「夏候覇、どこ行くんだ?」
そっと寝室を抜け出す夏候覇に、姜維はぼんやりと尋ねる。
「外の風に当たってきますよ」
(やれやれ。姜維殿と一緒にいると、
何度でもヤりたくなってしまう。
少し外の風に当たって熱を冷まそう)
先ほどまで熱帯夜といった様相だったが、
今ではほんの少しだが風も出てきている。

「おや…?」
向こうから何処かで見たことがあるような二人組がふらふらと歩いてくる。
二人組は、夏候覇の前に来るとぴたりと止まった。
「おや?そなたはもしかして、夏候覇殿?」
「こんばんは…張翼殿に、張嶷殿でしたかな」
二人はかなり酒を飲んでいるらしく、頬を真っ赤にしている。
「か…夏候覇殿!…まさか…?」
「お?あー…そういうことですか!夏候覇殿もやりますな!」
始めはこの張翼と張嶷の言葉の真意が計りかねた夏候覇だったが、
自分の衣服が一目でそれと分かる位乱れていることに気付き、慌てる。
しかもここは姜維の邸宅のまん前なのだ。
「えと、これは…」
「ついに、姜維さまにもいいお方ができたのか!これでひと安心ですな!」
「そうだな」
その言葉に、夏候覇は唖然とする。
「その…姜維様が女だということを知ってるのか?」
「えっ?…みんな大概は知ってるよな?」
「知らないのは本人ばかりですな」


ハハハハ、と笑う二人。夏候覇は、呆れながら、あの人らしい、と思う。
「夏候覇殿、頼むから、あの人を幸せにしてやってくれよ」
ふと、張翼が真剣な顔になって言う。
「姜維様は、あの通り強いし、頭もいいから、なんでも一人で
抱え込んでしまう。でも、あの方には誰か支えになる人が必要なんだ。」
「そうですぞ。我々も、姜維様の力になれるようがんばる故。
…我々では頼りないかもしれないが、皆がついているのだから、
そんなに気を張らずにと伝えてくだされ」
酒のせいか、二人は饒舌になっていた。
しかし、これは本心に違いない。
「分かった。そう伝えておく」
二人の話声が夜の闇の中に消えてゆく。

(いい人たちだ。…二人だけでない。ここの人たちはみんな素直で
お人好しというか、なんというか。悪い奴というと俺くらいのもんだ)
夏候覇は、自分の生まれ育った地とここが、風土のようなものが
違うことを感じていた。しかし、悪い気はしなかった。

風が出てきた。夏候覇は、姜維の寝室へと戻った。
「…誰かと話していたのか?」
姜維が眠そうな顔でゴロゴロしながら尋ねる。
「ああ。張翼殿と張嶷殿に会いましたよ。
いい人たちだな。」
「だろう。しかも有能だ」
「あの二人だけじゃない。こんな俺でも暖かく迎えてくれる。…いい国だ」
「ああ」
姜維は微笑んだ。姜維にとってこの国は、ただの国ではない。
自身の夢や希望、思い出や、青春といったものが詰まった宝物のような土地だ。
だからこそ、夏候覇がここを気に入ってくれたことが嬉しかった。
「一緒に、多くの仲間の暮らすこの地と、今は亡き英雄たちの夢を、守ってゆこう。」
姜維は、そっと夏候覇の手を取った。
「そうしよう」
夏候覇はその手を強く握り返した。
「…いつまでも。」
祈るように、姜維は言った。
「ああ」

遠くで虫の声がした。
冷たい風が、二人の足元を通り過ぎる。
だが、二人はそれにまだ気づいた気配はない。
秋の足音はもうそこまで迫っている。
もうすぐ終わりを告げるこの熱い季節に、気がついたのは、
今はただ満月だけである。

【第2章『満月』―終―】



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