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 重厚な聖衣を纏っているとは思えない程の軽やかさでサガはこの覚醒寸前の冥闘士を翻弄した。丸腰で完全装備に立ち向かうのは当然分が悪い。翻弄の果てに、サガの蹴りを受けてラダマンティスは先のカノンのように廃材置き場へと突っ込み、土煙を上げた。
 すかさず援護に入ろうとする翼竜を、カノンが妨害する。
 サガは廃材置き場に沈んだラダマンティスに悠然と歩み寄った。
『…どうした?まとめて私達を始末する筈ではなかったか冥闘士?これしきで地面を舐めてもらっては困るぞ?もっと、もっと私を楽しませてくれないと』
 月の光の下のその恍惚とした笑みはぞっとする程妖艶でかつ、神秘的でもあった。
 『………』瓦礫の海でラダマンティスは自身の軽口を些か後悔した。だが、この時は己の能力を過信していたのでそれほど深刻ではなかった。
 サガは、ワイバーンを呼んでおきながらラダマンティスが何故冥衣を纏わないのかその理由に気付いていた。
 正規の聖闘士が現れた時点で冥衣を纏って戦うのが筋だ。だが、それが出来ないと言うことは、まだ冥衣を纏える身体ではないのだ。今のままならば、確実に冥衣に振り回されるだろう。冥衣である翼竜も、それを知って援護に回っている。
 目の前の冥闘士は人知を超えた力を有しているが、まだ未成熟なのだ。
 成る程な。その事実を知ったサガは、無意識に舌舐めずりをした。
『何時までもそこに隠れているつもりか?隠れていないで姿を現せ』
 サガの腕の一凪ぎが圧倒的な風圧を持って廃材や瓦礫を弾き飛ばした。やはり、その先にラダマンティスはいない。背後に殺気を覚えると当時にラダマンティスの爪が狙った。
 しかし、その禍々しい爪も、聖衣の前には歯が立たない。圧倒的防御力を誇る聖衣にラダマンティスのあらゆる攻撃も通用せず、最後には必ず弾き飛ばされ、お約束のように壁に叩き付けられ、衝撃で辺りを瓦礫の海へと変えた。
 『…〜…!』衝撃に苦悶しつつも、ラダマンティスはあることに気付いていた。確かに黄金聖闘士と言うだけあってサガは強い。だが、カノンと言い聖闘士得意の一撃必殺の技を放たないのは何故か。
 警邏中の警官6名を殺害した現場を離れずに随分経つ。にも拘らず誰も来ないのは何故なのか。
 そして、工事現場の入り口に設けられた不自然な位置に立つ杭でその理由を突き止めた。
『…そうか、そう言うことか…』
 圧倒されつつもラダマンティスが余裕を見せていることに、サガは内心訝った。何か企んでいる、そう思った瞬間再びラダマンティスは先の咆哮にも似た衝撃音を放った。
 『…!』衝撃を受けながら、サガは現場の四方に施した“人払い”が弾けたのを感じた。
 月が陰り、今まで静寂そのものだった空間に、遠くから都会の喧噪とざわめきが入り込んできた。
 結界が破られた。サガは内心歯咬みしたが、その動揺は殆ど顔に出さなかった。彼らの存在は一般人に見られては少々不都合だ。故に簡易で結界を施したが、さすがに目利きらしく見抜かれてしまったようだ。
 大技を出せないのは衝撃で簡易の結界が壊れてしまうことと、もう一つ理由があった。この冥闘士との衝突は、聖域の法では禁じられている。黄金聖闘士のような役職が、聖戦が開始されていない状況にて非公式で冥闘士と衝突し、無断で聖衣を持ち出すこと自体固く禁じられているのだ。
 禁忌を侵している事実がこの双子から大技を発動させる能力を奪っていた。下手に能力を放つと必ず小宇宙で聖域の知るところとなる。それが後々、彼らの立場を悪くすることもあるのだ。
 結界を破壊することによって、形勢は徐々にラダマンティスに傾いて来た。人が来ようが、この建物が倒壊しようが、誰が死のうがラダマンティスの知ったことではない。
 工事現場の区画に四方から不吉な風が吹き込んだ。遠くから都会の喧噪と空気のざわめく音、そして遠くからサイレンの音が響く。
 そうして、ラダマンティスの身から小宇宙が増長されてゆくのを感じた。身体の輪郭が僅かに紫色に光っている。
 風が地表をの埃を舞い上げ、風以外の力で雑多なものが宙に舞い始めた。
 『………』ラダマンティスの膨張する小宇宙を、サガは苦々しく思った。人に知られてはならならないと言う弱みを知られてしまった。翼竜がラダマンティスの小宇宙に同調して金属質な?をあげた。
 赤く輝くラダマンティスの眼に、双子は異様な予感を覚えた。まるで夜が明けるかのように、蛹が蝶になるようにラダマンティスの肉体は巨頭として完成しつつある。
