やっぱり馬鹿が好き

 

 

 

「というわけで、赤ちゃんはこうのとりさんが運んでくるんだよー」
「そーなのかー!」

 派手に驚いてやると、隣を飛ぶ氷精は自慢げに鼻を擦った。
 聞きしに勝る阿呆めが、何がこうのとりさんだ、運んでる内にこうのとりの首が折れるか赤ん坊が死ぬわ。

 私は闇の妖怪、ルーミアと言う。
 世間一般の凡愚どもの評価と違い、本来の私は恐ろしい闇の眷属でありとても恐ろしい妖怪だ。
 どのくらい恐ろしいか、それはスペシャルに恐ろしいもので、こう、あれだ、と一言で言い切ってしまうのは難しいのだが……とにかく恐ろしい。
 頭に付けられた忌々しい封印の札のせいで、今一つはっきりしない。
 しかし、如何に強烈な封印であろうとも、私のジーニアスな頭脳までもは封印できなかったのだ。
 だから、全ては演技の日々である。
 取るに足らない馬鹿を演じて、頭のリボンを取ってもらう、そういう目的でチルノに近づいている。
 そうだ、そうでなければ誰がこんな奴と遊ぶものか、こいつには馬鹿のまま成長してもらい、私のリボンを取るほどの力をつけてもらわないといけないのだ。
 この雌伏の期間が長ければ、それだけ後の楽しみも大きくなるというものよ。くくく……。

「ルーミア、ルーミア?」
「おー、チルノどうしたのだー?」
「ミスティア達との待ち合わせ場所は、どこだっけかなー?」
「あはは、チルノは三分前のこと忘れてるのだー!」

 どこだったかな……。

 マジわかんない、でもこういうことってみんなある。
 ここで諦めずに思い出すのが私の凡愚どもと違う所なんだなー。
 ミスティア・ローレライ、彼女は非常に使える妖怪で、あの若さで屋台を経営している。
 ま、お金の付き合いだ、金持ちの知り合いを作っておくことに越したことはない。人脈も広いし、三馬鹿トリオ(演技とはいえこのルーミア様がここに含まれるのは非常に不本意だが)の三時のおやつだって大抵この女が持参してくれるのだ。
 私の大好きな苺キャンディーの上に、砂糖をまぶした時にはぞっとしたね、この女、良い発想をしている、こいつは大物になるって両手を組んで感激した。
 
「チルノ〜、何やってんのよー」

 リグルがやって来た。
 おそらくミスティアから使いに出されたのだろう。
 このぱっとしない虫少女は――今気付いたが、こいつとミスティアだけフルネームがあるのな。
 何だろうか、この贔屓は。
 私の封印が解けたあかつきには滅茶苦茶カッコイイファーストネームつけてやろうと決めた。
 ところで、リグルだがこいつは三馬鹿トリオには含まれない、しかし三馬鹿が揃っているという条件の下ではリグル合流で馬鹿四天王になる。
 こいつとは、戦力として付き合っている。
 如何に博麗の巫女といえど、カマドウマの絨毯爆撃には敵うまい。
 私が元の力を取り戻したら、こいつは兵隊にしてやろう。

「リグル、待ち合わせはどこだっけ?」
「はぁ……やっぱり場所忘れてるんだ、秘密基地っていったじゃん」
「あー、あの洞穴なのだー!」

 私の叫びに、チルノがようやく気付いてぽんっと手を打った。
 全く世話にかかる奴め。
 三人で、霧の湖の近くにある秘密基地の洞穴に向かった。
 土を削って作った手作りの階段で地下に下りると、そこにミスチーが待っていた。

「おっそーい」

 凄い不満そうに眉を顰められた。 
 チルノが私に遅刻の罪を擦り付けていたが、敢えて罪を被ってやった。
 ここで恩を売っておくのだ。
 なぁに先行投資よ、こっちはいつか頼み込んでリボンを解いてもらうのだからな……。

