選択肢
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「本当になんなんだろうな、これ。」
今日は僕の誕生日だった。
普段あまり話さないクラスメートにプレゼントをもらったのだけど、
それが何なのかよく分からなかった。
彼は彼で「悪いこと言わないから、家着くまで開けんとき。」なんて言うし…。
「ただいま。」
僕は今日も家に来ているであろう少女に声をかける。それはいつものことだったけど、
今日は少し違った。真白ちゃんと先輩も来ていたのだ。
この時点で、この面子が揃った際に巻き込まれたいくつかの事件を連想してしまって
怖くなったのだけどそれは杞憂だったらしい。
純粋に僕の誕生日を祝うために集まってくれたようだった。

宴会は和やかに進んだ。
志乃ちゃんがお酒に手を出そうとするのを説き伏せたり、
ちょっとエスニックな料理が多かった気がするけど別段問題にすることじゃないだろう。
むしろ問題は宴もたけなわというときに先輩が発した一言から始まった。

「で、あんたその馬鹿でかい箱はなんなんや?」
僕は和やかな空気の中でそのプレゼントの存在をすっかり忘れていた。
今から思い返せば忘れていたままの方が幸せだったのかもしれない。
だけど、それは先輩の目にとまる程度には存在感があった。
「いや、貰い物なんですけど…なんなんでしょうね、これ?」
そう言って袋から箱を取り出す。そして場が凍った。
「あああ、あんたってやつは!?」
「あら、まあ…」
「…………」
中から出てきたのはいわゆる萌え系のゲームだった…
表面に18歳未満お断りのシールが貼ってある類の。
僕はプレゼントをくれた彼を呪った。
最近、そういうのが流行っているのは知っていたけど
何も誕生日プレゼントにすることはないじゃないか…。
先輩の言葉が痛い。志乃ちゃんの視線はもっと痛い。
志乃ちゃん、それはゴミ虫を見るときの目だよね?僕は君にそんな顔をして欲しくないんだ。
意外にもその場を納めてくれたのは真白ちゃんだった。
二人を集めて何か話し込んだと思うとすぐに戻ってくる。
僕は何が話し合われたのか気になったけど、やっぱり怖くて聞けなかった。
「とりあえず、パッケージの裏を見てみてくださいよ。」
真白ちゃんにの言葉に従って、見てみる。そこにはヒロインの簡単な紹介が載っていた。
妹キャラ、というのだろうか。幼なじみだけど、口下手で素直に気持ちを伝えられないヒロイン1。
腹黒いのだけど、仮面優等生を続けるヒロイン2。優等生キャラらしく、眼鏡をかけている。
先輩だけど、ボーイッシュな感じで恋愛感情を自覚出来ないヒロイン3。
このキャラも眼鏡をかけているけど、これはギャップをねらったものだろうか。
一応大筋は分かったけど、真白ちゃんが何を言いたいのかは分からなかった。
真白ちゃんはニコニコと笑い続けていたけど、呆れていたように見えた。
「とりあえず、やってみましょうか。」
「なんで!?」
僕には彼女の意図がさっぱり分からなかった。それにこれ18歳未満お断りだし…。

「ええ、私が許可したる。」
いや、駄目でしょ。
だけど、僕の主張は数の暴力で却下され、
そのままギャラリーをつけてエロゲーをプレイするという異様な状況が生まれようとしていた。

