Nの悲劇
〜私とドラの10の約束〜
第9話 桃太郎侍とか、泣き泣きココナツとか、委員長登場とか!
日本の大統領は、今のところ紅茶をすする以外は特に変わったことは無かった。
なぜか、嫌いなはずの紅茶、それもハーブの方を飲んでいた。
部屋の四方に居るSPの内の一人の無線に、連絡が入った。その連絡を聞くと、SPは静かに言った。
SP「大統領、野比の一派を見つけました。確保に向かうようです」
大統領「……残りは?」
SP「ぬかりなく、今残りの捜索班が。各地の住人にも、手伝ってもらっています」
大統領は、ゆっくりとダークスーツの黒い蝶ネクタイにゆっくりと触れると、ニヤリと笑った。
大統領「伊藤つびゃ……翼の連行。シミュレーションCの通りになりました」
SP「分かりました、おい、行くぞ!(噛んだ?)」
SPは部屋のSPをもう一人呼ぶと、部屋を出て行った。ろうそくが不気味に、揺らめいていた。
大統領「ついに……このときが……ふふふ、ふはははははぁぁはあ、ゲフッ、ゴホン、ブビュ」
関東地方のみが騒いでいる頃、北海道のおばさん(玉子の姉妹である)は、せんべいを食べながらニュースを観ていた。
北海道のおばさん「やれやれ、玉子は離婚して良かったわねえ……なんせ、夫は万年平社員よ?
んー、そういえばドンゴン最近見ないわね……」
それぞれの知略と苦悩と侮蔑が工作し、ついに8月7日のXデーは、クライマックスを迎える!
レポーターロボット「あれ? 工作って漢字違くね?」
NHKのニュースキャスター「それでは、今入った情報です。遂に、第1回名字狩りも最終局面に入ったようです。
今日8月7日の午前0時より始まった名字狩りも、今夜の夜9時には終わるようで……」
そのとき、「かべかけテレビ」を観ながら、野比のび助は苦悩の声を上げた。
野比のび助(以下のび助)「うう……このアナウンサー、結構好きだったのに……僕達が捕まった方がいいなんて……」
フクロマン(以下フクロ)「いや、そんなこと言ってないですよ。典型的なマスコミへの情報の思い違いです」
のび助「そんなこと言われてもさあ! 懐胎心証のときから、結構好きだったのに……」
のび助は、静かに涙を拭った。のび太は思った。なるほど、パパの意志の弱さが、ママの離婚に発展したのか、と。
野比のび太(以下のび)「パパ、僕はアニメが観たいんだよ」
のび助「なんだよ、適当に観ろよ。他にも、チャンネルがあるだろ?」
のび太は、とりあえず1番右上のチャンネルで放送されているアニメを観る事にした。
ムナシ「ねえ、映ってるのってここじゃないの?」
ムナシが指さした先、一斉に一同の視線が注がれた。気がつけば、どこの局も同じ番組を放送していた(テレビ東京除く)。
どこの番組でも、このビルの外観が映されており、その周りには警察官や捕獲委員、野次馬がたくさん居た。
ムナシ「やった! 僕達、有名人だよ。 僕、テレビに映るの初めて! いやあ、オキテテヨカッタならぬ生きててよかっただよ、うん」
ムナシが窓に駆け寄ろうとした瞬間、ムナシは思いっきり、部屋の壁に叩きつけられた。白いコンクリートが、ぼろぼろと崩れ落ちた。
ガッコー仮面が、上の階から降りてきていた。のび助とのび太は、とりあえずムナシの介抱にあたった。
のび助「くそう、ムナシ! しっかりしろ」
ムナシ「23……僕、すっごく眠いんだ」
のび「うわーーーん! パトラッシュゥゥゥ!(涙」
ガッコー仮面は、そんな茶番を吹き飛ばすかのように、大声で叫んだ。
ガッコー仮面(以下ガッコー)「黙れ! かべかけテレビの全チャンネルを、アメリカ人の投稿ビデオにするぞ!(怒)」
フクロ「ひいいい! 言語が分からない→笑えない→そのまま、観続けられない→飽きる」
のび「嫌だよ、そんなの! 深夜の通販DJをめざにゅ〜の繋ぎ無しでそのまま見せられるが如きの暴挙だよ」
ガッコー「お前らの主観なんかどうでもいい。 とにかく、聞け」
のび助「今から、どうするかってことだろう? もう、外は政府とマスコミと野次馬でいっぱいなんだ」
ガッコー「ああ、その通りだ。 だから、お前ら全員に『最後の』指示を出す」
ムナシ「痛てて……最後?」
ガッコー「ああ。このまま篭城していても、どうせすぐに突入される」
のび「楼上?」
ムナシ「違うよ、たてこもるってことだよ」
のび助「その通りだ。でも、何か作戦はあるのかい? 逃げるチームを組んだはいいが、ここから脱出しなきゃとても逃げられそうもない」
ガッコー仮面は、とりあえず自分の残りのひみつ道具を取り出した。フクロマンも見習った。
ガッコー「屋上に上がって、そこからタケコプターで飛び上がる。 そして、さっき言ったとおりに、なるべく北の方に逃げろ。
捕獲委員が少ない――千葉ほどじゃないけどな」
フクロ「油断するな、みんな。 ひょっとすると、屋上にもう敵が待ち構えているかもしれない」
のび太とのび助とムナシが震え上がったところで、ガッコー仮面は先導して屋上に駆け上がった。
その後に、4人も続いた。
フクロマンの予言どおり、屋上は物凄くやかましく、明るかった。
廃ビルの屋上には、既に政府のヘリコプターと、自家用ヘリが旋回していた。
のび助「くそう、君がよけいな事言うからだよ(泣」
フクロ「ぼ、僕のせいじゃないよパパ! 」
のび「そういえば、さっきからパパパパ言ってるけど、君は誰なのさ?」
フクロ「え、何言ってるのさ? 未来の僕じゃないか!」
のび&のび助&ムナシ「な、何だってェエェェェェェェェ!!」
ガッコー「今さら、気づいたのか……ちなみに俺は、ノビスケの息子だ」
のび「そうだったんだ……我が孫よ、僕のために……グスッ。てっきり、中学生時代の僕かと思ったよ」
のび助「ちょっと、待ってくれよ! 唐突すぎて、状況がよく飲み込めないぞ!」
ムナシ「最近のリカちゃんは、子どもが部品を飲み込めないような対策をしているらしいよ」