「ミスティア、今日のおやつはな〜に?」
「今日はねー」

 背後に置いてあった、ピンク色の袋に手を突っ込んで弄る。
 取り出したのは、雀の形をしたビスケットが三枚だ。

「おお、雀サブレ!」
「って三枚しかないんじゃ、四人で分けられなくない?」
「ありゃ? そうか、今日はリグルもいるから四人なんだ、あちゃー、失敗したなぁ」

 おいおい、頼むぜミスティア。
 あんたと私で、2:2で分ければ済む話じゃないか。
 
「じゃあ、ゲームやってビリの奴がビスケット無しにしようよ!」

 チルノが吠えた。
 こいつはこういう提案をよくするが、我が組のリーダーでも気取ってるつもりか。
 ふんっ、ゲームなどと下らない、私はやらないからな、確実にビスケットが貰える位置に来るまで首を縦に振らんぞ。

「七並べでいい〜?」
「賛成なのだー!」

 早速私の時代が来たので全力で首を振る。
 一回といわず、二回でも三回でも!
 私のカリスマにびびったのか、他の二人も了承してくれた。
 愚かな奴らめ、まんまと策に嵌りおって。七並べとは知恵比べのゲームであり、この賢者ルーミア様を敵に回した凡愚どもに勝機など1%もなかろう。
 トップは確定した、あとはチルノの強硬な姿勢が気に入らない、この辺でさり気無く頂点に立ち実力の違いを教えてやろうか。
 
「どーせ、あたいが一番なんだけどねー」
 
 ぬかせ。

 ミスティアがカードを配り始めた。
 
 昼でも薄暗い洞穴だが、宵闇の妖怪である私がこの程度気にするものではない。
 夜雀たるミスティアも、蛍であるリグルもそうであろう、チルノ一人がハンデを背負っていることになる、が、こいつも妖怪ださほど苦にはなるまい。

「パスは四回までねー」

 おぉ、手札の美しいこと、まるでムーンライト。
 殆ど7の近くで揃っている、唯一遠いスペードも10〜13まで連番だ。
 急所のスペードの9を引き出せば、その時点で勝利は決まってしまう、やれやれ、参ったな、少し手加減してあげようか。
 悩むフリをしながら、順調に進む。
 すぐ出るだろうと思っていたスペードが意外と伸びてこない。
 私はチルノを見た、大抵こいつが9を手元に残す。

「チルノー、スペード止めてないー?」
「ええっ、スペードの9なんて止めてないよー」

 小鼻をぴくりと膨らませてチルノは答えた。
 どうやらポーカーフェイスのつもりらしい、しかし、天才の観察力の前ではチルノなど裸同然だった。
 こいつがスペードの9を止めている、凡愚どもに解らずとも私には解る。
 私は交渉に入った。
 チルノが欲しそうなカードをちらつかせ交換条件に持ち込んだ。
 私の非凡な交渉力の前にチルノはあっさり倒れた、それでいてチルノは胸を逸らして自分が欲しいカードを私から引き出させたと思っている、おめでたい奴だ。

「はい、チルノ、スペードの5なのだー」
「ふむ、じゃあ、あたいはスペードの9と……」
「……え?」
「チルノー、それクローバーの9じゃん、ずるしちゃ駄目だよー」
「お? あれ、本当だ、暗くてよく見えなかったよ」

 チルノがカードを引っ込める。
 嫌な予感に汗が落ちた。

「ごめん、ルーミア、スペードの9持ってなかった」
「そーなのかー!?」

 謝りながらチルノがスペードの4を出した、ミスティアとリグルが笑いながらスペードを下に伸ばしていく。
 なんという馬鹿だ、チルノのせいで、暗さのハンデがむしろ私に降りかかってしまったではないか。
 他の札を処理しながら、みんなに媚びておく。
 スペードの9欲しいなぁ〜と精一杯可愛い顔を作っておねだりしておく。
 これで止められる奴がいるとしたら、そいつは悪魔だ、吸血鬼だ。
 チルノは他の場所の9も止めていて、その度にミスティア達から驚嘆されていた。
 しかし私の欲しいのが全然出てこない。
 パスの数が増えているのは私だけではない、絶対みんなも必死に凌いでいるのだと思う。
 ここらでそろそろ出る、絶対に出る――。
 
