異変再び

 

 

 

*このお話には緋想天のネタバレと幼女臭が含まれていますのでご注意ください。


「うわぁ!?」

 その日、魔理沙はパジャマ姿でベッドの上を飛び跳ねた。
 幾ら魔理沙が元気がいいからといって、こんな元気の無駄遣いをする目覚め方は初めてだったのだが、パニックなのだから仕方がない。

「揺れてる、揺れてるよ!」

 布団を跳ね除けて、自分が逃げる場所を探す。
 きっと天人の言っていたとっておきの地震が今日起きてしまったのだ!
 魔理沙は霧雨流災害心得を思い出していた。
 まずは落ち着くこと、冷静になって自分の身を守ることを第一に考える……すなわち机の下に逃げこめば、机の下は……あっ! 埋まってた!
 机の下が物理的に無理なのを確認した魔理沙は腹ばいになってベッドの下に潜り込んだ。
 自慢の髪の毛をぐちゃぐちゃにして床とベッドの僅かな隙間を狙う自分、人間としての格が急に下がった気分だったが今は非常事態だ。
 長い間揺れていた。
 これ以上ないほどぐわんぐわん揺れていた。
 だが、不思議とけたたましい音が聞こえてこない。
 パニック特有の症状だろうか? 普通、放置した実験道具とか、机の上に並べてたビーカーとかがこう破滅的な音を立てて割れたりぶつかったりするのを耳にするんじゃないだろうか?
 家の軋む音とかさー。

(あれえ?)

 揺れが収まっていって、いよいよ小さくなって、それが完全に消えてから魔理沙はそろそろとベッドの下から這い出てきた。
 目を覆うばかりの惨状を想像していたのに、何のことはない、家の中は昨日自分が寝る前に見た光景と全く変わっていない。実験に使ってた鍋の中のキノコ汁が零れた形跡もなかった。
 荒れているのはベッドの上と自分くらいだ。首を捻る。

「なんだこりゃ? 寝惚けてたのか?」

 合点のいかぬままだったが、しばらくして魔理沙は諦めた。
 今家に一人しかいないのだ。幾ら考えたって答えが出るわけもない。
 あとで霊夢やアリスに訊いてみて、何もなかったようなら寝惚けていたということにしておこう。
 窓を開けると森は静かに朝を迎えていた。
 この辺り、建物が他にないので、地震の被害らしきものは計り知れない。
 一番近いところでアリスか。アリスは無事かな? 空に上がってみれば確認できるのだろうが、魔理沙は「まあ、いいや」と先に身支度を始めた。
 地震の状況を調べたいという思いもあったが、それよりも今日は図書館に本を奪いに行く日であった。
 大抵週一で奪いにいく。その際朝のうちに襲撃した方が警備も手薄だろうという考えだ。
 魔理沙は借りていた本を全て揃えると、図書カードの返却日時が過ぎていないことを確認して一つずつ鞄に詰め込んで――。
 
「おいおいおい!?」

 何だ私は! 何で律儀に本を返そうとしているんだ!?
 魔理沙は頭を叩いた、そんな軟弱な考えが浮かぶような人生を送ってきたつもりはない。
 死ぬまで借りてまーす、というジャイアニズムを鋼の意思で今まで通してきたのだ!
 大体……図書カードって何!?
 あってはいけないはずの物であって、だってこれらは無断で奪ってきたもので、で、でも入ってるし! 図書カードが入ってるし! 霧雨魔理沙の名前が書かれているし! どういうことなのか全く理解できない、身に覚えがないぞ!
 私はまだ夢の途中なのかと、魔理沙は井戸水を汲んできて顔を洗った。
 だけれども水は冷たくて、目もこれ以上覚めなくて、よく分からない現実が続いていた。
 考える。
 あの紫もやしがこんな手の込んだことをするだろうか?
 もしくは小悪魔が手伝ったとして、自分が無作為に選んだはずの本に図書カードを挿入なんてことが出来るだろうか。
 まさか全部の本に私の図書カードを仕込ませているのか?
 いや、それはないだろう。
 手間にあまりにも見合わない。
魔理沙はもう少し考えたかったのだけど、家の中にいると本を返したくてうずうずした気分がたまらなく邪魔だ。
 そうだったのでそれに負けないうちに素早く身支度を終えると、家を飛び出した。
 家を出ると少し落ち着いてきた。
 人心地が付くと今度は喉の渇きが無性に気になってきて、そんなに急ぐ理由もないか少しゆっくりしていこう、と人里の端っこの方に建っていた茶屋に寄ることにした。
 ……中で里のハクタクと妹紅がセーラー服を着てデートしていた。
 衝撃の場面だ、こいつら……ついに気でも触れたのか……と魔理沙は眉を顰めたが別にちょっかいかける気分でもなかった。
 向こうがこちらに気付いた様子もない。
 まともな状態なら地震のことを訊きたかったんだがなぁ、と思いつつ魔理沙は勘定を済ませると紅魔館に向かって飛んだ。

