EVIL HAZARD
ゼクロス・アークウィンドさん 作
EPISODE3 「変身」
「博士、本郷真のS.M.R……type<HOPPER>への改造を完了しました」
「ふぅ……やはりありとあらゆる飛蝗の能力を投与するというのは流石に遣り過ぎだったか?」
「まぁいいじゃないですか博士、これぞ初代という感じでいいじゃないですか」
「まぁ、そうだが」
汗濁でそう言い放った男、そして博士と呼ばれた男の二人と白衣を着た複数の人間達……
そしてカプセルの中で目を閉じて静止している青年<本郷真>……カプセルの中にはかつて液体で充満していたが、
すでにその液体も排水により全て流れていた。
「しかし、変身後の姿はどうなるんでしょう」
「予想だが昔のヒーロー物のような姿じゃないのか?
大きく丸い目、そして鎧のような造形の体をしているだろうな」
「まぁ変身するとしたら格好良いのが良いですよね」
<手術>を終えて休息を取る男達、その中でおそらく<手術>の指揮を取っていただろう博士と呼ばれる男、
そして博士と呼ぶ助手らしき男。彼らの会話の内容は何も知らない一般人からは幼稚な様に思えるかもしれない、
しかし手術を施された者にとっては強烈な嫌味である。
「うぅ……」
呻き声と共に一人の青年が目覚めカプセルの中から出て立ち上がろうと瞬間、カプセルの中が輝いた……
その直後、先程カプセル内に充満していた液体に濡れている筈の衣服が何事も無かったかのような状態と共にその体が立ち上がる。
「目覚めたか、本郷青年」
と覚醒者に話しかけた「博士」、その相手は無論彼らの手によって拉致された「本郷真」であった。
「!?
あんた達は、俺を捕まえて拉致した奴らの依頼者か!?」
「感が良いな、青年」
「本郷真」は目の前にいる複数の男達、そして自分の境遇から「それ」を導き出し問いただすと、「博士」はそう答えた。
「俺に何をした?」
「これから分かる事だ、今は言わんさ……それよりも」
本郷の問い掛けに答えず誤魔化した「博士」……そしてその男はとっさと言わんばかりにこんな事を言った。
「我々の仲間にならないか?」
「何?」
「博士」の言葉に一瞬目を更に開き、口を少し開けた本郷……その男は付け加え……
「我々の仲間になり……この星を平和にし、その平和を守る守護者にならないか?」
「な……?」
と言い放ったその発言者の男……
こういう事を言う者はおそらく一般人からしたらカルト教祖等の闇の部分を連想する物が多くなるかもしれない……
だが、しかしその男の目は輝いて見えた。まるでその男の正義感の強さでも表さんとばかりに。
「君は知っているだろ?
かつてこの日本が俗に言う特定アジアと呼ばれる中国、韓国、北朝鮮の三ヶ国に侵略されかけた事を、
日本は一歩間違えればその悪魔共の隷属となりかけた事を……そのような邪悪な存在がまだこの世界には根付いてる……
忌々しい事にな、だから我々はこの星を覆う強大な悪意、邪悪な存在を滅ぼす」
日本の歴史の闇の部分、忌まわしき部分を語る彼の顔には陰りが、怒りが、悲しみがあった。
それをただ頷いて聞くしか無かった本郷は、そんな自分に若干腹を立てた。
「平和にするだと? 侵略という本音の建前だろ……それで自分達が勧善懲悪を勧めている正義の味方とでも言うつもりか?」
「大人は、いや大人と呼ばれる者達は……勧善懲悪など無いと言って自分達を高尚な存在だと思わせる」
本郷の言葉に、彼は陰りを見せていた表情が更に陰りを見せそう答えると、目を、その色を変えたかのように輝かせ語りかけた。
「昔から善良な者が悪に泣かされる構図は変わっていない……
だからこそ今の時代、いやこれからも正義の味方が、正義の使者が必要なんだ!
君はその正義の味方に、使者になるんだ!」
「お前達の正義の、使者になれだと!? ふざけるな! お前達の掲げる<正義>など正義ではない、ただの自分達の<エゴ>だ!」
彼の言葉に反論する本郷、本郷の目は気のせいか発言者の彼よりも輝いて見えた。
「エゴ……?
確かに昔の歴史に出てくる人間と照らし合わせれば我々もその悪人達と同質の存在になってしまうだろ……
だが、しかしこの思いだけは邪念には支配されていないつもりだ」
「……」
彼の言葉にただ黙って聞いている本郷、おそらくもうどこかで「組織」に入ることを決意しようとしているのかもしれない……
「改めて言おう、我々の正義の使者になるつもりはないか?
君の生徒達の未来の事を思えば……ならなければならないと思わないのか?」
「そ、それは……」
さらに説得を続ける博士のその言葉に本郷は戸惑ってしまい、言葉を失ってしまった。
このまま説得を続けられたら、彼は即「組織」に入りそうな……そんな雰囲気だった……
だがしかし「博士」は忘れていた「侵入者」の存在を
「何をやっていたのかな?」
何かが激しく倒れる音が響き渡った直後に放たれた一言……その言葉の主は
「まずいな、あのドラえもんか……」
冷や汗を浮かべてそう呟いた博士……そう目の前にいる相手にして発言者は「ドラえもん」であり、
彼の背後にはキッド、そしてワシがいた。
「セワシ……どうしてここへ!?」
「先生を助ける為に決まっているじゃないですか!」
本郷の問いに勢い良く答えたセワシ、本郷は彼のそんな表情を見て「今まで」の彼とは大違いな姿に驚愕した。
「あんた達みたいな外道……僕達がタダで済ませると思うかい?
さっき僕はハンターに改造された人達を13人殺してきて腹が立っているんだよね」
ドラえもんは落ち着いた口調で……そして表情に激しい怒りを浮かべて科学者と思われる男達にそう言い放った。
「ハンター13人が冷凍保存されていた保管庫に進入したのか……まぁ君の馬力の前には奴らと言えども狩られるしかないだろうな」
「何だい、その自分達には関係ないと言いたげな言葉は?」
ドラえもんに話しかけた男、いや「博士」……そしてそんな彼に反感を覚えるドラえもん、それを察した彼はある事を告げた。
「まるで私達がその13人をハンターに改造した張本人であるかのような言い方だな……言っておくが、
あれは本部から送られた警備兵の一つだ」
「何だって?」
彼から告げられた言葉に一瞬驚愕したドラえもんは先程まで激しい怒りを表していた表情を変えた。
「それにハンターとタイラント等のB.O.Wは私達の組織の技術が今と比べて未熟だった時期に作られたものだからな……
その作られた時代、私達は生まれていなかったよ」
そして更に補足、説明を加えた博士……そして
「そうだ、博士……本郷の戦闘能力テストに彼らも参加させて行ってみては?
興味深いデータが取れると思いますよ」
彼に口添えした「助手」……その意見を聞き入れた博士は彼らとの会話を始める。
「ハンター、タイラント……私が生まれていない時に作られたあれらは今では生産されてはいない、前時代の遺物と言って良いものだが……
それは何千どころか何万も生産されていたのだ当時は」
「当時?
何年、いや何十年ぐらい前の話なんだ?」
「40〜50年ぐらい前だよ」
博士の語った事実に問い掛けるキッド、そしてそれに丁重に応える彼……
「嫌な遺物があるもんだね……あんた達はそれを警備兵、いや下級兵士として扱ってきたのか……」
「下級兵士……まぁその表現は間違ってはいないどころか正解だな。今となっては前時代の古物だが、役に立つ所では役に立っているさ」
ドラえもんの言葉にそう答えた彼は、指を鳴らした……すると
「え?」
ドラえもん、本郷、セワシ、キッドが光の輪の中に包まれたかと思うと次の瞬間彼らが光に覆われ、
しばらくするとすでに彼らの姿が消えていた。
「……え? 何これ無限ループ?」
光と共に消えた彼らの行き先……それは平成20年代の学校の「体育館」の内部のような広さを持つ空間……
すなわち先程本郷と合流した場所の入り口付近だ。
「君達にしかやらないだろうな、こんな戦闘訓練は……」
声がドラえもん達のいる空間に響き渡る……それが聞こえる根源を不意に探し出す彼らは天井にその顔を上げた。
だが、どの方向を見てもガラスらしき物は一つも無い。
「本郷青年の戦闘訓練に付き合って貰おう……どうやら君たちは只者じゃないようだからね」
声の主である「博士」と呼ばれている男は、彼らを対象にしてそう言った次の瞬間……
天井から何かが上にある<それ>を突き破り下に落ちてきた……いや正しくは降りてきたと言うべきだろうか。
「あれは!?」
その降りてきた物、いや者を視認で声を上げたドラえもん……
目の前にいるのは自分達が読んだ資料の中に書かれ御丁重なまでにその写真まで張られていた灰色掛かった白い肌の人間であり、
長身と言うにはあまりにも背丈が高い者……「タイラント」だった。
「俺達も居残り補習ってか!?
