1スレ159-163 極微エロ 良時 / 1スレ159氏
雪村時音が「それ」を迎えたのは、齢12になってのこと。墨村良守が「それ」を迎
えたのは――ごく、最近になってのことだった。
時音が「それ」を迎えたときのことを、良守はしっかりと覚えている。毎晩の「お
役目」と、烏森学校へと向かい、妖を退治する。まだまだ、自分は時音に守られる場
面もあるが、あの頃は時音を守ろうと決意したものの、守られてばかりだった。それ
でも、足手まといには決してなるまいと、必死で闇夜を駆けた。
いつものように妖を退治し、家路につこうと、時音が自分に背を向けた、その時だっ
た。
「時音! 大丈夫!? 血が出てるよ!?」
え? と、時音は不思議そうに良守の方を振り返り、そうして己が指差された部位
へと目をやって、はっと、顔を蒼白させた。
「時音、怪我、怪我した!? はやく、血を止めなきゃ……!!」
慌ててナップザックを開けてタオルやら消毒薬やらを取り出す良守に、焦りながら、
時音は言った。
「大丈夫よ良守。これは、怪我じゃない、怪我じゃ、ないのよ……」
でも、と言いつのる自分に、「ヨッシー、上着をさっさと脱いで、貸しておやり!」
と班尾の鋭い声がかかった。一瞬呆ける自分に、「早く!」と、さらに鋭い叱責が飛
ぶ。何やら良く分からないものの、上着を脱いで時音に渡した。時音はやや、躊躇い
ながらもそれを受け取り、肩にかけた。墨色の上衣は、時音の雪色が赤く染まった部
位を隠した。
時音は小さく、「ありがとう」と俯きながら礼を言い、班尾はフン、と鼻息を上げ
ると、「ヨッシー、帰るよ!」と、予断を許さぬ口調で自分を呼びつけ、強引に、さっ
さと家に帰らせた。
後に、綺麗に折りたためられた墨色の上衣とともに、赤飯を渡されて、それ
を聞いた父親である修史が、「時音ちゃんも大人になったんだね」と、優しく
笑んだ。
どうして、と、自分が問うと、父は少し困ったようにして、ぽすん、と自分
の頭を撫ぜながら、ただ、「時音ちゃんが具合の悪そうな時は、良守が頑張ら
ないとね」と言った。
時音の迎えたそれが初潮であり、時音の白服を染めた血が月経のそれである
ことに、後になって気付いた。自分が声変わりも終えぬその頃に、既に時音は
子を宿すことが出来る、女の体になっていた。
そうして、墨村良守の「それ」は、毎晩の「お勤め」前の就寝時に、訪れた。
時音がいた。黒々とした墨色の髪をなびかせながら、白装束に身を包み、穏
やかに微笑んで、ぼんやりと月を見ている自分の隣に腰掛けた。場所は烏森学
校の、裏庭。晧々と月が照っている。
幼い頃ならばともかく、今の時音がこうも側に寄り添ってくれる筈がない。
そう思う自分に悲しくなりながらも、「時音?」と、相手に問い掛けた。
時音は、やわらかく、笑んだ。
そうして、ふわり、と良守の体に手を伸ばし、くちり、と唇を、合わせた。
自分は目を白黒させるばかりである。息も出来ず、呼吸を求めようとしたところ
で、すっと、時音は身を離した。変わらず、時音は穏やかに笑んでいる。
「……とき、ね……?」
手を伸ばす。おそるおそる軽く肩に触れると、押したつもりもないのに時音
は倒れた。白く細い首筋が見える。いつの間に乱れたのか、形良い鎖骨が、あ
らわになっている。肌は、白い。
こきゅん、と、良守の喉が鳴った。時音、と呟きながら、ゆっくりと身を圧
し掛かる。手を伸ばし、頬に触れる。自分から、時音の唇に合わせようとする。
時音は笑っている。穏やかに、穏やかに、笑っている。
ふと、妙な違和感をそこで感じた。
目覚し時計が妖の侵入を告げ、良守は目が覚めた。ぼんやりとしながらも身を起こ
し、装束へと衣を替えようとしたところで、「それ」に気付いた。
烏森の夜、月が晧々と照っていた。時音は既に着いており、良守を見ると、眉を吊
り上げて、「遅いわよ!」と声を上げた。ああ、と、良守は笑んだ。その微笑みに時
音はたじろぎながら、
「何よ、にやにや笑って……気持ち悪い……」
「気持ち悪いって言うなよ! 気持ち悪いって!」
「気持ち悪いものを気持ち悪いといって何が悪いのよ。何よ、どういう心境の変化?
