風子の日々





 俺がそいつと出会ったのは、誰もいない放課後の空き教室だった。
 そいつは危なっかしい手つきでナイフを振りかざし、木彫りの星っぽい何かを必死で彫っていた。そりゃあもう黙々と。
 名前は伊吹風子。なんかそれっぽい名前だ。背はちっちゃく、踵落としが決めやすい。試したことは無いが。
 自分で自分のことを風子というくせに自分が大人だと言い張る典型的な子どもである。むしろまともな会話が成立していない時点で未熟児といっても過言ではないかもしれない。いや、きっと過言ではないだろう。
 とまあ、そんな訳で俺と風子は若干の付き合いがある。
 今日も今日とてこいつは星型のナニモノかを彫り続け、出来上がったそれをそこいらの生徒に配り歩く。何でも、この学校にいた風子の姉が結婚するとかで、みんなに結婚式に来てもらうために配布して回っているのだ。
 それだけ聞けば健気な心意気として素直に共感できるのだが、その、木彫りの星型は実をいうと星ではなく、海中生物たるところのヒトデであったりする。
 海の星と書いて『海星』。英語でいうところの『スターフィッシュ』。ナマコ、ウツボの次に海で踏みたくない生物ベスト3に入る。
 で、それを配っているのだ。この伊吹風子という少女は。


