不意打ちとはいえ、女に討たれるとは。
何処ぞか知れない粗末な寝台の上で、ぼんやりと先刻の忌まわしい出来事を思い返す。
彼、いや彼女の事は、部下としても女としても、一番傍におき、最も信頼していた。
その人物に討たれてしまったのだ。
討たれた傷はさほどでもないが、己のあまりの不甲斐無さと喪失感で骨の髄まで脱力し、起き上がる事も寝返りをうつ事も無く、横たわったままでいる。
「他に気持ち悪いところはございませんか」
先程から自分の身体に付いた泥や血糊を拭き取ってくれていた女性が問い掛ける。
戦利品のつもりなのだろうか、白く美しい肢体の上に見慣れた群青色の戦装束を羽織っている。
「馬岱」
「はい」
「何故俺を生かした」
「…」
背を向けたまま返事は無く、手ぬぐいを濯ぐ水音だけが部屋に響く。
「虚偽の報告をした上に、反逆者を匿ったと判れば、ただでは済まんぞ。」
「そうですね、それなら」
茶褐色に汚れた手ぬぐいを桶の縁にかけ、行灯の蝋燭を一つ、皿に移してにこりと微笑んだ。
「これで、顔をあぶってしまいましょうか?焼け爛れた顔なら、誰も魏延様だと気付きませんよ。」
これは脅しではない。こいつならやりかねない。
「…やりたければやるがいい」
屈強、というより捨て鉢に近い口調で吐き捨てると、天井に視線をやった。
自分は、顔や手足よりも大事な物を失ったのだ。そんなものたいしたことはない。
「冗談ですよ」
肩をすくめると、寝台に腰掛け、覆いかぶさるように覗き込んだ。
羽織り物の下から、小振りの乳房や下腹部の茂みがちらつく。
「ー馬岱、何故俺を」
「魏延様でなければ、イケないんです」
「…はぁ?」
「カラダが合うんですよ。魏延様との伽は本当に気持ち良くて…」
夢うつつな表情を浮かべると、するりと男の腰布に指を忍ばせ、自分の身体に馴染みの良いそれを扱き始めた。
「…おい」
「代わりの男も捜したのですけど、お役目を果たす今日まで、満足出来る者が見付からなくて」
制止しようとも構わず続ける。
「お役目も果たし、自身も満たそうと考えた結果、こうなったんです」
「…この俺を慰み者にしよう、という訳か」
返事はない。
熱を帯び、硬さを増したそれに夢中で返事をする気すらないらしい。
待ち焦がれた大きさにまで育ったのを確認すると、じゅるじゅると大きな音を立ててしゃぶり始める。
「ん、…ここ、とか…ここ、とか…好き、凄い好き…」
特にお気に入りらしい、反りかえった茎の部分に舌を這わせ、擦り減るのではと思うほど、吸っては舐めてを繰り返している。
ひとしきり儀式が済むと、女は馬乗りになり、とろけた部分に猛ったそれを挿入した。
「あぁ…やっぱり魏延様のが一番気持ちいいッ…」
身震いすると、じんわりと潮を滲ませた。
何日か前までは、花弁を弄られる事すら恥じらっていたように見せていた女が今、大股を開き、自ら腰を動かし悦に浸っている。
「…女は魔物だな」
皮肉を言うと切なげな声で反論する。
「だって…お腹の裏が擦れるの…すご…いいのォ…!」
摩擦を続けているうちに肉壁がきゅうきゅうと締め付けを増し、更なる刺激をねだってくる。
しょうがない奴だ。と言ってもこんな風に仕込んだのは自分のせいであるのだが。
自嘲ながらの溜息をつくと、要求に応えてやる為に準備を促す。
「いつものように腰を浮かせてみろ」
「…はい…」
肉欲には余程従順なのか、先程までの態度とはまるで違う控えめな返事をすると、早馬に乗るような前かがみの体勢になり尻を少し浮かせてみせる。
男は、腰が逃げないようにしっかりと掴んで、荒々しく、蜜壷を攻め始めた。
「ん、あぁンッ!」
声を抑えようと覆った両手が、唾液でべとべとになってゆく。
「確かに、こんないやらしい女は、そこいらの男じゃあ手に負えんだろうな」
「やッ!…そんな…あぁ、はぁ…!」
異論を唱えようとしているが、唾液を啜る音で遮られ、言葉として聞き取れない。
「…お前の好きなのが出るぞ、馬岱」
「はひィ…全部、全部下さ…いッ!……あ、あぁあぁッ!」
しばらくは快感の余韻に侵され、ひくひくと痙攣していたが、やがてそれも治まると寝息を立てて大人しくなった。
このまま二人で朝まで眠ってしまえば、起こしに来た使いの者に見つかり、二人共ただでは済まないだろう。
彼女もそのくらいは承知のはずだ。
なのに何故こんな事を。
何処までが現実で、何処までが嘘だったのだろう。
そもそも、未だ血の滲むこの傷も、傍らで眠る温かな身体も現実なのだろうか。
あぁ、もう考えるのは疲れた。
最後にそう呟くと、男は深く目を閉じた。