宿命



―――目の前に佇むのは、まるで精巧な人形のようだった。

色白の頬に艶やかな黒の髪。形よく配されたそれぞれのパーツも目を奪われずにはいられない程の美しさを讃えていた。

…だが、惜しいかな。濡れたような輝きを持つその瞳は左のみで、反対の目は年齢にはそぐわない黒の眼帯に覆い隠されてしまっている。

『――お前が、今度側につく博役か』

らしくなく見とれていた自分を現実に返らせたのは、まだ声変わりも済んでいない高い声。耳に心地良いそれは、それでも凜とした響きで己の――片倉小十郎の心をわし掴んだ。

『――良いのか? 俺などの下につけばお前まで『化け物』と称されるぞ』

噂は聞いていた。流行り病で生死をさ迷い右目を失った哀れな子供。一命はとりとめたものの、体のいたる所には斑が残され見るも無残な様相だという。

…だが、と小十郎は首を傾げた。実際に見たこの子供には噂されているような醜い痣は見受けられなかった。色白美人の地と名高いこの奥州においてもまだ白さを誇る秀麗な面にはホクロすら見つけることは難しい。…まあ 、その質の良い着付け袴に隠された場所は想像するしかないわけだがーーそれにしても、噂だけでは伺い知る事のできない何かがあると、小十郎は直感した。

『実の母にも忌み嫌われた身だ。先を考えるのなら、弟についた方が利口だぞ』
『…そのようなこと。おっしゃってはなりません』

実際城の中では次期跡取りをこの子供の弟へ…と考える輩も多いと聞く。その推進派の筆頭が己の実母だという事実をこの幼い子はどう考えているのだろうか。年齢に見合わない冷ややかな表情がその本心を押し隠しているようで、思わず小十郎は頭を垂れた。

『損得で己を考えるほど器用な身ではございませぬ。…ただ、自身の命を賭けられる、生涯の主にお会いできた事、嬉しく思いまする 』
『…俺でいいのか?』

深々と礼をすれば不思議そうに呟かれた。精一杯虚勢を張っていた仮面がはがれ、覗き見えたのは年相応の子供の顔。眇られた瞳が見開かれれば、先ほどの人物と同じかと疑うくらい印象が変わった。

『…本当に? お前は俺を選ぶのか?』

おずおずと延ばされた手が小十郎の袖を掴んだ。小さな、細い手だ。近い将来、伊達という大きな名を背負うだろうその肩も、まだまだなんと頼りないことか。

『今なら間に合うぞ。後でやめたなどと言っても聞かんからな』
『言いません』

不安を必死に隠しながら憎まれ口を叩く子供に、小十郎は微笑を向けた。

『あなた様が望むままに。小十郎はずっと側におります』

本心からの言葉だった。この城にくるまでは…いや、この小さな主を見るまではどこかで迷っている自分がいた。戦で名を上げるよりも、田畑を耕し豊かな実りを作り上げることの方が性にあっているのだと自覚していた。

…だが、この目の前の存在に、心を奪われた。

『あなたを、お守りします』

そう、どんな存在からも護って見せると…小十郎は誓った。

このとき、梵天丸と呼ばれていた幼い子供はまだ5歳。


後に奥州の礎を築く伊達政宗との、運命の出会いだった。




今頃BASARAです。小政大好き!
実は宮城にはまり、月イチペースで通っています。
食べ物良し、温泉良し、空気も良しで言うことなしです!


小政…続くかも?

政宗様オッドアイ説にドキドキです。







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