お勤めがそんなに嬉しいの?」
あー、うん。と、良守は月を見上げ、柔らかな月光を受けて佇む、呆れたような時
音を見て、笑った。
「時音と一緒にいれるなら、俺は嬉しいって思うよ。ホントに」
満面の笑みとともに少年から吐き出された言葉に、な! と、顔を紅潮させて、慌
てて少女は少年に背を向けた。
――少女が「おんな」に、少年が「おとこ」になるのは、まだそれから、あとのお
はなし。
*終*
えたのは――ごく、最近になってのことだった。
時音が「それ」を迎えたときのことを、良守はしっかりと覚えている。毎晩の「お
役目」と、烏森学校へと向かい、妖を退治する。まだまだ、自分は時音に守られる場
面もあるが、あの頃は時音を守ろうと決意したものの、守られてばかりだった。それ
でも、足手まといには決してなるまいと、必死で闇夜を駆けた。
いつものように妖を退治し、家路につこうと、時音が自分に背を向けた、その時だっ
た。
「時音! 大丈夫!? 血が出てるよ!?」
え? と、時音は不思議そうに良守の方を振り返り、そうして己が指差された部位
へと目をやって、はっと、顔を蒼白させた。
「時音、怪我、怪我した!? はやく、血を止めなきゃ……!!」
慌ててナップザックを開けてタオルやら消毒薬やらを取り出す良守に、焦りながら、
時音は言った。
「大丈夫よ良守。これは、怪我じゃない、怪我じゃ、ないのよ……」
でも、と言いつのる自分に、「ヨッシー、上着をさっさと脱いで、貸しておやり!」
と班尾の鋭い声がかかった。一瞬呆ける自分に、「早く!」と、さらに鋭い叱責が飛
ぶ。何やら良く分からないものの、上着を脱いで時音に渡した。時音はやや、躊躇い
ながらもそれを受け取り、肩にかけた。墨色の上衣は、時音の雪色が赤く染まった部
位を隠した。
時音は小さく、「ありがとう」と俯きながら礼を言い、班尾はフン、と鼻息を上げ
ると、「ヨッシー、帰るよ!」と、予断を許さぬ口調で自分を呼びつけ、強引に、さっ
さと家に帰らせた。
後に、綺麗に折りたためられた墨色の上衣とともに、赤飯を渡されて、それ
を聞いた父親である修史が、「時音ちゃんも大人になったんだね」と、優しく
笑んだ。
どうして、と、自分が問うと、父は少し困ったようにして、ぽすん、と自分
の頭を撫ぜながら、ただ、「時音ちゃんが具合の悪そうな時は、良守が頑張ら
ないとね」と言った。
時音の迎えたそれが初潮であり、時音の白服を染めた血が月経のそれである
ことに、後になって気付いた。自分が声変わりも終えぬその頃に、既に時音は
子を宿すことが出来る、女の体になっていた。
そうして、墨村良守の「それ」は、毎晩の「お勤め」前の就寝時に、訪れた。
時音がいた。黒々とした墨色の髪をなびかせながら、白装束に身を包み、穏
やかに微笑んで、ぼんやりと月を見ている自分の隣に腰掛けた。場所は烏森学
校の、裏庭。晧々と月が照っている。
幼い頃ならばともかく、今の時音がこうも側に寄り添ってくれる筈がない。
そう思う自分に悲しくなりながらも、「時音?」と、相手に問い掛けた。
時音は、やわらかく、笑んだ。
そうして、ふわり、と良守の体に手を伸ばし、くちり、と唇を、合わせた。
自分は目を白黒させるばかりである。息も出来ず、呼吸を求めようとしたところ
で、すっと、時音は身を離した。変わらず、時音は穏やかに笑んでいる。
「……とき、ね……?」
手を伸ばす。おそるおそる軽く肩に触れると、押したつもりもないのに時音
は倒れた。白く細い首筋が見える。いつの間に乱れたのか、形良い鎖骨が、あ
らわになっている。肌は、白い。
こきゅん、と、良守の喉が鳴った。時音、と呟きながら、ゆっくりと身を圧
し掛かる。手を伸ばし、頬に触れる。自分から、時音の唇に合わせようとする。
時音は笑っている。穏やかに、穏やかに、笑っている。
ふと、妙な違和感をそこで感じた。
目覚し時計が妖の侵入を告げ、良守は目が覚めた。ぼんやりとしながらも身を起こ
し、装束へと衣を替えようとしたところで、「それ」に気付いた。
烏森の夜、月が晧々と照っていた。時音は既に着いており、良守を見ると、眉を吊
り上げて、「遅いわよ!」と声を上げた。ああ、と、良守は笑んだ。その微笑みに時
音はたじろぎながら、
「何よ、にやにや笑って……気持ち悪い……」
「気持ち悪いって言うなよ! 気持ち悪いって!」
「気持ち悪いものを気持ち悪いといって何が悪いのよ。何よ、どういう心境の変化?
お勤めがそんなに嬉しいの?」
あー、うん。と、良守は月を見上げ、柔らかな月光を受けて佇む、呆れたような時
音を見て、笑った。
「時音と一緒にいれるなら、俺は嬉しいって思うよ。ホントに」
満面の笑みとともに少年から吐き出された言葉に、な! と、顔を紅潮させて、慌
てて少女は少年に背を向けた。
――少女が「おんな」に、少年が「おとこ」になるのは、まだそれから、あとのお
はなし。
*終*