PsycoPass’S Case:記憶
抹消さん 作
父親がリストラされてオレは自分の学費を稼ぐために更なるアルバイトが必要となった。
とはいっても中々アルバイト先が無く、大学の先輩につてが無いかと聞いてみれば「治験を受けてみないか」と誘われ、
このままでは本当に金に困るので誘いを受けることにした。
PsycoPass’S Case:記憶
先輩が案内したのは大学内にある医学部脳外科、市立の病院の一部屋かと見間違えるぐらい機材が整った部屋だ。
どうやら治験の準備に手間取るらしく、「その間までこれを読んでおけ」と治験についてのパンフをもらったので目を通してみると
「うさんくせぇ」といえる内容だった。その内容は「サヴァン式瞬間的記憶」というもので、催眠術を駆使して人間の脳を変化させ
短期記憶ができるように設定するものらしい。
「こんなことができれば俺達学生諸君の努力はいったい何やねん」と愚痴りながらも短期記憶という言葉に
ちょっとした興味がわいてきた。
「注意しておくが、この実験は脳に多大なるダメージを与える可能性があるからちゃんと書類を書いてもらうよ」
「それって下手したら死ぬかもって話ですか?」
「そういうこと、だからこの書類に死んでも平気ですよって書いてほしいんだ。
でも大丈夫言うことを聞いてちゃんと行動すれば死ぬことは無いから」
先輩は茶色い封筒を俺に渡した。その中身には数枚の書類、自分の履歴を書くものと「命を落としても大丈夫か?」と
問いただしてくる契約書と「500万」という大金が書かれている小切手が入っている。
「治験一回でこの大金ですか!?」
あわてて問いただすと先輩はソレがどうしたという顔つきで「そうだよ」と答えた。通常の治験でたしか5〜10万ぐらい、
破格の域を超えすぎている。だが、よく考えて言い換えれば死ぬかもしれない率がものすごく高いともいえる。
「まじで安全なんですか? ほんまにこれやばいんとちゃいます?」
「この値段でそう思っているんだと思うけど、値段が高い理由はこの実験が成功する確率が高く、
成功したら巨万の富を抱くことができるからこの値段なんだ。たぶんこのシステムが世に送り出されたら1兆円産業にも上ると思う」
「でも、自分らの身内でなんでやらんのですか?」
「ソレは君がこの実験の適合者だと私が判断したからだ。他言無用なので実験を承諾するのなら理由を話すよ」
先輩の言い方顔つきを見てもうそを言っているようにはどうも見えない。
俺はずっと先輩を見てきたが先輩は決して馬鹿な人間ではなく優秀な人間だ。
「受けます」と宣言し、準備が終わるまでに全ての書類を書き終えた。
先輩は書類に人通り目をつけ、不備が無いことを確認してから私を部屋の中へと入れた。
部屋の中には先輩以外の白衣を着た人間が数名、歯医者においてあるような医療用のリクライニングチェアー
みたいなものが真ん中にあって回りには医学関係の本や英語で書かれたレポートが多数、スーパーパソコンが端っこに一台、
その近くにコードがごちゃごちゃと無造作に放置されていた。「座れ」と命令されたのでおとなしく従う。ドアの鍵を閉め、
先輩はこれから何をするのか説明しだした。
「これからある特殊な催眠術に掛かってもらう。長年付き合っているからお前が催眠術に掛かりやすいということは
調査済みだから安心してくれ」
「どんな催眠術なんですか?」
「脳を少し弄る催眠術、サヴァン症候群について聞いたことはあるか?」
サヴァン症候群? 新聞で読んだことはあるが名前を知っているだけで概要は何も分からなかったので
「いいえ、わかりません」と答えた。
「それではAD/HD、LD、PDDにアスペルガーは聞いたこと無いか?」
「合成麻薬の一種ですか?」
「バーカそれはMDMAだ。全部自閉症の類に入るものといわれている、正確には違うがな。
サヴァン症候群の人間はものすごく記憶力がよく、忘れることの無い人間といわれている。
作曲家のモーツァルトや裸の大将山下清画伯もこのカテゴリに入る人間だといわれている」
「忘却曲線というのを聞いたことがあるんですが、人間は必ず物事を忘れる生き物なのでは?」
「残念ながら例外がいるんだ。この例外を可能にするのは脳幹が小さい、もしくは無いことが条件だといわれている。
この脳幹が小さかったり無かったりすると人間の『概念』というものが無くなり、たとえの話だが『概念』というフィルターを
素通りし頭に何でも入れてしまうらしい」
「ほ〜、そんな人間がいるとは」
「そこで我々は君に催眠術をかけ、脳を弄って後天的にサヴァン症候群になってもらう」
ってことは催眠術をかけて自閉症になれって事だよな? ソレはとってもまずい!
