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 私が蓮子に挨拶した時から、彼女は何やら態度がおかしかった。
 まあ蓮子の態度が波乱万丈なのはわりと長い間付き合っていればおのずと分かるところだが、今日のそれは普段の横行闊歩ぶりとは種類が異なっているように思えた。
 近付こうとすると避けられる。
 触ろうとすると拒まれる。
 話し掛けると頬を染められる。
 そのくせ、構内のカフェテラスで一服する時など、対面ではなく隣に座りたがる。
 なんだか気色悪いので無理やり対面に座らせたが、蓮子は始終私の顔をちらちらと見るばかりでなかなか紅茶に手を付けなかった。折角なので、冷める前に私が飲んでやった。それでも全く反応がないのだから相当重傷である。
「じゃあ、サークルはどうするの?」
 調子が悪いのかみょうちくりんな病に侵されているのか、いずれにしても気持ち悪い状態になっている蓮子に代わり、私の方から話を進める。
 秘封倶楽部は当日の活動内容を当日決めることが殆どだ。県外に出ることを除けば、市内を散策したりカフェテラスで駄弁ったり、適当に立ち読みしたり女子トイレの落書きに共通する暗号を探したりなど、一貫性のない活動内容が日々無駄に展開されている。
「うん、今日はね……えと、メリーの部屋に行ってもいい?」
「いいけど……なんでもじもじしてるの」
「別に……なんでもないけど」
 股の間に両手を差し込み、乙女のように振る舞う蓮子は本当にらしくないと思う。けれども本当の自分などというのは私に言わせれば都合の良い幻想である。蓮子にも多少なりとも女の子らしい側面があるのだろうから、今日は何らかの理由でその面が主人格に躍り出たのかもしれない。
 確かに普段から破天荒な行動をしている蓮子だが、黙ってじっとしていれば凛々しく格好良く美しい立ち振る舞いをしている。自己主張の激しい流麗な眉と多少釣り上がった眼は、それだけで中性的な美を備えているのだし。
「蓮子」
「……ん、なに?」
 小首を傾げる蓮子の頭から、お気に入りらしい帽子が滑り落ちそうになる。慌ててその位置を直す仕草が非常にぎこちなく、口の悪い者ならば狙っていると揶揄してもおかしくないくらいである。
「あなた、本当に大丈夫……?」
「何よ、そんなに変に見える?」
 ちゅー、とストローでオレンジジュースを啜り、上目遣いに私を見る。
「……はぁ」
 担がれているのならば、それでも構わない。
 ただし、その場合は多少痛い目を見てもらうことになるだろうけど。

 

 

 講義も終わり、私は相変わらず女らしく振る舞っている蓮子を引き連れてアパートに帰った。
 リビングに通してからもまごまごと落ち着かない蓮子だったが、私がお茶を出すとだいぶ平静さを取り戻したようだった。いやしかし、蓮子がここまで我を見失っているのも珍しい。動画として残すべきだろうか。別に良心が訴えないから構わないと思うのだがどうだろう。そしてそれを後々蓮子に見せてぎゃーぎゃー言わせる、というのが私たちの青春である。
 悲しくなってきた。
「メリー……あのね」
 あのねと来た。
 上目遣いは変わりないが、以前よりも真剣度合いは増しているように思う。黒い澄み切った瞳は暗く沈んでおり、常に前を向き、下を向くときは自販機の下に潜り込んでいるであろうお釣りを探すとき、という徹底ぶりの宇佐見蓮子から考えれば、全く信じられないことである。
 あと私のスカートの中を覗き込むときもそうしますこいつ。
 面白いからなんだろうな、絶対そうだ。
「あの……驚かないで聞いてね」
 ドッキリかな。違うかな……。
 どっちでもよくなってきた。
「まあ、多分滅多なことでは驚かないから安心して」
 蓮子にさんざん鍛えられたし、と軽く上腕二頭筋を叩く。それを見てくすくすと上品そうに笑う蓮子は、ぱっと見どこかのお嬢さんに見える。
 が、その実体や如何に。
「メリー」
「はいはい」
 適当に聞き流すつもりもないが、どうしても冗談めいた雰囲気が拭い去れない。蓮子もその空気を敏感に感じ取っているようだが、それより先に告白を優先するらしい。
 私は、彼女の言葉を待った。
 その間に、お茶を何度が飲んだ。「あの」やら「えと」やらを繰り返す間に結構おなかは膨れている。
 今回もまたそんなかな、と湯呑みを傾け。
「えと……」
 そして。