ありがた迷惑な話だぜ!」
とキッドが声を上げた瞬間、タイラントは咆哮するとその巨大な爪を供えている片腕を振りながら駆け出した……
無論対象者は彼ら、ドラえもん達だ。
「ヲォォォォォォォ!!」
そんな発声と共にその巨大で鋭利な爪を前面に突き出そうとするタイラント、しかし攻撃が単調だった為か彼らに左右の方向に回避される。
「ロケットランチャー……僕持ってるんだけど……撃てそうに無いね」
ドラえもんはふと、日常生活においてとんでもない事実を明かした。ただ、それだけの事でしかなかったのだ……
タイラントがこの場にいる自分達を圧倒する巨体を誇り、
しかもそれに見合わない俊敏性を誇っている事がロケットランチャーを取り出せない最大の要因である、
理由は無論ロケットランチャーを構えている一瞬の隙を突かれてしまう恐れからだ。
「ロケットランチャーが駄目なら、ハンターの時のように頭を砕けよ!」
「あれは彼らの背丈がタイラント程大きくなかったから出来たことだ!
相手は二メートルを軽く超えているんだよ?
ジャンプして殴りかかっても串刺しにされるだけじゃないか!!」
こんな危険な事態であるのに痴話喧嘩を始めたドラえもんとキッド……
彼らが話している間にもタイラントはその巨大な爪を構えながらこちらに向かって突進、それを彼らは回避……を繰り返している。
「タイラントと戦っているのに、痴話喧嘩が出来るとは……やはり君達は普通と呼ばれる層ではないな」
天井伝いから聞こえる「博士」の感心の声、鑑賞している側……
つまり「戦闘訓練」を行っている者にとっては高みの見物という表現が似合っている。
「しかし……いつまで回避行動に専念するつもりかね?
たかがタイラント一体で回避行動が主な戦い方をしているようではこの先、生き残れんぞ?」
言葉からしてもはやドラえもん達が置かれている状況は、彼らにとっては「他人事」である事が嫌な程分かる。
……そしてその彼から恐るべき事実が
「何故なら……君達はこの場で13体のタイラントを殺さなければならないんだからな」
自然な口調で「それ」を言い放った「博士」……次の瞬間、彼らの体にある種の「戦慄」という物が走った。
まさかたった1体でここまで苦戦している相手と後12体も戦わなければならないのか、
スーパータイラント化というものを起こすかも知れない奴らと……と。
「君達は、彼らの……タイラントに改造された苦しみ、悲しみ、絶望から解放させてあげるんだ」
「他人事なのか、お前達には……!」
博士の言葉に怒りを浮かべる本郷……そして
「ふぅ……ふぅ……足が痛い……もう動けない」
ついに息切れを起こし弱音を吐き始めたセワシ、この事態においてそんな発言は命取りであった……
何故なら彼は先祖特有とでも言いたげに体力が運動神経が長く持たない方であったからだ。
そんな弱音を呟き続ければ気力も落ちやがては「死」を招きかねない。
「ウガアアァァァウゥ!!」
セワシが汗だくなのかを待っていたのかそうでないか分からないが、
そこにタイラントが脅威である片腕を前面に構えながら駆け出した……最悪なことにターゲットは野比セワシだ。
「う、うわああぁぁっ!!」
死への恐怖に膝を突き声を上げたセワシ……そしてそんな彼の懐に駆け出してその巨大な爪で串刺しにしようとするタイラント……
しかし
「セワシ!? おおぉぉっ!!」
そこに本郷が助走してジャンプ……キックの体勢になると、そのまっまタイラント目掛けて放ち……何と蹴り飛ばし壁に激突させた。
「す、凄い!」
それは誰が見ても驚愕せざるを得ない光景であろう……
何故なら敵<相手>は身の丈二メートルを軽くどころか大きく超えている長大な体躯を誇っているのに……
それを普通の等身大の人間が蹴り飛ばし壁に激突させたのだから。
「……やはり本郷先生は……」
先程の光景を目撃して顔を曇らせそう呟いたドラえもん、しかしそのまま黄昏ているわけにはいかない。
敵は……まだその醜悪な姿から魂を解放されていないのだから。
「ガアアアァァァァッ!!」
咆哮して立ち上がるタイラント……その背にある壁は先程の強力なとび蹴りをほぼ諸に食らった所為か、大きく凹み、
数多の破片が散らばっており、それら殆ど全てに赤い水滴が付着している。
「俺に狙いを定めたか……」
タイラントの駆け出す方向を見てそれに瞬時に気がつき、そう呟いた本郷は腰を低くすると、
その直後に床を蹴ってジャンプして直下から急降下による飛び蹴りの体勢に入る。
「ガアアァァッ!」
頭上の直下から繰り出された急降下の飛び蹴りの直撃を頭部に食らったタイラント、
当の攻撃者はその頭を踏み台にして見事にその背後に回転着地を決めて、タイラントの背後の方向に振り向きしゃがむと、
そのままタイラントの足目掛けてフェイントを仕掛けて転倒させる。……こんな活躍、民間人である彼にはほぼ到底ありえない事だが、
そんな事が出来るのは……皮肉なことに彼が「改造」された事の何よりもの証でもあった。
「そのタイラントから自分を身を守るので精一杯で死に物狂いだったとは言え……俺がここまで戦えるなんて……」
転倒したタイラントを目の前にして、そう呟いた本郷……そして
「ウガアァウ!!」
「しまった!?」
タイラントは上体を起き上がらせると、本郷にその白い目を向けるとそのまま……その巨大な爪で振り払った。
「グアァッ!!」
その巨大な爪で本郷の腹部当たりに命中させ振り払ったタイラント……
それによってひるんだ本郷は唇に吐血した血を見せながら腹をあて、立ち上がろうとした……
しかし先程の負傷により立ち上がろうとしても怯み膝をついてしまう。
「くぅ……うっ……」
その時、本郷の顔が歪んだかと思うと……うっすらとだが赤い何かの跡のようなものが浮かび上がり……
顔を含めて露出している肌の色がまるでアザが出来るかのように緑色に変色し始めたのだった。
「……ついに<変身>か、タイラントの動きを止める」
本郷の様子を見て「ある事」を悟った「博士」はそう呟いた、
するとその直後、タイラントは動きを止めた……いかにも本郷に止めを刺しかねないような体勢を取っていたのに……だ。
「タイラントが動きを止めた? いやあいつらが動きを止めたのか」
タイラントの様子にある「要因」に気づいたドラえもんは、そう呟くとタイラントの様子を見る事にした、それはキッドとセワシも同じことだった。
彼らがタイラントを今のこの瞬間に叩かないのはおそらく「奴ら」がタイラントをある種、「操作」している事に気づいたからである。
「うあ……ぁ……あ」
本郷が呻きだし地に伏したと同時に彼の体の「本格的」な変化は始まった……露出している肌の色が緑色に変色した……
つまりはこれはほぼ全身の体色が変色した事を表していた、
本郷の顔の眉間あたりからは赤く丸く小さい宝玉のような器官らしき物がその肌を破り露出し、
その額あたりからは赤く擬音語で表すなら「ヌメリ」という表現が似合いそうな液体と共に細長いものが突き出ており、
顎は二つに割れて開いたかと思うと閉じ、脹脛がふくらんだかと思うとそれは本郷のジーンズを内側から破り始めて緑色に変色する体色を
露呈し……
「せ、先生……」
本郷の変化、いや「変身」というべき事象に声を失いただ見つめるだけしかないセワシ……そして
「ううぅぅ……っ……」
ついにと言わんばかり上半身の胴が変化を始める……何かが膨らみ、そのままそれによって巨大化してきた胴は衣服を咲き、破り……
ついに一糸纏わぬ状態となった。
「それが君の変身態か、私の……いや私達のほぼ思った通りの姿だな」
本郷、いや本郷がいた場所にいる存在を指してそう呟いた博士……彼、本郷がいた場所にはただ一人の、いや一匹……
とでも言うべき赤く丸い目をした謎の存在がいた。
「はぁはぁ……なんだ、一体……?」
謎の存在は息を荒くしてそう呟き、ふと自らの両手を自分の<顔>に見えるように動かし……
「何だこの手は……、何だこの体は……!!」
謎の存在は自らの変化、もとい変身に驚愕し声を上げる……
「ば、化け物に……」
そんな謎の存在を見つめてそう言い放ってしまったセワシ……彼の目の前には……
飛蝗のような人間、いや人間のような飛蝗か……そんな生物がいた。
