第五章「焦燥」

(作:じおす)

怪物は一体どこに消えたのか――。

あんな者が街に出れば、大変な事になる。

血を見る。

僕の脳裏に、白い骨を剥き出しにした人間が、こちらに向かってくる映像が流れた。

いやだ。やめろ。やめろって!

必死でその悪夢じみた妄想を打ち消そうと努める。

しかし――

そして、それは僕の責任でもある。

人間は、『責任』という荷物から逃れようとする。

この地球上で、責任を鬱陶しく思うのは人間だけだ。

しかし、考えてもみてくれ。

僕が悪いわけじゃない。僕のせいじゃない。

あいつらが悪いんだ。確かに、僕も仕方なく加担したけど――。

え?でも、さっきまで自分は僕を責めていた。

でも今は違う。だったら、さっきのは何だ?

僕は悪い――でも悪くない――

本物の僕はどっちなんだ。

教えてくれ。頼む。全財産を払う。教えてくれた奴の奴隷になってもいい。


「すみません」

 誰かが僕に声をかけた。誰だ?悪魔の使いか?それとも死神か?

重罪を犯した僕を地獄に連れて行くつもりなのか?

僕は、踵を返した。振り返った。

――違う。人間だ。見た所、だが。

おかしな格好だ。消防士のようなマスクを装着しているし。

いや、ひょっとするとそうなのかもしれない。

「聞こえますか?」

急いで、僕は返事をする。怪しまれないように。

「はい。聞こえますよ。何か?」

 しまった。今のはいくらなんでも失礼だったか。

「……?まぁいいです。昨夜、ここで騒ぎがありませんでしたか?」

 怪しい。いくら何でも、昨日何か騒ぎがあったのは誰でも知っている。

――一体、何の目的だ?

 僕は考えをめぐらせながら、平静を装った。いかにも、何も知らない素振りで。

「え?……えぇ。何かあったみたいですね……。ほ、ほら、怪しい弾痕もあるし!」

 僕は気付いた。

既に、聞き人が消えているのを。パッと消えていた。

意味が分からない。何だったんだ、今のは?

『ピロロロロ……ピロロロロ!』

携帯の着信音で、我に返った。

急いで、応答する。

「はい……え?」

カチャッ

携帯が、シルバーの光を放って、ゆっくりと地面に落ちた。

 

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