「催眠術をかけたら頭がパーになっちゃうんですか?」
「いや、実は自閉を持たずにサヴァン症候群になった人間がいるんだ。
その人間は交通事故のショックで後天的にサヴァン症候群になったらしい」
「それじゃちゃんと今の自分を保てるんですね」
命を賭けると契約書で書いたので、もしも自閉症コースなら先輩から契約書とドアの鍵を強奪してこの場から逃げ出そうと
考えていが無駄な気苦労だったらしい。
「そうだ、じゃないと商品化できないからな。質問タイムはこれで終わって実験に移りたいのだが?」
長話をしていたので、先輩の周りにいる白衣たちが暇をもてあそんでいた。
「かまいません」
「それじゃあ心理の青洟(あおばな)さんよろしくお願いします」
もて遊び疲れた白衣から黒い長髪の若い女医がオーソドックスに5円玉ぶら下げて俺の目の前に現れた。
「それじゃあいいですか〜」
腰を曲げて顔を俺の顔の前まで近づける、胸元が見えてちょっと得した気分だ。以外に巨乳、着やせするタイプ?
「コラ! 胸元みんなよ!」
妙に鋭い先輩の茶化しに「見てませんよ!」と嘘ながらも反論する。女医さんの顔を見るとちょっと苦笑いだ。
「それじゃあ5円玉を見てくださいね〜」
「5円玉」が強調されていたので照れ隠しも兼ねてじっと5円玉を見詰めた。
「ソレでは目をつぶってください」という声を聞いてスグに意識がだんだんと暗くなっていく……
「はい、いいですよ〜」
パンッと女医さんの手を合わせる音を聞いて徐々に目が開き始めた。
「違和感は無いですか?」
どっちかっつーと俺が「俺、大丈夫なんですか?」と聞きたいところだが、体に何も異変がなさそうなので「はい」と答える。
「とりあえず、成功したかどうか確かめさせてもらうぜ。それじゃあ青洟さんあれを」
白衣から7色が混ざりに混ざり合った小さな風車が取り出された。
「なんすかそれ?」
「お前の脳みそにこの風車だけに反応する催眠術をかけたんだ。まあ黙って俺に従ってくれ」
「はい…でも、何で風車なんですか?」
「この催眠術は物理的にいうと脳幹を狭める催眠術なんだ。手がなぜ動くかというと手に意識あるから、
それを応用して催眠術で脳幹に意識を芽生えさせた。なぜ風車を選んだかというと風車が回るイメージ『螺旋』と
ビューという引き締まっていくような音によってよりいっそう脳幹を狭められるイメージを脳内にわかせることができるからだ。
「それでは今から風車を少しまわすからちゃんと見てくれ」
先輩の風車を持つ手をじっと見詰めた。そして先輩が風車を指先で少し押して軽く回転させる。
するとどうだろう、目の前にある全ての物が写真のように鮮明に脳の中でインプットするではないか!
「どうだ!?」とすがるような目つきで見詰める白衣たちに「覚えた」と伝えると白衣たちは跳ね上がったり
手を叩き合ったり、大喜びのご様子だ。
「それで! 脳に違和感は?」
「ないです」
さらに興奮して、白衣たちの目は何かを知って興奮するような子供のキラキラした目へと変わっていた。
「それじゃあ別室で覚えた風景を紙に書いてみてくれ」
外に移動することになったが、窓を見るともう夕方。実験を始めたのは昼のちょっとぐらいだったはずだ。
大広場にある木製のベンチに座らさせられて他の人間が書いた後があるスケッチ帳と六角形の長い新品の鉛筆を渡される。
言われることは分かっているので早速書いてみた。
「すごい、覚えてる!」と自分の新たな能力に興奮しながら筆をすらすらと動かす。目の前に書かれているものは記憶と
同じ風景とまったくもって同じものだった。
「俺も山下画伯みたいになっちゃいましたよ!」
キャッキャと喜んでいる自分に「よかったな」と保護者のように先輩は俺をほめてくれた。そんな保護者の口から
「お前が言っていたようにもしかすると忘却曲線が働く可能性があるから明日また同じ時間に来てくれ」
と実験がまだ続いていることを示す言葉を吐かれた。まだ完璧じゃないにしろこの能力に俺は心底ほれた。
家に帰って飯くって、夜間の道路工事のアルバイトに行って家戻って、風呂にはいって寝床についでも自分の能力に興奮していた。
今の自分の気持ちをたとえると欲深い人間が正義のヒーロー並みの力を手に入れた感じだな。
後日、また脳外科の部屋を訪問した。そこには既に先輩を含め何人かの白衣たちが集まっていた。
「調子はどうだい?」
多分、自分のことが書かれているであろうレポートを眼にクマをつけながらシャーペンで
ガリガリと書いてる先輩が徹夜明けの元気の無い声で聞いてきたので、いじわるに大きい声で「大丈夫です!」と答えてやった。
昨日女医の前で恥を書かせたリベンジだ、ざまーみやがれ。
「そうか…それじゃあまた紙に書いてくれ……」
よっぽど、この大声が頭に響いたのか反論する力も無いらしい。さすがにかわいそうに思い次は小さく「はい」と答えて
渡された昨日使ったのと同じスケッチに同じ絵を描いた。どうやら記憶は完璧に残っているみたいで、「どうですかこれで?」と
出来上がったものを先輩に見せた。
「ちょいとまってね」
太陽がよく差す窓際によって、自分が書いた絵のページを破って昨日描いた物を重ね合わせて同じかどうか光に透かして
じっくりと確かめていた。
数分がたって「間違いはないな」と私の前で徹夜でグロッキーな顔ながらも少し微笑んだ。
「実験は成功したようなもんだ。ありがとう」
「いえいえ、実験成功おめでとうございます」
慣れないお辞儀を二人同時にぺこっと一発やった。
「これからの事だが、確かお前法学部だったよな?」
「はいそうですけど?」
「この風車をお前にやるよ」
白衣から催眠術で使った七色のごちゃ混ぜの風車が入った透明のプラスチック製の箱を俺に渡した。これは願っても無いことだ!
