ドラえもん危機特別編
中共事変

ミサイル研究所さん 作

 

第1話

20XX年○月×日−

この日、報道各社は我先に海へとヘリコプターを飛ばしていた。

その目的はただ一つだけ、大きな鉄の塊が炎上し、海に沈んでいくのを撮影するためであった。

では、ある家庭のテレビからその報道を見学させてもらうとしよう。


六畳はあろうかと思える畳の部屋で眼鏡をかけた少し頭の弱そうな少年と

青いまるで狸とダルマを掛け合わせたような不思議生命体がテレビを見ていた。

「アハハハハ、ドラえもんやっぱりパーマンはおもしろいね」

「そうだけど今放送されてないからね、パーマン」

「いや、これはリメイクだよ、リ・メ・イ・ク」

しかし、画面上ではもはや顔が別物の登場人物たちが悪人をボロ雑巾にしている状態しか映っていない。

「これパーマンって名前の別物だよね」

のび太はここで不敵に笑い、

「フフフ時代は変わってゆくのだよドラえもん君」

「うっわー、のび太くんの癖してむかつくなぁ」

と、四次元ポケットから空気砲をを取り出そうとしたとき、

いきなり画面がニュースの画面へと変わった。

いわゆる速報である。

その画面にはいかにも慌てているようなアナウンサーがまじめな顔で映っており、

すらすらと原稿を読み上げていった。

「番組の途中で申し訳ありません。古○です。

東シナ海海上で本日未明中国籍の軍艦三隻が炎上しているのが見つかりました。

現在のところ生存者・死者ともにはっきりとはしておらず、乗組員の皆さんの安否が気になるところです。

また、現場海上には二時間前に自衛隊の哨戒部隊が展開しており今回の件との関係が強いと思われています。

(まあ、自衛隊が沈めたんでしょうけどね。ネタができただけいいか・・・)」

ドラえもんとのび太は二人そろって

「ええっーー!!??qあwせdtぎk」

と奇声をあげた。

しかし、のび太はすぐに落ち着いて、

「そんなことより、パーマンパーマン」

すかさずアナウンサーが

「この後の時間は詳細が分かるまで特別番組を組んでお送りしようと思います。

皆さんどうか理解と協力をお願いします」

「そんなのあんまりだぁ〜、ドラえも〜ん何とかしてよぉ」

いつもの泣き顔でやはりいつものようにのび太はドラえもんに懇願した。

「いや、さすがに僕でも無理だから」

それに対するドラえもんの反応は何というか全力で無視の状態だった。

「解ったよ!別の番組を見ればいいんだろ・・・、え〜と、おお!