「メリー……わたし、おちんちん生えちゃった」

 リバースお茶。

 

 

 この夢どうしたら覚めるのかなー、蓮子を殺せば何とかなるかなー、と極度の錯乱状態に陥っていたが、蓮子がさっきと打って変わってけらけらと可笑しそうに笑っているのが無性に悔しかったから、ひとまず蓮子にドロップキックを喰らわせることで痛み分けとした。
「さて、メリー……私たちは、これからのことを考えなければならないわ」
 秘封倶楽部として! と明後日の方向に突き出すその人差し指を明後日の方向にへし折ってやろうかと思った。
 だが、当の蓮子は至極真剣であるらしい。瞳を見れば分かる。
 彼女は私のベッドに堂々と腰掛けており、スカートを翻しながら脚をぶらぶらさせる仕草は全くもって普段通りの宇佐見蓮子で本当に清々しい限りである。悲しいことに。いやここは喜ばしいことにでいいのだろうか。
 なんだかよくわからなくなってきた。
「あの、蓮子さん質問いいですか」
「どうぞマエリベリーさん」
 質問を許されたので、小さく咳払いをひとつ。
「今朝から二分前までの、なよなよした態度は一体何なんですか」
「ノリです」
 だそうです。
「うん、包丁持ってくるからちょっと待っててね」
「死ぬからやめてね」
「はさみでもいいかなあ……すりこぎとか……」
「冷静に吟味するのもやめて」
 真剣に諭されたので自重します。
 冗談なのに。
 まあ一割くらいは本気だったけど。
「でも、最後のは本当だから」
 蓮子は言う。至って真剣に。
 彼女が言う「最後」とは、あのテーブルをお茶で汚した問題発言を指す。私はたったいまテーブルの掃除が終了し、安堵の息を吐いていたところだった。乙女と言わずとも女性にあるまじき芸人精神で泣きたくなった。
「嘘に決まってんじゃない」
「じゃあ本当だったらメリー犯しちゃうよ?」
 にこにこと笑いながら暴言を吐く。
「……待て」
 まあ待て。
「うん。私はいくらでも待つわよ」
 悠然と構えている蓮子のスカートの中を想う。
 背中がじっとりと汗ばんでいる。嫌な汗だ、出来れば掻きたくない類の汗である。顔が強張っているのが分かる。頬が引きつっているのが分かる。今の私はかなり不細工だからそれを撮られると後々の渉外に大きく関わってくる、というか蓮子は私が躊躇ったことをすぐに行うから困りものである。
 ちなみに私はそれを許さない。携帯電話と言う名のカメラは没収。
「じゃあいいわよ、こっちで撮るから」
 自前のカメラも没収。構えた時点で既に負けているということを知らないらしい。愚かである。
 蓮子の品をその辺に放り投げ、私は蓮子の真意を噛み締める。
 他愛もない冗談ならば、手打ちをすれば済む。けれども真実だった場合はどうか。避けられぬ運命、ならば切り開くのみか。しかしてそれは開くべき道なのかどうか。周囲に薔薇や百合やススキや彼岸花が咲いてやしないか。上空2000mに張られている綱を渡るようなもんじゃないのか。
 天国と言う名の地獄行きである可能性は否定できない。
 悩みどころだ
 というよりも、明らかに悩むところを誤っている。
 女性として、大学生として、人間として。
 泣きたい。
「うぅ……もうやだ……」
「どしたのメリー。悩みごとがあるなら何でも言ってね」
「あんたのことで悩んでんのよ!」
 湯飲みを投げ付けたら綺麗に受け止められた。いつも通りである。
「……話を戻すわよ。あんまり戻したくないけど」
「うん、私におちんちんが生えちゃってー」
「軽いわ!」
「こんなの重く言ったら死にたくなるでしょ」
 ね? と明るく笑いかける。蓮子が元気そうで私はとても嬉しい。それと反比例して私はとても具合が悪い。寝たい。
 ぐったりと項垂れる私を見かねて、蓮子はベッドから降りて即座にカーテンを閉める。空は赤みが差しており、ベージュのカーテンに掛かる橙の夕焼けが綺麗に映えていた。