「タイラント、動け」
博士は<モニター>越しにそう呟いた……するとタイラントは咆哮し先程の静止が嘘のようにその巨体で駆け出した……
無論謎の存在こと「本郷」目掛けてだ。
「許さん……」
タイラントが駆け出し、その巨大な爪が今にも本郷を一突きしそうな所で……
彼はその一言と共に今にも自らを貫かんとする巨大な爪を片手で掴み、止めて見せた
「!?」
唐突な光景に一瞬動きを止めたタイラント……それが命取りであると当事者が分かる筈もない、
何故なら相手は生物でいうとただの「獣」に等しいからだ。
「俺を……よくもこんな体に……!!」
手に掴み止めた爪を……そのまま木の枝を折るかのように圧し折り、そのままもう一方の片手で腹部を貫くと、そのまま勢い良く引き抜く。
「ギィッ!!」
しかしそんなタイラントは自らの腹部から片手が引き抜かれた瞬間、巨大な爪を備える腕の方ではなく、もう一本の片腕を振り下ろす。
「おおおぉぉっ!!」
そんな叫びと共に片腕を片手で受け止めたかと思うと、
そのまま……それを引き抜き、引き抜かれた<それ>からは赤い水滴と共に白い棒状の何かが露出していた。
「ガアアアァァッ!!」
そんな咆哮と共に爪を引き抜かれた片腕を乱暴に振り回し始めたタイラント……そして本郷は片腕を振り回し一瞬背を見せた所を狙い
「あああぁぁっ!!」
本郷は跳躍し急降下でその手の爪で……タイラントの首元を横に切り裂き頭を掴み、
そのまま植物を引き抜くかのように首を脊髄ごと取り出し……それをぶっきらぼうに床に投げつけ……
次の瞬間、鮮血と共に柔らかい何かの塊が白く元は棒状の物体だった破片と一緒に散らばっていた。
「オアアアァァァァッ!!」
本郷はタイラントだった赤い水滴まみれの肉と骨の塊を見て威勢良くそしてどこか虚しげに咆哮した……
彼の今の姿を見て名付けるならば怪人「飛蝗男」と言った所だ。
「タイラントを超える腕力、脚力、俊敏性……S.M.R<THE
FIRST>に相応しい身体能力……少し上出来すぎるか?」
本郷の心情を知ってか知らずかそんな心にも無いことを呟いてしまった「博士」……そして
「ガアアァァァァッ!!」
そんな発声が上からいくつも聞こえてきたかと思うと、次々に床を打ち壊しこちらに降りてきた者達……
それは本郷、もとい「飛蝗男」と言うべき存在が先程惨殺した者の同属である12人だった。
「おおおぉぉっ!!」
そう叫び、助走を付け飛び上がる「飛蝗男」……そして勢い良くそのままタイラントの一人の頭に飛び蹴りを放ち、
踏み潰したかと思うとその反動を生かして体を反転し、もう一人のタイラントの頭を飛び蹴りによって頭部を踏み付けによって破壊、
殺害して、またその反動を利用して体を反転させる……そんな作業がほんの数分間続き……そして
「これで最後か……!!」
残るは後一人、いや彼にとっては「一体」じゃ……先程と同じように荒々しい叫び声と同時に飛び上がったかと思うと、
そのまま片腕を大きく掲げ……
「はあぁっ!!」
その声と共に豪腕をタイラントの頭上目掛けて振り下ろし……次の瞬間多量の赤い液体が辺りに飛び散ったかと思うと、
自らを動かし命令を与える「もの」ごとその体は「両断」された。
今この場にいるのはただ傍観者でいるしかなったドラえもん、セワシ、キッドと……
体のありとあらゆる所に赤い水滴が飛び散っている「飛蝗男」のみ。
「(……虚しいな)」
ドラえもんは彼の「飛蝗男」への変身してからの戦いを傍観して、こう思ってしまった、
彼はまるで自分の怒りや悲しみを見ず知らずの他人にぶつけているようだと。
……彼のその感じ取り思った事は、本郷にとっては図星そのものだ。
「ふぅ……ふぅ……」
荒い息を上げる飛蝗男……ドラえもんは、セワシは、キッドは本郷の辺りを見回す……
そこに有るのは赤い水滴を背に倒れ肉の体に命令を与える「もの」を失った地と肉の塊だけ……
彼らはそれを見て改めて本郷の「今の姿」の身体能力、いや戦闘能力に驚愕する。
「我々の生み出す次世代高性能兵士のプロトタイプ<原点>にして頂点と呼ぶに相応しい身体能力、戦闘能力だな……
それでこそ私達がいつもよりも体力、集中力を使った甲斐があるというものだ」
そんな時に投槍を刺すかのように彼の放送が入った……嫌味なほどに平常な態度を取る彼……
「貴様……!」
そんな彼に怒りを剥き出しにする本郷……そして
「まぁ、本郷青年に裏切られ脱走されるのは痛手だが……
人間は努力を続けなければ堕落する生き物だからな、君を打ち倒せる戦士を育成する事は出来る筈だ」
そう告げた彼……次の瞬間、擬音語で表すなら「プツン」とも「ブツン」とも受け取れる音が一瞬だけだが彼らのいる場に響いた。
「あいつらはもうすでに逃げ出しているだろうね……脱出しよう」
ドラえもんはそう告げると、彼の言葉で表すならば「13人の死体」を背にして歩みだし……キッドも釣られてその後を追う。
第一目標と言える行き先は「エレベーター」だ。
「行きましょう、本郷先生」
「ああ」
セワシの言葉に答えた本郷、二人は彼らの後を追って駆け出しこの場から去った。
「(果たして最上階には……)」
振動し上へ、上へ移動するエレベーターの中でそう思いながら待機しているドラえもん……
そして機械文明の生活で聞きなれた音と共に「最上階」で止まりその扉を開くエレベーター……
その扉の向こうからは冷たい風が吹いている、辺りが暗い事から今は夜だという事が確認できる―――屋外だ。
「こ、これは!?」
目の前にあった物に驚愕し、慌てて飛び出すドラえもんとそれに吊られて飛び出した彼ら……そこにはたった二つの物体が安置されていた。
「えらく何かありそうなバイクだな……」
キッドがその二つの物体を見てそう言った。彼らの目の前にはあるのは二台のバイク……
それもどこかどころかかなり曰くつきなデザイン……まるで何かに変形しそうな……そんな外見であった。
「本郷さんを仲間に引き入れてたら、このバイクを与えるつもりだったみたいだね」
そのバイクのある部分を見つけて指を指すドラえもん、その指を指した方向には何とモニターがあり、
そこには「本郷真専用二輪兵器:サイクロン」とご丁重に日本語で表示されていた。
「しかし、これどう使えばいいんだろ……」
とドラえもんはサイクロンのあちこちを手探りで何かないかと調べてみる……しかし、特に目立つものは無い、そんな時
「!?」
本郷がふとサイクロンの座席に座った瞬間、サイクロンの画面から赤い光が本郷に照射されたかと思うと……
「体型センシング……人体認証、内部構造赤外線検査、S.M.Rオリジナル、本郷真ト確認……サイクロン始動シマス」
そんな声がサイクロンのモニターから放たれたかと思うと、何かがなる音と共にサイクロンの前方のある部分に光が灯った……
おそらく「エンジン」が始動したのだろう、それを確認したドラえもんは
「本郷さんのような人でしかこのバイク……起動しないのかな?」
と呟くと、小さな物体を四次元ポケットから出して手に取った。
―――<サイコントローラー>かつてドラえもんが鉄の地球外の侵略者の兵器を操作する為に取り出した道具……
主にコンピュータ等を操作する為に使う道具である。
「コノ"サイクロン"ハ飛行能力、砲門、"スライダーモード"ヘノ変形機構ヲ備エテオリ、アナタノ思念、命令ニヨル自由操作ガ可能デス」
サイクロンのコンピュータの説明を受け、本郷はセワシに自分の後ろに乗るように指示、背後に座らせると……
「サイクロン、飛行準備を」
「了解」
本郷の言葉を受け、そう応えたコンピュータ。次の瞬間、セワシは何か上に上がるような感覚を覚えて下を見る……
地上がサイクロンから離れて見える……いや見えているのではない本当に離れており、サイクロンは浮遊していた。
「そんな事が出来るのか……よし、まずはこれを起動させないと……」
先程の光景を見てそう呟いたドラえもんは、ふとジャンプして座席に腰をかけた……すると
「ライダー登録作業ヲ開始スル……」
ドラえもんが見えている小型の画面が光り音声を発したかと思うと、そこから赤い光が本郷の時と同じようにドラえもんを包み込み……
