オーマイゴッド!!






誰も知らない小さな噂。



デル・アントネスは不幸な男だ。

もともと彼は若きクラフトマンだった。

悪い男ではないし、よく働いた。

まだ、名は高くないが、将来を見込まれてさえいた。

だが不幸にもあの事件だ。

君もご存知の通り2体目の「ヘイバーマン」が生まれ、その責任を問われ「ドールマスター」ことド・ジョーンの処刑が行われた。

もはやマジックドール自体に疑惑を抱かないようにする方が難しく、その波はドールクラフト全体に直撃したのは言うまでもない。

「クラウン」や「デュ・ドール」などを扱う専用工房や大型工房はまだ生き残りが計れたが、残念ながらデルが勤めるような民間用の「ウィッカーマン」や「ポニー」などを扱う中小工房は大打撃を受け、工房閉めるところも珍しくなかった。

デルの勤める工房でも、ジリ貧には違いなく、吐く息は青い。

毎日、企業は申しわけなさそうなふりしつつ、叩きやすそうな肩を見比べていた。

まぁ、手っ取り早く言おう。

デルはクビになった。



それが秋の話だ。

事件があってから街ではクラフトマンの風当たりは強く、仕事も無い。

しょうがなく早い田舎の里帰りを余儀なくされた。

退職金代わりに貰った「ウィッカーマン」整備のおんぼろマシンを使い、実家の納屋で寝泊りしながらそこでドール整備で生計を立てようとした。

だが、現実は厳しい。

1週間たって初めてきた客もこんな具合だ。

「どのようなご用件で?ウィッカーマン?それとも、ポニーですか?」

「いや、この入れ歯を直してほしいんじゃが……。」

デルはその瞬間から、2体目の「ヘイバーマン」が目の前に現れたらぶん殴ってやると心に決めた。



冬になっても、直したのは入れ歯と簡単な農具だけだった。

そして、いつの間にやら表の看板には、マジックドール整備の横に家庭教師やります、という一文が付け加えられるはめになっていた。

もちろんあの2人が来たせいでだ。

「デルさんでいらっしゃいます?あらぁ、この町には余りものを教えるお方がいらっしゃいませんの。良かったら、うちの弟を見てもらえません?あ、申し送れました~。私、マリーと申します。」

いきなりだ。

朝、扉を開けるといきなりそうまくし立てられて、後にコリングと名乗る不機嫌そうな男の子が渋々前に出された。

「なんだか頭悪そうなおっさんだなぁ。姉さんやめようよ。」

もしかしたら、笑顔が引きつったかもしれない。

いかにも生意気で、斜めに構えてるのがなんというか……とりあえず、俺のことはお兄さんと呼べ。

もちろん、断ろうかとも思ったが、

「失礼ですけど、余りよろしいものを召し上がってないのでは?お礼にお食事をご用意さしてもらいますよ~。」

まったくの図星で、相手のほうが完全に上手だった。

……はぁ、「ヘイバーマン」さえいなきゃあなぁ……。



そして、春になった。

デルはまだ「ヘイバーマン」を殴れていない。

冬に軍の連中がゾロゾロ来たのを知っていたが、「ヘイバーマン」を追っていたのだと悟ったのは、朝早く大砲の爆音で起されてからだ。

「せめて一発だけでもいいんだがなぁ……。」

まだ使った事の無い整備マシンに油をさしながら、昔整備した「ウィッカーマン」整備手順を確認した。

よし、まだ憶えてる。

ネジ一本換えるだけでもだけでもいいから、せめてクラフトマンとして仕事がしたかった。

このままだと本当に家庭教師になってしまいそうだ。

教えに行くコリングの家では、給料は出ないがご飯が食べさしてもらえるし、お姉さんのマリーさんは美人だ。

コリングは口は悪いし、生意気な生徒だが、見た目とは裏腹に真面目でやりがいはあった。

ものを教えるのは悪くない。

……悪くないが、少なくともデルはクラフトマンでいたかった。

やはり何より良いマイスターが生み出したマジックドールに関われる事が最も幸せに違いなかった。

「せんせー!!せんせぇー!!」

ドンドンと納屋の扉を叩く音がする。

噂をすれば、……か。

扉を開けるとやっぱり教え子のコリングがいた。

「せんせぇー、また篭ってんの?そんな事だといつまでも独身だぜ。」

さすが、コリング。口の悪さは相変わらずだ。

「そんなに授業がしたいなら、今からみっちりしごいてやろうか?」

「そんなこと言っていいのぉー?せっかくお客さん連れてきたのにさー。」

ふと後ろを見ると、重ね着のせいでモコモコになった子供がいた。

まだ寒いが、目以外を隠すほどの温度でもないというのに、風邪でも引いてるのだろうか。

少し恥かしげに帽子とマフラーを取ると、そこには優しげにはにかむ少女の顔が姿を表した。

そして、少女はおずおずと手を差し出しながらこう言った。

「サンタ・「ヘイバーマン」と申します。」



結局、女の子に手を上げる男は最低だという結論に達した。

そうせざるをえなかった。

だってそうだろう?