 それから、彼女は私の隣にちょこんと座り、ぽんぽんと優しく頭を叩く。子ども扱いされているみたいでくすぐったいけれど、少しは落ち着いた。
「メリーは繊細ねー」
「蓮子が肝据わってるのよ……」
 からからと笑い、私の呼吸が整うのを見計らってよっこらしょと立ち上がる。
 何をする気かと思っているうちに、蓮子の手はスカートのチャックに掛かっていた。嫌な予感がする。私の勘は当たるのだ、主に負のベクトルに関しては抜群の的中率を誇る。
「蓮子……あなた、まさか」
「こうなったら、もう証拠を見せた方が早いと思って。私も、メリーを無理やり犯すのは本意じゃないし」
「そこかよ」
 問題はもっと別のところにあるだろう。気付いてお願い。
 けれども言葉にならない私の想いが蓮子に届くはずもなく、蓮子はするするっと恥じらいもなくスカートを下げた。
 今更になって、彼女がカーテンを閉め切った真意を知る。
 準備万端かよ。
「……うあ……」
 私は見た。
「……いやぁ、でも、ちょっと恥ずかしいね」
 蓮子の下着が、こんもりと盛り上がっている様を。
 無論、股間にキュウリを隠してました! というアバンギャルドな根拠でもない限り、あの部分がもっこり盛り上がることはまずない。
 というか、蓮子さん。
「……ふ、ふく、ふくらんでる……」
「……う、うん。そうだね」
 照れ臭そうに笑う蓮子は、あろうことか雄々しく勃起していた。
 その証拠に、先っちゃの部分がちょろんと下着からはみ出している。白い小さなリボンが滑稽に思えるほど、蓮子のもにょもにょは健康的なピンク色をしていた。若干赤みが差しているのは興奮しているせいか。
 そうこうしているうちに、蓮子のアレは徐々に膨らみ、下着からはみ出るスペースも増える。
「……ふあ……」
 私が何も出来ないままへたり込んでいるうちに、蓮子のアレはその先端が大きく下着からはみ出していた。
「……脱ぐ?」
 蓮子の提案を速度に退けなかったのが運の尽きか、私がぶんぶんと首を振っても、蓮子は既に下ろす気まんまんだった。
 だが、私はその前に聞いておかなければならないことがあった。
 むしろ、質問だけで夜を明かす自信がある。
「蓮子、蓮子ちょっと待って!」
「でも随分待ったよ?」
「そうだけど! とりあえず座る、座るの! 座れ!」
 後半は命令口調になったが、半裸の蓮子を座らせることに成功した。いつの間にか、ブラウスのボタンも二個ほど外している。
 何だか非常にまずい流れだった。
「あのね蓮子、私にはとても気になっていることがあるの」
「これのことね」
「あの、お願いだから、私の手をそっちの方に持って行くのやめぇー!」
 危うく蓮子の勃起したものに手が触れそうになり、慌てて彼女の手から逃れる。座らせて幾分か落ち着きを取り戻すかと思いきや、股間のモノと私との距離がよりいっそう縮まったことで蓮子の欲望の列車にも拍車が掛かっているようだ。
 蓮子は先程からぽーとしており、頬も赤けりゃ額も赤く、瞳もとろんと緩み切っていて、呼吸もやや荒いとくれば、もはや発情期真っ盛りと言っても過言ではない。
 メリーは確信した。
 蓮子が「犯す」と告げたことは、決して気の迷いではなかったのだと。
「あの、蓮子はどうして平気なのかしら、その、変なのが付いてるのに……」
 とにかく、いくら親友と言えども勢いのまま犯されるのは性に合わないので、時間を引き延ばすことを優先する。その中に、事態を収束させる糸口があると信じて。
 蓮子は、熱に浮かされたような口調ながらも、丁寧に説明する。
「うん。朝起きたら、何だか違和感があって。それで、確かめてみたらこんな具合に」
