「おい姜維…お?なんだ?随分細い腕だな。
こんな腕で趙雲殿と一騎打ちが互角とは、信じられん」
姜維は、声の主が誰か、すぐ分かった。
「離してください、馬超殿」
姜維は、少しムッとしたが、やがて懐かしさが湧き上がって来る。
「何だ。腕くらいで。年下のくせに生意気な
…全く。弟子も弟子なら、師匠も師匠だ。
諸葛亮のやつ、この俺を使いっ走りにするとは…」
姜維はどきりとする。今何て?
「お師匠様がここに!?」
「ああ、そうだったな。お前の事、探してたぞ」
それは、嬉しい知らせだった。

はあっ…はあっ…はあっ…
姜維は全速力で走った。
周りの景色がどんどん流れて行く。
息が苦しかろうが関係なかった。
(この角を曲がれば…)

いた。
姜維が最も会いたかった人物だ。

「遅かったね」
「…お師匠様…」
そこで、他の弟子と共に酒を飲んでいたのは、
紛れもなく諸葛亮だった。
「お師匠様!」
涙が溢れでてくる。
「おやおや、どうしたんだい?」
諸葛亮は、姜維の頭にポンポンと手をのせる。
お師匠様だ。
「私は、あなたにずっと会いたくて…あいたくて…」
途中から、言葉にならなかった。
涙がぽろぽろと次から次へと溢れ出て来たのだ。
諸葛亮は、少し困ったような顔をして微笑んでいる。
「何を言う。ずっと側にいるではないか」
その言葉に、姜維の頭には一つの考えが浮かぶ。
もしかして、「あっち」の方が夢だったのではないのか?
そうか。全部夢だったんだ。

「私…今までずっと怖い夢を見ていたようです。
…みんな…みんな死んでしまって、後には私一人だけが残されて…!」
諸葛亮は、静かに微笑んだ。
「姜維…」
「うっ…」
姜維は、ぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「たとえ肉体が滅びてもその人の意思が受け継がれるかぎり、
その人は永遠に生き続けるのだよ。姜維」
「はい…」
姜維は、涙をふいた。
そう、自分が受け継いでいかなくてはならないのだ。

その時
「いたいた!姜維殿!」
駆け寄ってきたのは夏候覇だった。
「夏候覇??なんでここ…んんっ」
姜維が言い終わる前に、夏候覇はその唇で言葉を塞いだ。
「んふぅ…んっ」
しかもそれは、舌を思い切り絡ませる、淫らなキスだった。
(いっ…いやぁ…お師匠さま…お師匠様が見てるのに!!)
姜維は、必死で抵抗した。
「ぷはあ…」
やっとのことで唇が離れる。
「おま…」
「さあ、行こう!」
夏候覇は、姜維の言うのを無視して腕をぐいぐい引っ張って行く
その先にいたのは、曹操と、夏候惇、夏候淵だった。
「??」
「やあ、良く来たな。結婚おめでとう」
夏候淵が言う。
「は?」
姜維は本当に訳が分からなくなって混乱する。
「今日は祝いに良いものを持ってきたぞ」
そう言って曹操が出したのは、夏候覇のあの悪趣味な兜の、
赤の色違いだった。
(げっ…)
姜維は思わずひるむ。
「さあ、受け取るのだ!姜維殿!」
「殿のプレゼントを断ることは許しませんぞ!」
「もちろん、受け取った暁には、
戦場でこれを身に着けてくだされ!」
「「「「さあ!!」」」」
四人が迫る。
「ひっ…ひいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」

「…殿…姜維殿!!」はっ!と姜維は目を覚ます。
目の前には、心配そうに見つめる夏候覇の顔。
「どうしたんだ?一体。随分うなされていたようだが…」
その顔には、うっすらと脂汗が浮かんでいる。
「…夢か」
夢だと知って、姜維は複雑な気分になる。
「怖い夢でもみたのか?」
そう言われて、姜維は、自らの頬に、涙の跡がついていることに気付いた。
「いいや」
(まあ、後半部分はおかしかったけれど…)
姜維は苦笑する。


姜維は、天井を見つめた。
諸葛亮や、劉備、関羽、張飛、趙雲、馬超―
皆の顔がまだ頭に焼き付いている。
「幸せな夢だったよ。…いつもそうだ。
夢のなかでは幸せなのに」
声に詰まる姜維。
せめて夏候覇に泣き顔を見せないようにと、下を向いた。
そして、ふっ、と笑う。
「現実はいつも残酷だな」
その様子を見て、夏候覇は、どきりとした。
そして、なぜこんなにも、姜維に惹かれるのか分かったような気がした。
(…自分と同じなのだな…)
故郷を追われ、家族の生死すら分からないまま、
命かながら逃げてきた夏候覇。
ずっと、この世で一番不幸なのは自分なのだと思っていた。
だが違う。誰しも皆、それぞれ深い寂しさと悲しみを抱えて生きているのだ。
夏候覇は、そっと姜維を抱き締めた。
「うっ…」
その、思いがけない暖かさに、姜維の目からは、涙が止まらない。
なぜだろう。
幼い頃に父が死に、それ以来、病弱な母を守るため強くなろうと生きてきた。
長いこと、姜維は人前で泣いたことなどなかったのに。
夏候覇は、そんな姜維をきつく抱き締めた。
「今はそうでも」

こんな事を言うのは自分には柄にもない事だと分かっていた。
夏候覇は自分で自分に驚く。
しかし唇は自然に動いた。
「いつか、たとえ夢から醒めても幸せだと…
そう思えるようにしてやるから」
夏候覇は、恥ずかしさのあまり、顔を赤くして横を向く。
その様子で、それが夏候覇の本心だと
姜維にそれは十分すぎるほど感じた。
「ばか…」
うれしかった。
涙をぬぐい、姜維は頷いた。
「じゃあ、私も、お前が
悩んでる時や苦しんでる時には力になるから。だから…」
そうだ、自分だけが苦しいのではない。
夏候覇だって―
「…だから、そういう時にはなんでも相談してほしい。分かったな?」
「…分かった」
「約束だぞ」
「ああ」
二人は、そっと唇を重ねた。
そして、二人、きつく抱き合って眠りについた。
もう、昔の夢は見なかった。
空には、満天の星が輝いていた。

―第一章【夢から醒めても】終―



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