 騒ぎを起こすのを嫌うのならば、騒ぎを起こして奴らの歩調を乱してしまえば良い。結界が効かなくなった空間で、ラダマンティスは再びあの金属音に似た衝撃波を放った。
 『………!』衝撃音を反射的に避けつつ、双子はこれから起こりうる不吉な事態を予測した。このまま下手をすれば冥闘士の仲間を呼ばれる。現在、どのぐらいの冥闘士が覚醒しているのか判らないが、配下や直属のものならば駆けつける可能性がある。
 『…くっ!』サガはすぐ側に刺さっていた杭を抜き、反射的にラダマンティスに投げつけた。その攻撃に何の意味があったのか。『ふん』ラダマンティスの軽やかな手の一凪ぎでそれは弾かれ、背後の見当違いの壁に刺さった。
 間髪入れずサガが突撃して仕掛けた。サガの攻撃パターンは見切られたらしく、ラダマンティスはそれを軽やかに躱し、逆にサガを翻弄した。
『どうした?お前の得意の技は出さないのか!?それとも出す訳には行くまいか!』
 躍起になってラダマンティスを追うサガを挑発するも、一見焦って仕掛けているように見えて、サガの眼は冷静そのものだった。
 『……?』ラダマンティスが訝る間もなく、サガの両手から異様な小宇宙を感じた。
『せっかくのお前との楽しい戯れも、ここで早々と終わりになってしまうな…』
 その小宇宙に逸早く気付いたのは翼竜の方だった。今サガの懐に踏み込んではまずい。
 駆けつけようとした隙を、カノンの拳圧が翻弄する『オレが相手だということを忘れてもらっては困るな』。
 再び月が雲間から姿を現し、光を受けてサガの瞳が翠色に輝いた。それは、月の光以外で異様な輝きを帯びている。
 翼竜はラダマンティスに、身体を棄ててでも逃げろと伝えた。今ならまだ離脱は可能だ。ラダマンティスとてこの男の異様な小宇宙には既に気付いている。だが、気付くよりも早くラダマンティスの身体を金縛りが襲った『…!』。
 『馬鹿な…、身体が…動かん』身体の動きを封じられ、細かく痙攣することしか出来ないラダマンティスに、サガが迫った。
『…お前を始末するのに、わざわざ大技を繰り出す必要も無い』
 ラダマンティスは双子座の幻朧拳にかけられ、中枢神経が麻痺した状態となっていた。突然ラダマンティスの背後の空間が湾曲し、沁み出すように異様な空間が口を開けて広がった。まるで蟻地獄のようにそれは周囲の空気を吸いながらラダマンティスを引き込む。
 『………!』何一つ身動き取れないことにラダマンティスは戦慄した。
 サガは異様な小宇宙を放つ両手を翳しながら、ラダマンティスの間近に囁きかけた。
『お前等は生きた人間の肉体に憑依して覚醒するものだ。今なら身体を棄てしまえば逃げようと思えば逃げられる。今の段階で肉体を損傷し死に至っても、また乗り移る身体を返ればいい。だが、そうやって逃げられる訳にはいかん』
 『勿論、逃がす気もない』翠色に輝くその瞳は妖艶さと絶対的恍惚を表していた。
『最早逃がさんぞ。私の翼竜』
 『………!』一切身動きの取れないラダマンティスは固唾を飲んだ。
 目的は生け捕り。その意図に気付いた翼竜は、やっとの思いでカノンを振りほどき鉄のいななきと凶悪な爪でサガに襲いかかった。
 『………』爪が掛かる直前までサガは目線を動かすだけで微動だにしない。その爪がサガを引き裂くかと思われた時、脇からの衝撃波が翼竜を貫き、壁に叩き付けた。
『よそ見をしてもらっては困るな。お前の相手はこのオレだということを忘れたか』
 翼竜が体勢を立て直す間もなく、とどめにカノンの手から投げられた金色に光る杭が翼竜に突き刺さった。それは落雷のように翼竜の身体を貫き、鉄の悲鳴が区画全体に響き渡る。
 まるで、昆虫採集の標本のように翼竜は放棄建造物の壁に射留められた。杭には人の眼には模様か記号としてしか見て取れない呪符が書かれていた。
 皮肉にも、その杭はサガが咄嗟に投げつけてラダマンティスが弾いたものだった。実際のところサガは弟に渡すつもりでこの呪を施した杭を投げたのだ。それを自らへの攻撃と誤認したラダマンティスは思惑通り、杭を後ろに弾きカノンが回収しやすいようにしてくれた。
 金色に光る杭は鱗粉のような光を放ちながらやがて微かに光るに留め、それと同時に翼竜の眼は光を失い完全沈黙した。冥衣を葬り去ったカノンは、
『女神の名にかけて完全に封印した。あれが自力で脱出することは最早不可能だ』
 そして、杭の魔力によって人目に触れることは無い。
 『ワイバーン!』冥衣を封殺されたことへの憎しみがラダマンティスの身体から反射的に金縛りを解いた。
これには流石のサガも驚きに眼を見開いた『まさか、自力で解くとは!』。