 みずからの手を股間に伸ばし、恥ずかしげもなくきゅっと握ってみせる。段々と羞恥心関連が削ぎ落とされているようだ。
「でも、女性の大事なところもあるし、問題はないかなと」
「あるわ! 例えば今!」
 今そこにある危機だった。
「……あ、うん。そうね、そうなのよねえ……」
 言い淀み、迷いながらも私の顔を窺う。探るような、舐めるような視線に恐怖を覚え、また背中に嫌な汗を掻く。
 身体が火照っている蓮子が羨ましい。
「ちょっと話は変わるけど、おちんちんが生えた理由はともかく、そうなった以上は男性ホルモンが影響してると思うの。そのせいかまだよく分からないんだけど、メリーが朝から可愛くってしょうがない」
 いきなり何を言うかこの女は。
 この上なく真剣に、びんびんに屹立している男性器をそのままに、彼女は熱っぽく語り続ける。私はどうするべきなんだ。逆に押し倒す場面なのか、それとも平手で引っぱたくシーンなのか。
 その前に、可愛いと言われたことを否定すべきじゃないかとも思うのだが、どうやら機を逸してしまったようだ。恥ずかしい。
「女の人の肌、髪、匂い、声、表情、立ち振る舞い……そういうものに、敏感に反応しちゃうのよ。それにメリーの部屋、ちゃんと女の子の匂いがする。この前は、ほとんど意識してなかったのに……」
 男の立場になって、初めて分かることがある。
 蓮子は、それを直に感じている。
 けれども、私の髪の毛をくんくんと嗅ぎ回るのは如何なものかと思う。
 あんたは犬か。
「ちょ、れんこ……やぁ、くすぐったい……」
「メリー、いいにおい……」
 肩を掴まれ、頬を寄せられて、髪の毛に鼻を擦り付けられる。無論、肉薄しているが故に蓮子の――蓮子の、ペニスも私の肌にしっかと食い込んでいる。スカートの上から、太ももにぺったりとくっついている蓮子のペニスは、やたらと熱く猛り狂っていた。太ももが火傷するかと思った。一定の間隔でびくびくと跳ね、それが私の身体の中に浸透していく。
 徐々に、私の身体にも熱が生まれる。
「んぅ……メリー、かわいい……」
「やめてよ……そんなこと言われると、変な気持ちになるから……」
 蓮子は自分の頬を私の頬に擦り付けながら、猫のようにごろごろと唸り始める。気持ちよさそうな声が、私の中に根付いている熱と掛け合わされ、すべすべした蓮子の肌の柔らかさに何も考えられなくなる。
 流される。
 けれども、不思議と恐れは感じなかった。
 不埒な欲求だとしても、蓮子であるという安堵が心を占めていたからかもしれない。
「ねえ、蓮子……」
「うん」
 太ももに擦り付けられた蓮子のペニスは、ずっとぴくぴく脈動している。そこだけ別の生き物のように蠢く肉の棒が、おぞましくもあり、興味深くもある。
 私の顔をぺたぺた触り続けていた蓮子も、私の方が尋常じゃないくらい赤く火照っていることを知るや、名残惜しそうに話を聞く体勢に戻った。
 それでも、瞳に宿る官能的な情熱の火は消えない。
「それ、もしかしたら、気持ちよくなると……その、発射するタイプ?」
「……たぶん」
 こくり、と可愛らしく頷く。
 私もなんてことを聞くのか。大事なことには変わりないにせよ、質問内容から推測するとあなたに全てを捧げますみたいな感じになっている。
 流されても、確固たる意志は持たなければ。私は活を入れる。
「た……試したことは、ないのよね」
「試そう、とは思ったんだけど……」
 口ごもり、気恥ずかしげに俯く。
 蓮子の引き気味な態度が珍しく、つい彼女の顔を覗き込んでしまう。びくん、と私の行動に律儀に反応する蓮子のモノが、初めて可愛いと思えた。
「でも、やっぱり……」
 不意を突いて、蓮子が私の手を握り、それをみずからの股間に誘導する。ふわりと載せられた手のひらが、下着の内側から表に出たがっている勃起を期せずして包み込む。
 蓮子は言った。