「まじで! いいんすか!?」
「ああいいとも。ただし使い方を説明するから十分守ってくれ」
うぉー!!今なら抱かれてもいいぞ!!
「そうがっつくなよ」
相変わらず俺は先輩に心を読まれやすいらしい。
「すいません」
改めて、先輩は部屋の端にある机から数ページほどの冊子を俺に渡した。
「これはもしや説明書ですか?」
「そのとうり。一様口でも説明しておくよ」
「おねがいします」
近くにあったパイプいすに座って先輩の話を聞いた。
「この催眠術は強制的に脳をいじくるため脳に対する負荷が高い。へたすりゃ脳がクラッシュするかも知れねーし、
良くて自律神経がやばくなる程度だ。だから連続での使用は15分、それ以上すると我々はお前の生命の保障はしかねん。
それと風車をまわしすぎるのもアウト、口でちょっと吹くだけで続けて使う際には回り終わった後にもう一度息を吹きかけろ」
「わかりました、気をつけます」
「それから…」と説明はかれこれ1時間ほどに及んだ。
「そんじゃーな」
500万の小切手と風車が入ったプラスチックの箱をポケットにルンルン気分で大学を出た。
大学近くの銀行で500万を貯金し、卒業するまでの学費と生活費を考えて残りの金を親に送ることにした。
「やっぱバイトは続けにゃならんな」これが親に金を送るための理由であった。
昔誰かが言った言葉で子供のためにいい田んぼを残すなっつってたな。
家に帰ると早速試してみたくなってプラスチックの箱から風車が回らんように車の部分を抑えて取り出し、
勉強机においてある六法全書を見やすいところに広げた。
「え……と、説明書によると風車を覚えたい『景色』の中にいれてっと」
説明書どうりに事を正確に実行へと写した。風車が回るごとにどんどん暗記することができる。
「読める、読めるぞォ!」
昔、『レインマン』という映画でやっていたタウンページ丸暗記のように爪でページをはじきながら読み去っていった。
面白いことにすらすら覚えられる、この快感に俺はいつしか時間を忘れてのめりこんでいた…
「いでぇぇぇぇぇ!!」
作業中に突如激しい頭痛が自分を襲い始める。なんともいえない不条理な痛覚、今までに味わったことの無い最悪の痛み。
先輩の言葉が鮮明に自分の脳みその中でリフレインしていく「へたすりゃの脳みそがクラッシュする」と。
「救急車を…」
急いで受話器を取り上げて電話をかけようとしたが、あまりの痛さで結局俺はそのまま気絶した、2度と眼が開かずに…風車は俺の手で回り続ける…………………もう何も覚えられないのに……
死因は脳内出血、脳の使いすぎで血管が細くなっていたのだ。なんて俺は馬鹿なんだろう…
それから
「あの馬鹿が、すべての物的証拠は消したか?」
「はい、きっちり灰にしました」
「パソコンのデータは? 不備はないな?」
「はい、部品ごと変えましたから大丈夫です」
「頬鳥、記憶は?」
「大丈夫です、もしものために既に私の脳の中に全てのデータが入っています」
「おぼえてるか?」
「はい、催眠誘導のための言語誘導テキストは確実に残っています」
「よかった、あれに一番時間が掛かったし、なによりあれが今回の実験の味噌だからな。催眠かけるだけで3時間だぜ?」
「そうですね〜我々が2年かけてがんばったものですから〜」
「後は商品化をするにあたって改善策を組み立てねばならんな。失敗するとあいつのことを嗅ぎまわれる可能性がある、時機も見ないと」
「そうですね〜」
「さ、またいちからがんばろう」
『日本で開発された画期的な記憶術! 軍隊で機密情報などの暗記のために使われていたものですが
今回我々一般人の下に襲来! 無茶さえしなければ物事を瞬間的に覚えられます!! お値段なんと10万円!!
高いと思っているそこのあなた! 人間の夢がかなえられると思ったら易いもんですよ!!
お問い合わせは○○○ー△▲▽ー■×●∵、XX大学脳外科サヴァン式記憶術付与係へ!!!』
完結
感想
書き上げて思ったのですが…パンチ力の低さに反省。文章をもっと磨かねば…
投稿はとっても遅いのでご了承ください…だから短編なのね
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