AQUAMAN(改訂版)

nupanさん

プロローグ

―2017年―

「もうすぐ、私の研究の成果が開花しようとしている。震えるほどの嬉しさだよ。」

 町が寝静まった真夜中の真夜中。一つだけ、灯りが点いている研究所がある。デザイナーが作ったような、変わった形状で

神秘的なオーラを感じる。オーラを感じるのは、建物の力だけではないだろう。何か革新的なようなものが生まれる気がする。

 カラン……。

 研究所の博士が、不意に工具を落とした。手から噴きあがるように汗が出ている。博士は冷静ながらも落ち着きがなかった。

体中が震えている。

「か、完成……した。」

 不意に博士は倒れた。その時、博士は気づかぬうちに、床に転がっていたコードを踏んづけ、足でそのまま外してしまっていた。

「だ、大丈夫ですか!博士!!」

 六人の助手達は博士を寝室のベッドに移し、医者を用意させた。結局、博士は、長時間の労働による、過労が原因で貧血を起こし、

倒れたそうだ。

 そんな間、知らぬ間コードを抜いてしまった原因で、博士が作っていた新設計の「水溶式ロボット」の思考回路が暴走しつつあった。

 ロボットが跳ね起きた。それから一瞬も立たない間に事件は起こった。助手の一人が、変化自在のロボットに殴打されてしまった。

 他の助手達は、急いで助けようとするが、駄目だった。ロボットが光の如く飛び去っていったのである。

 被害者の助手は、医者の手当てをすぐに受けたが、打ち所が悪かったのか、即死だったという。そして、加害者のロボットは、

真夜中の都心に向かっていった。

 町が火を吹き、一瞬で大惨事になった。

―2067年―

 世界中では、ロボットと人間とのこれまでに見たことがないような、泥沼の大戦争が起こっていた。

 そして、ついには、人間は世界中から全滅。町も森も、空にも、海にも、どこもかしこにもいなかった。

その代わりに、世界には、溢れるほどの生物の死骸が残ったという。

「私ハ、アクアマン。コノ世界、征服シタ。」

※「水溶式ロボット」―水に溶ける事が出来るロボットの事。身体を自由に動かすことも出来る。

(あくまでも設定ですので、この様な技術は、現在は出来ません。)

この話は全て架空の話であり、フィクションです。

 