これはおもしろそうだ」

のび太は新聞のテレビ欄で何か意中の番組を見つけたようだ。

ちなみにタイトルは「笑ゥせぇるすまんZ 〜喪黒福造奇跡の物語〜」である。

それを見たドラえもんは、

「のび太くん、きっと地雷だよ、それ」

と、いやなものを見る目で言った。

「いや、タイトルだけで実は忠実なリメイクかもしれないよ。

それに、言うじゃないか、『男なら何でも試してみるものさ』って」

「知らないよ、ろくでもない番組でも」

「へへん、おもしろくても知らないよーだ。

そーれ、ポチッとな」

するとテレビから、

「あなたは私との約束を破りましたね。

では、ドーン!!!」

とおなじみの台詞と顔が出てきて、次の場面に映る瞬間、

「番組の途中ですが、ニュース速報です」

と言う台詞とともにこちらでもニュースが始まった。

のび太は再び泣き出し、

「うわー、あんまりだああああ!!」

と言いながらチャンネルをどんどん変えていった。

しかし、どの番組もニュースであった。

もう、何を言おうがニュースであった。

おそらくは衛星放送などは違っていたかもしれないが、

生憎のび太の家では衛星放送は受信できないのでとりあえずすべてニュースであった。

「畜生おおおおおおっ!!」

と、のび太が叫んだかとおもうと、リモコンを床に叩き付け、

窓にダイブして庭を飛び跳ね回った。

そのくらいにのび太は怒り狂っていた。

ドラえもんはやれやれとした顔をし、

ドガン ドガン ゴキャン

と、のび太にとりあえず空気砲を三発お見舞いしてニュースを見始めた。

ちょうど画面には炎上している軍艦らしきものが映っていた。

レポーターが何かを叫んでいる。

「見てください!恐ろしい燃え方です。船全体が炎に包まれています。

明らかにこれは、何者かの攻撃を受けたとしか思えません。

いったい誰が・・・」

そうレポーターが言っていると、画面に人影らしきものが映った。

それを見逃すはずもなく、すぐさまレポーターは話し始める。

「見てください!生存者と思われま・・・ああっ!!火に、火に包まれて・・・、

あ、あああああああああああっ!!!」

レポーターは途中で叫ぶことしかできなくなっていた。

レポーターの言葉で賢明な読者の皆様ならば解るとは思われるが、

生存者だと思われていた「もの」が火に包まれ、もがき苦しみながら、

そのまま燃え尽きたのである。そう、生きたまま。

しかも、その一人が筆頭かと思えば、恐ろしいことに次から次へと生存者・・・というよりは火達磨が出てくる。

不幸なことに取り乱したカメラマンがズームにしてしまい、

人間らしきものがただの燃えくずに変わったり、

苦悶の表情を浮かべながら海に落下していく光景が延々と流れ続けた。

そして、最後の一人が燃え尽きるか燃え尽きないかの時に、

画面は速報の時の画面へと変わった。

どうやら一周していたらしく、一番最初のテレビ局のようだ。

アナウンサーも最初の時と同じく慌てているようで落ち着いている。

ただ、違うところは顔が少し青ざめているところであろう。

しかし、彼も仕事なのか話し始める。

「え、ええ〜皆様、不適切な、、、映像を、お見せしてしま、おえぇぇぇぇっ」

やはり、無理だったようである。彼は無残にも自分の座っているデスクに嘔吐してしまった。

しかし、それは彼だけでない。

スタジオの人間ほぼすべてがそうであったのだから。

もっと言えば、そのテレビ番組を見ている者たちすべても。

もちろん、22世紀のロボットたるドラえもんであっても。

「う、うわぁ。あぁぁぁああぁぁ」

彼は、食べていたどら焼きを落とし、お茶の入っていた湯飲みをひっくり返し、

既に彼の中に入っていたどら焼きをはき出しながら画面からできるだけ離れた。

いくら、今まで冒険をしてきたと言っても、それは人間の生きたまま燃やされる様や

苦悶の表情を浮かべ死ぬ人間を見るような冒険ではない。

誰も死なない、傷つけるにしてもほぼ不可抗力で、しかも、かなり軽傷で済む程度のものであったのだから。

この時ばかりは、ドラえもんは庭に転がっているのび太を羨ましく思った。

この衝撃的映像を見るという悲劇を体感することなく、

おそらく起きてからはきれいに加工された映像を見るだけでいいのだから。

テレビ画面には「しばらくお待ちください」の字が映っている。

ただし、よほど慌てていたのかスタジオの音声がだだ漏れになっている。

すすり泣く声、嘔吐する人の声、何とか恐怖を克服して指示を出している人の声、

そして、「速報が入った!」という一際大きな声。

その声とともに、番組が再開された。

アナウンサーは代理が見つからなかったのかそのままである。

しかし、態度には余りだしていないが、その目には怒りがある。

「皆様、先ほどの惨劇の原因が今分かりました。

防衛省からの発表によりますと、あの海域の哨戒活動中に

中華人民共和国の軍艦が領海侵犯を犯し、

再三注意したにもかかわらず攻撃をしてきたので乗員の安全のために反撃し、

沈黙させたとのことです。

馬鹿げています!全く馬鹿げています!

人の命をなんだと考えているのでしょうか?

たとえ攻撃されたとしてもどうにかする手段はあったはずです!

