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初佳の奇妙な冒険 285(モJOJOJO)様


 終わった。
 何もかも。
 自分の今まで積み上げてきた全てが。
 これから積み上げようとしていた全てが。
 何故? 誰の所為?
 自分の所為。自分に価値が無いから。
 そうだ価値が無いのなら。
 いっそ全て壊してしまおうか。

 片瀬志麻と音山光太の二人が部屋を去った後、初佳は呆然と、ベッドで天井を見上げていた。
 このまま眠ってしまってもいい。けれどそんな気分じゃない。
 考える事が沢山あるはずなのに、いま自分が思うところは一つ。
 壊し方。町田初佳の壊し方。
 もう生きていくだけの価値が無いのだから。壊してしまってもかまわないだろう。
 しかし方法が分からない。
 今まで散々他者を蹴落とし、攻撃し、壊してきたのに。
 そこまで考えていると、自分の名を呼ぶ声がし、ドアが開いた。
「ケント…?」
 初佳は体を起こす。思った通り、そこには自分と同じ「ビッグ4」と呼ばれる男がいた。
「やあ、初佳」
 ケントは笑みを初佳に向ける。大抵の女ならココで卒倒するのだろうが、
 初佳は未だかつて目の前の男を「男」として見たことが無かった。
 ライバル。友達。あるいは、その両方。
「ドア、無用心だよ」
 初佳が無反応なのを見て、ケントはそう言った。

 初佳はケントから目を逸らして、呟く。
「さっきも同じこと言われたわ」
「誰に?」
「音山光太。片瀬さんもいたけれど」
「…来たのか?」
「来たわ。何故私が片瀬さんに怪我させようとしたのか、聞きたかったんだって。決まってるじゃない、そんなの」
 そう言って初佳は嘲笑するように笑った。その対象は。
「初佳。ボクは君を、退学にはさせない」
 その言葉に、初佳はケントの顔を見た。見たことの無いような真剣な顔。
「…退学にさせない? 冗談でしょ? 私はもう二度も…」
「二度じゃない。二度にはさせない」
「…?」
「藤沢くんと掛け合ってきたよ」
「!」
「君を許してくれるように。今はまだ思案の途中だけど、たとえ断られてもボクは」
「余計な事しないで!」
 激昂。初佳は涙を浮かべながらケントを睨んだ。
「初佳…」
「そんなことされたら、私、余計…」
 そこで初佳は気がつく。「余計」なんなのか。
 余計自分のプライドが傷ついてしまう。バカか。
 こんな状況になってまで、自分は自分のちっぽけなプライドを守ろうとしている。
 最低。恐らく自分は人間の中でも最低の部類に入る。
 やはり価値など微塵もない。
 初佳は涙を拭って、ケントの顔を見詰めなおした。そして思う。
 なぜこの男は私にここまでしてくれるのか。簡単だ。この男は私のことが好きなのだ。
 触れたいと、抱きたいと思っている。性欲の対象。ならば、お望み通りにしてやろう。

「抱いて」
「え?」
「私を抱いて」
「初佳?」
「抱いて忘れさせて」
「なにを言ってるんだ。ボクは…」
「あなたがスキなのよ、ケント。愛しているわ」
 初佳は無表情のままそう言って、服を脱ぎ始めた。
 ケントは慌てて言う。
「嘘だ。君は自分を傷つけようとしているだけだ。そんなことをしたって」
「何もならない? じゃあ『何になれば』いいの? 私は何かになれるの?」
 ケントは言葉を失った。
「自分の障害は叩き潰す。今までそうしてきたのよ。これからだって、しないわけが無い。ううん、絶対にする」
 初佳はそこまで言って、ズボンを脱いだ。完全な下着姿。
「だから、変えてよ。あなたが私を変えて。その覚悟もないんだったら、今すぐ出て行って」
 勝手な女だ。初佳はもうそれしか思わなかった。
「違う…ボクは…」
「違う? なにが違うの? 何が違わないの? 私にはもう、何も分からない」
 ケントは顔をしかめて、その場に立ち尽くしていた。
 初佳はそんなケントを見て、イライラしている自分に気がつく。
 抱きたいのなら、早く抱けばいい。
「早くして。じゃないと、やよいがどうするわけでもない、自分でステルヴィアを出て行くわ」
 決め手の一言。それとともに、初佳は下着も全て取り払った。
 ケントはそれを聞いて、唇をかみ締めると、初佳に近づいてきた。
「いいんだね?」
 ケントは確認するように初佳に言う。
「何が良いの? 何が悪いの?」
 初佳はケントの目を見据えて、そう言った。

