Fire Mikoblem

 

 

 

 ある日、博麗神社の境内。
 燃え盛る火の中に、ぽいぽいと紙やゴミを放り投げる鬼の姿が。
 その行為に、特別な意味はない。なんとなく、儀式っぽいかなーと思っただけだ。
 だから、放り込んだ紙が博麗神社からかっぱらってきたもので、それっぽいマジカルな御札だということなど萃香には知る由もなかった。鬼だから。
「おー、燃えてるねー」
 額に手をやって、身長の何倍もの高さに焔を伸ばす焚き火に目をやる。元は枯れ木や枯れ葉の寄せ集めだったものが、博麗特製の御札×十枚の力を得て、自ら意志を持った新生物のごとくにめらめらと揺らめいている。
 実にやばげだった。
 ぶっちゃけ、鳥居の上まで火柱が立ってるのはまずいないだろうか。てなことも、萃香は考えたりしない。鬼だから。
「かがりびかがりびー。んー! こういうときはやっぱり、お酒が欲しいところー」
「じゃ、ないわよこのスカタン! 鬼!」
「ぐひゃあぁっ!」
 飛んだ。
 あーれー、と比較的わかりやすい悲鳴を残し、博麗霊夢渾身のフルスウィング祓い串を後頭部に喰らった萃香は、万歳の体勢を維持したままで轟々と燃え盛る篝火に身を投じた。
「あー! 燃える燃えるー! 只でさえ面積の少ない服がー! 密度の薄い服がー! がーがーがー……!」
 悲痛なような、さほど緊張感もなさげな叫びが木霊する。霊夢は無視する。
 自発的にエコーを掛けて、萃香は徐々に己の密度を薄くしていく演出を施しながら、少しずつ火柱の中に消えて行った。

 

 

「あー熱かった」
「嘘つけ」
「死ぬかと思ったよー」
「いけしゃあしゃあと……」
 祓い串の先端で萃香の額を責めても、アシカみたいにあうあう言うだけで何の意味もない。篝火の名を借りた局地的な大火災は、今もなおその猛威をふるっている。流石にやばくないか、という焦燥感が、普段から平静を保っている霊夢の中にさえ生まれてしまうほどに。
 だが、やっぱり萃香は平然としている。鬼だから。
「ちょっとあんた」
「……ぐ?」
「呑むなボケ」
 祓い串で喉を突けば、さしもの萃香といえど瓢箪の口を吐き出さざるを得ない。多少、恨みがましい目で見られても構わない。事は急を要する。
「ぐはぁ! ちょっと何するのよ霊夢! 若干えげつないもの吐くところだったじゃない!」
「具体的には」
「こんな生娘の口から言わす気かー」
 吐き捨てて、やっぱり瓢箪に口を付ける。今度は眼球を突いたろかと霊夢は思ったが、それでぎゃーぎゃー騒がれても邪魔になる。仕方なく、霊夢は眼前のファイアウォールを仰ぎ見た。
 熱い。
 冬なのに。雪もかくやといった時節なのに。さては莫迦か阿呆の類か。というか、こんな間近で燃えていたら博麗神社に燃え移る可能性大なのではなかろうか。
 さっきから、真っ白な肌に火の粉が舞い落ちてきて、それを払うのも面倒くさいし。
「……これ、洒落になんない?」
「ならんねー」
「あんたのせいでしょ! 滅びたくなかったら可及的速やかに対処する!」
「いやだぁーぐぇわーっ!」
 とりあえず針のようなものを飛ばしておいた。瓢箪の表面にカカカカッと無数の針が突き刺さるが、肝心の萃香には一本も当たらなかった。無念。
「ちっ」
「あ、霊夢いま舌打ちした」
「してない」
「したよー」
 限りなく不毛な遣り取りの間も、火はぼうぼうと燃え盛る。
 霊夢は、何だか何もかも嫌になってきた。熱いし。鬼だし。
「かがりびってねー」
「うんうん」
 萃香が何事か言っているか、応じるのも面倒だから適当にへえへえと頷いておく。
「魚を獲る時とかに使うのねー」
「ふむふむ」
「だから、網とか掛けるといいんじゃないかなー」
「ふんふん」
「ふざけんのも大概にしろー!」
「激痛!」
 鬼の力は桁が外れている。
 故に、軽い突っ込みでも人間を軽々と吹き飛ばすだけの力があるのであって。
 ばふっ、と霊夢が頭から突っ込んだのは、ごうごうめらめらと燃え続ける炎の中であった。
 激熱。
「ぎゃー! 今回は洒落にならねー! 死ぬ、死んじゃうー! 誰かー! 誰か助けてー! てーてーてー……! とかエコー掛けてる場合じゃなーい! おいそこの鬼、さっさと助けないとあんたの腹の中から針の剣でちくちくするわよー! て、あんまり効果的じゃねー!」
「くー」
「しかも寝てるー!?」
 ぐあー! と断末魔の叫び声を上げながら、博麗霊夢はその短くも太い生涯に紅白の幕を下ろし――。


「あんたら調子にのんなぁぁぁぁぁッ!!」


 しゅごばおぅ、としか例えようのない白き閃光が、輝かしき光の柱となって御札と篝火諸共木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 

「おー、きれーきれー」
 萃香がきゃっきゃと笑いながら拍手をしているが、良い感じに焦げた霊夢は抵抗する術もなく血に伏せっている。
「れいむれいむー」
「……」
「えいっ」
 ばさ、と霊夢の身体に掛かるのは、縦横無尽に紐を編み込んだ強靭な網だった。
「えー、本日の釣果、霊夢一匹ー、霊夢一匹ー」
「……」
 何だか、何もかもどうでもよくなった。
 薄れゆく意識の中、霊夢は最後に思う。

 

 誰が魚やねん。

 

 

 



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2005年12月23日  藤村流
東方project二次創作小説





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