それに、攻撃はただのミスであったかもしれません!」

そこでドラえもんはテレビの電源を切った。

もう、これ以上あの映像のことを考えたくなかったのだ。

というよりは、再開されてからの声はすべて頭に残らなかった。

彼は、今はただあの映像を忘れたかった。

ただそれだけを考えていた。

そしてそのまま、彼は眠りに落ちた。

深い深い・・・、何もかもを忘れるような眠りに。





時を同じくして、哨戒部隊の乗組員たちには酒とできるだけ豪華な料理が振る舞われていた。

これは、撃沈を祝っているのではない。

これから彼らが直面することになるであろう困難に対してのほんの些細な慰めであった。

特にその部隊の司令は部下一人ひとりに床に頭を叩き付けてまで謝っていた。

だが、咎めようとする者はおらず、彼らもまた泣きながら司令に、

「いいんです、司令は何も悪くありません」

「司令が気に病むことではありません。仕方なかったのです」

「頭を上げてください。お願いします」

と言っていた。

とても、酒に酔ったり、料理の味を楽しめるような状況ではなかった。



そして、明くる朝、彼らにとっての地獄が幕を開けることとなる。

 

第2話

怒声が、カメラのフラッシュが止むことなく記者会見の場を包んでいる…。

その中央で自衛隊の高官−俗に言う背広組−が額に汗をにじませながら四方からされる記者の質問に答えていた。

高官が答えるたびに、「ふざけるな!」「ちゃんと答えろ!」「中国人は全員死んだんだぞ!」と記者団から返ってきている。

当の高官も答えが、「我々は一切沈めろとの指示は出していない」「現場の責任」「連絡すらしなかった」としか言っていないため
しようはないのだが…。

 その高官も誰かが来るのをずっと待っているようなそぶりでもある。

この記者会見はただの時間稼ぎであり、その誰かこそがこの記者会見の主役だと言うように。

なお、この記者会見は生中継でありもちろん全国的に放送されている。

 さて、また野比家にお邪魔するとしよう。



「ドラえも〜ん、僕昨日の記憶が少しおかしいんだけど何か知らない?」

「黙れメガネザル、俺は今ニュースを見るのに忙しいんだよ」

 ひどくドスのきいた声でドラえもんはのび太を罵倒した。

さらに、のび太の方を一切見ようとせず、その頭は常にテレビ画面を注視している。

「ドラえもん、何見てるの?」

のび太はめげずに聞くが、

「自分の目で見てから言え、このうすらトンカチ」

と、これまたヤクザのような口調でドラえもんは答え、ついでに空気砲をのび太の顔に投げた。

69.65馬力で。

 
「ぎゃぶっ!?」

 当然、普段はただの駄目な小学生であるのび太はそれを避けることができるはずもなく、顔面に空気砲が激突し、
上記の奇声を上げて床に倒れ伏した。

ドラえもんはそのような些細なことは全く気にせずにニュースを見ることへ集中していった。

その画面上では、ちょうど状況が動いたと言ったところであった。

攻撃命令を出した現場の現場司令官が姿を現したのである。


彼はマイクの前に立ってすぐに喋り始めた。


「今回の件は、無効が我々の警告を無視し、さらにミサイルまで発射してきたためこちらも遺憾ながらも応戦したのでありまし」

喋っている途中に記者団から罵声が浴びせられる。

「ふざけるな!貴様らは攻撃を受けても、反撃せずに話し合いで解決するのが仕事だろう」

「話し合いをしようとすれば解ってくれたかもしれないんだぞ!」

「中国人の遺族に申し訳ないと思わないのか!」

「おまえのような奴がいるから戦争が起きるんだ!」

「おとなしく死んで詫びろ!」

 しかし、現場司令官はそのような罵声を気にしないかのように話を続けていく。

「泣いて、攻撃命令を下した私以外の全乗員並びに他艦の艦長には何の落ち度も責任もありません。

彼らはむしろ私に『やめた方がいい』とまで言って止めようとしたのであり、私の無理な命令に従った被害者であります。
 ですので、私を非難されるのは一向に構いませんが、」