「風子」
「はい?」
 手招きすると、ちょこちょこ近付いてくる風子。手にはいつものように水陸両用ヒトデ。でも木製だから水に浮く。だから意味ない。
「なんですか岡崎さん。風子、こんなところで時間を潰している暇は無いのです」
 岡崎さんと違って、という言葉も忘れない。こいつ黙ってるとそこそこ可愛いのにな。まあ、でなければ風子じゃないが。
「どうでもいいけど、風子って峰藤子に似てるよな」
「褒めたって何も出ないです。ですが、このプロポーションを目の当たりにして、かの有名な美女を思い浮かべてしまうのも無理からぬところではあります」
「名前だけな」
「……岡崎さんは失礼です」
 いっぺん死んでください、と付け足すのも忘れない。最近、言葉遣いが辛辣になってきた気がする。コミュニケーションがうまくいかない割に妙な言葉知ってるからなこいつ……。
「用がないなら、風子行きます」
「あ、ちょっと待て」
 肩を掴んで止める。
「なんですか。いくらこの愛らしいヒトデに心を奪われているとはいえ、働かざるもの食うべからずです」
「意味わからんし、いらん」
「素直じゃないです。そろそろ家にあるヒトデが尽きるはずです」
「捻くれてるのは認めるが、そもそもヒトデに困るような生活はしてない」
 正確には、日常生活にヒトデを必要としていない、ということだが。
 俺が言った言葉の意味を理解してないのか、風子はほけーっと放心している。
「どうした。ついに単三電池が切れたか」
「違いますっ。風子、そんなちゃちなエネルギーで動いてません。どちらかというと、100万馬力です」
 ウランちゃん並なのか。確かに、原子力を積んで走り回っているかのごとく傍迷惑な存在ではある。
「そうではなくて……。岡崎さんは、尽きることのないヒトデまみれの生活を送っているということですか。常時接続ですかっ」
「一秒間に8メガの通信速度でヒトデに接続できる……」
「んーっ、うらやましいですっ!」
「んなもんは存在しねえ」
「ないんですか、それはショックですっ」
 大体ヒトデに接続ってなんだ。
 こいつと会話してるとやたらと疲れるな……。退屈はしないが、こっちがついていけない。100万馬力は置いといても、エネルギー過多なのは確かなのかもしれない。
 ともかく、本題に入るとしよう。
「俺がひとこと物申したいのは、そのヒトデをモチーフとした彫刻……みたいな物体のことだ」
「このハイパーヒトデDX−FUKOモデル−がどうかしましたか」
「んな大層なもんじゃないだろ」
「風子の血と汗と涙が染み込んでます」
「怪我しまくってんじゃねえかよ」
 あっ、と声を漏らす。反射的に言ったはいいが、墓穴を掘ったことに気付いたようだ。
 露骨におろおろし始める風子の後ろから、見慣れた人影が現れる。
 百里先でもわかる、あのヘタレオーラは……。
「よう」
 『ザ・ヘタレ』の春原陽平だった。
「誰がヘタレだっ!?」
「反応してる時点でおまえだ。つーか地の文に突っ込むな」
「……?」
 風子にそんな奇抜な能力はないようで、俺らのやり取りに首を傾げている。それが正しい反応だろう。
「おまえからも言ってやれ。風子の彫刻には自己満足しかないとな」
「何がだよ?」
 よくわかってない春原のために解説してやる。
「つまりだ。風子は自分が可愛いと思っている木彫りのヒトデを配膳している訳だが」
「給食みたいに言わないでほしいです」
「……だが、他の連中にとってはヒトデなど百害あって一利なし、海岸で踏んづけたくない海洋生物ランキングで常に上位をキープしているような生ものなど見向きもしないだろう。つまり、需要と供給のバランスがあってない訳だな」
 と、ここまで一気に発言したら、春原他一名が驚愕に満ちた表情をさらしていた。
 なんか知らないが、非常に失礼な予感。
「……何なんだおまえら」
「お……岡崎が、難しい言葉を口にしている……!! 世界が破滅する!!」
「てめえには言われたくねえ!」
「まずいですっ! ハワイが三日後に九十九里浜に接岸するくらいぴんちですっ!」
「その危機意識はなんか間違ってるぞ」
 俺が頭良くなるとプレートが急発進したりするのか。
 気を取り直して、話を続ける。その間も、風子は手持ちのヒトデを振り回して祈祷めいたことを行っていたが、そのうち恍惚の表情を浮かべては勝手に活動停止していた。チョロQかおまえは。
「要するに、ヒトデの他にもっと客受けするようなもんを作ったらどうだという話だ」
「岡崎さんは……、風子に死ねと言うんですね」
 死ぬんかい。
「あ、だからヒトデと接続してないと駄目なんだな。……って、なんだそれ」
「……もう駄目です。撤回不可能です。そんな薄情なことを言う岡崎さんの家系を七代たたります。それで生まれてくる子ども全員にヒトデのぼつぼつを生やしてあげます」
