possibilities of materials

 

 

 

 以前、割られた窓硝子に新聞紙を張り、ガムテープという便利な道具を用いて急場をしのいだことがある。それをして僕は思うのだが、このガムテープとやら、他にもっと価値のある使い方が出来るのではないか。ただ物の修繕に使うのみならず、更なる効果を期待できるのではないか。
 物には可能性がある。知らず知らずと、外の人間に限らず幻想郷に住まう僕たちでさえも、ひとつの道具にはひとつふたつの使い道しかないと考えがちだが――昔、外から入ってきた十徳包丁や十徳ナイフに関しては言及しない――、実のところ、ひとつの道具には十や二十もの用途が秘められている。僕が見るのは、その中で最も効果を発揮しやすい用途なのだが、あえてその裏を見据えることで、そのものが秘める大きな可能性に気付くことがある。
 例えば。
 僕は、戸棚に置いたパーソナルコンピュータに触れる。
 これはひとつの式神としての機能を秘めているが、ここ幻想郷ではエネルギーの問題から本来の機能を発揮しえない。だが、鈍器としてはどうか。壁としては。伝言板としては。あるいは鳥除けでもいい。考え方次第で、道具は毒にも薬にもなり得るのだ。
 それ故に、僕はガムテープの輪をかざす。
 これから、このガムテープの新しい可能性について考えてみようと思う。果たして、これは僕にとっての救世主になるのか。現時点ではあまり人生に困ってはいないが、これから先の指標になるかしもれない。僕は息を飲んだ。
 まず、ガムテープを床に置く。
 ガムテープはしばしその場に留まっていたが、やがてころころとその身を回転させ、次第に速度を増して開け放たれた店の扉に向かっていく。
 そして僕は不意に顔を上げ、いきなり登場した闖入者の影に目を瞬かせる。
「よう香霖! 今日も元気だ牛乳がうま――」
 金髪の少女が足を踏み出し、ぐりん、と彼女の視界が反転した幻覚を見た。
 ぷぎゃ、と不時着する少女の柔らかそうなドロワーズを見るに、やはり女の子なのだなと無礼なことを考えた。
 兎にも角にも、ガムテープの可能性その一とその二。
 ボーリングとイージートラップ。

 

 

 そしてその三。
「……香霖」
「あぁごめん、しばらく付き合ってくれないか。御礼はする」
「そういう問題じゃなくてな……」
 閉ざされた店内の一角に座っている魔理沙は、両手を後ろに回され、その手首にガムテープを巻かれて意気消沈している。流石の僕も、研究熱心だからといって足や口までガムテープを巻くような暴力的行為はしない。求道者は常に真摯であるべきだ。
 半眼で僕を睨む魔理沙はさておき、僕はガムテープの可能性に思いを巡らせていた。踏み台にしては低く、輪投げにしては小さく、ブーメランにしては重い。次々と思い浮かぶ可能性を片っ端から消去していき、最後に残ったものを実験に移す。
「魔理沙」
「……んだよ。これ以上は金取るぞ」
 金銭授受の問題なのかとは思ったが、仏頂面をしている魔理沙の機嫌をこれ以上損ねるのもよくない。
 僕は、ガムテープをちょうどいい幅に区切りながら、至極真剣に告げた。
「魔理沙、これは前張りの代用品になると思うかい?」

 

 

 その日、魔理沙は胡坐のまま飛び膝蹴りを放った。
 飛び膝蹴り記念日が誕生した瞬間である。
 あの時、床に崩れ落ちた僕を見下ろしながら、彼女が。
「んなことしたら、剥がすとき痛いじゃないか」
 至極真面目に告げた言葉を、今でもまだ覚えている。

 

 



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2006年8月9日 藤村流

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