――――――


『ようちえん こうまかん』

 魔理沙は頭を抱えた。
 何で今日は朝からこんなわけのわからない場面にばっかり遭遇するのかと自分の不幸を嘆いた。
 寝ていることがあれど、必ず門の前に立っていた門番も今日はいない。
 代わりに門番が立っていた場所には物凄いロリフェイスなレミリアの笑顔と「ようちえん こうまかん」の看板が掲げられていた。
 今の門はボンボンやら造花でやたらと装飾されていて、門の上にかかったアーチにはでかでかと『冷やし中華、諦めました!』と書いてある。
 なんでそんなポジティブなんだよ! 結果と報告のギャップがすげえよ!

「くそっ、負けないぞ! 私は負けないからな!」

 誰かが何処かで全部仕組んだ事に違いない。
 いや、そういうことにしたい、そうじゃなかったら一夜にして幻想郷がやばすぎる。
 魔理沙は立ち直ると門を開けて、庭へと進んだ。
 立ち直って三秒で負けて膝をついた。

「ぎゃおー! たべちゃうぞー!」
「きゃっ、きゃ!」

 怪獣の着ぐるみから顔だけ出している美鈴が、カリスマの全てを捨てたレミリアを追いかけていた。
 タンバリンを鳴らしてフランドールをあやすエプロン姿のパチュリー先生。
 確かにここは幼稚園らしい雰囲気を持っている。
 実際、幼稚園ですと言われても「そうですね」と返すしかなかった。
 だが納得いかなかった、まず何が納得いかないって、五人で一クラスを名乗っているのに、うちフランが四人を占めているという水増し感は酷い!
 少子化対策も分身で解決か、ふざけんな!
 魔理沙は怒鳴った。
 かなりの声で怒った。
 そうするとレミリアとフランがびーびー泣いて、魔理沙が逆にパチュリーと美鈴にたしなめられた。
 部外者は入ってこないでください! 閻魔様呼びますよ!? とか指差して言われた。
 閻魔が警察機構なのかどうか知らないが、魔理沙は大弱りだ。どうもこれ命令でやっているとか、演技をしているわけじゃなくて、彼女達は何の疑問も持たずに保母さんをやっていて、レミリアやフランもマジ泣きしているらしい。
 …………しかし、あれ? 咲夜はどうしたのだろう?
 こんな状況に対して一番喜びそうな奴がここにいないのはおかしい。

「おい、咲夜はどうした?」

 パチュリーと美鈴はしらんぷり、幼児の彼女達は既におままごとに夢中で魔理沙のことが目に入っていない。
 仕方がないので、魔理沙は勝手に紅魔館を散策した。
 本強奪どころではなくなったなと考えていると、途中の花畑で這いつくばって動く咲夜を発見。
 何やってんだ、こいつもおかしくなってるんじゃないだろうな、と魔理沙は疑いの眼差しを向けていたのだが、変だ、様子が別の意味でおかしい、脚が震えている。
 
「お、おい、大丈夫か?」
「その声は……魔理沙? ああ、良かった、ようやく助けが――ゴフッゴフッ」
「咲夜、お前鼻血が……!」
「ふふっ、お嬢様の幼女臭から逃げていたらこのザマよ。残ったのは私だけ、美鈴もパチュリー様もメイド達もみんなやられてしまった」
「一体紅魔館になにがあったんだ!?」
「解らない、はっきりしたことは朝地震が起きてからお嬢様方のLP(ロリータパワー)が拡大したってことだけ」 
「専門用語を使うなよ! ってやっぱり地震はあったんだな!?」
「不思議なの。あの地震で揺れているのは人と妖怪だけで、建物には何の被害もなかった……あれが何らかの引き金になっているのは確かなんだけ……ど、ゴハァ!」