「気色わるっ!」
「……んーっ、素敵ですっ!」
「嬉しいのかよ……。それなら春原の家系に生やしてやれ。全裸になって喜ぶから」
「喜ばないよっ!」
「あ、でも芽衣ちゃんには迷惑だから春原には不死の呪いを掛けつつヒトデの突起を」
「わかりましたっ」
「出来んのかよっ! ていうか不死の呪いって何だよっ! 意味わかんないよっ!」
 春原つっこみ三連発。それも空しく風子にヒトデを擦り付けられて(たぶん呪いを掛けられて)いる姿を見て、さすがはヘタレマスターだなあと感心する。
「だから誰がヘタレキングだっ!?」
「ランクアップしてるからな」
 春原は今日も元気だ。特に脳内が。
「……さて、結局春原はヘタレだとわかったところで」
「結論すりかわってるよっ! ヒトデだろヒトデ! というか僕は手裏剣としか思えないんだけど」
「手裏剣じゃないです、これはヒトデです」
「どこがだよ。ほれ、貸してみ」
「あっ、プチひとさらいです!」
「人じゃないだろ。せーのっ……」
 ぷぅん、と思いのままにヒトデ手裏剣を投じる。しゅおんしゅおんと唸りをあげながら、人気のない廊下の角まで一直線に飛んでいく。無駄に身体能力の高い奴だ。
 春原がしたり顔で風子に目をやると同時に、廊下の向こう側から景気のいいすこーんとでも評すべき快音が木霊する。
「どうだい? これでも手裏剣じゃないと言い張るのぎゃっ!?」
 手裏剣の投じた方向とは逆向きに、床と水平の角度を保ちながら飛んでいく春原陽平。……うむ、顔面に突き刺さっていたのは紛れもない漢和辞書である。つまり、魔弾の射手は春原の同一線上に存在している訳だ。
 廊下に死角なし。ここにいるのは人間のみ、しかしその内側に飼っている獣は多種多様。風子ならばヒトデ、春原ならヘタレ虫というように、その人物にも獣の衝動は備わっているらしい。ちなみに俺は秘密だ。
 そして俺は覚悟を決める。そして、その方角を見据えた。
「やはりおまえか……。藤林、杏」
 佇んでいるのは、前頭部の額らへんを赤く腫らした少女。醸し出す雰囲気、いわゆる殺気というやつは吹きすさぶ熱波となって、廊下に存在していた平穏を破壊する。
 怒っている。あれはもう、なんつーかどうこう言う隙間なく怒っている。
「ヒトデ……」
 風子はヒトデを失って放心状態に陥っている。春原は反対側の壁に叩きつけられて見るも無残な格好になっている。たぶん内側からヘタレ虫が湧いてきてニュー春原に進化している途中とみた。
 その藤林杏という人物は風子に軽く手を挙げて挨拶の代わりとし、俺にはどこからか取り出したことわざ辞典を振り上げることで挨拶の代わりとした。
 うむ。やはり容赦ないな。
「って、ちょっと待て! 今のは春原の独断で俺は関係ないっ!」
「問答――無用!」
「ぐふぉっ――――って、あれ?」
 一応、先走って悲鳴をあげてみたお茶目な俺の健闘もむなしく、例の辞典は俺の側頭部に届かなかった。おそるおそる、閉じていた目を開けてみる。
「……岡崎さんは」
 そこには、懐から取り出したらしいハイパーヒトデDX−FUKOモデル−を盾にして、杏のことわざ辞典を受け止めている風子の姿があった。
 その目はいつになく澄んでおり、罪を犯そうとする者の心を鋭く貫く。
 ……うん。なんかヘンな展開になってきたぞ。
「岡崎さんは、確かにヘンな人でどうしようもなく最悪かつ失礼極まりなく、むしろ変態のカテゴリーに属しても違和感ない存在ではありますが」
 ひでえ言われようだ。
「――ですが。何もしてないのに殴られるほど、罪深い命ではないはずです。違いますか?」
「それは……、違わない、けど」
「でしょう。それなら、辞典を引いてくれると風子は嬉しいです。重いですし」
「……わかったわよ。今のは確かにあたしが悪かったわ」
 もっと粘るかと思いきや、そこは学校で三本の指に入る漢らしい女・藤林杏。風子のいつにない男気に感じ入ってか、手にした辞典をヒトデから離す。
 どうでもいいけど、杏の辞典を防ぐとはハイパーヒトデDXも伊達じゃないな。さすがハイパーでデラックスなだけのことはある。まあ何がハイパーでデラックスなのかはさっぱりたが。
「良かったです。あなたが話のわかる人で」
「そりゃあ、ね。あんたの目を見ればこいつに対してどれだけ真剣になってるか、嫌でもわかるってもんだし」
「……はい?」
「ま、気にしないで」
 いまいちよくわかってない風子に軽く手を振って、杏はその手に再びことわざ辞典を握り締め、廊下のその先へと進んでいく。
 彼女の目的は、言わずと知れた春原の――抹殺。これ以外にない。
 合掌。
「さて、話を戻そうか」
