Page:  1/5
 目の前には顔を寄せ合い微笑みあう男女がいる。
-ぷつん
 それを見た時、そんな音が聞こえた気がした。
「お父さまは帰っていらっしゃるかしら?」
 目を逸らすことなく、後ろに控える侍女に問いただす。
「はい。今日はお早いお帰りであると伺っております」
「そう。では、すぐに帰りましょう。お兄さまを呼んできて」
「かしこまりました。お嬢さまは?」
「中に戻って、入り口近くで休んでいるようにするわ」
「かしこまりました」
 そう言ってから、初めて目を逸らした。
 そして、侍女が静かに下がるのを見届けてから、音がしないように扉を開けて、熱気溢れる会場へと足を入れた。