のび「そこでいうセリフじゃないと思うけど……」
そのとき、自家用ヘリコプターの扉が開き、黒い影が屋上の上に降り立った。
彼は、静岡(清水市内)随一の財力と能力に恵まれた少年――今日が誕生日の花輪クンだった。
花輪クン(以下花輪)「クク……遂に、君を倒す時が来たよ、ベイビー」
のび「ベイビーって何?僕のこと?」
フクロ「なんだこいつ、喋り方がいちいち腹立つな」
ビルの下のほうでは、既に到着していた静香達一行の内のスネ夫が、悔しそうに歯ぎしりをしていた。
骨川スネ夫(以下スネ)「くそう、僕とキャラがかぶってるよ!(泣」
剛田武(以下ジャイ)「泣くな、スネ夫よ」
源静香(以下静香)「そうよ、スネ夫さん。武さんも、『映画版ジャイアン』にならないでよ……
そういえば、歌手の伊藤翼が映画の収録中に消えたらしいわよ」
スネ「な、何だってーーーー!!? こんなことしてる場合じゃないよ、僕は、翼ちゃんを探しに行かなきゃ」
静香「スネ夫さん、お金はいいの!? あなたの取り分は33万円あるのよ!?」
スネ「大切なのはお金じゃないよ、愛だよ! それじゃあ、僕行ってくる!」
スネ夫はかっこよく走り去ろうとしたものの、野次馬やら捕獲委員やらの人波に押されて、ここから出るのに一苦労しそうだった。
ジャイ「愛よりお金か……」
静香「ちょっ……何よ武さんまで? まさか、のび太さんを捕まえるの、躊躇ってるの!?」
ジャイ「いいや……ジャイ子が言ってたんだよ。『一部の人だけ、追いまわされるのはおかしい』って……」
静香「何よ……そんなに言うんなら、私、ミルクと納豆一緒に食べるから!」
ジャイ「ヤメロ静香ちゃん、早まるな!(汗」
のび「ねえ、君は今日誕生日なんでしょ? なら、もっと楽しい過ごし方をすればいいのに」
花輪「!?」
のび助「おお、平和主義者の息子よ!(涙 パパは嬉しいぞ」
フクロ「交渉を始めたよ、ガッコー仮面。今のうちに、僕達は逃げるよ。さあパパ、逃げるよ」
ガッコー「ああ、頼んだ」
『バァン!』
その瞬間、屋上の扉が開いた。捕獲委員が、わっと出てきた。赤いヘルメットの波が、すぐそこまできた。
フクロ「じゃあ、行くよ!」
フクロマンは、捕獲委員の居る方向に、おもいっきり天地逆転オイルを雨のように降らせた。
捕獲委員O〜S「う、うわぁぁぁ!」
たばになって、捕獲委員が空に消えていった。かわいそうに……。
花輪「隙あり!」
のび太が、空を見ている隙に花輪はのび太に飛びついていた。そのまま、のび太を押し倒した。
のび「やめなよ! 僕にそんな趣味はないよ。このままじゃあ、BLになっちゃうじゃないか」
花輪「ふん、心配しなくていいよ。僕は、そんな気毛頭無いからね」
花輪はゆっくりとのび太の首に手を絡め、締め付け始めた。
のび「ブブ……ロップル……クレム……」
花輪「なんだ、その単語は!? もっと叫びたまえよ! ほら、僕を激しくしてくれよォオオ!ヒフフフ(狂 」
のび助「くそ、上品そうに見えた花輪クンにSの気があっただなんて! フクロマン、僕はのび太を助けなきゃいけない!」
フクロ「ダメです!Sの使い方が違います! そもそもSとは、異性に対して抱く支配感……」
ガッコー「そんなことはどうでもいいんだよ……ん?」
また、捕獲委員が屋上にやってきた。ガッコー仮面はフクロマンの手から『天地逆転オイル』をひったくると、またぶっかけた。
のび助「やれやれ、君たちはローションプレイが好きなんだね!」
ガッコー「黙れ!オイルだ(怒) そんなことより、早くしないとのび太が死ぬぞ!」
のび助「そうだった……よし、僕が助けに行こう」
フクロ「丸腰じゃ危ないですよ、ほら! 必ず当たるゴムパチンコをあげますよ」
のび助「なるほど、これで花輪クンを狙い撃ちにするんだな! ようし」
そういうなりのび助は、ゴム弾をパチンコにセットして、撃ちまくった。いい大人が、子どもを容赦なく撃つ。
花輪「痛たたたた!(泣 何なんだ、このパチンコ弾の量は? セニョール、ヒデじい、今すぐに発射元を探してくれ!」
自家用ヘリの中に居たヒデじいは、ヘリの前方についたカメラを駆使して、屋上を眺め回した。
間もなく、それが大きな緑色のコンテナの影から発射されているのだとわかった。
ヒデじい「おぼっちゃま、コンテナです、あなたの後ろの方の」
花輪「OK、ヒデじい……おい、そこのコンテナから僕を狙撃しているやつら! 今すぐに正体を現せ!
さもないと、お前達の仲間が死ぬことになるぞ!」
ガッコー「見捨てろ。 もう、ローションがねえ、チクショウ! さっさと逃げるぞ」
そういうと、ガッコー仮面は立ち上がった。
フクロ「待ってくれよ! メンゴメンゴ、もう一つ、ローションの予備があるんだよ」
ガッコー「お前は、まともに謝るつもりが無いのに謝る中学生の女子か?」
のび助「しょうがない、僕が行こう」
ガッコー「バカ野朗、早まるな! ……これをもっていけ」
そういうと、ガッコー仮面は『名刀電光丸』を取り出し、スイッチを入れた。
フクロ「おお、そんなもの持ってたのか? なんだ、早く出してよ」
ガッコー「性格が変わる、試作品だからな……なるべく、使いたくなかったんだが、この際しょうがない」
のび助は電光丸を受け取ると、宮本武蔵になったような気がした。しかし、もちろん宮本武蔵になれたわけではない。
それどころか、別の侍になろうとしていた。
ヒデじい「なりませんぞ、ぼっちゃま! 殺せば、賞金がなくなってしまいます!」
花輪「ダメだよ、ヒデじい。僕はね、殺さなくちゃいけないんだよ、この一族を」
ヒデじい「一族!? 野比のび太だけではなかったのですか?」
花輪「事情が変わったんだよ……僕はね、人生で一度も勝負に負けたことが無かったんだよ……。
それが、どうだい!
僕はね、日本の漫画でダメ人間ランキング43年第1位の、野比のび太に負けたんだよ?
