これが最後の一年






誰も知らない小さな噂。


ココ・メルシーの話をするには、あのド・ジョーンを語らねばならない。

もちろん、君も知っているハズだ。

まぁ、君が腹の中の赤ん坊か、絶世の孤島に居るのならその限りではないだろうが。

もしそうなら、いつかそこを抜け出た時、どこへなと行きマジックドール見つけて欲しい。人型ならまず間違いなくうなじに箒のマークがあるはずだ。

そして、近くの人にこれは何かと聞くがいい。

きっとこう答えるはずだ。

それはド・ジョーンのマークだと。

マジックドールに魂を捧げた母の印だと。



ド・ジョーンは最も偉大な孤高のマイスターであり、悲しく哀れで寡黙な魔女だった。

あらゆるマジックドールの基礎を築き、そして奪われた数少ない本物の「魔法使い」だった。

そして、ド・ジョーンは昨日死んだ。

「ヘイバーマン」が生まれた責任を取らされて、処刑されたのだ。

別に彼女が「ヘイバーマン」を作ったわけじゃない。

しかし、ド・ジョーンはマジックドールの監督権を持っていた。その上浮世に出てこず、誰も知らない洞窟で勝手に隠遁生活をし、誰も本当の声も姿も見たことが無い。

いい機会には違いなかった。

「ヘイバーマン」が現れたせいで軍備を調達できたし、得体の知れない女から監督権も奪いとれる。

軍はあらゆるものを味方にして、彼女を弾劾した。

世論、政治家、軍、国民……。

対するド・ジョーンの味方は、たった1人の少女だけだった。



そうして、ド・ジョーンは殺された。

君もスキャナーで見たはずだ。

磔にされたド・ジョーンが火にくべられ不適に笑い燃え尽きていくのを。

もしかしたら下唇を噛みながら燃える十字架をじっと見ている少女も見てるかもしれない。

もし見ているなら、そう、それがココ・メルシーだ。



ココ・メルシーはド・ジョーンの何でもない。

娘ではないし、弟子でもない、妹でもなければ、魔女でもない、なにものでもない。

ド・ジョーンの気まぐれで命を救われた誰かも知らないいき倒れだ。

死にかけた体の奥にマジックドール活動機関の1つ「アラミタマ」を組み込み、なんとか一命は取り留めたが、記憶は無くすは、ド・ジョーンの整備なくして生きていけない半マジックドールになるわと、おいそれとサヨナラするわけにもいかなくなってしまった。

しょうがないのでド・ジョーンの雑用兼秘書として生きてきたわけだ。

ココ・メルシーとは逆にド・ジョーンは全然喋らないし、生きているのどうかさえ怪しい相手だったが、ココはそういうところが好きだった。

ド・ジョーンの本をめくる音を聞きながら、寝るのが好きだった。

整備の度に、何も言わず新しい服を置いていくのが好きだった。

ド・ジョーンの見えない優しさが好きだった。

だからなおさら許せないと思ったのだ。

「ヘイバーマン」を、ド・ジョーンを殺したマジックドールを。



分かっていても許すなどできはしなかった。

「ヘイバーマン」はド・ジョーンと何の関係も無い事を。

ド・ジョーンは言っていたじゃないか、マジックドールに悪者はいない、いるとすればただ哀れな魂だけだと。

きっと、ヘイバーマンも何かの間違いでそうなったに違いない。

それでも、旅支度をする手は止まらない。

ド・ジョーンの洞窟に残った、「アンティーク」をかき集め、使えそうなものは余さずカバンに詰め込んだ。

5時間かけて小さなカバンをパンパンにし、同じ時間をかけて洞窟を出た。

その間ずっとココは泣いていた。



外の道路は凄く歩きづらい。

そのたびに小さくなった洞窟を振り返り、ド・ジョーンの少ない言葉を思い出す。

やがて、洞窟が見えなくなって、これまでの何年も暮らしも思い出し尽くし、ド・ジョーンの最初の言葉だけがココ・メルシーの背中を押した。

「もし、私が整備できくなったら、あなたの命はその日から一年。それであなたはもう一度、そして本当に死ぬ。」



これまで、何年も過ぎた。

そして、これが最後の一年だった。



そんな、誰も知らない小さな噂。


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