第一話「決意」

博士等7人はただ、呆然とその場で立ち尽くすばかりだった―。しかし、誰の眼にも赤く轟轟と燃え上がる都心がありのままに映されている。

「私の、私のAQAMANが……。こんな事に。」

 博士は又、気を失ってしまった。しかし、無理はないだろう。博士はこの研究に幾多のも時間を費やしてきたのだから……。

それに、この研究の為に、まだ未来がある学者の卵を死なせてしまったのだ。博士にとって、これ以上のショックは、恐らく無いだろう。

 しかし、博士だけでなく、助手等5人も同じ心境だった。共に研究を進めてきた、仲間であり、家族のような存在だったに違いないだろう。

無論、医者の者を除けば、皆、大きなショックがあるだろう。

「博士、大丈夫ですか!?」

「私は無事だ。それと、君たち。もう帰りなさい。これから、AQAMANを止める方法を考える。」

「しかし……。」

「君たち、私は大丈夫だ。それと、お医者さん。代金はお幾らでしょうか?」

「……。お疲れ様です。博士。」

 月が太陽と入れ替わったように、空は暗いブルーに晴れていった。時間はもう朝の五時だ。

しかし、博士は仮眠を取っている暇も無かった。一秒たりとも早く、AQAMANを止めなければならない。寝ることを忘れ、

博士は、一日中考え、そして、ようやく、結論が出た。その後、直ぐに、博士は助手の一人。ミゲル=ローリングに電話をした。

「私だ。助手の皆に伝えてくれ。緊急会議だ。今夜、私の研究所に集まってくれ。」

「分かりました。皆に今すぐ連絡をします。」

 ミゲルは電話の後、直ぐに助手の仲間に電話を回していった。皆、疲れた声だったが、誰もが約束を守った。そして、日が暮れ、約束の夜へ……。

「初めに言っておくが、私は、AQAMANNを見つけ出し、鎮めさせようと思う。」

 博士が突然に、話を切り出した。皆、鶴の一声に黙り、唾をごくりと飲んだ。

「大変、危険で、時間を費やす捜査になりそうだ……。だから、危険を冒したくない者、命が惜しいものは、この時点にて、

捜査から抜けてもらいたいのだ。」

「そうですか……。」

「君たちにも家族や恋人がいるだろう。だから、良く考えて欲しい。いま捜査に抜けたからって、

研究所に勤めてはならないという事にはならないのだぞ。しかし、私は、頭の切れる君たちを捜査に頼みたいと思う。

いや、捜査に来てくれるなら、私は一生に一度の幸運を掴み取ったと思っていいだろう。」

 助手達五人は黙ったまま考え込んだ。博士がこの研究所に呼んでもらい、学者を磨ける上に、ちゃんと給料まで貰っている。

この上ない環境で働かせてもらっている助手達にとって、博士は父の様な印象だった。
 今、博士を救わなければならないという意志が、助手達の頭に過ぎった。いや、その前に、博士がこの捜査に失敗すると、

博士の性格から考えて、研究所を閉鎖することで、腹を切るだろう。現実的にも考えて、捜査に行った方が、有意義だろう。

「……。僕を博士の捜査に加わらせてください!」

「私もお願いします!」

「僕も捜査に参加させて下さい。」

「俺も博士についてゆきます!お願いします。」

「私も博士と捜査に行きます!」

 五人の決意は同じものだった。これに、博士は驚きで、黙ってしまった。ミゲルが切り出した。

「これまで博士にはいつもお世話になっていました。学者としての知識を学べる上に、お給料まで貰えて、

この上ない贅沢を博士に頂いていました!その恩返しとしても、博士と捜査に行きたいのです。」

「……。皆。」

「お願いします!」

「君たち、本当に感謝するよ。皆の意志は受け止めた。では、私と共に捜査をしよう。」

「はい。」

「では、明日、この研究所で詳細を伝える。」

―その頃―

「皆ノモノ。私ハ人間ニ戦イヲ挑モウト思ウ。人間ハ私達ヲ欲望ノ為ダケニ使オウトシテイル。」

「ソウダ!ソウダ!」

 灰と化した都市の、瓦礫の山に登り、演説をしているロボットがいる。AQAMAだ。さらに、

他の学者達が産み出したロボットを従えている。まるで、人間の様な奴等だ。

「人間ハ悪ダ!人間ハ悪ダ!人間ハ悪ダ!」

「私ニ歯向カウ者ガアレバ、ソイツハ、徹底的ニ、殺シニカカル。私ハ、ロボットノ社会ヲ作リ出ス。人間達ノ最期ヲ見届ケヨウジャナイカ。」

この話は全て架空の話であり、フィクションです。

 