本当に、本当に、僕のプライドは傷ついたのさァ! だから、僕はユーに天誅を下さねば」
のび太は、ほとんど瀕死状態だったが言いたいことは言った。
のび「ねえ……僕、机の上に0点置きっぱなしだったんだ……捨てといてよ……」
花輪「ふん……そんなことは、僕に頼まないでくれるかい?」
のび助「俺の娘に……手を出すな……!」
花輪「!?」
花輪は、突然物凄い殺気に包まれた。それどころか、あまりの恐怖心にのび太の首から、自分の手を離した。
花輪の後ろには、なぜか着物を着て立っている野比のび助が居た。手にはもちろん、名刀電光丸を持っている。
のび助「今夜も世の汚れを……俺が斬る」
花輪「何だ、この男……まさか、野比のび太の父親……? いや、娘って言ってたし……しかも、この侍のような風貌……
まさか、ギター侍として、戦おうとしているのか? だとすると、僕もギターで戦わなくちゃいかないのか……。
待てよ、だとすると僕は『はなわ』!? 佐賀出身のギター侍にならなくちゃいけないのか?」
ヒデじい「落ち着いてください、ぼっちゃま。 あの剣道の特訓を忘れたのですか?」
花輪「オー、ヒデじい……僕の習っていたのはフェンシングなんだ、ベイビー……(泣」
フクロマン「大丈夫なの? というか、ムナシさっきから無言だけど大丈夫なのか?」
ムナシ「ううん……なんか、寝すぎたみたい、頭が痛い」
ガッコー「だから、あれほど眠るなって言っただろうが……」
フクロ「けど、いきなり侍になっちゃったよパパ! 緋村剣心さんになったの?」
ムナシ「違うよ、坂田銀時だよ!」
ガッコー「二つとも違う……そんなものじゃない……強いて言うなら、桃太郎」
ムナシ「桃太郎ピクチャーズ?」
ガッコー「おい(怒) 誰か、コイツを黙らせろ」
フクロ「はい普通のガムテープ〜〜。 ごめんねムナシさん」
ムナシ「フブッ!(何するんだ!)」
花輪は、ヘリから投下されたフェンシング用の剣を受け取ると、のび助と対峙した。
ヒデじい「おお、前代未聞の対決、フェンシング対剣道! そんなこと、トリビアの泉でもやりませんでしたよ!」
しかもどちらも真剣……深いですなあ」
花輪「ベイビー……言っておくけど、僕のフェンシングの腕前は、スエマエペア並みなんだよ?」
のび助「ふん……すぐにオグシオを見捨てたな……鬼が」
花輪「ふっ、結局勝負の世界は、勝った者は生き残り、負けた者は死ぬ。それが、自然の摂理だよ」
のび助「娘のために……貴様を叩き斬ってくれよう」
花輪「娘? 野比のび太は息子だろう?」
のび「パパ……ムリしないでよ……。友達に頼まれたとかで、中学生と剣道対決して20秒で負けたじゃないか」
花輪「そうなのかい……逃げるなら、今のうちだよ? 元々、このゲームは逃げれば勝ちなんだよ?
ただし……君の息子は僕の剣の餌食になるけどね」
のび助「第1問! 練馬区一番の美少女と言えば?」
そう言うと、ゆっくりと電光丸を振りかざした。
静香「私のことじゃない!(笑)」
ジャイ「ん? これってまさか……桃太郎侍!?」
花輪「知らないよ。僕は、静岡の人間だよ?」
のび助は、目にもとまらぬ速さで花輪の前に詰めよった。
花輪「な、何だこの速さは!?」
のび助「正解は……娘の真麻!」
花輪「!? 」
その様子を、ムナシとフクロマンは呆然と見ていた。
ガッコー「その通り……その刀を使うと……桃太郎侍になるんだ!」
フクロ「いや、本物の桃太郎侍はそんなこと言わないよ!(泣 真麻、誰も分かんNEEEEEE!!」
花輪は、何とかのび助の一撃を受け止めた。
花輪「ふん……なんだか分からないけど、一撃でしとめられなければ、剣道は終わりなんだよ?
ましてや、持久戦なんて、完全にフェンシングの勝ちなんだよ、ベイベー」
ヒデじい「はい。剣道は、振りぬくのに時間がかかります。ですが、フェンシングは突く競技です。こちらが、有利かと」
のび助「黙れ。 第2問! フジテレビで1番かわいい女子アナウンサーは?」
花輪「は? そりゃあ、まあ彼女だろうよ……あの、めざましに出てる……」
のび助「残念! 正解は……娘の真麻!」
花輪の剣が、吹き飛んだ。花輪は、自分の握力がふっと消えたことに気づいた。
花輪「ば……バカな! この動き……まるで、佐々木小次郎を倒した宮本武蔵じゃないか!」
ヒデじい「あの、サインください」
花輪「ヒデじい(怒)! 何を言っているんだい、ベイビー」
ムナシ「ふおぐほぐ」
フクロ「ムナシさん、何を言っているのか全然分かりません!
ちなみに、宮本武蔵は卑怯な手を使って、佐々木小次郎を倒したんだよ」
のび「パパぁ! 負けてもいいよ、正気に戻ってよ」
のび助「 最後だ……! 第3問!」
花輪「くる!」
花輪は剣を拾い上げ、構えた。
のび助「第3問、受精の意味を答えなさい!」
花輪「ば、バカな……普通の問題だとぉ?」
静香「な、何を言っているの? そんなの、私に答えろって言ってるの?(恥」
ジャイ「いや、違うと思うぞ……」
ムナシ「ふぁんひほ、ふぇいひほ」
フクロ「いや、ムナシさん答えなくていいから……」
ガッコー「ちなみに、中二の保健の問題だ……くそう、まずいな」
花輪「ふっ……僕に、それを答えろと? 残念だったね、ベイビー、僕はね、既に学習していたのさ」
ヒデじい「ぼっちゃま! さすがです。ヒデじい、感激です」
のび「そんな! パパ、どうするんだよ」
花輪「受精とは……精子が卵子のの中に入り、細胞分裂のはたらきにより、成長可能な状態になることだよ!」
のび助「残念……答えは、娘の真麻! 」
花輪「!? 何を言うんだい? 受精の意味=娘の真麻って、全然答えになってないじゃないか(怒)」
のび助「黙れ! 誰が何と言おうと……正解は、娘の真麻!」
ガキィイイン!
