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おわり 452(◆grMr.KOUTA)様
「こんな、の…うそ、だよ、ああ」
「志麻…」
退避命令を受けて数分。
インフィーの問題か、あるいは自分達の能力不足だったのか、
成功したかに見えた作戦は、最後の最後で崩れ、近づいてくるコズミック・フラクチャーから逃げるしかできることはなくなった。
「…だめだ…もう…」
避難する前提で組み立てられていた作戦ではない。
全力で活動していたインフィーのエネルギーは、ほとんど残っていなかった。
「……わたし…私が」
「志麻ちゃん推進エネルギー、切って。このままじゃ酸素生成のエネルギーが無くなる。」
「……だって。そんな事しても」
震える手は操作をしようとしない。
「早く!」
操作をしようとしない志麻に、DLSは外すと後ろから強引に操作を止めた。
ピッ
力強く加速していたインフィーは流されるまま。
その横を何隻もの支援船が逃げまどっていた。
「、あ…」
光太はDLSを投げ捨てると、なにも映らなくなったパネルを見つめ、動けなくなっている志麻に近づいた。
「…志麻ちゃん、もう、…終わったんだ」
志麻を強く抱きしめる。
自らの無力さ、何より、腕の中にいる大切な人を守ることができなかった。
光太の手でDLSが外され。
唖然としたままの志麻が振り向く。
「…う、うそ。ま、まだ何か…」
「ダメだよ、もう。エネルギーも残ってないんだ、少なくとも僕たちには…もう…」
「そんな…そんなのやだよっ! 私、私のせいで、みんながっ」
振り返ると、視線が至近距離で重なった。
「僕だって、悔しいよ…でも、もう、」
こみ上げるぶつけようのない怒りに声が震える。
「僕は、守れなかった。何も…志麻ちゃんですら」
「私なんて…、ステルヴィアの、みんな、地球の…」
「もう、何もできないんだよ!!」
初めて聞く光太の怒りの声。
痛いほど強い力で抱き留められ、志麻が苦しそうに声を上げる。
「…ごめん、もう…あはは…」
志麻の前に崩れ落ちる。
そのまま涙を流し続けた。
「光太くん…」
ぴちゃ、
かがみ込む志麻の手に、涙のしずくが落ちた。
「私も、悔しいよ…」
光太を抱きしめる。
渦巻く不安は、志麻の中にももちろん存在した。
しかし、もう何もできないことを、泣き崩れた光太を見て理解した。
「志麻、シマぁっ!」
「きゃっ」
光太が志麻に抱きつくと、重心がずれそのまま倒れ込む。
重力制御は切れかかり、40%ほどの機能しか維持していなかった。
軽く背中を打ったはずだったが、そのままバウンドして光太に組み敷かれた。
驚きの声を上げ視線を上げると、光太が志麻を見つめている事に気が付いた。
自然と唇が重なった。
この現実から逃げたかった。
そして、最後の時が迫っているなら…。
「っ、いっ」
半分脱がされたスーツが床に広がる。
露出した胸を手のひらでなで、その頂点を口に含むと、軽く歯を立てた。
「…いぁ…痛っ…い、」
ちゅぷ、
軽くキスをして口を離す。
汗でぬめった肌に舌を沿わせる。
ピンク色に染まった頂点を少し外した場所に、赤くなった咬み跡が残っていた。
「…生きてる…よね…」
「あっ、え?」
「分解されてないかな…って」
苦笑する光太。
「生きてるよ」
「…死ぬなら…志麻と…」
「死ぬときも、エッチなんだ…」
「嫌?」
少し落ち着いた様子の光太は寂しそうに笑いながら、志麻の身体に残ったスーツを全て取り除いた。
「…死ぬ前でも、恥ずかしい…」
「死ぬ前でも、きれいだ…」
身体のうえにキスを落とす。
次々とその跡が残る。
「ふっ、ア… 光太くん…私っ、ごめんね」
「?」
「もっと、大人だったら、きっとケンカとか…」
「……それは、僕もだから…もう…」
ぬちゅ
光太の指が亀裂の中に埋まる。
ビクリと身体を震わせた。
「あっ」
「僕も、もっとちゃんと、志麻ちゃんのことを分かろうとしていれば…」
「んっ、あ…、」
「ちょっと遅いよね…」
指が身体から離れる。
少しだけ荒くなった呼吸。
ふと、立ち上がり、光太はコックピット後部から何かを取り出した。
「ぁ、?」
「…… これ…」
「何?」
何かを手に取る。
「志麻。よかったら…受け取って…。」
「あ……」
光太の手には、1つの指輪があった。
「これって、」
「僕と、ずっと、一緒にいてほしい…。よかったら受け取ってくれるかな。」
「…あ、、で、でも、こんな時に」
「こんなとき、だから。もう、渡せなくなっちゃうよ」
「……」
しばらく静かな時が流れ、志麻が首を縦に振った。
「ありがとう…」
軽く唇を重ねると、指輪を志麻へと…。
「…光太くん…」
「…志麻…僕も…」
この伝統はこれだけの長い年月を経ても変わらなかった。
指輪がお互いの左手の薬指へと。
「一生、ずっと一緒に…。でも、もうすぐ、終わっちゃうよ…」
「でも、それまで、ずっと」
「……うん…」
流れる涙を拭くこともなく、二人は求め合うように抱き合い、唇を強く重ねた。
ズッチュ、
「ひっぃ! あっ」
ぬちゃ、ちゅぶ