ゲームの解説は真白ちゃんがしてくれた。
なんでもこのゲームは一般的なゲーム機にも移植されているらしく
彼女はそれをクリアしたとのことだった。僕は背中に視線を感じながらゲームを進行していく。
「しかし、アレやな。恋愛シミュレーションってこういうものだったんやな。」
先輩。
「ええ、そうですね。基本は三択です。
尤もこのゲームはヒロインが三人ということで少し人数が少ないですけど…
ああ、そこの選択肢は2です。」
「え…」
真白ちゃんの言葉に従って選択肢を選ぶ。だけど僕には疑問が残った。
「今の選択ってよかったの?ヒロイン泣いて帰っちゃったけど…。」
「好感度調整ですね。まあ、最終的に…」
そこで口ごもる。先を促しても微笑を返してくるだけだ。仕方ないのでゲームを先に進める。
「………ヒロインを三人も侍らせているのが不愉快。」
志乃ちゃん。
「そうやなー、こんな男がおったら死刑やな。」
「……同感。」
「あらあら、それは可哀想ですよ。」
なんだろう、僕には関係ない話なのに凄く心が痛い。
「………第一、メインヒロイン以外の存在が不要。」
「シノシノ、それはちょっと違うんやないか?」
先輩、なんで少し怒ってるんですか…。
「そうですよ。幼なじみでありながら気持ちも伝えられないメインヒロインと
やたら出張る癖にいまいち印象に残らないヒロインこそ不要ですよ…あ、そこ3です。」
「…………」
「…………」
僕は真白ちゃんの言うとおりに選択肢を決定していく。
もう後ろは振り返らない。というか振り返れなくなっていた。
「……眼鏡でキャラ付けを行おうというのが安直。」
「やっぱりそう思いますよね。」
あれ、真白ちゃんはこの眼鏡の女の子を応援していたんじゃなかったの?
「あのヒロインは選択肢でコンタクトレンズにすることが出来るんですよ。
あ、もう一人は無理なんですけどね。」
「ほう。」
先輩、声が怖いです。
「あ、丁度いいところですね。そこの選択肢を…。」
僕は真白ちゃんが何かを言い出す前に眼鏡を掛けさせ続ける選択肢を選ぶ。
それで先輩は溜飲を下げてくれたようだ。
「あら、マニアック。」
「…………」
背中越しに志乃ちゃんの視線が突き刺さるのが分かる。
志乃ちゃん、どうして君はそんな顔をしているの?たかがゲームだよ?

「幼なじみはなあ、なんやアレ。女々しいったらありゃしない。
もう一人は素直になれないなんて言えば聞こえはいいかもしれんけど、
単に精神的に幼いだけやないか。」
「あら、まあ。うふふ。」
「…………」
もう僕は精神的に擦り切れそうになっていた。
いつやめるか切りだそうとしていると選択肢が現れる。
「あ、それルート選択の選択肢です。好感度調整は完璧なはずなので
それでルート決定ですよ。」
「ルート?」
「簡単に言えば誰とお付き合いしたいかということです。」
その一言で空気が変わる。
「…やっぱりメインヒロインの話を見てこそだと思う。」
「私はそうは思いませんけどね…。
あ、別に希望が通らなかったからってあなたに不幸が降りかかるなんてことはありませんよ。」
真白ちゃん、それは暗に脅してるよね。
「まあ、私としては言うこともないんやけどな。そのパソコンが誰のものか考えたらな…
分かるやろ?」
なんでゲームにこんなに真面目になっているのだろう。
しかし、こんなときでも光明はあった。今回の選択肢は三択ではない。四択だった。
「ちなみに4番の選択肢は鬼畜ルートの入り口です。」
…全然救済になっていなかった。
これなら素直に誰ともくっつかない選択肢があった方がよかったのに…。
でも、案外これを選んでしまえばみんな冷静になってお開きになるんじゃないか。
そう思いマウスを動かす。
「…4を選ぶようなら、あなたの人格を疑う。」
「まさか4に逃げたりしませんよね?」
「4はないなあ。女の子が見てるんやで?」
先輩、それは今に始まったことじゃないです…。
こうして退路は断たれた。進退窮まった僕は…

1、志乃ちゃんの希望を通した。幼なじみヒロインルートに入る。
2、真白ちゃんの希望を通した。仮面優等生ルートに入る。
3、先輩の希望を通した。先輩ルートに入る。
4、僕は敢えて鬼畜ルートに入ることを選択した。








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