花輪の持っている剣が、真っ二つに折れていた。それどころか、自分の服が真っ二つに裂けていた。
花輪「ぼ……僕の負けだなん……て……」
ヒデじい「ぼっちゃまああ!(泣 」
自家用ヘリから数人の人間が降りてくると、花輪は運び込まれていった。
花輪は最後まで、「ぼく正解したよね?」と呟いていた。
のび助「ふ……またつまらぬものを斬ってしまった」
のび「剣心になった! パパ、正気に戻ってよ!(泣」
ガッコー「のび太、名刀電光丸を離させれば、元に戻るよ」
のび「ええ? そうなの? というか花輪クン、人の首思いっきり締めた ><」
そのときだった。 また、急激なフラッシュが叩かれた。同時に、何かマイクを叩いた時のようなノイズが響いた。
?「やあ、野比の諸君! そろそろ、茶番は終わったかな?」
屋の上5人は、天地逆転オイルまみれになった床に気をつけながら、そっとビルの下を見た。
そこには、『野比捕獲委員会』という横断幕がひるがえっており、その下には、まだまだ赤いヘルメットの波があった。
しかし、その中央には明らかに見覚えのある顔があった。
フクロ「ねえ、あの、中央に居るのって……」
のび「で、出木杉!?」
のび助「な、何であの男の子が、こんな所に居るんだ?」
ガッコー「決まってるだろう……言っただろう、俺はセルフ仮面から、組織情報を聞いている。
捕獲委員会のトップ、つまり委員長は、出木杉英才だ」
ムナシ「ほがごあ」
出木杉英才(以下出木杉)「紹介が遅れたね、野比捕獲委員会の委員長、出木杉英才です。といっても、紹介は必要ないですね。
なぜなら、あなたたちは捕まってしまうんですから」
のび太は、ビルから危うく身を乗り出しそうになったが、なんとか反撃に出た。
のび「出木杉ィ!僕はもう、怒ったぞォォォォ!」
のび助「僕も、怒ったゾォォオ!」
フクロ「僕も、怒った象!」
ムナシ「ほふふぁ、ほふぉっふぁほおおおおお!」
ガッコー「静かにしろ、話が聞こえないだろ!」
出木杉英才はやれやれといった感じで首を振ると、すぐに声を張って言った。
出木杉「のび太くーーーん! もしも君が投降するなら、他の皆の命を助けてあげてもいいよーー!」
のび太以外の4人「!?」
静香「で、出木杉さん? 一体、どういうことなの?」
出木杉「そのまんまの意味さ。 どうしたんだい?そのまんま東が東国原知事になったほど、驚いているのかい?」
のび「ちょ、何を言うかと思ったら、そういうことかい! みんなが僕を売るわけないぢゃん! ねえ、みんな?」
のび助「……」
ムナシ「……」
フクロ「……」
ガッコー「……」
のび「ハハハ……どうして、みんな黙ってるのさ? まさか、本当に僕を、政府に売るつもりなの?((泣」
のび助「ふ、ふん!今さら、そんなこと言っても遅いぞ」
フクロ「そうだよ、もう遅いぞ! 僕達の気持ちが分かるか? 散々、日本国民に追い回されて、荒みきった気持ちが?」
ムナシ「ふがふがふがほぼぐ、ふぐう」
ガッコー「……残念だったな……俺達はもう、覚悟を決めている……全員、生きて帰って、逃げ延びてやるよ」
のび「みんな……(泣」
出木杉「そういうことですか……それでは、しょうがないですね……大統領、シミュレーションBの方向で、捕獲します」
のび「大統領?」
その瞬間、一斉に捕獲委員が飛び上がった。赤いヘルメット、その上にはタケコプターがついていた。
捕獲委員が、ビルの屋上の上空を取り囲んだ。5人は、一斉に屋上の中央に固まった。
のび助「そんな……全員、空を飛べるなんて……」
フクロ「僕、飛べんじゃん」
ムナシ「ふびおぼぼ」
ガッコー「ちっ……まさか、もうドラえもんが来ていたなんてな……」
のび太は、見た。下の方。出木杉の側に、ドラえもんが立っていた。観念するんだ、というような眼で――!
のび「ドラえもん、僕はもう怒ったぞォォオォォォォ!(怒)」
午後6時30分 野比のび太と、花輪クンが格闘。
午後6時35分 花輪クンが野比のび太の確保に向かうと思われたが、勢いあまって殺しそうな勢いになる。
午後6時38分 野比のび助が、花輪クンと戦闘開始。
午後6時45分 戦闘終了。 花輪クン、3度目の敗北。
午後6時50分 委員長が到着、シミュレーションBのとおりに、作戦開始。
(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)
第10話 一瞬の風に! 千の風邪に! ザ・ウィンド・オブ・ゴッド!
ヒュッと、風が吹いている。ビルの屋上であるがゆえに、風当たりは強い。しかし、のび太の心は激しく燃えていた。
野比のび太(以下のび)「ドラえもん、僕はもう怒ったぞォォオォォォォ!(怒)」
白けたムードが、あたりに漂った。のび太は、隣に居る野比のび助に顔を向けた。
しかし、のび助も顔を合わそうとはしなかった。なぜか上空に居る捕獲委員達も、のび太を見ずにいる。
ムナシ「のび太君……超恥ずかしいよ、僕達」
のび「え? どの辺? どのあたり? ちょ、何? かっこよく決めたのに、恥ずかしい感じ!」
野比のび助(以下のび)「のび太……お前の気持ちはようく分かったよ……」
のび太は、急にテンションが下がった。モチベーションも下がった。え? ヒーローって、こんな時にかっこよくセリフ決めるんじゃないの?
その時、下に居る出木杉英才が、ついに采配を振るった(当たってる?)。
出木杉英才(以下出木杉)「のび太君、僕は昔言ったよね? 『人生はゲームです』って」
フクロマン(以下フクロ)「いや、それキタノじゃね? 世界の北野監督のセリフじゃね?」
のび「そ、そうだ! そんなの、聞いたこと無いぞ!」
出木杉「そうかい……投降する気が無いのなら、最後の作戦に移るとしよう。捕獲委員、確保に向かってください」
のび&のび助&ムナシ「!?」
フクロ「き、キターーーーーーーーーーー!!!!」
その瞬間、一斉に捕獲委員が降りてきた。
捕獲委員T「敵は本能寺にあり!」
捕獲委員U「ノブナガ!?」
捕獲委員V「いや、それじゃあハンター×ハンターっぽくなっちゃうじゃん」
まず、まとめて捕獲委員が5人ほど、ムナシの体に飛びついた。
ムナシ「うっわあ! ちょ、待ってよ! まだ心の準備が!」
のび助「ムナシ!(焦 」
ガッコー仮面(以下ガッコー)「おい、お前の持ってるパチンコで撃て! 俺はフクロマンと一緒に、奴らをひきつける!