「最初は、メリーに抜いてもらいたかったから」

 だめだ。
 吐息混じりに、かすれた声で上目遣いなんて、ずるい。
 そんな、倒錯した台詞を言われたら、この雰囲気に屈してしまう。私が私を保つこともままらならない。それは嫌だ。
 蓮子が私を無理やり犯すことを望まないように――とかこの台詞も何とかならんのか――、私も済し崩しに蓮子と関係を持ちたくはない。
 すっきりさっぱり、責任の所在は明らかにするべきである。
「……れんこ、ありがとう、て言っておくけど……その、私はね、こういうことするのには否定的な立場にあるの。分かる?」
「うん、何となく」
「いや何となくじゃなくてもっとしっかり分かってもらいたい」
 じゃないといろいろ危険だから。
「……うん、分かってる。私も、メリーの嫌がることはしたくないのよ」
 蓮子の声はわずかに上ずっていて、緊張しているようにも、興奮しているようにも取れる。ただ、私は何となく前者だと思った。
 いくら蓮子でも、この異常をありのままに受け止められたはずはない。
 告白することで、嫌われてしまったら。避けられることになったら――。
 その堪え難い苦しみを、抱えていないはずがなかったのだ。
「だから、メリーが言うんなら、このまま帰ってもいいと思ってる」
 ちょっと辛いけどね、と私の手の甲に手のひらを重ねる。ぴくぴくと響く熱の上に重ねられた体温は、いつか手を繋いだ時と同じような、蓮子の温かさそのものだった。
 こう言えば、欺瞞になるかもしれないけれど。
 異質な形を成し、不埒な熱を生み出してさえ、全ては蓮子の一部なのだ。手の甲に感じる体温も、心の臓に響く脈拍も、手のひらに染み渡る肉棒の脈動も、どれもみな蓮子の熱き血潮に由来する。
 恥ずかしさも情けなさもある。ただそれは蓮子も噛み締めているものだ。だからそれらを共に感じ、共に分かち合えば、後ろめたい感情も半分にすることが出来る。
 蓮子は嘘を吐くような人間じゃない。
 信じる。
 顔から火が出そうだけれど、私は蓮子を信じたい。
 私は、手のひらを突いて来る怒張を軽く握り締めた。
「ひぅ……!」
「蓮子、これちゃんと洗ったわよね……て、そんな余裕ないか……」
「メリー……」
 切なそうに啼き、蓮子は私を見下ろす。
 私は、蓮子の下着に手を掛け、覚悟を決めて一気にずり下ろした。ひゃ、と可愛らしく悲鳴を漏らす蓮子は無視して、立派にそそり立つ男根を確認する。
「……うあ」
「……ご、ごめんなさい」
 言葉も出ない私と、何故か謝罪する蓮子。
 男性器の平均的なサイズなど知る由もないのだけど、蓮子のそれは覚醒した状態と言えどもなかなかのやんちゃ振りを発揮しているのではないかと思う。
 よく見れば、男性器の下にちゃんと女性器も存在しており、中途半端に開いている蕾に触れたら激しく啼かれた。こっちも弄ってあげればもっと気持ちよくなるのかもしれないけれど、その余裕が出来るかどうかはまだ分からない。
 前屈みになり、彼女の股間に生えている逸物を四つんばいで眺めている私は、さぞかし珍妙な格好をしていることだろう。私もそう思う。
 ウェーブがかった金髪が蓮子のペニスにふわふわと被さり、そのたびに蓮子は目を瞑る。きもちいいのかな。だったらいいのだけど。
「蓮子」
「……うん」
「これ、抜いたら元に戻る……と思う?」
 わかんない、と蓮子は首を横に振る。頬に掛かる茶色混じりの黒髪が艶かしく、カーテンを染め抜く紫の閃光も淫靡な雰囲気を助長しているように思えた。
 けれども私は、純然たる己の意志で蓮子に申し出た。
 恥ずかしかったけど。