第二話「探偵」

 真剣な眼差しで博士は告げた。

「詳細は以上だ。だが、君たちに伝えなきゃなら無い事がある。」

「何ですか?」

「実は、一人の探偵をこの捜査に呼んでいる。」

 喉が渇く。冷めた茶を博士はすすり、再び話し始める

「それは、世界でも数々の功績を残している、名探偵だ。」

「マスコミには公表されていない人物だが、裏の世界では評判の名探偵だ。」

「……。」

「百聞は一見に如かず。だな。入ってきなさい。」

 探偵というと、年老いた人を連想するが、その風格には当てはまらない人物が入ってきた。

髪は長く、ぼさぼさに広がっていて、目つきはギラリとしている。二十代前半の若い男性だった。

「皆さん、初めまして。ザラキと言います。」

「ど、どうも。ザラキさん。」

 助手達は戸惑ったニュアンスで、ザラキを受け入れた。本当にこいつが探偵か?と半信半疑な気持ちだったが、

あの博士が呼んだ、名探偵だ。まさに、影の存在だった人間のようだ。

 ザラキは話し始めた。

「問題のAQAMANですが、AQAMANの性格。行動などからして、ここから20キロ程離れた町にいると思います。」

 助手達は唖然としていたが、重要な情報なのだから、聞き漏らさぬよう、聞いていた。

「ここから20キロ離れた町といえば、工業が盛んなドライタウンです。ドライタウンでは、ここ数日。

鉄鋼の工場に不審な影があったという目撃情報もありますし、自動車工場でも、パーツが異常に盗まれたりした、

不審な事件などもありましたので、ここが有望だと私は考えました。」

「す、すごいじゃないか!ザラキさん。直ぐにドライタウンへ行きましょう。」

「そうですね。では明日にでも行きましょう。最悪の場合。戦闘に突入するかもしれないので、これを持って帰ってください。」

 ザラキの手には、実弾入りのピストル、煙を大量に放出する爆弾、発信機など、様々な戦闘用の道具が握られていた。

博士も、助手も、唾を飲み込み、恐る恐る手を差し伸べ、道具を受け取った。

 明日、AQAMANへの、最初の突撃がはじまろうとしていたのだった……。

―その頃―

 鉄鋼工場に、またも怪しい影が忍び寄っていた。身体は鋼の様に光っているが、ぐにゃぐにゃと柔軟性があった。

目は心を映さず、悪魔の様に輝いていた。そして、工員達に襲い掛かってゆく……。

「私ハ、モハヤ、完璧ナル身体ヲ手ニ入レタ。私ノ邪魔ヲスル者ナド、生カシテオケヌ……。」

この話は全て架空の話であり、フィクションです。

 

第三話「理由」

ついに、戦いの時がやってきたのだ。武装した博士達は、夜明け前の鉄鋼工場にいた。

はりつめた寒気が、博士達の身体を貫き、体力を徐々に奪ってゆく。
 その時だった、液体のものが、じわりじわりと此方に近づいてくるではないか。

それは、四方八方に広がり、怪しげなオーラを出すように、博士達を錯乱させる。そして、次の瞬間、一方から腕が、

もう一方から足が、頭が、博士達に覆いかぶさるように、生えてくる。そして、その液体は、人の身体そっくりになった。

「哀レナ人間共メ、遂ニココマデヤッテ来タカ。」

「お前が、AQAMAN……。」

 息をする間も無く、腕が飛んできた。しかし、フェイクの様に、後ろをかすめ、鉄の門に直撃した。

そして、その腕は水玉となり、遠くへ飛び散り、それがAQAMANにぶつかり、吸収されてゆく。

 AQAMANは薄ら笑いをし、言う。

「私ノ身体ハ、銃弾、爆弾、レーザー光線ナド効カナイ。実ニ愉快ダ。」

「うるせぇー!!!」

「待ってください。」

 隊員の一人がピストルを握り締めたが、ザラキが冷静にそれを止める。

「AQAMAN。何故、私達を敵対する。」

「ソンナ事モ分カラナイノカ?逆ニ私ガ聞キタイ程ダ。」

「……。」

「今、ロボット達ハドンナ扱イヲ人間カラ受ケテイルカ。知ッテイルノカ?ソレハ、酷ク、奴隷同然ノ扱イニナッテイル!

コンナ事ガ野放シニナッテイイト思ウノカ!私ハ人間ニ従エテイルロボットヲ集メ、目覚メサセタ。人間ハ敵ダト。」

 AQAMANは目の前の人間たちに熱く語った。そして、博士が話を切り出す。

「AQAMAN。お前には、人間らしく生きるためにその様な感情。

つまり、“人間の本能”を入れ込んだが、お前にはパワーがありすぎる。お前を作っているとき、

そのパワーを吸い込むコードを取り付け、パワーを吸収しようと思ったが、私の早とちり癖のせいで、お前をこんな姿に……。」

「ナラバ、負ケヲ認メロ。ロボットニ忠誠ヲ誓ウノダ。」

「それは無理だ。人間が存在してこそのロボットだ。人間はロボットに従えない。」

「シカシ!人間達ハロボットヲ奴隷ニシテイルデハナイカ!」

「……。」

「コウナレバ、力ズクデモ認メテモラウシカ、無イヨウダナ。」

「!?」

「我々ガ勝テバ、コノ世界ノ人間ハ一人残ラズ八ツ裂キニシヨウ。」

「しかし、負ければ、ロボットは我々に従うように。分かったな!」

この話は全て架空の話であり、フィクションです。

 