「内部構造赤外線検査ノ結果、"猫型ロボット"ト判明……通名ヲ述ベヨ」
と画面越しからコンピュータがドラえもんにそう伝え……
「僕ドラえもん」
「……」
ドラえもんはその言葉通り、自らの通名……というよりは機体名で答えた……
実際、彼は「ドラえもん」という猫型ロボットなので通名はあまり意味を成していない。
「……猫型ロボット"ドラえもん"、ライダー登録」
とそれだけ発すると、ドラえもんが腰掛けているサイクロンの内部から音が発し、光が灯った。
「S.M.Rデハ無イ為、搭乗時以外ハ思念ニヨル命令ハ出来マセン、口語デシカ命令ヲ受ケ付ケル事ガ出来マセンノデ注意シテ下サイ」
「分かった、キッド」
サイクロンのコンピュータからの補足・説明を受けそう答えたドラえもんはキッドにこちらに来るように手招くと後ろに座るよう指示して座らせた。
「ドラえもん、態々バイクに乗って変える必要あるの?」
「練習だよ……これから先彼らと戦うことになるんだから、このマシンの基本的な操縦だけでも覚えておかないと……」
セワシの問い掛けにポケットの中に手を入れ始めそう答えたドラえもんは、ある一つの道具を取り出した―――「導きエンゼル」である。
「導きエンゼル、本郷さんの家まで案内してくれないかな?」
「分かりました」
ドラえもんの言葉に導きエンゼルは答えると、ドラえもんの手から離れ浮遊する。
「じゃあ行こうか」
ドラえもんは彼らに告げると、ハンドルを握り……
いや彼の手の構造と機能上、手をハンドルにくっ付けると、それに連なるかのように本郷もハンドルを握り……そして夜空を駆けた。
―――二つのサイクロンは文字通り飛んでいた、その姿はある種滑稽なものかもしれない、
それは……21世紀年代のバイクでいう後部座席の後ろにある排気口にあたる部分から火が出ており、二輪からは光が出ていたからである。
しかし、そんな事を気にする存在などありはしない……当事者たちはサイクロンの操縦に慣れようとしか頭には浮かべていない。
「(……夜空を駆けると、思い出すな)」
とサイクロンで飛行しながらドラえもんはふと感傷に浸かり、思い浮かべた。時代を超越して出会った親友達の事を……
「射撃と昼寝以外何もと言っていい程取り柄が無い少年」、「皆のアイドルともいえる少女」、
「乱暴者で音痴だが、自分の妹への愛情はこの星の誰よりも負けず、そしていざという時はとても頼りになるガキ大将」、
「弱虫で自慢屋で皮肉屋だが、根は悪くない少年」この四人、
いやそれだけではなく今まで出会ってきた別世界、異星で出会ってきた者等等……
嫌なもの<思い出>はなく、懐かしいものしか、楽しかったものしか出てこない……
逆にそれが彼の彼という存在である事の悲哀を感じさせた。
「この下です」
導きエンゼルの声が彼らの耳に響く、その言葉に従い下を見ると一軒家が見えた……
それを視認した彼らは手で握った(くっついた)ハンドル越しでサイクロンを下の方向に方向変換して
そのまま「庭」とおぼしき所に前進して停止させた。
「家についたか……まずはこの姿から元の姿に戻る手段を……」
サイクロンから降りた本郷はそう呟きある一つの事を思った「元の姿に戻りたい」……と、そして
「!?」
本郷の体に異変が起きた、その異変は変身時とはほぼ真逆。触覚といえる額辺りに突き出たものは下へ下へとどんどん引っ込んでいき、
眉間から現れた赤い謎の器官らしきものはまるで植物の種を埋める時のように引っ込み、
赤くなっていた目はまるでグラデーションのように白くなっていき人間のそれと同じようになる……、
彼らにとってその事象はビデオの「逆再生」に見えた……いやそれ以外に思いつく表現が無かった。
「ふぅ、ふぅ……」
息を荒くする本郷、既に彼の姿は普通の人間のそれであり一糸纏わぬ状態であった、
もしこの場が自宅ではなく公園だったらどうなっていただろうか。
「本郷さん、あなたはこれからどうするんですか……?」
「?」
とドラえもんは四次元ポケットから「着せ替えカメラ」を取り出してシャッターを本郷に合わせながら話しかけた。
「戦うさ……俺は"裏切り者"なんだ、奴らを倒す義務がある……そう言う君は?」
ドラえもんの問いに表情を硬くして答え質問で返した本郷、その時にはすでに彼の先程の状態が嘘だったかのように衣服が着せられていた。
「戦いますよ、当たり前です……あんな非人道的な事を平然と行う奴らを……絶対に許しちゃいけない……!!」
本郷の問に平静とした口調で激しい怒りの表情を浮かべるドラえもん……彼の表情を見て誰が思い止まらせる事が出来ようか……
そんな雰囲気だった。
「ああ……奴らによって化け物に改造された人間は……もう、俺一人で十分だ」
本郷はドラえもんの問い、表情、決意を目の当たりにしてそう言い放った、彼の言葉を聞き、ふとある事を思いつく……
それがある種彼らの運命の分かれ道だったかもしれない。
「……本郷さん、僕と一緒にあなたにこの名を名乗らせても良いですか?」
と真剣な表情で本郷に問い掛けたドラえもん……唐突な言葉にただ耳を傾けるしかない本郷……
「その名は……あいつらと……いえあいつらだけじゃない、
邪悪な心を持つ者達から目の前で苦しんでいる人々を助けるために名乗る為の……僕とあなたの名前……それは」
そしてドラえもんは力強く、そしてどこか静かに熱く……こう言い放った。
「―――仮面ライダーです」
続く
〜オマケ〜
ドラえもんのロケットランチャー持ってる発言
詳細:元ネタは「ドラえもん 最新ひみつ道具大辞典」で描かれた
「一匹のネズミを殺す為に物騒なものを背中にしょってバズーカ砲を撃っているドラえもんと止めようとしているであろうのび太」のイラスト
サイクロン
詳細:次世代高性能戦闘兵の必需装備となる二輪兵器。
砲門を装備しており、その他にも飛行能力や変形機構等を備えているもはやバイクとは言えないどころかバイクと言っていいか疑問な代物
思念による操縦が可能で、S.M.Rは搭乗時以外でも思念による操作が可能だが、<彼ら>以外の存在には<それ>が不可能である。
元ネタは小説の仮面ライダーのサイクロンと漫画「仮面ライダーSPIRITS」のヘルダイバーと仮面ライダーアギトのマシントルネイダー。
余談だがマークが描かれており、そのマークはTVやらで御馴染のアレである
THE FIRST
詳細:無論彼らの所属する部門の作るS.M.Rのプロトタイプである「本郷真」 元ネタは事実と実質上、「仮面ライダー
THE FIRST」。
EPISODE4 「MASKED RIDER」
「ドラえもん、何だよその仮面ライダーって」
「さっき言った通り、目の前で苦しんでいる人々を助ける為に名乗る名前さ……
本郷先生は<飛蝗男>という仮面を被って戦う"バイク乗り(ライダー)"になったからね」
キッドの問い掛けにそう答えたドラえもん……そして更に
「で……ドラえもんは、どういう所が仮面ライダーなんだよ?」
「子守用の猫型ロボットという仮面を被っているじゃないか」
「……」
彼の更なる問いに平静とした表情で答えたドラえもん、そこが想定外だったのか呆然とした表情を取ってしまったキッド。
「ドラえもん……あいつらの正体が分からないんだから、目立つのは良くないと思うんだけど」
「どうせ後々刺客が送られてくるのは確かなんだ……奴らの正体が分からない今、聞き出すしかない。
だからこそあえてそんな名前を名乗る必要もあるのさ、分かりやすく狙いやすいように……ね」
セワシの問いに答えるドラえもん、そして
「ドラえもん、そろそろ俺はこの事件の報告の為に仕事場に帰るぜ……またな」
とキッドが一言だけ彼に告げると、頭に被ってある帽子の中から……「どこでもドア」を取り出し地に置き扉を開くと、
その向こうへと去っていった。
「大変だね……キッドも」
「ドラえもん、君達は家に帰らなくていいのか?」
「あ、忘れてた」
本郷の言葉に「ある事」に気付いた彼ら、ドラえもんが腹にある四次元ポケットの中から桃色の扉
<どこでもドア>を手に取り地に置き、扉を開く……
「本郷先生、また明日……」
とセワシはそんな言葉と共にドラえもんの背後に連なるかのように扉の向こうへと足を運び……そして消えた。
「……先生……か」