「……仕方ないから、抜いてあげるね」

 蓮子は何も言わず、ただうっとりと目を細めた。
 約束した以上、義務は履行しなければならない。期待に満ちた目で見下ろされていることを知りながら、私は手の中でじんじん疼いている肉棒を感じていた。
「あんまり上手くないけど、それでもいい?」
「……いいよ。メリーがやりたいように、好きにしてくれたら」
 このまま肉棒に触れているだけでも絶頂に達しそうだけれど、それは余りにも酷に思えた。蓮子が私を選んでくれたのなら、私もそれに足る働きをしなければいけない。
 私は、彼女の股間にぐいっと顔を近付けた。
「メリー……あんまり、無理しなくたって……」
「いいの。蓮子がきもちよくなれば、私も嬉しいから」
 弱音を吐くことが多くなった蓮子に活を入れる意味も込めて、私はペニスの先端をぺろっと舐めた。
「ひくぅ……!」
「きもちいいでしょ……? だから、蓮子はじっとしてて」
 不安なのは蓮子も一緒だ。そう思えば、男根に口を付けるのも我慢できる。塩っぽい味がしたのは一日の汗を掻いているからだろう、それ以外にも嗅いだことのないつんとする臭いも感じるけれど、蓮子のだと思えばある程度は堪えられる。
 ……かなあ。
「れるぅ……ちゅ」
「あぅ、ふぁ……んぅ、あふ……」
 肉棒の根元を掴み、ぷっくりと膨れ上がったピンク色の先端に口付けをする。ぺろぺろと張りのある亀頭を舐めていると、蓮子の口から色っぽい喘ぎ声が次々にこぼれてくる。それが普段の蓮子からは考えられないほど健気で、女性らしく、儚い響きとなって私の耳に吸い寄せられるから、私もつい夢中になって蓮子の剛直に舌を這わせてしまう。
「くぅ……め、めりー、もっと、別のところも……ひく、ひぅん!」
 先っぽだけを丹念に刺激され、蓮子も溜まらず身体を仰け反らせた。綺麗な髪の毛がはらはらと舞い、また蓮子の頬に落ちてくる。
「へぇ、そんなにきもちいいんだ……」
「メリー……あんまり、意地悪しないで……」
 根元に添えた手のひらを、小刻みに上下に動かす。私がひとつ動くたび、蓮子も律儀にひとつ反応する。
 可愛い。
 もっと、もっといじめたくなる。
「じゃあ、蓮子はどうしてほしいの……?」
 懲りずにしつこくしごき続けていると、尿道口から透明な液体が吹き出て来る。一瞬、何事かと驚いたものの、すぐにある種の潤滑油だと見当を付けた。
 私は、溢れ出た液体を手のひらにまぶし、すぐさまべとべとに塗れた手で蓮子のペニスをこすり始めた。
「んくぅ!」
「そっか……ここがきもちいいのね」
 ペニスの先端と、幹の間のくびれを中心にこする。ぎゅっと乱暴に握り締めながらこすり上げたり、触れるか触れないかの距離で亀頭を撫で回したりする。そのたびにとぷとぷと溢れて来る先走りの液体が、亀頭のみならずペニスの胴体も濡らして行く。
「くあぁ、んぁ、ふぇ……んぐ、ひくぅッ!」
 ぬちょぬちゅと卑猥な音が響き、それと同時に蓮子の表情にもだんだんと余裕がなくなって来た。息も荒く、とろんと緩み切っていた瞳も、私がペニスをいじめるたびにきつく結ばれるようになった。
 辛いのか気持ちいいのか、おそらくはその両方だと思うのだけど、蓮子が悦んでいるなら私は満足である。それに、蓮子がこんなに可愛いってことも分かったから。
 だから、ご褒美というわけじゃないけれど。
「蓮子、ちょっと我慢してね」
「え……――ッ、うあぁ!」
 私は、蓮子の肉棒をぱくっと咥える。
 口の中で躍る蓮子の分身も、ひとつの食べ物だと思えば苦もなく舐めることが出来る。飴のようにぺろぺろと亀頭を舐めれば、先端から溢れんばかりの先走り液が噴出する。