のび太は、捕まらないように逃げろ!」
のび「はあ? 無防備ジャン」
のび助は、ガッコー仮面の指示どおりに、必ず当たるゴムパチンコを使って、捕獲委員に向けて撃ちまくった。
しかしどちらかというと、ムナシの顔面に多く直撃しているようだった。
ムナシ「あぶっ!痛いッ! 兄さん、真剣に痛いよ」
のび助「ええ? くそ、必ず当たるんじゃないのか?」
フクロマンが『バショー扇』を仰ぎながら言った。何人かの捕獲委員が、下に落ちた。
フクロ「いや、当たるだけであって、狙いがいいとは限らないよ」
のび助「くそ、この不良品が!」
のび助は最後の弾をゴムにくくると、出来る限り、ムナシにくっついている残りの三人の頭を狙った。
捕獲委員U「!? 」
見事に捕獲委員Uの顔面に弾が当たった。思わず、ムナシの右肩から手を離した。
のび助「やった! 」
のび「全然よくないよ! パパ、僕も助けてよ!」
のび太は必死にコンテナにしがみついているものの、大の大人4人に引っ張られ、確保されるのは時間の問題だった。
ムナシ「僕も! 待ってよォ!」
ムナシは最後の力を振り絞ると、捕獲委員の腕に噛み付いた。
捕獲委員V「痛ってぇ! 痛ってぇ! 何しやがんだてめえら、血ィ出てんぞ血ィ!(怒)」
ムナシ「それ、僕のセリフなんですけどォ!」
ムナシは、捕獲委員Vを一発で蹴り上げた。
捕獲委員V「ビデオの滞納料金500000円……返したかった……ガクッ」
ムナシ「凄ッ! 滞納料金だけで、普通そこまで行くの? つうか、未だにVHSってwww」
捕獲委員T「VHSなめんじゃねえええええ!」
ムナシ「!?」
ムナシの顔面に、元プロボクサーの捕獲委員Tの耳の側に、フックが炸裂した。
ムナシ「うわぁぁ! ……8ミリが……負けた……」
捕獲委員T「8ミリ!? VHSの前かよ……」
刹那、捕獲委員Tに、ドリームガンの弾が被弾した。そのドリームガンを撃ったのは、ガッコー仮面であった。
ガッコー「バカ野朗、もうちょっとよく考えろ! ……ちくしょう、このままじゃ、誰かが捕まるのは時間の問題だぞ……」
フクロマン「ねえ、大方片付けたんだけど」
ガッコー仮面がはっと空を見上げると、あれほど居た捕獲委員は居なかった。
しかしもちろん、全員がいなくなったわけではなかった。出木杉の居る方向から、第2波の捕獲委員が来ている。
ガッコー「ちっ……しょうがないな。フクロマン、頼みがある」
フクロ「えっ? 何々?」
ガッコー仮面がバショー扇をひったくると、思いっきり振った。
ガッコー「オトリになれ!」
フクロ「ニトリ?」
フクロマンがそう言ったときには、フクロマンの体は既に出木杉の方向へと飛んで逝った。
のび助「ガッコー仮面!? 仲間を見捨てるのか?」
ガッコー「いや、そうではありません。 とりあえず、オトリになってもらうだけです」
のび「フクロウがぁぁぁ」
ムナシ「てか、なぜに敬語?」
フクロマンは、思いっきり下に居る捕獲委員の波に飛び込んだ。
捕獲委員W「確保!」
何か隊長っぽい男が、指示した。フクロマンはとりあえず、『悪魔のパスポート』を取り出した。
出木杉「ドラえもん、アレを持ってきて」
ドラえもんは言われるがままに、『秘密書類焼き捨て銃』を取り出し、『悪魔のパスポート』めがけて、平然と撃った。
『ズドーーーン!』
あっという間に、悪魔のパスポートが丸焦げになった。それどころか、塵になって消え去った。
フクロ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜!!」
フクロマンは、悔しそうに叫んだ。自分を敵の本陣に突っ込ませた、ガッコー仮面に向かって。
フクロ「ガッキィィィ! チクショウ、てめえもう許さねえええ! 侮辱だ、これはどうみても侮辱だ!
なめんじゃねえぞ、俺はなあ、クラスで1番エッチなんだぞ! エッチどころか、Iだぞ? Zだぞ?」
ガッコー「フクロマン……ごめん」
フクロ「ごめん? ごめんで済んだら最高裁はいらないんだよ、この覆面レスラーが!」
捕獲委員W「確保!(2回目)」
フクロ「黙れ! 今重要な所なんだよ!」
フクロマンは腹いせに、最後の手持ち武器であるショックライフルを連射した。
フクロ
「……俺の屍を超えて逝けェェ!」
ガッコー仮面はのび太にくっついた捕獲委員を引き剥がすと、タケコプターを装備させた。
それから、のび助もなぜかゲロを吐きそうになりながらも、タケコプターを受け取った。
ムナシはどうしようかとおろおろしていたが、ガッコー仮面は倒れている捕獲委員Tの頭からタケコプターを引き剥がして、つけさせた。
のび「フクロマン、ありがたう!」
ムナシ「え? こういうときって泣いた方がいい?」
次々と倒れる、何の罪も無い捕獲委員達。正義とは何なのか、考えさせられる絵面である。
出木杉「完全にヤケだね……アンパンマンとの戦いの最期のバイキンマンに、似ているよ」
フクロ「黙れ、出木杉! 俺はな、お前みたいな奴が大嫌いなんだよ!」
出木杉「……君のような、何の努力もしないで人を蔑むような人間を、何と言うか知ってるかい……?」
フクロマンは、フルスロットルでショックライフルの引き金を引き続けた。
後ろから、剛田武の手に巻きついた『チャンピオングローブ』が、猛威を振るった。
剛田武(以下ジャイ)「あばよ」
フクロマンの背骨に、衝撃が走った。
出木杉「一人確保……まあ彼は、未来ののび太君だから……大丈夫だよね」
そういうと、昏倒したフクロマンを思いっきり蹴り上げた。
捕獲委員X「あ、何か僕、容疑者みたいですね」
出木杉「君の御託はいいから、報告してくれないかな? 彼らが、どこへ向かったのか」
捕獲委員X「は、はい……(糞ガキが、チッ)。 どうやら、また東京方面へ向かったらしい……です」
源静香は、出木杉に近寄りながら言った。
源静香(以下静香)「どうするの、コイツ? 拷問にかける?それとも人質にする?」
出木杉英才は、悪魔のパスポートのかすを触りながら答えた。
出木杉「まあ、追いかけるほどでもないよ。 あの中の一人に、発信機がついているからね。
しかも、胃の中だよ? 排泄には、72時間かかるから……少なくとも、今日までは電波が特定できる」
ジャイ「何か、腹減ったな」
静香「何よ、すき屋にでも行けばいいじゃない。ムード壊さないでよ……(汗 ところで、のび太なんでしょ?
