出会い



この世に生を受けてから二十数年・・・
まさか自分の性別が変わってしまうなんて思ってもみなかった。

「―――えーと・・・」

小さな備え付けの鏡台に手をつきながら、ジャン・ハボックは己の姿を凝視していた。

「俺・・・だよなぁ?」

いつものように芒洋と、だが明らかに質の変わった声でそうつぶやいたハボックは鏡に写る姿から目が離せずにいた。

時刻はすでに出勤時間が間近に迫っていることを伝えているがさすがの彼も陥ってしまったこの状況にどう対処して良いのかわからない。
人間、予想外の出来事に遭遇すると途端に思考回路が弱くなると聞くがまさしく今がそれなのだろう。

「・・・やーっぱ・・・マズイ・・・よなぁ?」

小首を傾げたそのしぐさに合わせて長い癖の無い金の髪が揺れる。少し困ったように眉を寄せたその様はいつもの自分からは掛け離れていて、到底これが「ジャン・ハボック」だなどど信じてもらえるわけがない。このまま職場に向かった所で不審者扱いされて追い出されてしまうだろう。

「・・・にしても何でいきなりこんなことになっちまったんだろ」

すっかり細く柔らかくなってしまった顎に手をやって記憶を探る。確か昨日は旧市街で起こったテロの後片付けをしに行ったのだ。朝から夕方までみっちりと肉体労働したあげく突然の雷雨に見舞われびしょ濡れのまま帰宅。シャワーだけあびて倒れるようにベッドに向かった事はなんとか覚えているのだが・・・どう考えてもこのような姿になるような要素はない。

「・・・まさかあの人が錬金術で・・・て事はないか」

唯一こんな人間離れした技をやってのける人物を思い描くがすぐにそれは無いと頭を振る。昨日は互いに外に出ていて顔を合わせていなかった。錬金術など習ったこともないから良くは知らないが少なくとも遠隔操作で人体をどうこうできるものではないだろう。

とにかくここで一人悶々と考えて込んでも始まらない事に思い至ったハボックは隣に住む10年来の悪友――ハイマンス・ブレダに助けを求めに行ったのである。

「おーい。ブレダー」

朝、いつものように朝ごはんの準備をしていたブレダはガンガンと扉を叩く音に眉を寄せた。

「・・・ったく。あの野郎。チャイム鳴らせっていってんのに」

出来立ての目玉焼きを皿に移したブレダはぶつぶつと文句を言いながらエプロンを取った。この安さが売りのぼろアパートは築30年という古さで建て付けが悪いのだ。以前力任せに叩かれて扉が開かなくなったこともあったので毎回口をすっぱくして文句を言っているのだが・・・どうやらあの茫洋とした隣人は聞く気がないらしい。

「言っとくが今頃来たって飯は作ってやんねえぞ。たまには自分で用意しろ」

いつもぎりぎりまで惰眠を貪ったあげく「飯ちょうだい」とばかりに乱入してくる厚かましい悪友にブレダは扉の向こうで舌を出した。実はちゃんと用意はしているのだがこうやって叱っておかないとすぐ調子に乗ってしまうのだ。

「どうせ二日酔いでべろべろなんだろ。目覚ましを止めるのがやけに遅かったからそんな事だと思ったぜ」
「・・・いやー・・・ちょーっと違うんだけどさ」

いつものように軽口を叩きながらブレダは鍵を開けた。ガコンと軋んだ音を立てながら開かれた扉の前にはぼんやりとした大男が立っているはずだった。悔しいが視線をかなり上まで持っていって睨みを入れたブレダだったが・・・

「あれ?」

今日にかぎって見えるのは青い晴れ渡った空だけだった。

「・・・ハボック・・・?」
「おい、どっち見てるんだよ。こっちだこっち」

ぼんやりとハボックの名を呼んでみると遥か下から不機嫌な声が返された。

「マジかよ? おまえよりも小さくなっちまったわけ?」
「へ?」

自分の背丈の少し下・・・丁度正面を向いたブレダは一瞬にして固まってしまった。

「どおりで服がぶかぶかだと思ったぜ。これじゃ軍服着れねえじゃねえか」

そういって金の髪をがしがしとかいた人物は・・・見たことも無い極上の美人、だった。

日に透けてきらきらと輝くプラチナブロンドに青と緑が入り交じった宝石のような双眸、気の強さを現すように膨らませた頬は血色の良いピンク色だ。口紅も塗っていないのに艶やかな唇が印象的で思わずブレダは見惚れてしまった。

「状況が状況だし。私服で行っても怒られ無いよな。・・・おい、ブレダ?」

ぽかんと口を開けたまま惚けたブレダに訝し気な視線を向けた美人は目の前で綺麗な手を振って見せた。

「おーい、ブレダぁ?」
「っえ、あ、あの・・・どちらさんで?」

近づいた時にふわりと匂ったタバコの香りに既視感を感じつつもブレダは直立不動で尋ねた。

「へ、部屋を間違えてるわけじゃねえよな?」

名を呼ばれておきながらそれは無いだろうと思いつつ、ついそんなことを口走る。隣に住むハボックなどは長続きしないまでもそれ相応の付き合いはあるらしいが、悲しいかな自分は生まれてこの方こんな美人とお付き合いした事など一度だってなかった。

「ハボックの部屋なら隣で・・・て、あれ? さっきまでいたはずじゃ・・・」

そういえばつい先程まで会話をしていたはずのハボックの姿が無い。いつの間にか部屋に戻ったのかと隣の扉を見やったブレダはすぐに肩を掴まれて視線を戻されてしまった。

「何だよ、俺の事わからねえのか?」

びっくりして顔を上げた先にあるのはひどく傷ついたような表情で睨んでくる美人の顔だ。

「薄情者。おまえだったら俺がどんな姿になっても分かってくれると思ったのに」

微かに潤んだ双眸にブレダの心臓が高鳴った。

「親友だろ? 少しぐらい外見が変わったって見破れよ・・・」
「え・・・」

感情の起伏によって色を変える不可思議な瞳に再び強烈な既視感を覚える。確かに自分はこの瞳を知っている。普段はめったに人を褒めない自分が初対面の奴に言ったのだ。綺麗だな、と・・・

「おまえ・・・ハボック!?」

そこまできて漸く合点がいったブレダは頓狂な声でその名を呼んだ。

「な・・・おまえ何で・・・?」
「知らねえ。朝起きたらこうなってた」

やっと満足のいく回答を得られた美女・・・ハボックは「さっすが!」といってその体に抱き着いた。細いくせに弾力的な胸を押し付けられたブレダは悲鳴を上げてぶっ倒れた。

マイナーすぎて同士様もみつかりません。







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