本郷はセワシの言葉に思わず復唱した、―怪物になってしまった自分を、まだ先生と呼んでくれるのか―と。
「セワシ……すまないな」
その呟きと共に本郷は足を動かせると、そのまま玄関まで移動し鍵を開けその中へと入っていった―――
そして翌日、早朝……彼は
「昨日の事件で私は生徒を護れず、無様にも連れ去られてしまい……
挙句の果てには護るべき対象の筈の生徒に助けられてしまいました、そんな私に教師を名乗る資格などありません……
今までありがとうございました」
目の前にいる中年の男性に対して頭を下げそう告げると、今いる部屋から出た……
その男性の机には「辞表」と分かりやすく書いてあるものが一つだけだ。
「(昨日の事件が、そんなにも彼を傷つけてしまったのか……彼の責任ではないと言うのに……)」
本郷がいた空間を見つめてそう思った中年の男性……その男性こそこの学校の校長、ここは校長室であった。
「本郷先生、やめちゃうんですって」
「昨日の事件がそこまでこたえたんでしょうね……」
本郷の職場だった職員室から声が聞こえてくる、いや声がはっきりと聞こえた……
それは本郷が普通の人間ではない事の証の一部分だった。
「(この学校ともさらばか……)」
背後に振り向き学校を一瞬見つめそう思った本郷、その後は自分が働いてた学校を背景にして歩き出した。
「やぁ、本郷先生」
その言葉、自分が聞き慣れた声の主である事を知り振り向いた……そこには
「……目立つ行動は戦闘時以外は控えた方が良いと思うんだが」
「いいじゃないですか、あなたこそ何でサイクロンなんていう素晴らしい乗り物に乗って出かけないんですか」
サイクロンの座席に座って顔を本郷に向けている蒼い物……「ドラえもん」だ、突っ込みを入れる本郷に笑顔で答えるドラえもん……
「白昼堂々とあんなバイクに乗れるか……
奴らに狙われているかもしれない今の事態でそんな目立つ事をすれば殺してくれと言っているようなものだぞ」
ドラえもんの問いにそう答えた本郷……
「まぁそうでしょうけど……あ、そういえば僕キッドから呼ばれているんですよ……あなたも連れて来てくれって」
「俺を?」
ドラえもんはそれを告げると腹部のポケットを弄(まさぐ)り取り出した……
どこでもドアである、ドラえもんは扉のドアノブに触れそのまま引いた。
「本郷さん、先に行ってください。僕はサイクロンを四次元ポケットに入れてから行きますから」
ドラえもんはそう告げて自分の乗ってきたサイクロンに手をかけて持ち上げると、
告げた次の瞬間からすでに本郷は扉の向こうへと移動していた。
「ふぅ」
サイクロンを持ち上げ四次元ポケット内に収納したドラえもんは一息つくと、そのまま扉の向こうへと移動し……
次の瞬間、扉はまるで何もなかったのように消えていた。
「ドラえもん、本郷さん……俺の上司が話があるってさ」
お出迎えと言わんばかりに待っていたのは帽子を被った黄色い物体「ドラ・ザ・キッド」であった、
そんな彼の背後には「上司」であろう男性が立っていた。
「おぉ良く来て頂けましたな……どうぞ腰掛けて」
と男が一歩後ずさると、目の前にテーブルが見えた。
それを確認したドラえもんと本郷はそのままテーブルの椅子に座り、それを確認してまず男が座ると、
その次にキッドが歩み寄って男の隣の椅子に座った。
「まぁ話というのも分かるでしょうな……昨日の事件の事です」
男は真剣と表現するのが相応しい表情で彼らに話し掛けた……昨日の事件、そうある種「惨劇」とも言える場面の事を問いかけているのだ。
「生物兵器に改造された人々、そして本郷真さん……あなたの"変身"……等、キッド隊員が私に報告したんですが……我々はまだ掴めない」
「敵の正体……いや素性が、ですか?」
ドラえもんの言葉に首を縦に振った男、そして
「そうです……ドラえもんさん、あなたが得た資料の中に敵の正体、素性を掴めるものはありましたか?」
「いえ……どの資料を見ても敵の素性は書かれておらず殆ど生物兵器関係しか書かれていませんでした。
もしかしたら敵は……侵入者対策として自分達の組織の名前などは書かないようにしているのかもしれません」
男の問いにそう答えたドラえもんは、ポケットを弄り昨夜辺りに自分が得た資料をテーブルの上に置いた。
「あまり見ていて良いものじゃありませんよ」
と資料に手を出し読み始めようとする男に対してそう言ったドラえもんだった。
「(!? こんなことが極秘裏に……)」
その資料の断片を見た男は慌ててページを開き始め、そして一冊の資料を読み終えたらまた一冊と、そんな作業を数分間続け……
「本郷先生を改造した人達の一人が、それは自分が生まれていなかった40〜50年ぐらい前にあっていたことだと言ってました―――
創設されてからの時がかなり経っている事を考えると、強力な組織の一員みたいです」
とその作業を終えた男に付け加えるように説明したドラえもん……そして
「―――生物兵器への改造……キャッシュ一味を茫然とさせるな……あんな命を冒涜する行動をする者がまだ……」
男は一言呟きしばらく腕を組み唸り始め……そして
「この者達の所属しているであろう組織を潰す為……可能な範囲でだが協力しよう」
男の言葉に表情を和らげるドラえもん、キッド、本郷……そして
「まず、このTPのライセンスを授けよう……いざという時には必要となるはずだ、敵を追跡したり急用に駆けつけねばならん場面ではな」
と長方形とも四角形とも思える謎の物体を手渡した男、だが次の瞬間彼からある言葉を告げられた。
「それと……ドラえもん君……協力する条件として、君は我々の仲間になって欲しい」
男の唐突な一言に一瞬静まるこの場……
「え?」
「君は今まで強力な時間犯罪者達を逮捕に導いてきた、ドルマンスタイン一味しかり、キャッシュ一味しかり、ストームしかり……
入らずにその経験で養ってきた戦闘技術を存分に生かさないままというのは……実に惜しい」
更に言葉を続ける男に疑問を抱いたドラえもんは問いかけた。
「何で僕がタイムパトロールの隊員に?」
と……次の瞬間、男はこう答えた。
「ある種、野比のび太の未来の消滅をしない程度の干渉による歴史改変を許した私達への見返りとして……でしょうか?
悪い交換条件ではないでしょう」
とどこかドスが利いた口調でそう答えた、そして
「のび太君以降の世代の歴史改変を許可してくれた理由は何ですか?」
と苛立つ事もなくあくまでも平静に問いかけたドラえもん
「野比家の"野比のび太"がただ無能なだけだったら、過去の歴史改変を許可しませんよ、
政府が歴史改変を許可した理由は"野比のび太"の不運な体質がテロに悪用される事を恐れてでしょうな」
昔の人間からすれば常識離れした答えを返した男……それを聞いた本郷は
「テロに悪用? たった一人の人間の不運な体質だけで?」
「本郷先生、あなただってご存知でしょう。
世に出回っている秘密道具の中には実質上、他人の不幸を相手に写せる物などがあることを……
例を上げるならば「悪運ダイア」、そしてビョードー爆弾……
もしそれに野比のび太が利用されたらどうなります? たちまち日本どころか地球が破滅します……
厄介な存在ですよ、野比のび太以上に無能な少年の存在が練馬区に一人で確認されましたが、それはまだ良い方ですよ」
彼の問い掛けに愛想を尽かしたかのような表情で答えた男……そして
「それではまるで……セワシが、いや野比家など存在して欲しくなかったと言ってる事と同じじゃないか!」
「そ、それは……」
感情的になり怒りを剥き出しにした本郷、その顔を見た男は思わず引きつった表情を見せた……何故なら。
「ほ、本郷さん……顔に模様みたいなものが……」
「!?」
とキッドが本郷にそう告げ、帽子から手鏡を取り出し彼に手渡した……
「なっ……」
と驚愕する本郷、何故なら彼の両目の外側付近には薄っすらとだが赤い線が浮かび上がっており顔の中心にあたる部位は
こちらから見て左から右まで両目付近同様、薄い赤い線が入ってた……そして
「そう言えば……本郷先生、変身し始める時にそんな事があったような……」
その光景を目撃したドラえもんの一言、それを聞いた本郷は深く息を吸い始めた、何の為に?