 魔理沙は「もういい、喋るな!」といって血を流す咲夜の肩を抱いた。
 真っ先に溢れ出るLPに陥落してもおかしくなかったのに、一人になっても抵抗を続けていた勇者、十六夜咲夜。
 魔理沙は涙した。これ以上無いと言ってもいいくらいの奮闘だった。
 咲夜は魔理沙に言った。
 お願い、霊夢を呼んできて頂戴、と。
 魔理沙は強く頷いた。全貌は未だ見えてこないが今回の異変、巫女の手を借りないと巨大過ぎる敵に違いなかった。

「よし、じゃあ咲夜。とにかくお前を紅魔館の外へ連れ出すぜ」
「大丈夫よ、私はいいからあなたは急いで。私は、そうね、あと少し休めば自力で門まで這って行け――あっ!?」

 その時、咲夜の顔が引き攣った。
 聞いてはいけない、見てはならない、この世のものではないものに遭遇したような顔で魔理沙を両手で突き飛ばして離した。

「お、おい?」
「魔理沙、ダメよ! 早く行きなさい! すぐにここを離れて!」
「咲夜、何を怖がって……」
「魔理沙、聞こえないの!? あの声が、ああ! お嬢様が来るわ! ピンク色の衣をつけた、恐ろしい魔王がデーモンウォークでやってくる!」


『ぎゃおー』


 魔理沙にも聞こえた。
 だが、愛らしい声はまだ遥か遠くから聞こえたものだった。
 今なら間に合う。
 あれは木枯らしが風に鳴っているんだ。咲夜にはそう言い聞かせた。
 魔理沙は咲夜を抱え、逃げようとした。だが二人分の体重では箒は使えない。魔理沙はそれでも紅魔館から離れようと全力で走った。
 
『かわいいさくや、わたしのところへおいで!』

 声は大きくなってきている。
 メイド長の鼻血はもはや臨界点に達していた。
 魔理沙は咲夜を必死に励ましながら走った。

『いっしょにあそぼうよ! フランもいっしょだよ!』

 咲夜の目が見開かれた。
 魔理沙は後ろを見なかった、おそらくもうレミリアが前ダッシュでこちらに向かってくるのが見えているのだろうから。

『みんながさくやをまっているよ。みんなでかいじゅうごっこをしよう!』

 咲夜はもう力なく震えているだけだった。
 お願い、もういいの、魔理沙だけでも、咲夜から魔理沙への最後の願いがそれだった。

『かいじゅうごっこがおわったら、おいしゃさんごっこもするよ!』

「お医者さん? そういうのもあるのか!」

 咲夜は突然叫んだ。
 魔理沙はぎょっとして咲夜を揺すった……! だが腕の中、咲夜は既にモケーレムベンベ!

――――――

 勇者は死んだ。
 たべちゃうぞーと言いながら駆けていく咲夜は魔理沙の望んでいた咲夜ではなかった。
 幸せにな……そう呟いて紅魔館を後にする魔理沙だって、もう少しで幼女臭にノックアウトされるところだった。
 おそろしいことになっている。
 早くなんとかしないと、霊夢の力を借りないと。

(待てよ!? 霊夢は無事なのか!?)

 嫌な予感がした。
 道中慧音達に出会ったが、あれもまともではなかった。今紅魔館が堕ちて、神社だけがまともであるという方が理想的過ぎるのではないだろうか。
 魔理沙は急いでいたが、どうしても他が確かめたくて旧知の仲であった森近霖之助の店に入――。

『あややや屋』

 ――入らなかった。

 看板を見た瞬間諦めた魔理沙はそのまま全速力で霊夢の元へ向かった。
 神社は金のしゃちほこを屋根に乗せていて、あからさまにまともじゃなかったが、それでも一縷の希望を捨てず、魔理沙は霊夢を探した。

「れいむ、霊夢ー! いないのかー!?」

 果たして霊夢はいた。
 大福をもっちもっちと食べながら畳の上でくつろいでいた。

「霊夢、大変だ!」
「あら、魔理沙。もっとのんびりしなさいよ」
「のんびりしている場合じゃないぞ! 紅魔館がな――」
「紅魔館? どこだっけ? それより幸せよ魔理沙、あのね、賽銭箱がね、うふふ、凄い事に、ふふっ、しゃちほこまで付いちゃってまぁまぁ」
「だ、ダメだ、霊夢もいかれてやがる!」