 『おのれ…!』ラダマンティスの眼は血よりも深い赤に、炎のように猛々しく光り輝き、驚く間もなくサガを弾き飛ばした。吊り上がった眼と逆立った髪が悪鬼の形相を醸している。
 至近距離で弾かれたサガはまともに壁に叩き付けられた。続けて二発の衝撃波がサガに叩き込まれた。聖衣に防御されているとはいえ、これは流石に応えた『がはあっ…!』。
『おのれ聖闘士どもが!貴様ら、まとめて葬ってくれる!』
 尚もラダマンティスの小宇宙は増長する。その暗紫色に輝く小宇宙は、この工事区画すら包み込んでしまいかねない勢いだ。地鳴りのようなものが響き、建造途中の建物に亀裂が走る。
 ここまで小宇宙が増長するのを見るのは初めてだった。怒りがラダマンティスを自ら次の段階へと成長させた。巨頭として完全に覚醒してしまう。ラダマンティスの身体から走る衝撃波のような小宇宙は先の冥衣を封じた杭をも揺るがした。
 『まずいな…!』サガは再び手を翳し、ラダマンティスの側の空間を湾曲させた。それは僅かな稲光を迸らせながら、ラダマンティスを引き込もうと口を開ける。
 『猪口才な!』それすら振りほどこうとするラダマンティスの衝撃波を、今度は他の空間の湾曲が吸収した。
『先に言っただろう、お前を逃がしはしないと』
 カノンもまた、両手を翳していた。ラダマンティスの周囲が急激に彩度を失い、深い闇が包み込む。『おのれぇ…!』ラダマンティスは力の限りもがいた。稲光が一層激しさを増し、双子もラダマンティスから続けざまに放たれる衝撃波をまた受け流すのに必死だった。
 『合わせろ、カノン!』サガを号令するまでもなく双子の眼は同じ翠色に輝き小宇宙が同調する。目前の息の詰まるような闇に圧迫されながら、ラダマンティスは力の限り抵抗し、もがき暴れた。衝撃波が迸り、圧力を受けた双子の足が徐々に押される。
 異次元に閉じ込めようとする双子と、そうはさせまいとする巨頭の抵抗で暫く力は拮抗した。だが、次第に双子の小宇宙がラダマンティスを圧倒し始めた。ラダマンティスは獣の声を上げ、最大限にまで小宇宙を高め、最後の抵抗をした。異次元の裂け目を力の限り斬りつけ、その衝撃波が襲う度双子は弾き飛ばされないよう踏みとどまるのに必死だった。聖闘士の脚力で耐えることが出来ても、足場はその限りではない。足場に亀裂が入り、徐々に砕けようとしている。
 後一息で抜けられる、そう思ったラダマンティスの足場を急激に虚脱感が襲った。肉体は疎か、魂までも奪いそうなこの暗黒。ラダマンティスの放つ全ての衝撃波は虚しく異空間に吸収された。
 勝負はあった、サガは無意識に舌舐めずりをした。
『勝負はあったな、ワイバーン。お前はもうどこにも逃げられないぞ』
 最後の仕上げと言わんばかりにサガの小宇宙がラダマンティスを圧倒し、弾き飛ばした。そして、より強力な双子の小宇宙がこの一帯を支配し落雷音のような衝撃の後、暫くして一帯に耳も劈き兼ねない勢いの静寂が詰め寄せた。
 全ての小宇宙が消えた今、カノンは不意に膝をついた。
『…全く、最後の最後までやってくれる。あの翼竜』
 『…ああ』そう言うサガも立っているのがやっとの状態で額の汗を拭う動作をとった。
『…まさか、よりによって巨頭だったとはな。お前も大したものを拾ってくれたな』
 意趣返しをするようにカノンはこの兄に返した。
『まさか、その巨頭を生け捕りにしようするとはな…』
 その巨頭も今や、どこにも逃れられない異空間に押し込められている。
吹き込む風とともにサガの髪がたなびいた。風の動きに同調して月光の強弱が変わる。
『…我ら二人だから成し遂げられたのだ。並の黄金聖闘士ならば逃げられるか屠られるかしている』
 そう言うサガの口調には独特の己の力への過信も含まれていた。そして、
『聖域に戻るぞカノン。ここはいずれ人が来る。これ以上の長居は禁物だ。そして、聖域に戻った後また一仕事ある』
 サガは踵を返すと夜明けの気配が近づきつつあるこの場所を後にした。
 『そうだな…』カノンもまた、振り返ること無く兄の後に続いた。串刺しにされた翼竜に関心を向けること無く。

 ラダマンティスは傲慢のうちに力を欲し、その欲望が仇となり捕らえられて全てを失った。
 それ以来が聖域と言う名の牢獄に閉じ込められたラダマンティスの地獄の始まりだった。

以上がとらわれるきっかけになった経緯です。
テンポは遅くてたるいが、世界観の参考に。
勿論気になるのは捕われたその後の展開だが。続きは執筆中です。はい。

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