それは自分を落ち着かせる為である―――何故? 薄く赤い模様が出たのは感情が昂ぶった所為だと感じたからである。
「私も失言が過ぎました、申し訳ありません」
と冷や汗を浮かべながら男は本郷に謝罪の言葉を述べる、
その時には本郷の顔に浮かび上がった模様は薄っすらとだが、だんだんと消えていた。
「本郷先生、さっき浮かび上がった模様は……多分手術の跡だと思います」
「そうか……この傷は俺が改造された人間である証か」
ドラえもんの答えとも言える推測の言葉にそう呟いた本郷……そして
「私は生徒の住むアパートに行きます……条件についてですが、お断りします」
と吐き捨てるようにそう告げた本郷は、男に対して失望した表情を一瞬だけ見せると、
そのまま男を背にしてドラえもんの目の前にまで迫りどこでもドアを取り出させると、そのまま扉の向こうへ
「……隊長、失望しましたぜ?
あなたが、いやあんたがそんな人間だったなんて……」
「不安のあまり、私の醜い心が露呈したようだな……」
と表情を曇らせてそう言った男……そして
「よくそんな性格でキッドの上司になれましたね」
そんな男に浴びせたドラえもんの毒舌、男は
「私はただ勉強が出来るだけで隊長になれた臆病な人間なんだ、批判されても仕方無い」
と素っ気無く答え、この時点で既に話す口調が私語になっていた。
「今だって身体が震えている……その醜悪で強大な生物兵器を生み出している連中と本当に戦えるのか、勝てるのかとね」
「だから脅迫ですか? あんたに謝罪と賠償を求めたい所だけど、今は誰かに助けてもらいたいですから、そんな事はしませんよ」
と男の言葉にそう言い返したドラえもんは背を向けると、そのまま「どこでもドア」の懐まで歩み寄り、男のほうへ振り返ると
「のび太君を……セワシ君を"また"侮辱したら……謝罪と賠償どころじゃ済みませんよ」
とドスが利いた声でそう告げたドラえもんはまた背を向け扉の向こうへと去ると、その瞬間ピンクのドアは消えた。
「謝罪と賠償どころじゃないという事は、おそらく私を辞任させるんだろうな」
「辞任ですか、もし俺だったらそれを強制させますよ?」
「だろうな、だがしかし……私は自らの行いの贖罪として彼らの戦いに協力するんだ……辞める訳にはいかんのだ」
男はキッドの言葉に返した直後、その場を立ち去るとキッドもそれに連なるかのようにこの場を立ち去った。
「ドラえもん、お帰り……あ、先生……」
丁度と言えるその頃、セワシは自分の元に訪れた存在達に声をかけた、それは無論「ドラえもん」と「本郷真」である。
「セワシ、ここで"これから"について相談しようと思うんだが……」
「いいですよ、どうぞ腰掛けて下さい」
本郷の用件に対して許可して、丁重に持て成したセワシ……彼の案内によりY椅子に座る本郷、そしてドラえもんとセワシ……
「その人がセワシさんの担任の……」
その言葉と共に彼らの目の前に現れた黄色い物体……
「そうさドラミ、この人がセワシ君の"元"担任の先生の本郷真さんだよ」
それはドラミ、ドラえもんの妹ロボットであった。
「お兄ちゃんから経緯を聞きました……家庭科専門ですけど、私なりに協力させてもらいます」
「ありがとう」
ドラミの言葉に感謝した本郷
「話に移るんだけど……ドラえもん、あいつらの他の基地に行ける道具とか方法無いの?」
「道具は実質上無いと思って良いだろうね、方法については……これから襲ってくる筈の"刺客"達から聞き取るか、調べるかだね」
セワシがついにこれからについての相談を始め、ドラえもんに意見を求めたが、彼の答えは答えには成っていないに等しかった。
「奴らのアジトを調べる為には……おそらくこの日本全土を回らなきゃならないだろうな」
「それだけで済めばまだ良い方ですよね……下手したら地球一周旅行をしないといけない事になるかもしれませんよ」
本郷にそう言ったドラえもん。
「そうだ、ドラえもん! 宇宙救命ボートを改造して、それで奴らのアジトに潜入できるようにすればいいんじゃないかな!」
「それは良いアイデアだね……」
セワシの意見を聞き入れそう呟いたドラえもんは……
ポケットから巨大な物体を取り出した、その物体には入り口があり大人一人入れる程の大きさだった。
「宇宙救命ボート……それの持つ機能を改造して、奴らの潜んでいるアジト、もしくは基地と言える場所に辿り着けるという事か……
しかし、着陸した後はどうするつもりなんだ?
どういう作戦を取る、もしくはどうやって着陸した事を発覚させずに潜入するんだ?」
「そこが問題ですよね……"秘密道具で解決"という訳にはいかないですし」
本郷の問い掛けに頭を抱え始めたドラえもん……そして
「まぁ悩んだって仕方ないですよ、まずは宇宙救命ボートの改造に取り掛かってたから話をすればいいじゃないですか」
セワシの一言に頷いた本郷とドラえもん……
「本郷さんは、もう帰って良いですよ……改造は僕達がやりますから」
「分かった、ではお言葉に甘えて帰宅させてもらうよ」
とドラえもんにそう言われて背を向けた本郷
「あ、そういえば"どこでもドア"でセワシ君の所で来ましたから、バイクには乗ってませんでしたよね……送っていきますよ」
「(あの派手なバイクを人前に晒していいのか?)」
ドラえもんは本郷にそう告げると、彼はそう考えたが、大人しく彼に甘えることにして、
この場を後にするとドラえもんもそれに吊られるかのようにこの場を後にした。
「しっかり捕まってください」
「ああ」
外に出た彼ら、ドラえもんはポケットから取り出したサイクロンの座席に座ると、本郷は彼の後ろに乗り込んだ。
「導きエンゼル」
とドラえもんはポケットから一つの人形らしき物体を取り出した、「導きエンゼル」だ。
「導きエンゼル、本郷さんの家まで案内してくれ」
「分かりました、付いて来て下さい」
ドラえもんの言葉に従った導きエンゼルは背を向け、そのまま浮遊し前方へ進み始めると、ドラえもんはハンドルに手をくっつけ……
サイクロンの車輪を動かせ前進させた。
「僕、地上をバイクで走るのは初めてなんですよ」
「俺は初めてじゃない、元バイクレーサーだったからな」
「バイクレーサーだったんですか……初めて知りましたよ」
会話を交わしながらサイクロンを駆るドラえもん、彼は運転に集中して背を振り向かないで気付かなかったが
自分の過去を話した時の本郷の表情は少し穏やかだった。
「この角を右に」
と導きエンゼルが右へ向こうとした……
しかし謎の男が彼の前に突然飛び出したかと思うと導きエンゼルは次の瞬間「何か」によって両断された。
「初めまして……隊長」
本郷に向かって、その顔を動かしそう言い放った男、
ドラえもんは慌てて「思念」でサイクロンに急ブレーキを掛けさせて男のほんの寸分前程の距離で止まらせた。
「危ないじゃないか、と言ってる所だろうね……あんたが普通の人なら」
とドスが利いた口調で男に話しかけたドラえもん……彼は、いや彼らは既に気付いている目の前にいる男は「刺客」なのだと。
「お前……何故俺を隊長と呼ぶ?」
「そりゃぁ、あんたが俺の上司となる筈……と言うよりは俺が部下になる予定だったからだよ。」
本郷の問い掛けに素っ気無く答える男、いや「若者」か?
