雨月百景
レミリア・スカーレット / 紅魔館
ごきげんよう。
紅魔館現当主のレミリア・スカーレットよ。
ゆくゆくは妹のフランドールに君主の座を、なんて他愛もないことを考えないでもないけど、あの気紛れな性格が矯正されない限りは無理でしょうね。
まぁそれはそうと。
近頃は雨が続くわね。
なまじ運命が見えると、先の天候まで難なく読めてすこぶる欝だわ。
パチェに「この鬱陶しい雨雲を吹き飛ばしてよ」と言ったら、因果の流れとか運命線とか作物の生育具合とかうだうだ語り始めたの。パチェはこうなると厄介だから、正月に餅を喉につまらせるご老体みたいな感じにしようと思ってつきたての餅を食べさせたら、生来の喘息が併発して何だか比較的とんでもないことになってた。
とても紫だったわ。
あーおもしろかった。
部屋に帰ると、雨の音だけがしつこく鳴り響いていて厭にやかましかった。だから咲夜を召喚してすぐに紅茶の準備を。ついでにパチェも呼んでお茶会でも開こうかと思ったのだけど、まだ餅が喉に詰まっていて、今のところ皮膚呼吸で生命を維持しているそうよ。
大変ね。
えら呼吸とか追加してみると新たな樹形図を刻めそうだから頑張って、と応援しておいたわ。
そうなったら縁切るけど。
でも、雨を眺めながらのお茶会、というのも乙なものね。
まぁ例によって咲夜は呼ばないと出て来ないのだけど。
当主が暇だというのに、気を利かせて出て来ないのも困り者ね。
さぁ、何か下らない話でもしましょう。
さしずめ、何故雨が降らなければならないか、吸血鬼が何故雨に道を譲らなければならないのか、その見解をあなたから聞きましょうか――。
魂魄妖夢 / 白玉楼
ご機嫌は如何でございましょうか。
私、魂魄妖夢と申します。
私は白玉楼専属庭師兼西行寺幽々子さまの従者として、長らく生きて参りました。
それはおそらく、未来永劫変わり得ない称号であります。
毎年、この季節は長いか短いか判然としない雨季に入ります。
梅雨時は暇です。
庭師にとっては苦行の時です。まさか雨に打たれながら枝を剪定する訳にも参りませんから、おのずと屋根の下で待機することが多くなります。
しかしながら、庭師であると同時に剣士であることを己に課しています故、ひとところに留まってじっとしているのは性に合いません。
と、不意を打って立ち上がろうとしたら幽々子さまに膝の裏を突かれました。
爪先で。
痛いです。
何をなさるんですか! とつい声を荒げてしまいましたが、お尻を突き出した状態で縁側に倒れ込んでいましたから、威厳も何もあったものではありません。ふふ、という笑い声が聞こえます。
恥ずかしいと言うか、情けないと言いましょうか。
何事も無かったように立ち上がっても、一部始終を見られていては意味がありません。それでもやはり取り繕わねばならないと感じてしまうのは、私の気質に問題があるのでしょうか。
一度、どなたかに相談すべきかもしれません。
無論、幽々子さまは除いて。
鍛錬をしに行って参ります、と告げても、幽々子さまはにこにこと笑うばかり。
少し怖いです。
鍛錬を――、と繰り返そうとした私を、指の動きだけで座るように指示します。
目が笑っていなかったため、私は幽々子さまの対面に座りました。
鍛錬って、雨にでも打たれて来るつもりなの?
いえ、剣を磨いて参ります。
そんなに剣が好き?
いえ、幽々子さまを守るために。
その最中に私が襲われたら?
それは――。
私は沈黙するしかありませんでした。
その間にも雨は絶え間なく降りそそぎ、しとしと、ざあざあと瓦や雨樋を打ち付けています。
もしかしたら。
幽々子さまは私を論破することで、私をここに留めようとしたのかもしれません。
何故なのか、はよく分かりません。
しかし。
幽々子さまがにこにこと笑っているのなら、おそらく幽々子さまのしていることは正しいのだろう、と思いました。
それが単なる私の思い込みでも。
妖夢。
はい。
雨の日には、雨の日にしか出来ないことをやりましょう。
例えば。
こうして、呆、としているとか――。
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