「ちょっと待ってください。岡崎さん、風子に何か言うことがあるはずです」
 いつになく真面目な顔で詰め寄る。こいつの場合、常に真面目な顔でボケをかますので如何ともしがたいのだが、今回はボケではなく素で何か感謝を求めているらしい。
 とはいえ、思い当たる節は……。ああ、そういうことか。
「さっきはどうもきょうのまのてからぼくをたすけてくれてありがとーございます」
「全然心がこもってないですっ」
「なんだよ、これじゃ不満だってのか。んじゃな――」
 ぎゅっ。
 試しに抱きしめてみた。
「……――っ! んーっ!」
「おーおー。そんなに嬉しいのか」
「――んはぁっ!!」
 闇雲に繰り出された風子の肘が、ものの見事に俺の顎を捕らえる。
 ――一瞬、地球が白に染まった。
「はー、はー……! ふーっ!」
 そう遠くないところから荒い息遣いが聞こえてくる。けれども色っぽいなどとはお世辞にも言えない、動物の本能に従った恐怖と威嚇である。
「……っ……。おまえ、ショートレンジでは割と無敵だな……」
 が、風子はそれどころじゃないらしかった。
「れ、れい、れれれ……」
「お出かけなのか?」
「違いますっ!」
 確かにホウキも持ってないしな。
「れ?」
「さ……最悪ですっ! 風子、岡崎さんにレイプされましたっ!」
「なにぃっ!!」
 初耳だった。
 が、それ以上に激しく嫌な予感が後方からっ!
「ぐぅ……おおっ!」
 身体をそらした直後、耳たぶを掠める飛来物体。それは紛れもないヒトデだった。
 海ではなく空に流れる星は、見ようによっては美しくもあり――。
「いづっ!」
 油断してると、至近距離からヒトデの一撃を受ける。
 ――初めのヒトデはフェイク。回避行動の直後はどうしても反射が遅くなる。そこを渾身の力を持って打ち据えたのだ。
 まあ、それはわかるんだが。
 お願いだから、ヒトデの出っ張ったところでコメカミを殴るのはやめてくれ。痛いっての。
「お……、おまえなぁ!!」
 ずきずきするこめかみを押さえながら、ヒトデの鬼の異名を持つ風子に向き直る。
 が、そこに乱入してきたのは藤林杏。春原の処刑は終了したのだろうか。
「ちょっと朋也! あんたなんてことしてくれたのよ!」
「酷いですっ! 岡崎さんに傷モノにされましたっ! ひいては責任を取ってもらいたいですっ!」
「慰謝料請求ならあたしに任せて! いい検事を紹介するわ!」
「式場は海の見えるリバーサイドホテルの最上階を予約してくださいっ! 屋上からヒトデたちによる海の星座を眺めるんですっ!」
「現行法だと50万以上懲役2年は固いし! 大丈夫、網走刑務所でも春は暖かいわ!」
「……おまえらなあ……」
 打ち合わせしたとしか思えないくらい意気投合していた。
「まあ、とりあえず落ち着いた方がいいぞ。春原みたいだし」
「む……。それは困るわね」
「風子、ヘンな人じゃないです」
 簡単に正気を取り戻した。春原効果、侮りがたし。
「で、たかだか抱擁程度でどうしてそこまで騒ぎ立てるんだ。こんなのアメリカじゃ日常茶飯事だぞ」
「ここはアメリカじゃないですっ!」
 正論だった。
「それに、風子は岡崎さんと家族の契りをかわした訳でもないですっ! 養子にだってお断りですっ!」
「あんたも嫌われたもんね……」
「元から好かれてもなかったけどな」
「そう?」
「そうだよ」
「それにっ!」
 ここが重要とばかりにびしっと俺を指差して、肩をふるふる言わせながらも強気に宣言する。
「岡崎さんは、まだ風子の恋人じゃないですっ!」
「…………」
「…………まだ?」
「……はっ!」
 気付いたらしい。
 杏がにやけた面で覗き込んでくるが、俺から特に言うこともない。当の風子はうろたえたままにしておく。放置プレイだ。
「……あ、そうですっ! 恋人ではなくて変人です、風子思わずケアレスミスを犯してしまいましたっ!」
「珍しいミスね」
 変人に関しては無視するらしい。
「細かいことをあれこれ言うのはよくないですよ、旅の勇者」
「違うけど……」
「じゃあ、フードファイター」
「いや、別に戦ってないから」
 似たようなもんだと思うが、追求するのはやめておこう。
 それよりも、冷静な顔して目が泳いでいる風子と、そんな俺らを見詰める杏の興味津々な視線をどうにかすべきだろう。どうすればいいのかは全然わからんが。
「では、ヒトデマスターということで」
「戦わないっての」
「そうだぞ風子。こいつはヒトデマスターというより春原遣いだから」
「いらないってのよ」
 ……哀れ春原、せいぜい使い捨てがいいところだった。もう一人の春原遣いとして、春原“ペットボトル”ミサイルと名付けてやろう。
「……ふーん。こいつが変人ってわかってるのに、よくまあ……」