今この場は唐突な光景に困惑している民衆が存在しているのだが……次の瞬間彼の身体に変化が起き始めた……
「本郷隊長……考えてください、俺達の所に戻るか……それとも……」
それははっきりと言って本郷の時と同じようなものと表現せざるを得なかった、肌の色がアザが出来たかのように緑色に変色、
目は赤くなったかと思うとそのまま丸みを帯び始め誇大化し、
眉間あたりからは赤く丸く小さい宝玉のような器官らしき物がその肌を破り露出し、
その額あたりからは細長いものが突き出たかと思うと、顎が三角形を描くように変化し、脹脛がふくらんだかと思うと、
それをズボンの内側から破り始めて緑色に変色した体色を露呈しており、「彼ら」が本郷の変化を目撃した時とほぼ酷似したものだった。
「逃げ続けて追い詰められるかだ」
その言葉と共に上半身の胴が変化を始めて膨らみ、そのままそれによって巨大化してきた胴は衣服を破って……
ついに一糸纏わぬ状態となると本郷にそう言い放った、彼の「変身」と本郷のそれは違いを挙げるとすれば、
変身後の姿が本郷とは違う事と……そして変身の完了までの時間だった。
「う、うあああぁぁぁぁっ!!」
民衆の内の一人の男の恐れから生まれる絶叫により、その光景を目撃した人間達はたちまちその場から逃げ出した……
それは彼らがどんな世界に身を置いているか分かるような光景だ。
「俺は……逃げない、お前達と戦う!!」
逃げ惑う民衆達を背にしてそう言い放った本郷、次の瞬間彼の変身が始まった。
「うぅ……」
本郷が呻きだしたと同時に彼の体の変化は始まる……
肌の色が緑色に変色、本郷の顔の眉間あたりからは赤く丸く小さい宝玉のような器官らしき物がその肌を破り露出し、
その額あたりからは赤い液体と共に細長いものが突き出ており、顎は二つに割れて開いたかと思うと閉じ、
脹脛がふくらんだかと思うと、それは本郷のジーンズを内側から破り始めて緑色に変色した体色を露呈し、上半身の胴が膨らみ、
そのままそれによって巨大化してきた胴は衣服を裂き、破って一糸纏わぬ状態となった時「変身」は完了した。
「(……変身が終わるまでの時間が少し短くなっている? 体が本郷さんの変身に適応しているのか?)」
ドラえもんは昨日と今日の本郷の変身の違いを直感的に感じ取る―――<時間差>だ。
「俺達を本当に裏切るのか隊長……残念と言った所か?」
と若者、いや若者だった緑色の昆虫のような姿をした存在はそう言って殴りかかる。
「はぁっ!」
彼の行動により即座に拳を構え打ち出して、若者の拳撃を相殺させた。
「(ちっ、腕が痺れる……何て腕力だ)」
若者は本郷の先程の拳撃により一瞬退くが、すぐさま本郷目掛けて回し蹴りを浴びせる。
「ふんっ!!」
彼と同じく本郷も回し蹴りを放って見せ、そのまま彼の回し蹴りを封殺させ姿勢のバランスを崩して見せた。
「(純粋な肉弾戦ではあちらが上か……)」
「THE FIRST」である「本郷真」の強さを己の身で感じた「若者」……
そう思いながらも今転倒している自分目掛けて拳を放とうとする本郷に気付くと彼はその体勢のまま両足で
本郷を突き飛ばし怯ませた瞬間立ち上がり、バックステップを決めて身構えた。
「本郷さんよぉ……戦いは常に肉弾戦とは限らねえぜ!」
彼がそう言い放った瞬間、若者の腕から何かが突き出た……
その「何か」はどんどん伸びて行き数分後には「普通の人間」の「等身大」位の長さとなった。
「本郷さん……これを目にしても戦えるかい?」
そう言って彼はその両腕から突き出た物をちらつかせている、その物は鋭利な形状をしている―――
「それ」は一言で言うならば長大な「刃」、もしくは「鎌」である、だからこそ彼らはそれを見てした、
彼は「蟷螂」の力を与えられた人間、命名するなら「蟷螂男」と呼べる存在なのだと。
「お前は蟷螂の細胞を組み込まれているようだな……しかしそんな重い物を出した所で!!」
彼の事実に感づいた本郷、だが彼の両腕から生えている「鎌」を見ても怖じ気付かずに前進し駆け出す。
「(参戦しないで、様子を見ていて正解だったかな……)」
先程の光景を目撃したドラえもんは、そう思った。
何故彼は今も傍観者に徹しているのか、それは「若者」、いや今は「蟷螂男」とでも言うべきであろう男の「変身態」を見た瞬間、
自らの身の危うさを悟ったからである……
実際にその行為の適当さを主張するが如く本郷は彼の両腕の動きと共に唸る「鎌」に対して回避行動を続けている。
……もしドラえもんが参戦していたなら恐らく即座に八つ裂きにされていたかもしれない、何故なら彼は本郷ほど俊敏ではないからだ。
「どうした、どうした!
避けてばっかりじゃねえか!」
「(隙があれば奴の攻撃を封殺できるかもしれないが……)」
「あの耳無し、お前を助けに行こうという感じじゃねえぜ? まぁ"蒼い悪魔"と言えども自分が身軽じゃねえこと位自覚しているって事か」
本郷にそう言い放ちながら鎌を振り下ろし、振り回す「蟷螂男」……彼の言葉に反応したドラえもんはポケットを弄り始める。
「おらぁっ!!」
と両腕を鎌ごと同時に振り下ろした蟷螂男……本郷の絶体絶命の危機とも言える光景に……なった筈だった、
本郷はその行動を「隙」と判断し即座にバックステップを決め、構え……
「はっ!!」
回し蹴りを放ち彼の足が、蟷螂男の鎌の刃に値する鋭利な部分の平らな所に触れた瞬間、蟷螂男は姿勢を大きく崩した。
「うお!?」
先程の攻撃により大きく転倒し前のめりに倒れ込みかけた蟷螂男、その隙を突き本郷はその両腕から生えている「鎌」を……
その強力な回し蹴りで見事に圧し折って見せた。
「だぁ!!」
次の瞬間、飛蝗男こと真の拳が放たれると、
螳螂男はすぐさま体勢を立て直し両腕を自らの胸あたりに交差させ防御体勢に入った瞬間に本郷の豪腕からの拳が
両腕の鎌の辺りに打ち込まれ腕の筋肉が、骨がきしんだ。
「ちっ……」
蟷螂男は吐き捨て後退る……この状況からして彼は追い詰められている……と思われた。
「本郷さん……そろそろ見せてやるよ、S.M.R……正式名称"system.masked.rider"の真価って奴をな」
蟷螂男はこれまで通の口調でそう言い放ち、腰に両手を交差させ……すると透通る何かが腰に現れたかと思うと……
「S.M.R同士、S.M.Rらしく戦おうぜ……」
彼の言葉と共に「それ」は具現化した―――ベルトだ、中央部に円形状の透明な赤い物体が組み込まれている。
「着装」
次の瞬間、赤い物体が光ったかと思うとそこから曲線状の光が二つ発せられそれは彼の身体を覆う様に回転する、
その場は赤く光思わず目を瞑る彼ら……そして発光が止んだ後目を開けると……そこには
「さて、ここからが本番だぜ……」
と言い放ち身構えた「蟷螂男」の姿があった……しかも今までの姿ではない防護服であろうスーツを身に纏っている、
不自然な点を挙げるとすれば……それは鎌と鎌の付け根とも言える部分はスーツに覆われていない事か。
「鎌の再生速度……早いね、流石は改造された人間って事だね」
ドラえもんは目の前にいる「男」の事実に気付いて若干皮肉を入れ混じりながらもポケットから「ある物」を取り出した……
それは「秘剣・電光丸」、「名刀・電光丸」とも呼べる代物だ。
「本郷さん……どうやらあんたはS.M.Rの真価である"変身"を知らなかったようだな?
都合がいい、変身させる前にあんたを切り刻んでやるよ!!」
と言い放ち鎌の健在を示すかのように振り回し構え……駆け出した。
「(早い!?