大統領が気にしてるのって……。 とりあえず、生かして連れて帰らなきゃ」
出木杉「フフフ……彼には、ふさわしいラストを用意しています」
ジャイ「食い物欲しいな」
のび太達は、タケコプターで空を飛んでいた。
のび助「こんなことして、いいのかね? 良心は痛まないのかね?」
ガッコー「それなら、アイツと一緒に残ってくれば良かったじゃないか」
ムナシ「ダメジャン! もうダメジャン!(泣 どうして、僕だけ海に逃げる計画なの?
もう、みんな終わりだよ! ああ、どうして僕は斉藤さんじゃないんだろう……」
のび「僕も、観月ありさになりたかったよ」
のび助「モロに言うな! ……しかし、どうすればいいんだ。 このまま、逃がしてくれそうも無さそうだぞ」
その通り、既に後方200メートル、何かポツポツとした赤い点が見えた。捕獲委員達ががすぐそこまで迫っていた。
ガッコー「じゃあ、またな!」
ムナシ「は? 何? まちゃまちゃが最近テレビに出ないって?」
ガッコー仮面はフクロマンの形見であるバショー扇を、ムナシに向けて思いっきり振った。
ムナシ「う、うわぁぁぁ!」
ガッコー「あばよ……」
のび太は、ガッコー仮面の勝手すぎる行動に殆ど激昴していた。キレすぎたため、自分でも驚くセリフを吐いた。
のび「ベイビーや……宇宙のベイビーや……」
のび助「ジィ? 緑の巨人伝のジィ?」
ガッコー「……ん? 何か、変な音が聞こえないか?」
ぶぶぶ……。
なんだか、蜂の巣が近くにあるような音だった。そのとき、タケコプターのプロペラの回転が止まった。
同時に、どこかでみたことがあるロボット(?)のようなものが、すぐそこまで迫っていた。
のび「落ちるぅぅう」
のび助「やばい! 何か分からないけど!」
ガッコー「全員、コレを食べろ!」
そういうと、風船ガムのようなものを取り出した。
のび「え? 何これ?」
ガッコー「超スーパー風船ガム! 体が膨らむから、早く食え!」
?「そうはさせないぞ!」
のび助「!?」
落下中の三人は、上を見た。そこには、大きなロボットが居た。ザンダクロスに乗った、スネ吉だった。
スネ吉「フハハアハ!(狂 逃がさないよ、みんなぁ! ジュドのお通りだよ?
もうさあ、みんな一人ずつ出ておいでよ。一人ずつ嬲(なぶ)り殺してやるよ!」
そこには、映画鉄人兵団に出てきた巨大ロボットが上空を飛行していた。その頭のあたりにスネ吉が立っていた。
のび助「くっ……どこかで見たことがあるような人だな」
のび「パパ! あれ、あれだよ! 小池百合子元防衛省大臣だよ!」
ガッコー「いや、どうみてもただのスネ吉だ……確かに、若干眼鏡かけてるしな。まあ、似ていないというわけでもない……」
スネ吉「ふふふ、さっきのセリフが聞こえなかったのかい?」
三人は構わずに、超スーパー風船ガムを口に含んだ。すぐに、体がパンパンに膨れ上がった。
間もなく三人の落下は止まり、徐々に浮き始めた。
スネ吉「本当の恐怖はこれからだよ……ッ!」
そういうと、スネ吉は左手に持っていたコントローラーを両手に構えた。
のび「落合?」
のび助「監督?」
ガッコー「いや、もうそういうのいいから。 ……どうやら、簡単に逃げられそうに無いみたいだな……」
ガッコー仮面はそういうと、『フワフワおび』を取り出し、二人に渡した。
ガッコー「ほら、これで空を飛べる」
のび「ええ? 膨らんだ意味は?」
のび助「動きづらいぞ、どうしてくれるんだ!」
ガッコー「親子揃ってうるさいな……1時間で元に戻るよ」
のび「なあんだ、良かったなあ」
ガッコー「ただし、そのときには大気圏外だけどな」
のび助「死んでしまうじゃないか!(泣」
スネ吉「 シ゛ュト゛ の 指の先 から いてつく波動 か゛ ほとは゛しる ! 」
のび&のび助&ガッコー「!?」
解説しよう! 何と、この『いてつく波動・改』は、魔力だけでなく22世紀製のひみつ道具を無効化することができるのだ!
しかし、のび太たちの体に変化は無かった。
スネ吉「ど、どういうことだ……!? 何故に効かない? 何度もテストしたのにも関わらず……」
ガッコー「そうか、ごめんな。 お前がいてつく波動を出すよりも先に、時を止めたんだよ……
ザ・ワールド! ……この、『タンマ・ウォッチ』でな」
のび助「創価学会のことかーーー!! ……!? 僕は、一体何を言ったんだ?」
のび「待て これは公明党の罠だwwww ……!? ぼ、僕は……! 何てことを……」
ガッコー「本当に、なんてこったい……(泣 まあ、とりあえずお前らは先に逃げてろ。俺は、後を追う」
そういうなり、のび太とのび助の居る方向に、思いっきりバショー扇を振った。
のび太とのび助は、東の方の夜の町へと消えていった。悲鳴を残しながら……。
スネ吉はコントローラーを弄り、にやにやしながら言った。
スネ吉「いいのかい? 一緒に逃げなくてぇ。 ま、もう同じ手は通用しないけどね」
ザンダクロスの指先が光った。ガッコー仮面は、舌打ちをした。
神奈川南西部の何か海っぽいところに、ムナシは着陸した。
ムナシ「痛てて……ここあどこだ? 湘南学館かな?」
?「そんなわけねーだろ。もう、お前の行動範囲はとっくに割り出されてる……あきらめな」
ムナシは、慌てて振り向いた。急に、真っ暗な砂浜が明るくなり、ムナシは思わず目を抑えた。
間もなく、ドスのきいた声が聞こえてきた。といっても、声で言えばアルト――
かつて、お台場であっさりとのび太たちに逃げられたぼた子であった。
その後ろには何人かの女達(ぼた子の親戚の女の子、花賀さき子、月形まる代、ムス子)が居た。
ムナシは、自分の頭の中が真っ白になるのが分かった。
月形まる代(以下月形)「月のように!」
花賀さき子(以下花賀)「花のように!」
ぼた子「怒りの限り!」」
ぼた子の親戚の女の子「空虚な限り!」
ムス子「……ムスーーッ」
ムナシ「うう……どーしよーまぢで」
月形「大人しく捕まればいいんですよ、おじさん」
花賀「手を挙げて、こちらに来てください。もちろん、ひみつ道具も置いて」
ぼた子の親戚の女の子「そうでなければ、あなたは……」
ぼた子「血を見ることになるぜ……」
ぼた子は自分の拳を『ゴルゴンの首』で固めていた。その拳に、最早『確保』なんて言葉は見えなかった。
ぼた子の親戚の女の子「いい? くれぐれも殺しちゃあダメよ」
ぼた子「ふん……わーてるって」
ムナシ「ぼた子5連続かよ!(縦読みで)」
月形と花賀は、またムス子が変なことを言わないか心配だった。しかし、ムス子は押し黙っていた。
目はつり上がり、顔面を硬直させて身を震わせていた(便秘を我慢しているだけだった)。
ムナシはエラ・チューブを鼻に詰めると全力で海に向かって走り出した。ムナシの選んだ選択――それはもちろん逃亡だった。
あんなの、勝ち目があるわけがない。バトル? 何ですか?