 すぼめた唇を上下に動かし、幹の半分辺りまで蓮子の肉棒を飲み込み、粘膜で粘膜をしごきあげる。時折、上目遣いに見る蓮子の表情は、射精したい、でももっときもちよくなりたい、という板挟みの快楽に包まれ、泣き出しそうになっていた。
 でも、蓮子の吐く息は甘くとてもきもちよさそうで。
「ぷちゅ……んぶ、ふぎゅ……ちゅ、じゅぷるぅ……」
「め、めりぃ……! だめぇ、もう、ほんとうにぃ……ふあ、がまん、がまんできないからぁ……ッ!」
「んぷぅ?」
 もっと、悦ばせたい。
 口淫を中断し、蓮子の疲弊し切った顔を見上げる。口の中に広がるペニスの存在感も、生き物を口に含んでいる得難い感触の前に容易く掻き消される。
 蓮子は、金色に光る私の髪を撫で、ひとつ大きな息を吐いた。
「メリー、メリー……きもちいい、きもちいいよぅ……」
 その言葉が、痺れるくらい嬉しかった。
「……んぷぁ、うん、ありがと」
 だから、もうそろそろ射精してもいいよ。
 もう一度、その意味も込めて蓮子のペニスを咥える。
 柔らかくて、それでも芯は硬く燃えるように熱い。火傷しそうな咥内を掻き回すペニスを舌で押さえながら、少しずつ絶頂に導いていく。
「くちゅ……んちゅる、じゅっ、ぷちゅ……じゅる、んんッ!」
「やぁ、んく……いや、きもちよすぎて……もう、もう射精()ちゃうよ……! メリー、メリー……ッ!」
 蓮子の腰ががくがくと揺れ、押し寄せる快楽の波に対抗するべく唇を噛み締める。それに従って喉の奥に突き入れられるペニスの動きに対応しながら、私は亀頭を舌で包み込み、唇でくびれの部分を丹念にしごいた。
 そして、蓮子のきもちよさそうな声が轟く。
「ふぁ、射精()る、射精るよぉ……ッ!」
 刹那、ペニスの先端が一気に膨らんだ。
「んぐぷぅぅッ!」
 咥内に、蓮子の精液が迸る。
 ずびゅる、びぶゅるッ、と凄まじい勢いで放出された精液は、私の舌に降りかかり、口の中にとぽとぽと溜まっていく。舌で止めても効果はなく、二回目、三回目とびくんびくんと跳ねるたびに新しい白濁液が撒き散らされる。
「んぶぅ……んくぁ、んぅ、こく……」
「あぁ……メリー、もっと吸って……んぅ、おちんちんの中にある精子、ぜんぶ吸い取って……」
 蓮子がきもちよさそうに啼くから、私は尿道口に残っている精液をちゅるると吸い取る。吸い込むたびに「ひぅん!」と啼く蓮子の可愛さと来たら、このまま無理やり二回目の射精を導いてあげようかとさえ思うくらいだった。
 青臭い苦みが舌と口の中に広がり、吐き出しかけながらも必死に嚥下する。未だに硬さの残るペニスを口に含んだまま、私は蓮子が射精した精液を全て飲み下した。
 熱く、粘ついた液体が食道を通るたび、蓮子の精子を飲んでいるという倒錯した快感に至る。
 私は、懸命に己の意志を貫いたつもりだったけれど、本当はとっくり昔におかしくなっていたらしい。
 それが無性に面白くて、ちゅぽん、と蓮子のペニスを抜き取った後、白濁液の苦みが残る唇を押さえながらくつくつと笑ってしまった。
「ふふ、あはは……蓮子、私たち、何か変よね」
「そう……ね……たぶん、友達におちんちんが生えても、それを舐める人はあんまりいないと思うし……」
 すっかり元気を無くした性器を指で支えながら、蓮子は火照った顔を撫でる。よほど私のフェラチオが気持ちよかったのか、しばらく天国を見ているような恍惚とした表情を浮かべていた。
 折角だから、私も訊いてみる。
「ねえ、蓮子……」
「うん」
 彼女の瞳は、恋する乙女のそれと似て、虚ろに妖しく光り輝いていた。