あのスーツは身体能力を増強させるのか?)」
スーツを纏った蟷螂男、いや「マンティスライダー」とも言うべき彼の変貌振りに一瞬驚愕した本郷は身の危険を「初めて」感じて
腹部に意識を集中させようとするが……
「させるかよ!」
本郷の懐に踏み込んだ「マンティスライダー」は、両腕の鎌を一目散に振り下ろした。
「!!」
こちらに振り下ろされるであろう鎌を見て、「死」を覚悟した本郷……
だがそこに救いの手が差し伸べられようとは二人は考えもしていなかった。
「やああぁぁっ!!」
その時、白い球状の物にくっ付いた物体が振り下ろされようとしていた鎌を弾き返した。
「ちっ、秘剣・電光丸とは厄介な……」
吐き捨てた「マンティスライダー」は退き構えを取る。
「すまない……」
「いいんですよ」
本郷の言葉にそう返したドラえもんは電光丸を一瞬掲げそして構える。
「本郷さん、あの男みたいに腹部に意識を集中すればベルトが出てくる筈です! 変身完了まで……僕が時間を稼ぎます」
「分かった」
ドラえもんの言葉に大人しく従うことにした本郷は後ずさると、両手を腰の中央部に交差させそのまま静止すると……
意識を腹部に集中させる。
「ちっ、厄介な!!」
「マンティスライダー」はドラえもんの電光丸を駆使した防戦、そして本郷の「変身」への準備により吐き捨てながらも、
両腕の鎌を振り下ろし薙ぎ、そして腕を上げたと思うと身体を回転させて猛攻する。
ドラえもんは電光丸一本でどうにか出来るとは思っていない、それは彼の身体能力と鎌を見れば分かる事だからだ。
「電光丸!」
ドラえもんは状況を少しでも有利に進めようと片手でポケットをまさぐり、「電光丸」を取り出して手に取った。
「二刀流ね……どうせこれから電池切れだぜ?」
「その前に、本郷先生の変身を間に合わせるさ!!」
その時、ドラえもんは背後に何かを感じ振り返り、マンティスライダーは目の前で起きた事象が元で動きを止めた……
「ホッパー」の腰にベルトが存在している事を視認した彼だったが、次の瞬間
そのベルトの中央部から赤い光が発せられ、「ホッパー」である本郷を包み込むかのように彼の身体を覆う。
「(ちっ……スーツ、知覚向上マスクの体形センシングまで行ったか……! もうそろそろ……)」
先程の場面で焦る「マンティスライダー」は、再び……鎌を振り回し始めた。
「とおっ!!」
ドラえもんもまた彼の行動の再開を感じ取り二本の電光丸で防戦をする……
今の状況、この言葉がふさわしいであろう「後の祭り」と、何故ならば……
すでにドラえもんは背後の赤い光が収まった事を感じ取ったからだ。
「すまない、遅くなった……ドラえもん」
とドラえもんに声をかけた飛蝗を模した仮面を被っているスーツ姿の「男」……
その声に反応し振り返るドラえもん、そして動きを止めずにいられなかった「マンティスライダー」……
目の前にいる男こそマンティスライダーと同じく「強化防護服」を纏った怪人飛蝗男「ホッパー」である「本郷真」だった。
「……いいですよ」
返したドラえもんは、すかさず二本の電光丸を彼の両腕の鎌目掛けて刺し貫くと、その場から離れる。
「いくぞ」
ドラえもんがマンティスライダーの懐から離れた事を確認した彼は駆け出した。
「早い!?」
マンティスライダーは彼のスーツ装着後からの変化を見て思わずそう叫ぶと、慌てて片手で両腕の鎌から二本の電光丸を引き抜くと、
そのままそれを振り下ろそうとする。
「がっ!?」
しかし、時既に遅し。本郷は彼の懐へ駆け出していた、
次の瞬間本郷の豪腕から繰り出された拳が彼の心臓部を叩きつけたかと思うとそのまま打ち飛ばした。
「げ、げふぅっ……」
殴り飛ばされ壁に激突し激しく吐血するマンティスライダー……
この逆転劇と言うに相応しい光景にドラえもんは「今」の「本郷真」の強さを思い知る。
マンティスライダーは自らの胸に手を当てると、手触りで違和感を感じた……彼の胸部の肉が炸裂していたのだ。
少し体が動くたびに濡れた柔らかい塊の感触を彼は胸元越しに感じていた。
「貴様……裏切り者として生きる以上、どうなるか分かっているのか! THE
FIRST!!」
勢良く飛び上がった「本郷」にマンティスライダーは苦し紛れと言わんばかりに言い放った、そして
「違う、俺は……仮面ライダーだ!!」
本郷は彼の言葉に強い口調でそう返すと、そのまま飛び蹴りの体勢に入ってそのままマンティスライダー目掛けて降下する。
「偉大な元祖とここまで戦えた俺も偉大ですよね? 博士……」
マンティスライダーは仮面から誰かにそう告げ、目を閉じた。
「はぁっ!!」
本郷の発生と共にその強靭な足がマンティスライダーの心臓をスーツ越しにだが踏み潰し、
その衝撃は壁にマンティスライダーの背後に彼の背丈ほどの大穴を穿ったのだった。
「ふぅ……」
マンティスライダーの心臓をスーツ越しに砕いた直後に身体を即座に反転させ着地した後、嘆息を漏らした本郷。
彼は両手を知覚を向上させる機能を持つマスクに触れるとそのまま仮面を脱いだ。
「これが俺の……いやS.M.Rの真価というものか……」
露になる「ホッパー」の顔、しかしそれは数十秒後に「元の顔」に戻り、ただのスーツをまとった「人間」になる。
「この人は一体どんな思いで組織に入って……改造されたのかな……」
マンティスライダーの躯に駆け寄り、それを見たドラえもんは表情を暗くして呟いた。
「ふぅ、この辺りの人間が逃げてくれて良かった……んだろうな」
そう言い放って彼らの目の前にその姿を現した黄色い物体……「キッド」だ。
「キッド……なんでここに?」
「お前のTPへのゴネの力だろうな、俺の上司……お前達の事が心配であの蟷螂野郎と戦っているお前らをモニター越しで見ていたよ……
今の今まで救援やらなかった所は臆病者らしかったがな、まぁ核言う俺も奴を悪く言えないんだがな」
ドラえもんの問いにそう答えたキッドは、上空を見る。
「タイムパトロール……」
上空に存在している物体群を見て呟いた本郷……その物体は彼らの目の前まで降下し着陸した。
「遺体を回収しろ」
何かの制服姿の男達はマンティスライダーの躯へ駆け寄ると、そのまま道具によって運び出し、
物体<TPマリン>の中へ慎重に歩み寄り運び出すことに成功すると、そのまま出入り口となっていた所は締められて……
浮上すると空間が歪んだかと思うと一瞬で消えた。
「本郷さん、今のあんた……確かに"仮面ライダー"だぜ」
キッドは本郷にそう告げて、片手を彼の方向へ向け「サムズアップ」をして……
自らの頭上の四次元ハットから「どこでもドア」を取り出すと、扉を開きそのまま向こうへと歩んだ。
「本郷さん、早く自宅に行きましょう」
ドラえもんはサイクロンの座席に座り、本郷にそう言い放つと前面の方向に顔を向けた。
「ああ」
と返した本郷は歩み寄りドラえもんの後ろに腰掛けて彼の腕を掴む、そしてドラえもんは本郷の搭乗を確認してサイクロンを駆り出した
―――戦いの舞台となった町を背にして。
「仮面ライダー……か」
一人呟いた男、その男こと「博士」が何故その名を知っているか?
それはマンティスライダーのマスクに盗聴機能、通信機能が含まれていたからである。
「すまないな、智彦……お前を行かせたくはなかったのだが……
お前に本郷抹殺の任務を与えなければ私はこの組織の上層部からの不信を買うことになっていたのだ……」
「博士」は悲しげに呟き……何処かへと歩みだし……そして
「本郷真は我々と敵対する構えを取った、よって私はある事を告ごう」
複数の男達を目の前にしてそう言い放った博士は強い口調で口を開く。
「本郷真は自らを仮面ライダーと名乗って智彦を殺害した……
だが、私は彼が名乗った"仮面ライダー"を不名誉な名にするのは実に惜しいと考えたのだ、
我々の部門の生み出したS.M.Rの"真祖"とも言うべき存在だからな……」
そして彼は自らの話の本題というべき事を喋りだした。
「だからこそ思い付いてしまったのだよ……私は仮面ライダーを裏切り者のコードネームとして扱うのではなく、
最強のS.M.R<戦士>に与えられる名前にする事にな……」
そして彼はある命令を下した……
「彼を抹殺した者には、最強の戦士として"仮面ライダー"の名を与える」
仮面ライダーの名が「正義の戦士」の意味だけでなく「独善の戦士」の側面を持つようになった皮肉な一瞬であろう
……最後に一つ忠告して彼はこの場を立ち去った。
「なお……これからS.M.R<改造人間>となった人間には機密保持の為、自爆装置の内臓を義務付ける」
続く
この話は続きます。
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