罵声は止むどころかどんどん苛烈になって行くなか、現場司令官は一度言葉を切った。


のどの奥に何かを抱えているかのように見え、目には涙がたまっているかのようにも見える。

彼は、先ほどまでの冷静な物言いとは異なる、感情のかなりこもった、泣きかけのような声で、続きを話し始めた。


「どうか、どうか私以外の関係者を非難したり、叩いたりするのだけは勘弁してください。

私が批判も何もすべて受けますので何卒、何卒彼らを見逃してはいただけないでしょうか。

彼らはさっきも言ったとおり私の被害者なのです。どうか、どうか…」

しかし、記者団は非常であった。

「泣いてすむと思うなよ、このゲス野郎!」

「おまえを止められなかった時点でそいつらも同罪だろうが!」

「今のを中国人遺族の前で言ってみろ!」

さすがに大変だと気づいた高官が、

「本日の記者会見は以上とします。記者の皆様お疲れ様でした」

と強制的に記者会見を終了させ、生中継もそこで終わった。


「あー、こりゃ明日からもっとテレビから目が離せないな」

 そう言ってドラえもんはのび太の部屋へと戻っていった。

彼はあっさりと部屋へは戻っていったものの、彼が座っていたところ周辺の畳は無残にもボロボロになっていた。

ちなみに、のび太はまだ庭で眠っている。



「全く、君が余計なことをせずに沈んでいてくれればどれだけ私も苦労せずにすんだことか…。

君、明日までに辞表を書きたまえ。爆弾を抱えたままでは来年の予算さえ厳しくなるのだからな。

これだから現場の人間は困る。我々背広組の苦労も知らずにねぇ」

高官がかなりいやみたらしく現場司令官に向かって文句を言っている。

現場司令官の方はと言うと、ただただ、

「すみませんでした。すみませんでした」

と涙ながらに言っているだけである。

「君の短絡的な思考がどんな結果をもたらすかよく見ておいてくれよ」

そう言って高官は現場司令官の前から去っていった。

いかにもいらついているぞと主張するかのような足音とともに。




そして、明くる日の朝。

現場司令官は彼の家族とともに自宅で赤い水たまりに俯せになって倒れていた。


彼の妻と思われる者は喉を包丁で突き破り、彼の息子…二十代くらいだろうか…は腹を日本刀のような物で切っているように見え、

そして、当の現場司令官本人は誰だか解らなくなっていた。

 なぜならば、彼は拳銃で頭を撃ち抜いていたからであった。

ただし、彼の家の外はとてもうるさい。


マスコミが、近所の住民が「早く出てこい、早く出てこい」

と言ったり、

「人殺しの癖してよく平気でいられるな」

と暴言を吐きかけている。

だが、彼にも彼の家族にも最早声は届かない。

彼らは別の場所へ旅立った。

謗りを受けることもない世界へ。

 

 

第3話

海上自衛隊の現場司令官がその家族とともに現世を去ってしまった今、当然の如く批判は残りの海上自衛隊員へと向けられることとなった。

また、中国政府も日本国内の世論が自衛隊を叩く方向に進んでいたため積極的に関係者の即時引き渡しと賠償金の要求をしてきた。

マスコミはそれを中国に好意的に、それがあたかも当然かのように、報道し、その意向どおりにしようとしない政府与党を弾劾した。

そして、暴走した国民―衆愚―は国会議事堂前での抗議集会や、「正義の行い」と称して自衛隊の駐屯地や基地に不法侵入し、
そこに自衛隊を糾弾する旨のビラを大量にまいたり、演説まがいの物を行ったりした。