 魔理沙は霊夢の巫女服を掴んで揺すった。
 霊夢はどこを見ているのかすらわからず、うふうふ、笑うだけだったので、魔理沙は強硬手段に出ることにした。
 霊夢だけはどうあってもまともに戻さないといけない!
 魔理沙は覚悟を決めて霊夢を往復ビンタした。
 しばらくあはーんとかいっていた霊夢も五発目あたりで「おんどれ何さらすんじゃボケェ!」と強烈なアッパーを決めてきたので、魔理沙はもう少しで意識が飛ぶところだったが、助かったと思った。

「はっ!?」
「霊夢気がついたか!?」
「魔理沙……あ、そうか、私は異変を追っている最中にふと賽銭箱を除いて、そして幸福感に耐えられなくなって……それで……」
「なにがあったのか知らないが、異変について何か掴んだのか!?」

 霊夢は魔理沙の問いにこくりと頷いた。
 さすがだ、やはり異変となるとこの巫女の勘に勝てるものはいない。
 あと、ビンタ残り四発分は貸しにしとくから、と言われて、魔理沙は縮こまった。

「まあ、ここに原因があるから私が掴んでいるのは当然というか」
「ここに?」
「私はあの変な揺れを感じてから、真っ先に神社に埋めておいた要石を気にしたのよ。案の定というかちょっと意外というか要石に変化が起こっていたわ、なんか斜めになっていた」
「斜めだって? 斜めになると何かなるのか?」
「そりゃまあ真っ直ぐ刺してないと地震が……魔理沙は地震がどうやって発生するか知ってる?」
「えーっと、地面に潜んだナマズが暴れて、断層がずれてだな」
「そう、今回のは要石に抑えられていた大ナマズが暴れて断層がずれたの。だけどナマズの方も消化不良だったんだなー。要石は抜けかけていたけど刺さったままだったから――」
「……中途半端なエネルギーは、人だけに影響する揺れを起こしたと?」
「そうよ」

 魔理沙は霊夢の話に唾を飲んだ。
 なんてやつだこの短時間にここまで調べているとは。いよいよ真実に近づいている巫女の話に耳を傾ける。

「それでキャラクターの断層がずれちゃってるのね」
「………は?」
「だからキャラクターの断層がずれて起きた地震なの」
「あ、え、そんなのあるの?」
「あるの」

 あるらしい。霊夢の方はずれたんだから仕様が無いといった顔を浮かべていたが、魔理沙の方は辛かった。
 キャラクターの断層って……生まれてこの方初めての単語だ。
 ナマズが揺れるとそんなとこまでずれるのかぁ。あっさりと単語と事実を受け入れてしまっている霊夢の抵抗の無さを褒めるべきなのだろうがそれに抵抗がある。
 霊夢はキャラクターの断層なら要石さえ戻せば何とかなるんじゃないかと言った。

「まぁ、いいけど……しかし、要石というとだな」
「そうよ、今回の事件は誰を押さえればいいかなんて考えるまでもないでしょう? と、いうわけでね、私はこんなこともあろうかと先に手を回しておいたの」
「ええ?」
「地震が起こる前に天子を探し、直に天子を掴まえておいたの!」 

 魔理沙は「おお!」と驚いた。
 犯人の意識の底まで読めてしまうってわけか、なんて奴だ、こいつだけは敵に回したくないぜ!
 魔理沙は心底感動しながら、霊夢の案内をうけて台所まで歩いた。
 台所には縄でぐるぐる巻きにされた天子が、床に対して横向きになって寝ていた。

「やったな、霊夢! 前に神社を壊されただけあって反撃も鋭いな!」
「うふふ、そうでしょう、そうでしょう? とりあえず後は天子に要石を戻させればみんなの性格も元に戻ると思うわ! 良かったわね幻想郷には優秀な巫女がついていて!」
「悔しいが、今回ばかりは全くだぜ!」

 あははと笑い合ったところで魔理沙は、あれ、何か足りないなと感じて、横になっている天子を仰向けに返してみた。
 ……帽子に付いてた桃が跡形も無く消えている。

「……霊夢、桃が……」
「……」
「霊夢……桃を……どうした?」
「……」

 台所の三角コーナーに桃の種が捨てられているのを発見した瞬間に、魔理沙の中に強烈なビジュアルがわわわっと入ってきた。


『あんた、前から思ってたけどいい匂いするわ。ちょっと齧るだけだから、ね、ね?』
『目が怖いんだけど!? せっかく食事に誘われて来てみたらこの扱い!?』
『だから朝ご飯に誘うって言ったじゃない!』
『食べるのはあんただけかよ! これダメ! 絶対嫌! 私のトレードマークだからね! もう、ただでさえ慧音二号とか言われちゃうことがあるのに!』
『いいから寄越しなさいよ! ホルモンじゃあるまいし!』
『減るもんじゃなし、でしょう!? あ、いや、減るよ、絶対減るから! 減らないとかないから! 試しにやってみよう? って、ちょ、やめっ、ぎやぁーー!!』


