tema02

儚い恋


「知ってるよ。それは月下美人、デショ?」

休憩所に騒々しく飛び込んできたナルトは、オレの言葉に大袈裟に頷いた。

「あーそうそう、そういう名前だったってばよ。なぁなぁヤマト隊長。木遁でその花、ぱぱっと出せネェってば?」
「オイオイ。無茶を言わないでくれ。いくらなんでもそれは無理だよ」

ヤマトは困惑気味にオレを見る。

「あのねェ、ナルト。忍術は魔法じゃない。それに… …月下美人は一夜限り、数時間しか咲かない、神秘の花と言われてるの。それを簡単に咲かせちゃ、ロマンがないデショ、ロマンが」
「… …ロマン?カカシ先生の言ってること、よくわかんねェってばよぉ」

全く。
月下美人が見せる甘美な一時を、恋焦がれて待つ、その冥利を理解できないのだろうか。

「いいか、ナルト」

月下美人はさ、蕾から開花するまで結構焦らされるんだ。
咲く気があるんだか、ないんだか… …

アレは一体、どこで覚えてくるんだろうねェ。

気のある素振りに惑わされ、いざ手を伸ばせば、さらりと離れる。
本心はどっちなんだ、と翻弄されるんだが、結局追いかけてしまう… …
ま、それが恋の醍醐味かもしれないけどね。

ああ、話がそれたな。

開花が近づくと、蕾がツンと上を向くんだけど、
それはまるで、彼女の形のよい乳房を連想させる。
え?彼女が誰かって?
美しい花を、人に例えて話すのも、悪くないデショ。

続けるよ。

恥らうように、少しずつ肢体を露にするさまに舌舐めずりし、
見え隠れする無垢な肌色を、何色に染め上げようかなんて、
そんな余裕を持っていられるのも、ほんの僅かな時間だ。
彼女は、乳白色のその奥に、淫らな魔性を秘めている。
あの、独特な香り。
人は「高貴で気品漂う香り」そう評するかもしれない。
でも本当は淫心を容赦なく刺激する「妖艶な魔性の香り」――彼女、自身だ。
芳香に魅入られ、溺れ堕ちていくのは、こちらの方なんだよ。

挑発的な視線に征服欲を掻き立てられ、
切なく掠れた吐息を漏らす唇を吸い、
貪るように、余すところなくその身体を口にして、
溢れる淫水の味に、酔う。
滾る男根を突き立て、精が果てるまで、律動を繰り返す… …

すべては、香りが誘う、甘美な一夜の夢。
目覚めてしまえば、残り香さえない。

激しく、そして儚い逢瀬。



「…輩、先輩」
「あれ?ナルトは」
「もう行きましたよ」
「そうなの?」
「ところで先輩。一体、なんの、話をしてたんです?」
「ん?」

――なんの話って。

「月下美人に取り付かれた、男の話」

――いい大人が、情けないね、ホント。






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テマリさんお誕生日第3弾は、カカシ先生でした。かなりズルしてごめんなさい。

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