「いっちばーん!」

 ミスティアが指を一本突き上げて、トップを名乗った。
 チルノとリグルが、ちぇ〜と唇を尖らしている、だがそんなことはどうでもいい。
 一番などに拘る必要は無い、そんな目立つ場所は最初からごめんだ、むきになって一位を取らなくても三位まで賞品は変わらないのだから。
 目立たずそしてプライドの傷つかない二番に入って、ちゃっかりとビスケットを頂いておく、これがベストだ。
 
「にっばーん!」

 リグルが勝利のVの字を掲げ、二番を名乗った。
 そんな嬉しそうにする順位でもあるまい、ここは最も地味な三番に滑り込んで、脅威ではないところを見せておく場面なのだ。
 それが解らない奴らは一生三流、いつか私に荷馬車のように扱き使われる労働者階級……!
 というか、どうしてまだスペードの9が出ないのよ!
 あとチルノしかいないじゃないの、嘘吐き! こいつ私のこと嫌いなんじゃないか、毎日一緒に遊んでるのにどうして、私は意外とあなたのことが好きだったりするんだけどなぁ!
 出してよぉ、9出してよぉ、チルノがそこさえ出してくれたら、私が9〜13までを一気に……。
 一気に……9……?

「自分で持ってたのかーー!?」

 衝撃、衝撃の事実、重なっていたとは、まさか他のカードに隠れていたとは……!
 おのれチルノ、何たる名演技、最初から解っていてこの勝負を仕組んだな……! 小鼻膨らますとかオスカー像貰える、どうやらお前はここで倒しておかないといけない才能のようだ! 憎むならお前の才能を憎むのね! この天才ルーミア様を嵌めてしまった……お前の才能を――あ、やめて、そこは汚い、そこ行ったら私カードの残数に負けちゃう。
 
「さんばーん!」

 私はカードを崩して泣いた。
 13が残り一枚。一枚差でビスケットが貰えなかった。
  
「ルーミア、ざんねーん」

 ミスティアよ、私が弱いのではない、私がチルノを止めていたおかげでお前らが上位独占できたんだ。
 恐ろしいのはチルノよ、この私を止めるためだけに自らを三位まで落とすとは。
 こいつの評価を改めないといけない、そして早いうちに私の封印解除に挑戦してもらい、私の力を空に放ってもらおう……。
 と、いうような事を指をくわえながら考えていた。
 三人が雀サブレを手に取る。
 いただきまーすと言って、齧りつく。
 私は「私にも頂戴」という言葉を涙と一緒に飲み込んだ、私は負けたのだ、そんな卑しい真似はしてはならない。
 だから止まれ涎、鳴くな腹、頑張れプライド!

「……」

 チルノがこちらを向いた。
 近づいてくる、どうした獲物の自慢でもしたいのか。

「ん!」

 ビスケットを割って、私の前に突き出した。
 驚いた……ちょっと見直してたがお前はやっぱり馬鹿だったらしい、このルーミアが施しなど受けるとでも思っているのか。
 ぷいっと首を右に向けると、そっちの方からも手が伸びている。
 いつの間にか、伸びてくる三本の手に囲まれていた。

「それじゃ、ゲームやった意味がないよぉ……」

 四分の一ずつ切り取られたビスケットを集めた。
 手の平の上で揃ったビスケットは、ぴったり一つの雀にはならなかったけど、美味しそうだった。
 甘い奴らだ……その甘さが気に入らないというのだ。
 いつか私の封印が解けたその時は……!



 ……か、幹部にしてやってもいいぞ。

 

 

 

 

■ 作者からのメッセージ

なんだかんだで楽しそう。



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2007年3月19日 はむすた

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