉が渇いた? だから幽々子様は自分で買えよ、扇閉じたら自在に動けるだろ。
カリスマが許さない?
カリスマってなんですか? 見つけにくいものですか?
……頭の上のぐるぐるは絶対違います。
確かに幽々子様が動くとギャラリーは喜んでますけど、それはカリスマがもたらすものではなく、動物園のジャイアントパンダが動いた時の家族連れのノリですよ。
今、動いたよパパ! みたいな。
悔しいですか。
悔しかったらその扇を閉じればいい話なんですよ。
え……?
と、閉じられなくなった?
本当ですか!? 先に言ってくださいよそういう事!
というか今までどうやって閉じていたのですか!? 思い出せないってそりゃヤバイよ!?
呆けが始まってるんじゃないの!? 違う? そりゃそうですよね、さすがに失言でした妖夢猛省!
で、今日の朝ご飯何食べました?
…………わかんないじゃないですか!
――――
*この春、新しい世界を体験してみませんか? 紅魔館はメイドを募集してます、年齢、経験、種族、問いません、欲しいのはやる気、B型優遇!
興味を持たれた方は履歴書を持ち、紅魔館玄関ロビー内線でナンバー3983(さくやさん)を今すぐプッシュ!
――――
一人では無理でも二人でなら閉じられるかもしれない!
鈴仙さんは、右からお願いします!
せぇーの!
んんんーーーーっ!
ダメだ、固ぁ〜い、どういう仕組みなんだろうか、中にバネでも入ってるみたいだ……。
あ、幽々子様、その顔は何か思い出しましたか!?
バネ?
……え、本当に?
うん、鈴仙さん、これバネ仕掛けの扇なんですって。
それじゃあ仕掛けがあるんですね?
何だスイッチが……解れば凄い簡単なことじゃないですか、いやぁ、思い出せてよかった。
扇上面のこの突起を押せばいいんですね。
よぉーし!
(ぽんっ、からからからっ……こつん、パッ)
わーい、旗が出――ピタゴラスイッチじゃないかよ!!!
何上手い事作ってんですか! 扇の上を滑走する幽々子人形の動きが計算尽くされててちょっと見蕩れちゃいましたよ!
情けない……本当に情けない!
もう我慢の限界だ!
実家に帰らせていただきます!
そうだよ実家なんかねえよ! 家出するんだよ!
全く腹が立つ! こんな旗、帰る前にへし折ってくれ…………ん?
(妖夢、お誕生日おめでとう!)
こ、これは……。
そんな、まさか幽々子様これって……。
「妖夢、おめでとう!」
「お誕生日おめでとう〜!」
「おめでとうございます妖夢さん!」
「妖夢おめでとー!」
「妖夢おめでとにゃー!」
みんな……もしかして、今日は私の誕生会をするためにわざわざ集まって……。
ぐすん……。
ひどいですよ、私全然気がついてなくて、怒ってばっかりだったですもん。
やだ、シャッター切らないでください、もうっ、射命丸さんったら!(どっ!)
え、ええと、みんな今日は私の為にこんなに大きなパーティ開いてくれてありがとうございます。
それから幽々子様ごめんなさい、やっ、家出なんて忘れてくださいよ〜、これからもどうかよろしくお願いします。
今の私から、集まったみなさんに伝えられる言葉は一つだけです――!
私の誕生日……五日前に終わってますよ……。
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2007年4月11日 はむすた