さらには、この好機を逃すまいと社会主義・共産主義系の政党は普段は控えている自衛隊のバッシングを激しく行った。

もちろんドラえもんやのび太もそのバッシングが正しいと思ったし、学校で採られたアンケートでも自衛隊が悪いと言う回答をしていた。

今―ドラえもん危機18話現在―では、のび太は忘れてしまっているが、ドラえもんには苦い思い出として残っていることである。

しかし、ドラえもんもまさかこの事件のことを未だに忌々しく思っており、
それを原動力の一つとして敵である首相が行動をしているとは思っていないだろう。

話を戻すとしよう。

このように世論が過熱し、
なおかつ外交圧力に弱く、間の悪いことに支持率が下がり続けていた政府がどのような行動を取ったのかはもはや自明である。

暴走した国民と中国政府の要求に屈したのである。

いや、要求にさらにいらない物までも自分たちで付け加えたのである。

その時の閣議の様子をこれより記そう。




「しょ、諸君、今の世論と我が内閣の支持率を考えてみると中国政府の要求を呑むのが、
 今後の我々の政治生命のためにもいいと思うのだが、どうだね?」

おどおどしながら首相とおぼしき人物が集まっている大臣たちに向けて声を発した。

顔は国のことよりも目先の自分の利益のことを心配しているといった風の表情になっている。

大臣たちもその首相の言葉を聞いたとたんに一瞬安堵の表情を見せ、すぐに仏頂面になった。

大臣の中のひとりが声を上げて、

「総理、それだけでは賛成いたしかねます。
 ただ要求を呑むだけではさらに世論は我々に対してより厳しくなり、支持率のさらなる低下を招いてしまいます。

そこで、私はさらに一歩踏み込み、自衛隊の情報すべてを中国政府に開示し、今後の人員拡張や新装備導入、
海上自衛隊の航海航路などは一度中国政府に伺いを立て、

あちらの意向どおりになるようにするということを付け加えることを提案いたします」

その大臣は胸を張り、自信満々に言い切った。

周りからは、感嘆の声が上がり、それを見た首相はそれを決定しようと席を立とうとしたところ、
ひとりの大臣―もちろん防衛大臣である―が声を荒げていった。

「あなたたちは正気なのか!要求を呑むことだけでも異常なのですぞ!

それに自衛隊の情報開示と今後の方針までも事実上あちらの言うとおりになってしまうともはや我が国は中国の属国と変わらなくなりますぞ!

冷静になって考えてください!目の前の支持率よりも国家100年の計を優先してください。

我々の代で日本という国をただの傀儡国家に落とす気ですか」

 



 防衛大臣がこのことを言うと、先に発言した大臣が生ゴミを見るような目で防衛大臣を見て、

ヒステリック気味に文句を言った。

「あなたは中国人の遺族の気持ちになって考えもしなかったんですか?彼らは大事な家族を失って大きな悲しみに包まれているんですよ!

 そうなったのもあなた方防衛省が自衛隊の守秘義務を優先して他国に便宜を図らなかったからですよ!

経済水域に入ってしまった中国船もきっとまだ中国の経済水域内だと思って行動していたのでしょうし、
それに自衛隊から文句を言われてカッとなってしまったとも思えないんですか?

 経済水域を侵されたのがそんなにダメなんですか?少しくらいは許容したっていいんじゃないですか?
いつも絶対に守らないといけないんですか?

国際法は人命よりも重いんですか?自衛隊のメンツや国のメンツが人命よりも大切だと言うんですか?
人命は地球よりも重いという言葉を知らないんですか?

これからはグローバル化のために自国の利益を優先するのではなく何でも譲り合うべきなのです!
いつかの総理大臣がおっしゃった友愛の心こそが大切なんです!

きっと中国政府も国益ばかりを優先せずに、私たちにもその利益を譲ってくれるはずなんです。

だから、国民の皆さんや中国を刺激するようなことは言わないでください!」

 

 
 防衛大臣は上の暴言を受けてなお言い返そうとしたが、首相に遮られた。

首相の顔は余計なことを言うなと言わんばかりの顔をしている。

 また、他の大臣たちも防衛大臣にふざけるなと言うような目線を向けている。

そして、首相は遮った勢いでそのまま採決を取った。

「諸君、外交大臣の案を採用するかどうかを手元の半紙に書いてくれたまえ」

 防衛大臣以外の大臣は安心しきった顔で、防衛大臣は放心しきってしまった顔で賛成・反対を書いた。

 その紙が首相の下へ集められ、首相はうんうんと頷き、口を開いた。

「中国政府の要求に対する外交大臣案は、賛成多数により採用することが決まった。

では、今回の閣議はここで終了とする。各自官舎へ戻り明日の発表に備えてくれたまえ」




こうして、外交圧力に大きく屈したと言える案は衆議院参議院両院を無事通過し、国民やマスコミに喜んで迎えられた。

その時の報道の一つを取り上げよう。




国会前にたくさんいるレポーターのひとりが自局のカメラに向かって喜びながら叫んでいる。

「みなさんやりました!今、まさに今、中国政府からの要求に国会が応えました!