「ヘンな人に罪はありません。ヘンな行為に罪があるのです。それに、岡崎さんはたぶん前世が極悪人だったんです。下着泥棒とかオレオレ詐欺とか」
「あー」
「納得すんな」
 その時代にオレオレ詐欺は存在しない。
 それにしても、俺が変人であることには相違ないらしい。悲劇だ。
「……まあ、仲良くやんなさい」
 薄く笑みをこぼしながら杏が去っていく。結局、最初から最後まで暴走していた印象しかないという、思春期にあるまじく空騒ぎな少女であった。
 颯爽と歩いていくその後姿を呆とした顔で眺めながら、風子が一言。
「……格好よかったです。北の最終兵器さん」
「イゴールかよ。つーかよく知ってるな」
「あの女性こそ、次世代のヒトデを担う人材……」
「なんだそれ。養殖でもしてんのか」
「……岡崎さん、さっきからぶつぶつうるさいです。風子の邪魔をしてそんなに楽しいんですか」
「凄く楽しいぞ」
「最悪ですっ!」
「うそうそ。実は腹がよじれるくらい悲しい」
「たとえが間違ってますっ!」
 くー、と頭を抱えて苦悩する風子。なんだか芸風が春原に似てきたなあ。気を付けなければ。
 風子はしゃがみ込んだままなかなか復活しない。ちょっと悪ふざけが過ぎただろうか。
「……最悪です。ぷち最悪極まりないです」
「ランク付けがよくわからんが」
「つまり、岡崎さんはヘンな人です」
「結局それかい」
 さして意味があるとは思えない、むしろループしている感さえある無駄話の連続。
 他愛のない話とはいえども、こうして笑えるやり取りが出来る幸せ。ついこの間までは春原と杏しかその域に達していなかったのに、風子は何の躊躇いも容赦もなく俺の制空権に飛び込んできた。
 そして同時に、俺の目に光り輝くヒトデを焼き付けたのだ。
 ……最後のはよくわからんな。
「風子」
「なんですか。下着泥棒さん」
「それ前世だろ」
 正確には前世でもない。
「風子、とてつもなく下らないことで時間を潰してしまいました。南海の黒豹に会えたのが唯一の収穫です」
「レイ・セフォーかよ。おまえ微妙なとこ突いてくるな」
 やたら詳しいのは誰の影響なんだろう。つーか公子さんしかいないんだが。
 ……話が全然進まない。ボケにボケを被せると話が終わらない典型的な例だ。
 仕方ないので、ヒトデを抱いたまま駆け出そうとする風子の肩を掴む。
「わっ」
「風子……。俺は、おまえに言いたいことがある」
「なんですか。レイプ魔さん」
「……だからさっきのは悪かったって」
「ですか。それなら全校放送で告知するのだけはやめてあげます」
 末恐ろしい奴だ。
 ともあれ、会話が途切れたところでついに俺は言うべき台詞を口にする。元よりこれが言いたくて風子を呼び止めたはずなのに、いつの間にやら長い時間が経ってしまった。
 それもこれも、風子と話をするのが楽しいからだ。きっと。
「おまえさ、ヒトデが好きでヒトデを配ってるのは理解できるが」
「はい」
「ヒトデはやめとけ」
「ぎゃふんっ!」
 古いし。
 ……公子さん、あなた風子にどんなことを教えてるんですか。
「何故ですかっ! どうしてヒトデに人権を認めてはくれないんですかっ!」
「人じゃないからだろ」
「ヒトデは奴隷じゃないんですよっ!?」
「まあな。まず言うこと聞かないし」
「んー、岡崎さんじゃ埒があきませんっ! 責任者を呼んでくださいっ!」
「それは俺も知りたい」
「ところで埒ってなんですかっ!」
「知らねえよ」
 ああ、なんていうか、風子は――。
 面白い。
 という気持ちが何を意味するのか、相方を探している芸人でもない俺にはこれを運命と呼ぶ気にはなれない。ただ、風子が『まだ』と口走ったように、俺の中にも『まだ』という感情が確かにある。
 今はまだ、俺はこの楽しい場所で生きていたい。
 一度始まったら終わることのない、無限とも永遠とも怠惰ともいえる心地よい螺旋階段の中で生きていたい。
 そうすることが出来たら、それはなんて――。


「ではお聞きしますが、ヒトデでなければ何が世界を救うと言うんですかっ」
「それは――――――――愛、だ」
「あっ、たった今ユウスケさんの生霊を確認しましたっ!」


 ――なんて、素敵なことなんだろう。
 だから『まだ』、今はこのままで。
 情けないと愚痴りながら、現実の中で夢を見ていたい。





−幕−







・書き始めたのが初のCLANNADSS。
 だらだらとネタを書いていたかっただけです。反省はしてません。
 いい加減、ちゃんとしたオチのある話を書きたいとは思いますが。



SS
Index

2004年9月27日 藤村流継承者

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