ぼた子「おい、お前はそっちに回れ! 」
ぼた子は親戚の女の子に指示した。親戚の女の子は言われたとおり、ムナシの目指す海を阻むかのように、波打ち際に立ちふさがった。
ぼた子の親戚の女の子「これでも喰らいなさい! ポイズンクッキング!」
そういうと、いつの間にか手にもっていたヒ素入りカレーのようなカレーを、ムナシの顔面に向かって投げつけた。
ムナシ「ぶふっ! 熱っ! ……ぐぼろ……なんだこの味は……ゲヴォオオオ!」
ムナシはこれでもかというくらい、ゲロを吐き出した。昼に食べた羊の肉が、未消化のまま胃液まみれになって出てきた。
ぼた子の親戚の女の子「やったわ! 今のうちに確保よ!……どうしたのよ、真っ赤な顔して」
ところが、ぼた子は石になった拳を、わなわなと振るわせた。
ぼた子の親戚の女の子「どうしたのよ、ぼた子? 早くつかまえましょうよ!」
ぼた子「てんめええええええ!(怒) どういうことだ?
ポイズンクッキング? いかにもビアンキ風に特技を炸裂した顔になってるんじゃねえよ!
それはな……今日のうちらの晩飯だぞォォオオ! あたいの特製カレーだぞ?
それを何だ? いかにも和歌山カレー事件のカレーみたいに、武器として使いやがって!」
月形「!? 危なかったわね……あんなもの食べてたら、死んでたわよ私たち」
花賀「そうよねえ。というか、ビアンキはもうポイズンクッキング作らないのかしら」
ぼた子の親戚の女の子は、半ば開き直ったような口調で言った。
ぼた子の親戚の女の子「はァ? ちょ、あんたバカじゃないの? あんな劇物、誰が食べられるのよ。
殺戮兵器以外に、用途があるの?」
ぼた子「……ろくに卵を割った事も無いガキが……調子に乗るんじゃねえ!」
ぼた子の親戚の女の子「何よ、割った事あるわよ」
ぼた子「黙れ、外道」
ドゴッ……!
ぼた子は全力をあげて、自分の親戚の女の子を殴打した。果たして、どちらが外道だったのかは永遠の議題となるだろう。
月形「……死んだんじゃないの?」
花賀「もう、ついていけませんね」
ムス子「ムスーーッ(訳:あ、あの居酒屋で一人で飲んでそうな男に、逃げられた)!」
ムナシは、何とか難を逃れた。
月形「逃げられたけど、まあいいわ。 どうせ、あの男には発信機がついてるんでしょう?」
花賀「そうよねえ。 昼に捕獲委員の人が発信機を口の中に……」
月形「口の中?」
激しいニオイがするムナシの嘔吐物の中に、青いカプセルがあった。そして、カレーを食べて吐く前に食べた、ツキの月も。
ぼた子「チクショォオオオ! 発信機が取れてるぞぉぉ! 海上自衛隊に連絡しろォオオオ!(怒)」
ムス子は、ついに来た(催した)と思い立ち、海の家のそばにあるはずのプレハブトイレを探した。
ここから、M(ムス子)の悲劇が始まる――!
ムナシは、タイヤキくんの如く、夜の海をもぐった。
ムナシ「毎日、毎日、何か叩かれて〜〜♪ こ〜れだから、ネット配信は嫌になっちゃうよ〜〜」
動物奇想天外が始まる頃、野比のび太とその父は、何とか人家(先生の家)に突っ込み、不時着した。
ドゴシャァァァン!