 逆にケントは初佳の目から目を逸らす。そして一瞬なきそうな顔をすると、初佳にキスをした。
 表情を変えずにそれを受ける初佳。
 ケントは初佳をベッドに寝かせた。
 もう一度口付けられる。ケントの舌が初佳の舌と絡み合う。
 ケントはそのまま、初佳の乳房に手を寄せた。
 触れる。柔らかな、手に丁度収まるくらいの乳房を、いたわるように揉んだ。
 ピンク色の乳首を、両方つまみ、捏ねる。
「ん…」
 ケントのなれた手つきに、初佳が反応した。
 ケントはキスを止めると、乳首に唇を寄せる。含む。乳輪を舌でなぞり、乳首を押し込む。
「あ…」
 初佳の頬が赤く染まる。
 ケントは乳房に触れていた手を、初佳の股間に移した。
 中指で入り口に触れる。初佳の髪の色と同じ茂みに覆われた、そこをなぞる。
「はぁ、ぁ、ん」
 ケントは柔らかな丘の全体を手で包み込むようにして、優しく揉んだ。
「あ、あ、あ」
 息を漏らす初佳。ケントは手を離し、人差し指を膣にゆっくりと差し込んでいく。
「…!」
 唇を噛んで耐える初佳。ケントは中で人差し指を曲げたり、角度を変える。
 自分の内側を擦られる感覚に、初佳は息を荒げた。
 ケントは指を中に入れたまま、もう片方の手で初佳の陰核を触った。
「ぁ…!」
 今までとは異質の感覚。初佳は目を見開く。
 ケントはかまわずそこを捏ね、舐め上げた。
 少しの間そうしていると、ケントは指を離す。
 初佳が引き抜かれた指を見ると、それは濡れていて、部屋の僅かな灯りを反射していた。
「そろそろ、いくよ」
 ケントはそう言って、上半身だけ裸になると、自分の性器を取り出した。
 大きい。
 初佳は一瞬だけそう思うと、来るべき衝撃に目を閉じた。
 ケントが初佳に覆いかぶさる。そして、初佳の性器にケントの性器が擦りつけられた。

「ん、ん…」
 ケントが腰を押し出す。先端が埋まった。
 それを確認すると、ケントは初佳の腰をつかみ、一気に挿入した。
「ぅ…!」
 初佳はケントに抱きついた。顔を見られないように。
「く…初佳…!」
 ケントはゆっくりと腰を動かす。
 潤っているその中で、ケントの性器は音をたてて出し入れされた。
「あ…うぁ、はぅ」
 初佳がケントをより強い力で抱きしめた。
 ケントはその手を少し強引に解くと、体勢を変えた。後ろから突きこまれる。
 深い。自分の一番深い所まで、ケントに触れられている。
 初佳は喘ぎながら、シーツを思い切りつかんだ。
 ケントはやはりこう言ったことに慣れている。
 突きこむ速さや、角度、力加減が一回一回違う。
 そして時折初佳の乳房をつかみ、快感を引き出す。
 また体勢を変えた。ケントは初佳の片足を自分の肩に乗せて、横から突きこんだ。
「あぁ! あ! あ! ああ!」
 擦られている。自分の体内が、熱いものに。
「く、初、佳…」
 名前を呼ばれる。胸の中が少し熱くなる。
 けれど初佳はケントの名を呼ばなかった。
「あ! あ! わ、たし、あ! イ…!」
 初佳が絶頂に達する。収束する膣運動から、ケントは逃げ出すようにして引き抜いた。
 ケントもまた果てた。性器から発せられた体液が、初佳の胸に飛び散る。
 息を荒げて動かない二人。
 そして、ケントはそれに気づいた。
「初佳…きみ、初めて、だったのか…?」
 ケントの性器が引き抜かれた後から、少し色の違う体液が滲み出てきた。
 それはこの暗い部屋では分かりづらいが、確かに赤い色が混じっていた。

「だから…?」
 初佳は未だ整わない息を抑えながら言う。
 ケントは苦虫を噛み潰したような顔をして、言った。
「もう少し、違うやり方もあった…」
 初佳はそんなケントを見て、少しだけ微笑んだ。微笑むことができた。
「優しいのね」
 そう呟いて、服を着始めた。
「初佳…」
 また名前を呼ばれる。
「ケント」
 初佳は名前を呼び返した。そして、言う。
「ごめんなさい」
 ケントは少し驚いた顔をして、
「いいさ」
 そう言った。

 誰もいない部屋。
 ケントが部屋を去った後、初佳は呆然と、ベッドで天井を見上げていた。
「ごめんなさい」
 呟く。
「ごめんなさい」
 もう一度。
 気がつけば、初佳は泣いていた。
「ごめんなさい」
 何度も何度も呟いて、そして泣き続けた。
 そしてその言葉を、自分は驚くほど口にした事がないことに気がつく。
 初佳は先ほどの行為で少し汚れたシーツを抱き寄せた。
 涙が溢れる。体が震えている。
 止まらない嗚咽の中、初佳はもう一度呟いた。
「ごめんなさい…」
                          完


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