第四話「事実」

 日はすっかりと暮れてしまったが、答えは一向に出ない。博士も、ザラキも、そして、助手達も苛立ちを隠せない。

あのロボットの力を封じ込めるには、どうすればいいのか?問題が、頭の中を回転している。
 
「どうして……、こうなったんだろうな。」

 博士だった。全ての事の始まりは。それを一番、重く考えているのは、やはり博士。

一同は、改めて、事の重大さに深く後悔するばかりだった。

「気持ちはお察しします。でも、悔やんでばかりだと、答えなんて、一生出ませんよ。」

「分かっておる。だが……、やはりとんでもないモノを創ったからには、私の責任は大きい。」

「……。もう、ロボットの接近まで、日が殆どありませんが、じっくり考えましょう。」

「そうだな。」

 心が穏やかではないまま、一同は解散した。しかし、そうじっくりと考えている猶予はない。

ロボットがいつ接近しても可笑しくない状況まで、もう、とっくに来ていた。

 暗い研究所で、博士は嘆く。どうしようもない感情が、体中にいきわたっていた。

「くそう!……。私が、私が不甲斐ないばっかりに!命さえ失われた!」

 自分の心との衝突を感じたが、もう、どうする事も出来ないのだ。もう、後戻りは出来ないのだと、自らの行動に失望する。

博士の心は、もう、極限の状態に近かった。

「いっそ、死んでしまおうか……。そうすれば、全てを、忘れられるはずだ……。しかし、この世界はどうなる……?

私だけ楽になって……。いや、もう関係ないだろう。死のう。いっそ、もう、死んでしまえばいいじゃな……。

しかし、もう、くそ……。どうすれば……。ぅ、あ、うわあああああ!!」

 博士は、我を忘れ去って、狂ったように嘆いた。

「自分の作り出した道から逃げる気か?お前はその程度の人間だったのか?おい。」

 研究室内に、誰かが居る。

「あ、誰だ……。こんな夜中に。」

「お前に関係ないだろう。」

「そうだが……、お前の用件はなんだ?電気製品の修理なら見てやるぞ。それか、化粧品のセールスか?」

「そんな下らない事をするために私は来たのではない!あのな、一つ言っておくぞ。」

「なんだよ。」

「あの、ぬるぬるしたロボット。お前が作ったんだろう。」

「AQAMANか?そうだ。しかし、見ての通りだ。あいつは止めようがない。もう手に負えんよ。そして、私は静かに逝くんだ……。」

「馬鹿かお前!あのロボットのせいで、今まで、何人の犠牲者を出してきたと思ってるんだ!

それを、償いの代わりかどうかしらねぇが、死んで逃げるやつなんか、人間の屑だ。」

「そうだ、私は屑のそれ以下だ!何とでも言ってくれ。」

「どうやら、言葉で説明しても、あんたには、事の重大さが分からんようだな……。なんなら、ついて来い。」

「どこに?」

「50年後の未来だ。」

「そこに、何があるというんだ。」

「無だ。人間は一人も存在しない。」

「何!!?」

「地球は、あんたのロボットに侵略され、人類……。いや、生きるもの全てが虐殺された。

そして今、ロボットだけの社会が築かれようとしているんだ!」

「……。」

 博士は信じられなくなったが、自らの予測で考えると……。信じられなくはなかった。

これまでで感じたことのない責任を、博士は感じた。行かなければ。でなければ、世界が滅びてしまう……。

「行くよ……。あんたの言う未来に。」

「ああ。ついて来い。」

この話は全て架空の話であり、フィクションです。

 