のび太の先生(以下先生)「野比ィィイ! 君は、どこまで私を苦しめれば気が済むんだ!」
激しく舞う木片や屋根の瓦の中から、野比親子は顔を出した。
のび助「いやあ、ごめんなさい……エヘヘ」
のび「先生、すいません! でも、理由を話している暇は無いんですよぉ」
先生「はあ……この家は、借家だぞ。分かっているのかね? 私はこれで、借金地獄に落とされたんだ」
のび助「また頑張ればいいじゃないですか。先生だって公務委員でしょう?」
先生「はあ? 教師が金をもうけてる? そんなのは、戦前の話ですよ(汗 」
のび「先生、ごめんなさい! 後で復元光線で戻しておくから!」
先生「何を言ってるんだ野比! そんな漫画のような話をするんじゃない、そもそも君は……」
のび「時限バカ弾を使おうよ、パパ」
のび助「何だそれは?」
のび「使えば分かるよ」
のび太は、説教モードの先生の眼鏡付近にそれを投げつけた。
先生「アジャラカモクレン、せいせいせい、HG、フォーー!」
先生が3の数字を無視してバカになっている隙に、野比親子は瓦礫と化した先生の家を後にした。
しばらく歩いた後、野比親子は完全に場違いな場所に足を踏み入れていた。
のび「ねえ、さっきから歩いているこの辺、やけにラブ○テルが多いね」
のび助「ああ。とりあえず、この辺のホテルに隠れよう」
のび「ええ? ラブホテルって未成年の禁断の聖地でしょ?」
のび助「いや、いいんだ。俺が許可する。 それにのび太、今日は誕生日だろう?」
のび太は、電気が走ったような錯覚に見舞われた。すっかり忘れてたけど――僕は、今日誕生日だったんだ。
のび「グスッ(泣 パパ、覚えててくれたの?」
のび助「ああ(いや〜、何かノリで言ってみたけど、当たって良かったなあ)……
何もしてあげられないけど、今年のプレゼントは『ラブ○テルフリーパス』だ!」
のび「いやあ、静香ちゃんも連れてこればよかったなあ」
のび助「うんうん、ママも……のび太も弟か妹欲しいだろう?」
そういいながら、何とかチェックインを試みた。
ラブ○テルの受付「あのー……分かります、ここ? カプセルホテルじゃないですよ?」
のび助「知ってるわ! たまにドラマに出てくるアレだろ? 『猟奇的な彼女』の第1話に草○が○中○奈を連れてきた場所だろ?」
ラブ○テルの受付「何のドラマですか(汗 後、未成年は入れないんですよね」
のび「ふっざけるなよ! ぼかあ誕生日だよ? いやあ、このホテルはサービス悪いなあ」
ラブ○テルの店員「そんなホテルじゃないですよ。そんなに祝って欲しいなら、叙々苑にでも行けばよかったじゃないですか。
ちょっ……なんですか、もう。警察呼びますよ。 あれ? ってか貴方達、どこかで見たことありますね……」
のび太は、部屋のかぎ掛けの上に、『野比さんを探しています』のポスターが張ってあることに気づいた。
のび「パパ! 通報されないうちに逃げようよ」
のび助「そのようだな……また来る。おととい来やがれ!」
のび太たちが鶯谷を離れた頃、さっきのラブ○テルにて。
ラブ○テルの店員「もしもし、捕獲委員会ですか? そうです、5分前に来たんですが……」
ザンダクロスとの激闘(といっても、捕獲委員を盾にして攻撃をかわす)に疲れ果てたガッコー仮面は、満身創痍の状態だった。
スネ吉「ハハハ! ちなみに満身創痍というのは『全身が痛みつけられる状態』のことだよ!」
ガッコー「解説ご苦労……チクショウ、次の攻撃が来たら避けきれない」
スネ吉は自分の勝利を確認したが、手塚国光のように『さあ油断せずに行こう』と自らを律した。しかし、おしゃべりはやまなかった。
スネ吉「ザンダクロスのデザイン元を知ってるかい? ガンダムの百式だよ?」
このように、スネ吉のドラえもんという映画を置き去りにした完全にロボットオタクの話が続いたのだが、中略。
ガッコー「アリガトウよ……お前のおかげで傷が回復したぜ」
スネ吉「しまった! 緊張しすぎると僕は、思わず喋りすぎちゃうんだった(滝汗 」
ガッコー「これが……俺の最後の攻撃だ。喰らえ……80年代の不法電波!」
そういうと、タイムマシンにアナログテレビのアンテナをつけたような形の機械を取り出した。
スネ吉「!? まさか、ザンダクロスの脳波を破壊するつもりなのか!? ふん、やれるものならやってみろ!ザンダクロスはロボオタの星だぞ?
もしここでザンダクロスを倒せば、お前はネット上の鉄人兵団愛好家、全員を敵に回すことになるんだぞ?」
ガッコー「それがどうした……ドラえもんの映画が好きなんだろ? だったら分かってくれるさ……」
スネ吉「フフフ……いや、勝つことすらムリか……出でよ、ミクロス」
ガッコー「!?」
1986年に映画館のスクリーンに響いた声が、闇を切り裂いた。
ミクロス「ボク、みくろす! 静香サンノタメニ、頑張ッテ歌イマス」
ガッコー「歌うのかよ……後、静香居ねーからな。お前の存在感、多分ゼロだわ」
スネ吉「黙れ。 さあミクロス、『少年期』を歌ってくれ。君に応援してもらおうと思ってな」
ミクロス「イヤ、『わたしが不思議』シカ記憶シテナインデスガ」
スネ吉「じゃあそれでいいよ……。さあ、もう応援歌がある僕らに敵うかい?」
ガッコー仮面は黙ったまま、ドラえもん(大山版)テレビ絵本を取り出し、アニメ箱の引出しの中に入れた。
ガッコー「ああ、こっちも応援歌が出来たぜ。 さあ、最後の勝負だ」
そういうと、『ハツメイカー』で作った『1980年代の不法電波発射機』を据え付けた。
スネ吉も、コントローラーを手にした。
ミクロス「夕陽をおいかけて〜〜♪」
アニメ箱「な〜ま〜ずは〜う〜ろ〜こ〜がな〜い♪」
スネ吉「!? バカな……大山版には数多くの素晴らしい歌があるというのに……あえてこの歌を選んだ!?」
ミクロス「こんなに遠くまで〜〜♪」
アニメ箱「曲がり角♪ 曲がったなら〜〜」
ガッコー「終わりだ……さようなら、80年代」
ガッコー仮面が1980年代の不法電波発射機のスイッチを入れようとして――その手が止まった。
ドウ、とガッコー仮面の体が崩れ落ちた。
気づかなかった。すっかり、ザンダクロスとミクロスに気をとられて――
ガッコー仮面の後ろに、ドリームガンを持った源静香が立っていた。
ガッコー「くそったれがぁぁ……」
わずかな意識下、自らの祖母の失態を嘆いた。ガッコー仮面は、意識を失った。
ミクロス「静香サ〜ン!(笑)」
静香「ミクロス、久しぶりね。 それから、スネ吉兄さん。あなた、仕留めるの遅すぎ」
スネ吉「あ、あいつはボクが倒そうと思ったんだぞ!(泣 邪魔しないでくれよ」
静香「とにかく、これでのび太さん達は、丸腰になったわけ。 早く、残りの人たちを捕まえて下さいね」
スネ吉「うう……ザンダクロス、ミクロス。帰ろう」
ミクロス「静香サン、マタ明日!」
静香はミクロスに愛想笑いをしながら、ガッコー仮面の覆面にそっと手を触れた。
スネ吉一行は、夜の闇へ消えていった。
午後7時15分 野比一味である茶色い全身タイツの男を拘束。
午後7時30分 逃走した野比一味が、スネ吉及びザンダクロスと接触。
午後7時48分 野比一味である男についていた発信機が、不慮の事故により破損。
午後7時51分 海上自衛隊が、野比一味である男の捜索を開始。
午後8時22分 東京都内のラブホテルより、野比目撃情報。神奈川より捕獲委員移動開始。
午後8時35分 野比一味である覆面男を拘束。
(第1回名字狩り推進委員会メインコンピュータより)
この話は続きます。
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