 魔理沙は泣いた。
 自分は何も見ていない、霊夢は桃欲しさに天子を襲ったりしない、全ては天子がやった、それでいいじゃない、そういうことにしておけばいいじゃない。
 魔理沙が「桃なら、今度お中元で買ってやるから……」と肩を叩くと、今度は霊夢が泣いた。

――――――

「だーかーら! 私じゃないって何度も言ってるでしょうに!?」

 意識を取り戻した天子は必死に弁解を始めた。
 会話の合間に「一級天人であるこの私にこんな仕打ちをしたお前等は呪われるべきだ、いや確実に呪われる」とか呪詛が入っていたが二人は気にしなかった。
 縄だけは解いてやったけど警戒まで緩めない。

「私だったら要石を抜くか、刺すかはっきりしてるわ! 斜めにずらすなんてこんな不器用で中途半端なことしますか!」
「まあ、確かにそれはそうなんだけど」
「でも、お前以外やりそうな奴がいないしなー」
「うー……きっと誰かが私を嵌めようとしているのよ! そうよ、本当は抜きたかったんだけど天人じゃないから抜けなくて力任せにやったらあんな形になったの。きっとだわ!」
「どうする魔理沙?」
「面倒だ、こいつが犯人でいいぜ」
「もうー!」
「とりあえず、要石は元に戻してよ」
「いーやーよ。私がやったわけでもないのに誰が手を貸してやるもんですか。しかも勝手に人を犯人扱いにして、そのまま困ってなさい」
「あれあれぇ? 偉そうなこといってるけど、もしかして出来ないの?」
「で、出来ますとも!」

 扱いやすい奴だなー。
 立ち上がった天子はぷりぷり怒りながら裏庭に進んでいく。
 魔理沙と霊夢はその姿を微笑ましく見守りながら同行した。
 刺さっていた要石は確かに曲がっていた。それは抜けかけた巨大な動物の歯みたいに見えた。
 天子が剣を取り出してむにゃむにゃと何かを呟くと要石は轟音を伴いながら、ゆっくりとその姿を元あったものに戻していった。
 これで異変は解決した。
 あとは犯人さえはっきりすれば夢見がいいのだが。

「ところで、さっきから気になっていたんだが」
「うん」
「要石の横に刺さっているあの柱は何だ?」
「なんかあれも斜めよね……もしかして、犯人はあれをテコ代わりにして、要石を抜こうとしたんだったり?」
「おお、それは天子が犯人説より面白いぜ」
「ほら、私は犯人じゃなかった」
「まだ容疑者リストから抜けたわけじゃないぜ」
「じゃあ、あの柱が誰が用意したものか、今後はそれが捜査のキーになるわね」

 霊夢と魔理沙は同時に気付いた。
 長い石柱には見たことのある注連縄が施されていたからだ。
「謎は深まるばかりねぇ」と天子が呟いたので、魔理沙はその胸に突っ込んでおいた。
 絶壁だった。

――――――

 群集を前にして守矢一家が演説を繰り広げている。

「天人の横暴、もはや我慢ならず! 我々も緋想天に参加し、総領娘を成敗する!」

 どうやら守矢神社も被害を受けていたらしい。
 神奈子の声に早苗と諏訪子が拳を天に突き上げ、群集もそれに呼応しておおーっと叫びながら拳を天に突き上げていた。
 魔理沙は黙ってその姿を見守っていた。
 隣には連れて来た閻魔がいる。
 魔理沙は悩んだ。
 やはり今はよそう、後でいい。

「早苗……ちょっといいか」

 魔理沙は人が去るのを待ってから早苗達に話しかけた。
 早苗はやる気に満ちていた、目が輝いていた。隣にいた諏訪子もそうだった、異変は再度の天子の暴走であると信じていたし、出演フラグが立ったと喜んでいた。

「神奈子、あんたに今回の異変の犯人の疑いがある。白黒はっきりつけようじゃないか」

 魔理沙は意を決して言った。
 早苗と諏訪子がぽかんと口を開けているなかで、神奈子だけしっかりとこちらを見つめてきた。

「要石を動かした時に使われたと思う柱が見つかった。注連縄からあんたが使っている御柱じゃないかという見立てなんだ。どうなんだ?」
「それで私だって? 天子の岩だって注連縄がついているじゃないのさ。犯行現場に類似品が落ちてたって別に不思議じゃ――」
「私はまだ犯行現場に落ちていた、とは言ってないんだぜ?」
「……」