光太のいつになく激しい、乱暴な動きに志麻は悲鳴を上げる。
存在感を感じ、抱きしめるが激しく動きに腕が離れてしまう。
「やっ、あっ あっ!」
ひたすら無言で志麻の身体を犯す。
「こ、っ、ぅた、うっ、あ、あ!」
痛みに耐えながら光太を抱きしめようとする。
ふと目に入った光太の顔、こぼれた涙が何粒も身体にかかっていた。
「志麻!」
「あっ、ぁああ!!」
乱暴に深く、深く突き込まれた光太のペニスから精液が体内へとほとばしる。
「う、ぅ…」
身体がビクリ、ビクリと震え、その震えと同時にさらに精液が放出され、
白く泡になっていた体液とともにあふれだした。
「ぁぁ…」
ようやく声を上げた志麻。
意識がぼんやりとしている。
しびれた感覚。
身体の上に光太が力無く倒れ込んだ。
「大丈夫か!?」
一斉に流れ込む医療班。しかし返事をするものはいなかった。
最悪のケースを想定したシミュレート。
それが勝手に実行され、オペレーターはなんらかの薬物で意識不明。
発見されたとき、酸素はかなりのレベルまで減らされており、扉を破壊しての突入になった。
「……」
1分もかからず何人かの人間がその部屋から出てくる。
その直後、二人がストレッチャーに乗せられ処置室へ向かった。
「最後まで愛は残るのか…しかし、、だれが…」
医療室へ向かうジェイムスの向かいにヒュッター教官の姿が見えた。
「大変です…音山くんと」
「聞いています。後の調査は私が行いますので、医療室へ。彼らが心配でしょう。」
「そうですね…分かりました。事件の究明をお願いします。では私は失礼。」
わずかな会話が交わされると、二人は反対の方向へと歩いていった。
「…これくらいで……、いや…少しやりすぎという可能性…」
向かいから医療班と思われる職員の姿を見かけたヒュッターは、何事もなかったかのように歩き出す。
これはかなり後の話ではあるが。結局、誰の起こした事件なのか、突き止められることはなかった。
「あ、、光太…くん」
ぼんやりした意識、視界。
その視界に眠っている光太の姿が映った。
「なんだった、のかな、眠い」
再び眠りに落ちる志麻。
その瞳から一粒の涙が、流れ落ちた。
「うん、大丈夫だよ! 安心して。…うん、、そうだね。あ、あまり長電話すると、、うん。メールで、じゃあねー」
「…アリサちゃん?」
「リンナちゃんだよ」
「そっか。 ふぅ、」
天井をぼーっとしたまま見る。
もう2日目。しかし、意識を失っている間も含めると5日間。
「なんだか、こうして話してるのが、信じられないな」
「そう、だね」
二人の視線が合う。
「ああ、そうだ…事故…じゃなくて事件…調べてみたけどサッパリだった…」
「…そう…」
そう聞くと、自分の指にはめられた指輪を見てしまう。
ここ数日何度も繰り返した。
「…あ、あの…」
「あはは、分かってるよ…。これは無かったってコトに…」
指輪を外そうとする。
今までは、その勇気が出なかった。
また永遠に離ればなれになりそうで…。
「あ…その、待って…」
「?」
せっかく覚悟を決めたのに、と不思議そうに見つめる志麻の表情に、光太が少し言いにくそうに…
「その、よかったら…良かったらだよ! 受け取ってくれるかな」
「……。えっ、…え!?」
「僕は…本気だよ」
志麻を見つめる。
不安そうな表情、次の言葉を待つ。
「わ、わたし… その…」
「え?」
「まだ…結婚とか、自信ない…。その、自分がまだ、子供だって、ステルヴィアに来てよく分かったから…」
窓の外を見ながら話す。色々なことが思い出された。
「…分かった」
「あの、でも…。嬉しい…これ。結婚するときまで…持ってていいかな?」
「え、じゃあ」
「私は、もちろん…今は、、だけど、OKだよ。でも、将来、光太くんが私のこと嫌いになってるかもしれないよ」
「僕はそんな事…ない」
「無責任発言」
光太の唇を指で押さえ、笑顔でささやくと、愛用のノーパソコンを取り出した。
「それ、って」 画面を見て、驚く。
「ミッションが、うまくいったら。 生き続けられたら…」
「…うん」
名前を入力する。
あっけなく完了するその手続き。
しばらく無言の時が流れ、志麻は大きく深呼吸するとパソコンをベッドの隣の机に置いた。
「ふー… でも、光太くん。あんな事にはさせないよ」
光太がうなずくと、志麻が少しだけ笑った。
「…しない」
赤い宇宙は、その日も変わらず、ステルヴィアの窓からも見ることができた。
そんな光景に蒼い光が差し込んできた。
「きれいだね…」
「そうだね…」
明るく輝く地球が、二人にはとても美しく見えた。
〜〜〜〜〜〜
「婚約…ははは」
お昼、[今日のラブラブカップル] コーナーで取材を受けている光太と志麻。
人類のヒーローである、その二人の結婚…ではないが、その"条件"も大々的に報道されていた。
「…私達、生き残れそうね…」
「あ、すいませんー、ハンバーグ定食を」
お昼は、地球の危機とは関係なく、平和だった。
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