「ヘイバーマン」だぞ。

普通、巨漢でゴツゴツしてて、最低に口が悪くて、残虐非道って考えるだろ?

まぁ、なんでもいい、とにかく最低なやつだと思うハズだ。

少なくとも、お茶だして礼を言ったり、クラフトマンと言う仕事を誉めたりはしないはずだ。

ましてや、少女であるはずなどありえない。

「毛布を返しに来ただけなんですけど、腰が悪いと言ったらマリーさんがいい先生がいるわ!って言ってここに……すいません、突然お邪魔して。」

頼むから謝らないで欲しい。

「代金の方はあんまりないんですけど、今度来た時には必ず持ってきますから。」

申しわけ無さそうにするのはやめてくれ。

全部、この少女のせいにしていた自分がどんどん情けなくなってくる。

「ここなんですけども…」

そういうと少女は服を脱ぎ、腹を指差して見せた。

「腰の関節が上手く動かなくて……」

ハッとした。

同時に呆れ、驚嘆し、なんともいえず溜息が漏れる。

「どうしたん、せんせ?そいつすげぇーの?そーわ見えないけど。」

まったく、こいつは……

コリングの図太さに尊敬の念さえ憶えていたが、よくよく考えるとコリングの家にはスキャナーがない。

まさか、この少女が凶悪な「ヘイバーマン」とは思ってもいないのだろう。

「すごいのは間違いないけど……、趣味と嗜好が全開って感じだね。クラスで言えば「デュ・ドール」なんだろうけど、バカみたいに高出力な純正の「ミタマ」といい、バカみたいに金のかかった外殻といい、そこいらの「クラウン」なんか目じゃない仕様だ。……もしかしたら。髪、上げてもらえますか?」

コクンと頷いて少女は髪を持ち上げる。

首筋があらわになると、そこにあるはずのものが無かった。

「……やっぱり。ド・ジョーンの箒がない。」

それはド・ジョーンへの敬服の証。

それが無いという事は、ド・ジョーンを恐れも、敬いもしないという自信があるということか。

「オリジナルなんだそうです。全部。」

少女はうつむいてそれ以上何も言わない。

「……皮肉なもんだ」

思わず口が滑った。

あっ、と思って見上げれば少女と目があう。

「そうですね、……「ヘイバーマン」なっちゃいましたからね。」

デルは気まずくなってとりあえず、

「……腰、直せそうだから、直します。」

そう言った。

「はい。」

直している時、ぽつぽつと少女は事の真相を語ってくれた。

なんで「ヘイバーマン」になったのかを。

何故主人を殺したかを。

デルは何も言わなかった、言えなかった。

ただ、余った拳は神様に会った時のために取って置くと、その時決めた。



「動く?」

腰を捻りながら、

「ええ、前よりいいです!」

少女は嬉しそうにそう答えた。

正直、この少女に情が湧いていた。

しょうがないだろ。

初めての客で、憎き「ヘイバーマン」、良いも悪いも待ち焦がれた存在なのだから。

「あの、……よかったら、この町にさ…」

刹那。

納屋がぐるりとまわって跳ねた。

背中をしこたま打ち、はじめて少女に投げ飛ばされと分かった。

理由が分かったのは、振り返って納屋が半分吹き飛んでいるのを見てからだが。

そこには山のように巨大な「クラウン」と、枝のような角を額から生やし拘束服を着た人型の「クラウン」がその上にいた。

少女は苦々しい顔をしながら「クラウン」を凝視していた。

腕はもう真っ赤なオーガアームになっている。

デルはただ、少女を見つめながら意識を奪っていく暗闇に身をゆだねるしかなかった。

「あー、それは…やっぱり……無理だよ…ね……」



デル・アントネスは不幸な男だ。

今も、昔もそうだが、これからもそうに違いなかった。



そんな誰も知らない小さな噂。




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