 神奈子は大きく息を吐いてから「そろそろ来るかなと思っていた」と言った。
 早苗が神奈子に縋って事情を問いただしている。
 諏訪子は目を白黒させていた。
 だけど神奈子の顔は澄んでいた。もう閻魔の力を借りるまでも無く、神奈子が黒であると解ってしまったのだ。

「どうしてこんなことをしたんだ?」
「ああ、守矢神社が被害を受けるような異変があれば今度はフラグが立つかなと思ってね」
「そんなことで要石を……!」
「早苗が……発売の夜に泣いていたんだ……」
「ああ?」
「私達はいいよ、でも早苗はまだ若い、こっちに着いたばっかりでハブられるなんて可哀想じゃないか……早苗は……早苗はどうしても出してやりたかった……!」 

 神奈子の目から涙がこぼれた。
 風組が全員出られなくて切羽詰っていた。早苗だけでも出場させてやりたい、悩みぬいた挙句の犯行だった。
 親心からと知れば、魔理沙もこれ以上責め辛い。
 ずっと黙っていた閻魔がここで口を開いた「解っていましたよ」優しい声をかけて神奈子の涙を拭いてあげている。
 そうか、と魔理沙は気がついた。
 閻魔にも親心があった、サボっている小町を知りながら、敢えて小町を野放しにして緋想天に送り出してあげた、なんという愛情、そうなんだろう、四季……!

「無罪!!」

 あれ?

「いや、ちょっ、無罪は早いんじゃないか閻魔!?」
「黙りなさい! あなたにボスなのに出られなかった私達の気持ちが一片でも解るんですか!?」
「ええ!? 小町が出られたからあんたは満足じゃないの!?」
「はぁ? 小町にはむしろむかついていますけれど!? あの子ったら私がわざわざ見逃してあげてるのに、私が追いかけるフラグを立てないまま帰ってくるとは、どういうことですか!」
「おいおい!」

 駄目だ、今や神奈子と四季はすっかり意気投合して肩を組んでいる。
 身長差があったから、閻魔が爪先立ちで震えながら頑張っている。
 諏訪子はむしろ異変を起こした神奈子を良くやったと称えていたし、早苗もそれをみて方向転換したのか閻魔側についていた。
 なんて空気が読める子だ。
 残ったのは魔理沙だけだ、どう足掻いても逆転裁判は期待できそうに無い。
 まあ……でも……いいのか? そんなに被害も出なかったしなぁ。
 魔理沙は考えた、むしろ霊夢が桃を食べたくて天子を襲った罪の方がよっぽどやばかったような気がするし、穏便にいっておこうかここは。
 閻魔達は人里へ飲みに行くことに決まったようだ。
 魔理沙はその後姿を見送った。
 どうも自分が異変に関わると空回りして困るなぁ……。
 魔理沙は自嘲気味に笑ってから、今回の異変がきちんと解決しているかを見て回る為に元気に幻想郷を飛んだ。

 慧音はいつもの服装に戻って寺子屋をしていたし、竹林にいた妹紅も同じく元に戻って輝夜と争っていた。
 天狗グッズ専用店『あややや屋』はきちんと香霖堂に戻って営業をしている。
 もちろん幼稚園こうまかんだって――。  


「ぎゃおー、お嬢様をたべちゃうぞー!」 
「きゃっ、きゃっ!」 

(戻ってねえよ! ここ!)

 素だったのかと魔理沙は両手を土に突いた。
 

 
全世界、六十六億八千四百万人のアリスファンの皆様こんにちは!
今日は緋想天のアリスさん強化計画を立ててみたよ!

1.大江戸爆薬からくり人形が100m8秒の脚で走る。
2.大江戸がたまにマリオばりのジャンプをする。しかも二段。
3.スキルレベルアップで大江戸を画面に出せる数増加、レベル4で最大52体。
4.大江戸に乗ってアリスさんが登場するというファンサービス。
5.歩いてるのを見るだけで当たりたくなったというプレイヤーはファンに対する優しさでダメージを与えない。
6.いっそ大江戸が自機になる。
7.アリスはコマンドで。



SS
Index

2008年6月29日 はむすた

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