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どこかにある国

 珍しい出来事も、実際に起こってしまえばそれは起こるべくして起こった必然でしかない。
 たまたま今日はラトビアやエストニアがいなくて、あちらもいつも連れ立っているスウェーデンさんが一緒にいないだけ。偶然というほどのことでもない。
 第一こんなトイレにまで友達を連れてきたりしないだろう。女子じゃないんだし。
 それはまぁいいのだが、しかしなぜここのトイレは男子用小便器が2つしかないのだろうか。それなりに大きい建物なのにおかしいだろう。大して親交のない相手と隣り合って用を足す男の気持ちを考えなかったのか、設計者。
 脳内で悪態をつきながら、仕方なくフィンランドさんの隣の小便器に落ち着く。挨拶くらいはしないとまずいかな、そう思って隣の彼へと声を掛けてみた。

「こんにちは、フィンランドさん」
「モイモイ。えっと、あなたは確かバルトの……」
「リトアニアです」

 これくらいのこと、別にショックなんかじゃない。自分の顔を覚えていてもらえないのなんていつものことだ。俺たちは三人そろってバルト。他の二人が居ないのにバルトのうちの一国だと気づいてもらえただけましだと思う。そう考えなければやってられない。

「っと、すいません。僕物覚えが悪くって」
「あ……えっと、気にしないください。いつものことなんで」
「いつものこと、ですか。それは大変ですね」

 何となくぎこちなくなってしまう会話。相手も居心地が悪いと思っているのだろう。薄く笑みの形に歪められた口元がこわばっていた。
 何とかしなければと思い、あわてて口を開く。

「そ、そういえばフィンランドさんのところには自国を紹介する歌がありますよね」

 最初に思いついた話題をよく考えもせず声に出してみた。この前ロシアさんが言っていたのだ。「フィンランド君の国についての歌、とってもおもしろいんだよー。この前日本君に教えてもらったんだ」と。その時にロシアさんが歌ってた歌はアップテンポの、牧歌的でいかにも楽しそうな曲だった。

「フィンランド、フィンランド、フィンランド〜。どこかにある国〜」

 思い出しながら口ずさんでみる。この歌で、きっとフィンランドさんも打ち解けてくれるに違いない。一緒に歌ったりして和やかな空気のできあがりだ。
 しかし歌い続けても、一向にフィンランドさんは乗ってきてくれなかった。

「……リトアニアさん」

 それどころか、何だか笑顔がとても怖い。先ほどまでと同じような笑みなのに、感じられる温度がまるで違っていた。
 なんか後ろに黒い空気が見えるのは、俺の気のせいだろうか。

「それ、僕の国で作られた歌じゃないんですよ」
「え、でも『山はそびえ立ち、梢は高く』とか、自国のすばらしいところを紹介しているのでは……」
「僕の国は平地ばっかりなんです」

 いつのまにか俺の肩にはフィンランドさんの手が置かれている。
 ぎりぎり、と万力のように込められる力。痛い痛いちょマジで痛いたい痛あああああ!

「そんないい加減な歌なんか忘れてください。僕に関することなら直接、もっとよく教えてあげますから」

 怖い笑顔を浮かべたまま、彼は俺をトイレの外へと押し出した。
 フィンランドさんに無理矢理連れて行かれ、俺はその後数日地獄を味わうこととなる。
 唯一俺ができたことと言えば、用を足し終わった後始末にズボンのチャックを閉めることだけであった。

 ……なんて言い方をすると俺がとても大変な目に遭ったかのようだが、実際は観光案内をしてもらっただけで、わりと純粋に楽しい時間を過ごした。
 ただあのシュールスト○ミングだけは、今後何年経とうと俺には受け入れられそうにない。

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友人とした「くじ引きで適当に選んだ2人にまつわる小説を書こう」企画の作品。
ろっさまがわざとリトに誤解させたのかどうかは、あなたのお好みで。
しかし地理的にフィンとリトは近いので、リトはフィンが平地なことくらい知ってそうです。
資料がないところで書いた作品だから、いろいろ突っ込みどころがありますね。




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