第五話「未来」

 魔法の言葉であっという間に世界が一変した。

「ここが……。50年後の地球。」

「ああ。もう、こんな所、地球じゃない。死の世界だ。」

 腐敗した肉が散らばり、もの凄い異臭が漂う。骨が砕けて、砂の様になっている。

廃墟となったビルが点々と散らばり、太陽の光も射さず、ぼやけた灰色の景色だ。まるで、あの、地球とは思えなかった。

いや……。思いたくなかった。

 遠くの方で、金属のものが動く音が聞こえる。

「あれはなんだ?」

「ロボット達だ。行くと殺されるぞ。」

 辺りを見回すと、大きな工場が設けらている。恐らく、ロボットや兵器を作っているのだろう。

 博士は、辺りを見るたびに胸が痛かった。人類の時代が終わり、ロボットがこの世を治めている。

しかし、自分がロボットの視点だったらと思うと……。いや、そんな事、考えたくもなかった。

「どうだ、これで分かったか。」

「ああ……。」

「全く、ロボットなんて、無い方がいいんだ。いつか、人類より賢くなり、取り返しがつかなくなる。」

「それは、違うんじゃないか?」

「なんだって……。貴様がこうしてくれたんだぞ!それでも人間か!全く。何も分かってないんだな。」

「私は……。ロボットと人類が、いつか、共存できる日が、来ると思う。いや、来なきゃいけないんだ!」

「いい加減にしろ!そんな夢物語、誰もが描いたさ!しかし、もう無理なんだよ。人間とロボットは違うんだよ。」

「このまま人類に地球を任せておいたら駄目なんだ!何も生まれない戦争。人類を脅かす核兵器。そして、進む温暖化。

人類はもう、自らと言っていい程、破滅の道を、今、進もうとしている!」

「しかし、ロボットがいたから、こういう事態になったんだぞ。それなら、只の早死にだ!」

「でも、まだ未来は変えられる!」

「何が出来る!もう遅いんだよ……。」

「いい策がある。」

「……。」

―2017年―

「ツイニ来タカ……。」

「ああ、AQAMAN。今日、決着をつけてやるよ。」

「ソウカ、ソレハ楽シミダ。」

「これで……、未来が変わるはずだ。」

この話は全て架空の話であり、フィクションです。

 

第六話「封印」

 決戦の前夜。研究所内で会議が繰り広げられている。
博士の幻に登場した何者かに目覚めさせられ、博士はある決意をした。

「皆、タイムマシンの事を覚えているか。」
「もちろんです。タイムマシンを忘れたことはありません。」

―2008年―

「できた……出来たぞぉ!」
「やりましたね、博士!」

 その時の博士は目がキラキラと輝いていた。
まるで、新しいおもちゃを買ってもらった子どものように―。

「博士、タイムマシンは何に使うのですか?」
「そうじゃな。人生で都合の悪いことを修正したり、恐竜を見に行ったり。いろんな事ができるぞ。」
「ワクワクしますね。」
「よし!早速、タイムマシンで旅に出よう。」
「賛成です!」

 楕円形のタイムマシンのコックピットに一行は乗り込み、宙に浮いたと思うと、
一瞬、眩い閃光が研究所内を走り、消えてしまった。
 “超空間”“時空”と言うのだろうか。何もない空間のトンネルに投げ出されたタイムマシンは、又、どこかへ消えてしまった。
時を駆けているのだ。

「すごい!博士、ここは何処です?」
「縄文時代だろうか。ほら、あそこで狩りをしている!米も作っている!やはり本当だったのか。」
「成功だ!タイムマシンは確かだ!」

 草むらの外に歴史の教科書で確かに見た、縄文時代の絵が重なる。確かに、昔の日{だ。

「良かった。本当に良かったよ。」
「博士。もうちょっと、詳しく見に行きましょうよ。」
「やめるのだ。我々がばれたら歴史が変わるかもしれない。ここでじっと見ておくのだ。」
「そうですね。歴史が変わったら、大変なことに……。」
「さて、では行くか。」
「はい。」

 博士がマシンに乗り込もうとした時、縄文時代の狩人の二人組みだろうか、博士のかばんをひったくったのは。
実に巧妙な手口だった。紐を切って、荷物だけを持って行ってしまった。
誰も気付かなかった。一行は、タイムマシンに乗り込んで、さっさと帰ってしまった。

 夜、狩人の二人はファスナーに目もくれず、ナイフで布をザクザクと切り、異変を感じた。

「肉じゃないのかよ。」

 少し茶色っぽい赤色の、光沢のあるかばんを見て呟いた。

「最近、ろくな物食べてないからな。」
「紛らわしいな。何もかも肉と感じる。」
「仕方ない。この皮の包みに何か入ってるだろ。」
「見てみよう。」

 狩人の二人組みは、かばんをひっくり返し、中身を物色した。

「これは、小さい矢かな。かなりピカピカしてるけど。」

 博士の万年筆を持って言う。

「何だこれ。鹿の皮とはちょっと違うな。」

 ハンカチをじろじろと観察している。

「よく分からない物が多いな。」
「これは何だろう。かなり硬いぞ。」
「それに、ピカピカしている。」
「見たこと無いな。木の棒じゃないだろうし。」
「何か、出っ張っているところがあるぞ。」

