「知ってるよ。それは月下美人、デショ?」
休憩所に騒々しく飛び込んできたナルトは、オレの言葉に大袈裟に頷いた。
「あーそうそう、そういう名前だったってばよ。なぁなぁヤマト隊長。木遁でその花、ぱぱっと出せネェってば?」
「オイオイ。無茶を言わないでくれ。いくらなんでもそれは無理だよ」
ヤマトは困惑気味にオレを見る。
「あのねェ、ナルト。忍術は魔法じゃない。それに… …月下美人は一夜限り、数時間しか咲かない、神秘の花と言われてるの。それを簡単に咲かせちゃ、ロマンがないデショ、ロマンが」
「… …ロマン?カカシ先生の言ってること、よくわかんねェってばよぉ」
全く。
月下美人が見せる甘美な一時を、恋焦がれて待つ、その冥利を理解できないのだろうか。
「いいか、ナルト」
月下美人はさ、蕾から開花するまで結構焦らされるんだ。
咲く気があるんだか、ないんだか… …
アレは一体、どこで覚えてくるんだろうねェ。
気のある素振りに惑わされ、いざ手を伸ばせば、さらりと離れる。
本心はどっちなんだ、と翻弄されるんだが、結局追いかけてしまう… …
ま、それが恋の醍醐味かもしれないけどね。
ああ、話がそれたな。
開花が近づくと、蕾がツンと上を向くんだけど、
それはまるで、彼女の形のよい乳房を連想させる。
え?彼女が誰かって?
美しい花を、人に例えて話すのも、悪くないデショ。
続けるよ。
恥らうように、少しずつ肢体を露にするさまに舌舐めずりし、
見え隠れする無垢な肌色を、何色に染め上げようかなんて、
そんな余裕を持っていられるのも、ほんの僅かな時間だ。
彼女は、乳白色のその奥に、淫らな魔性を秘めている。
あの、独特な香り。
人は「高貴で気品漂う香り」そう評するかもしれない。
でも本当は淫心を容赦なく刺激する「妖艶な魔性の香り」――彼女、自身だ。
芳香に魅入られ、溺れ堕ちていくのは、こちらの方なんだよ。
挑発的な視線に征服欲を掻き立てられ、
切なく掠れた吐息を漏らす唇を吸い、
貪るように、余すところなくその身体を口にして、
溢れる淫水の味に、酔う。
滾る男根を突き立て、精が果てるまで、律動を繰り返す… …
すべては、香りが誘う、甘美な一夜の夢。
目覚めてしまえば、残り香さえない。
激しく、そして儚い逢瀬。
「…輩、先輩」
「あれ?ナルトは」
「もう行きましたよ」
「そうなの?」
「ところで先輩。一体、なんの、話をしてたんです?」
「ん?」
――なんの話って。
「月下美人に取り付かれた、男の話」
――いい大人が、情けないね、ホント。
終