 これで中国人遺族の皆様の悲しみも少しは晴れることでしょう!」

他の局のレポーターも皆似たり寄ったりであり、まるで革命に成功した市民が喜び合っているかのような異様な光景がそこには広がっていた。

また、レポーターたちは目を輝かせながら、

「おっと、英断を下した内閣の皆様が出てきました!」

と声を上げた。

閣僚たちは防衛大臣を除いて朗らかな顔でテレビカメラに向かって手を振っている。

その姿は、自らをあたかも英雄だと思い込んでいる者のようであり、自分のしたことを絶対的にすばらしいと思っている者のものであった。

しかし、防衛大臣のみはうつむいておりその表情を確認することはできない。

レポーターたちはそれをあまりの嬉しさに顔を伏せて泣いているものであると解釈した。




そして、この報道内容を見て怒り狂っている男がいた。むろん、後に狂気の首相となる男である。

「な、なんだあいつらは…。何故あんなに国辱的な要求を呑んで喜んでいるんだ?

 何故、あんなに誇り高そうなんだ?あいつらは愛国心という言葉を知らないのか?

 防衛大臣は何なんだ?一番、苦悶の表情をしなければいけない奴が何故一番喜ぶ、奴は部下を消耗品としか思ってないのか?

 許せない、絶対に許せない。閣僚どももそうだが、マスコミも、簡単に先導された馬鹿な衆愚どもも、支那も許せん。

今は何もできないただの人間に過ぎないが、必ず奴らには報いを受けさせる。
引き渡されておそらくは酷く残酷な方法で殺されるだろう自衛隊員の仇もきっと討ってみせる。

見ていろよ、貴様らが全員血の涙を流しながら赦しを請いても、
私は貴様ら一人ひとり生まれてきたことを後悔するような苦痛と絶望を与えて殺してやろう。

そして、残った殻は原型が無くなるまでに潰して畜生のエサにしてやろう。


 だが、防衛大臣だけは今からこの手で殺してやろう。奴だけはのうのうと生かしておくわけにはいかん。
自衛隊員を生け贄に差し出して、自分だけが助かるなんてことはないと言うことを教育してやらねばならん。

感情だけで国を弱めた愚図どもは皆価値がないのだから殺されても文句は言えん。

見ていろ、私が権力の座に立ってこの日本を立て直そう。

それまでは、防衛大臣だけで我慢してやろう。

ク、ククククク、ハーッハッハハァqあwsfrtgひゅj!!!」

最後はもはや何を言っているかも解らないほどに叫び、彼は狂気に駆られているのにやけに冷静に目立たない服を着込み、

彼の趣味なのかどうかは解らないが、かなり大きなサバイバルナイフを取り出し、服の中にしまい、
さらには覆面までポケットに入れて家を出た。

空は濃いネズミ色になっていた。




そして、次の日のニュースは前日の要求を呑んだことを褒め称える内容ではなく、
防衛大臣とその一家が惨殺されたということで持ちきりとなっていた。

レポーターが青い顔でニュースを読み上げている。

「ぼ、防衛大臣の高橋氏が自宅を何者かに襲撃され、一家全員が惨殺されているのが発見されました。

 犯行は前夜のうちに行われたと見られ、現在警察は付近で怪しい人物を見たかどうかと言う聞き込みを行っています。

 また、犯人からのメッセージが被害者の血で現場に残されており、そのメッセージは、

 『このどうしようもない愚図は防衛大臣であるにもかかわらず部下である自衛隊員を生け贄として自分の政治生命を延長しようとしたため、
 ここに天誅を下された。

 だが、天誅を下されるべきなのはこの愚図とその一家のみではない。
あの国辱的な要求を支持したマスコミと衆愚どもにも等しく下るべきである。

今はその時ではないだけだ。私は時期が来ればきっと、天誅を下しにこよう。

いくら後悔しようにも遅い、私は も う 止 ま ら な い 』

となっています。



なんと言うことでしょうか……」

 

 



