「大虎……。そろそろ、お別れを言いに来たよ」
「…………」
大虎は、右手に短剣を握っている。そこからは明らかに、殺意しか感じ取ることはできない。
「……人形みたいになったあんたなんか、ほっといても良かったんだけどねえ。でも……やっぱり、後方の憂いも断っておかないと……」
小虎は、やはり何も言わない。
……いや、最初から大虎がいることにすら、気付いていないかのようだ。
「ふん、さっさと殺してやるか……。じゃあね、あたしの『妹』」
「……!」
大虎が短剣を振り上げたその時、今まで何を言っても反応を示さなかった小虎が、ゆっくりと顔を上げた。
「な……」
大虎も、予想外のことに、一瞬狼狽する。
「………………」
もう、声は出ないけれど。
それでも、小虎は何かを訴えるように、大虎を見つめていた。
「な……なんだ、その目は! そんな目であたしを見るな!」
――そして、小虎が何かを呟くように口を開いた瞬間――
ドシュッ!!
大虎の短剣が、小虎の胸を刺し貫いた。
「うるさい……! うるさい……! 何も言うな!」
人を殺すことは初めてじゃない。しかし大虎は、今までに無いくらいに不快な気分に陥っていた。
そもそも、今日ここに小虎に殺しにくるのだって、わざわざ自分で来る必要なんて無かった。部下に命じれば良かった。
なのに、何故――つまらない同情か?
「……っ! くだらない!!!」
大虎は、既に動かなくなった小虎に背を向けて去っていく。
……そして、取り残された小虎が、死に際に夢見ていた物、それは……。
『おねぇちゃん……だいすき!』
二人の、あったかもしれない幸せな未来。