 身の護衛のための光線銃だ。博士はいつも持ち歩いている。博士の研究書類を狙う者が一人や二人はいるからだ。
特に最近は、タイムマシンの定義を学会で発表していて、危険にいくつか遭遇している。

「押してみよう。」

カチャン。光線が山の方に飛んでゆく。そして、ずっと遠くの集落で、また光った。
数秒後。悲鳴が轟く。二人の狩人は唖然として、山の方を眺めていた。

「光った。昼間のように。」
「すげえもん拾ったな。」
「これは、大発見だ。」
「村長に知らせなきゃ!」
「お、おう。」

 数百年後。光線銃は広まり、そして、争いだけでなく、生活でも応用されるようになってきた。
それがきっかけとなり、科学は急速に進化していった。その急速な進化を、博士たちは止められなかった。

「とんでもない事をしてしまった。」

 博士はタイムマシンを封印した。
それっきり、目の輝きを失ってしまった。

―2017年―

「そんな事が……。」

 ザラキが呟く。

「そうだ。しかし、私はタイムマシンを本当に使うときが来たのかもしれない。」
「博士。そしたら、また……。」
「ああ。過去に行き、過去の私を殺す。」

「え?」

 研究所内は長い沈黙に包まれた。

 

第七話「伝言」

「明日ハ決着ダ。」

 鋼鉄の塊たちが数十体、目を光らせながら会議をしている。しかも、草木が自由に生い茂った、誰も知らない密林で。
それを知っている毒蛇や猪は恐れをなして、全く近づいてこない。

「隊長。ドウスルツモリデ?」
「シーサイドシティ。港町ダ。奴等ハソコニイル。明日ノ朝、直々ニ行コウデハナイカ。」

 金属音でAQUAMANは話す。

「ヤハリ、明日デ決着ヲ着ケルツモリデ……。」
「忘レタカ。我々ノ最終目標ハロボット社会ノ建設ダ。」

「ソウデスネ。」

「キット上手クイク。イツマデモ人間ノ言イナリニナルノハ、モウタクサンダ。我々ダッテ自由ニナル権利ガアルハズダ。」
「ソウダ!ソウダ!」

 ロボットたちのブーイングが一段と大きくなる。

「皆の者、人間ニ情深クナルナ。人間ハ身勝手。人間ハ敵ダ!」
「ソウダ!ソウダ!」
「我々ノ力デ、人間ヲ追放シヨウジャナイカ。」
「オオーッ!」

 そしてロボットたちは一丸となり、博士たちの住む町へ……ゆっくりと歩いていった―。

―決着の日―

“こちら、現場です。シーサイドシティに何者かが現れ、謎の大洪水……!み、見えます!これは……水とロボットが繋がって……
あっ!い、今、高層ビルが倒壊!すさまじい勢いで大波が、波がこっちに!来る!に、逃げろ、逃げろーっ!リ、リポートできな―。”

「博士ーっ!博士ーっ!どこにいるんですかーっ!」

 午前七時。助手たちは思いもよらない出現にパニック状態だ。しかも、博士がいない。タイムマシンも……。
そして、一枚の置手紙がしてあった。

「手紙がある。博士からだ。」
「何?読んでくれ。」

――皆へ。この事件は私が原因だ。だから、責任を取ってロボットたちを、私の身をもって消滅させる。
 実に身勝手で、やってはいけない行動だと思う。皆にも反対された。けれど、やるしかないんだ。
やらなければ、もっと沢山の命を失ってしまうことになるから。本当に、皆には申し訳ないと思っている。ごめんなさい。
 最後に、皆に頼みがある。もうじき、あのロボットは消えてしまうだろうけど、最後まで戦ってほしい。
そして、この事件を一生忘れないでいてほしい。そして、責任感のある強い人間になってほしい。本当に、本当にごめんなさい―

 

 博士からの最後の伝言だった。

「博士、そんな勝手な―。」
「死んでしまうなんて。」
「くそおっ!何で、何でなんだよ!」

 皆、震えている。泣き出す者も、怒る者もいた。
しかし、何かに気づいたのか、ハッと顔を上げて、視線を確認した。

「……このまま、こうしていても仕方がないじゃないか。最後まで俺たちは戦わなければならないんだ。」
「そうだ、最後まで、最後まで博士の意思を貫くんだ!」

 決意に燃えた顔で、五人の助手とザラキは大荒れの空の下、駆け出して行った―。

 


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