「私のお口、きもちよかった……?」
「――うん。とっても」

 

 

 結局、一発抜いたところで蓮子のペニスが消滅するという都合のいい展開にはならず、相も変わらず蓮子の股間には男性器と女性器が上手い具合に収まっている。
 そもそもご都合主義で言うなら蓮子におちんちんが生えたこと自体がまさしくそれに該当するのだが、当の蓮子は私に打ち明けてすっかり気が楽になったものだからペニスの出自はさほど気にしていないようだった。
 ちなみに、排泄は女性の方からだそうで。
 知りたくもなかった。
「メリー!」
 大学に向かう道中、蓮子が私の身体に抱き付いて来る。
 あれ以来、蓮子が私に絡み付く頻度は急激に増えた。避けられることが無くなったのはいいことだが、こう、他人が見ている前で私の頬に触れたり髪の毛を撫でたりしないでほしい。
 あと。
「おはよう、蓮子……あと、自重するように」
「……あ、ごめん。つい興奮して」
 スカートの内側から、がちがちに勃起したペニスの熱を感じる。
 通常、行動している限りにおいては蓮子の異常が世間に露見することはないが、こう、常に勃起しているようでは先が思いやられる。
 あと、さりげなく胸を触らない。
「じゃあ、手を繋いでもいい?」
「……大学入ったら離しなさいよ」
 うん、と元気よく頷く。
 やれやれと肩を竦めながら、それを拒絶しない私も私だ。
 可愛いと言われれば悪い気はしない。まして、蓮子にも可愛いと思えるだけの顔があると知った今では。
「ふふ……」
「どうしたのよ、蓮子」
「いやぁ、ね」
 繋いだ手から、蓮子の体温が伝わって来る。
 熱く、暖かく、果ては心臓の鼓動までも伝わって来るようで。
「嬉しいなぁ、と思って」
 私も、きっと同じくらい嬉しいから。
「そうね」
 と、なるだけ優しく微笑んでみた。

 

 

 



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2006年10月14日 藤村流

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