そのニュースを見ていて、ほとんどの国民は恐怖していたが、ひとりだけほくそ笑んでいる者がいた。

もちろんあの狂人である。

「さぁて、警察は僕を捕まえられるかなぁ〜。

あのナイフはもう東京湾のどこに沈んでるか解らなくなったし、
着ていった血まみれの服はあの後すぐにビニール袋に入れて今もまだ押し入れにあるしなぁ〜。

まあ、捕まったらそこで天運がつきたと言うことだしね」

人を殺したとは思えに無いほどにうれしそうであった。

天運は不幸にもこの男に味方し、結局は犯人が分からないまま事件は迷宮入りしてしまった。




その後、中国船舶を撃沈した艦の乗組員全員が中国側に引き渡され、ある者は生きたまま虎に喰われると言う方法で処刑され、

またある者は棒などに縛り付けられて中国人民から死ぬまで殴られ続け、

ある者は放射線防護服なしで原子炉のメンテナンスをやらされた。

つまりは、非常に全員が人間らしくない死に方をすることになった。

中国政府は日本が弱腰であるとつけあがり、賠償金の他にイージス艦の基幹情報や新型戦闘機などの情報も当然の如く要求してきた。

だが、ここは担当自衛官が機転を利かせ使えるが微妙な情報を叩き付け、防衛省が一丸となってそれ以上の情報を引き出せない体制にした。

つまりは政府に対しての抗議であった。

 だが、情報を渡さないとしても方針はほぼ中国政府の思いのままになってしまうため、
狂人が総理大臣になるまでは苦汁をなめさせられることになってしまった。

そして、飽きやすいマスコミと国民は早くもこの事件のことも忘れ、日常へと戻っていった。

まるで何事もなかったかのように。






 その数年後、狂人は巨大な製薬部門を事実上の持株会社とする企業、つまりはアンブレラ社を乗っ取っていた。
彼にはあまりに嬉しすぎるおまけとともに。

それからは早かった。防衛省に取り入り、秘密裏に空母や新型爆撃機などの設計や製造をアンブレラ内で行うことを取り付け、

彼についてきたおまけ―T−virus―の実験を彼が憎んでいるマスコミや国民を拉致してきて行った。

さらに、何の影響かは解らないがちょうどナショナリズムが高揚してきていたためそれを利用して政治活動も行い始めた。

彼は口だけは無駄にうまく、金や脅しで有能な人間を周りに固め地盤を確かな物にしていった。

 その原動力は常に国辱行為の血による精算をしたいというものであった。

しかし、その過程で彼の思考に変化が出始めた。


強い日本を取り戻したいという欲が生まれたのである。

そのため、彼は血の精算の対象を一時的にマスコミと中国に向けることとした。

ただし、一時的である。目標が達せられた暁には血の粛清を国内で行うという考えは頭の中にあるのである。

さらに数年後、ついに彼の野望の絶対に必要な部分の一つが完成した。

そう、彼の首相就任である。

そして、言語良化法を就任してすぐに制定したのだ。

(ふん、衆愚どもはいつまでたっても所詮は衆愚か。あの時は国辱的な要求だろうが支持するような愚鈍どもだったが、

今はナショナリズムの高揚を喜ぶとは…。信用ならんな、やはり。

まあ、今はまだ消すわけにはいかんから生かしてやるが、中国に身の程をわきまえさせた後には、大粛清を行ってやろう。

使える人間のみが残ればよい。今はまだ我慢をするときだ)




そして、彼がまさかあるまいと思っていた戦いが起こったのである。

その時の彼は何もかも見透かしているようであったが、やはり胸中はどす黒かった。

(一応警戒だけはしていたがまさか本当にやるとは…、許せん。私の崇高な計画をここで遅らせようとは、不届き者どもが。

貴様らから先に血と肉に変えてくれよう。私の邪魔をすればどのような不幸が怒るかをしっかりと思い知らせてやろう。

最後には貴様らを生きながら解体してやろう。そしてそれを私の新生日本を怒らせたものがどのような末路をたどるのかの指標にしてやろう)



この胸中を知るものは、彼以外誰もいない。

そして、この中共事変をここまで憎悪しているのも、もはや彼しかいない。

ドラえもんたちは止めなければならない。漫画の未来のために。日本の未来のために。




ドラえもん危機特別編 中共事変     完

 

 

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