『科学部部長の魔界大冒険(嘘予告)』

西暦20XX年、虹浦町において連続行方不明事件が発生していた


 毎日がお祭り騒ぎのようだった教室がいまは通夜のように静まりかえっている。  保科も自分の机に座り、頭を抱えて押し黙っていた。 「元気出して、保科さん」  椎名が心配そうにこちらの顔を覗き込んできた。どちらかといえば彼女の方こそ元気が ないように見えたが、口に出したのは感謝の気持ち。 「ありがと」  椎名を安心させるつもりで笑ってみたがうまくいかなかったようだ。ますますその顔を 曇らせてしまった。 「もう1週間だっけ、黒羽さんがいなくなってから」 「そう、なんだよ。本当にどこにいったんだろうね……」  振り返った視線の先に幼なじみはいない。それどころか教室の机を埋めていた生徒たち の姿はまばらだった。

行方不明者はそのことごとくが私立虹浦中学校の在校生たち 残された者たちは消息を絶った学友たちの身を案じ、ひどく緩慢な生活を送り続けていた だが、太陽が月に隠れるその日、日常は終りを告げた


「何これ? 地震?」  教室が、いや校舎全体が揺れていた。立つどころか座ったままの姿勢を保つことすら難 しい。 「次元震を感知……! これは!?」 「コスモ、ぼんやりしてるんじゃねー! 危ねーだろ!」  急いでコスモを机の下に引きずり込むと木束は揺れが収まるのを待った。  いつ終わるとも知れない激しい振動が教室にいる全員を不安にさせる……ことはなく、 「ハッハッハ! みんな安心したまえ! このブレイヴレッドがいるかぎゅあ!」  西京が舌を噛んでひとり悶絶した。

長く続いた鳴動が止まったとき、窓の外に暗灰色の空と荒涼とした大地が広がっていた


 校舎の屋上でふたりの生徒が誰よりも早く眼下にある光景を目の当たりにしている。 「ここは魔界か?」  鳰鳥――レテティシアが呟くと、 「いや、我の知る魔界とはいささか趣きが違うようじゃ」  二季草――アドニアが脳裏にあるべき魔界の姿を思い浮かべる。人ならざる者たちが住 まう世界であっても、空には青、大地には緑が映えていた。それに比べて、ここはまるで ゲームにでも出てきそうな世界に似ていた。 「魔猫王は何と?」 「ここがどこだろうと自分が出るほどのことではない、と言っておる」 「つまり私たちだけ解決できる、解決しろということか」 「まったく誰かは知らんが、手のかかることをしてくれる」  アドニアが面倒臭そうに顔を上げると、遠く先にある山脈から無数の黒い点がこちらへ 向かって来るのが見えた。 「さっそく尖兵を送り込んでくるとは、存外に手が早いようじゃな」 「あれは……」 「何じゃ? 知っておるのか」 「ああ、以前に見た相手だ。どうやら今回は数が多いようだが」  飛来してくるは万を超えるアズキ色をした悪魔たち。 「2度までも天界人の貴様と手を組むのは気に入らぬが、我に仕掛けてくる身の程知らず に灸をすえてやれねばなるまい」 「素直に学校のみんなを守りたいと言えばいいだろう。恥ずかしがるなアドニア」 「う、うるさい! 余計なお世話じゃアホ天界人め!」  ふたりは魔力を展開させて宙を飛び、大群の敵に突入する。

だが、いかに魔女と天界の戦士が迫り来る侵略者たちを圧倒しようとも、 撃ち漏らした者たちが彼女たちの学び舎にたどり着く そして、異形の者たちが事態を飲み込めない生徒たちに容赦なく襲いかかったそのとき、 覚醒は唐突に訪れた


「くらえ! 必殺ブレイヴパンチ!!」  赤く輝く拳が悪魔を光に変えて消滅させた。 「う、うそ」 「見たまえ保科クン! 私はついに真の力に目覚めたようだ!」  そこに力なき少女の姿はない。いるのは確かな信念と揺るがぬ心で戦うひとりの英雄。 「いったい何が起きてるんだよ!」  疑問の声を上げる保科もまた胸の内側から沸き起こる強い衝動を抑えきれないでいた。 まるで自分が書き換えられていくその感覚。高速で展開する思考。知識の源泉が溢れん ばかりに脳を侵食する。 「保科さん!?」  ミサイルの首元にあるソケットにハンディパソコンを繋げると、尋常ではない速さで 彼女のOSを再構築させていく。 「これは……、私の限界性能が飛躍的に上がってるよ!? 保科さん!」 「ミサイル! 全兵装オープン! 迎撃開始!」 「はい!」

辛くも少女たちは救われた 他ならぬ彼女たち自身の手によって そして、懐かしき友との再会が戦いの第二幕を挙げる


 大地を埋め尽くすほどの悪魔たちが一斉にかしずき、その大海を真っ二つに割るかの ごとくひとりの少女が現れ、校舎を見上げた。 「黒羽……?」 「久しぶり……学子。私の力、見てくれた?」 「何を言ってるのかわかんないよ!」  保科の叫びを無視して黒羽は手にした宝石に力を込めると、彼女を囲うように4人の 少女が出現した。 「華村さんに日向さん!? 嵐子ちゃんまで! それに、あれは……利ちゃん!!」  渡瀬の呼び声に少女たちは応えることなく、冷然と教室を見返していた。 「みんながいなくなったのは黒羽のせいなのかよ!」 「彼女たちは欲しいものを手に入れるために……力を得ることを自ら選んだだけよ」

保科たちの動揺をよそにかつての級友が恐るべき敵となって迫りかかる


 風切の蹴りが大地を抉り取り、巨大な穴を穿つ。直撃を免れたものの西京は少なから ず傷を負った。額から血を流しながら、西京は必死に呼びかけた。 「ダメだ風切クン、その殺意に囚われてはいけない!」 「滅……」  必死の呼びかけも以前の面影を失った風切には届かなかった。純白の鉢巻と空手胴着 が漆黒に染められ、快活だった笑顔が憤怒の表情で固まっていた。 「くっ、やるしかないのか! 集え!! 勇気の力!! 変身!!」  真紅のスーツに身を包み、西京は人の形をした破壊神と対峙する。元々の身体能力を 考えれば力量の差は歴然としているのにもかかわらず、焦りすらおくびにも出さない。 ただひたすら親友の正気を取り戻すことだけを考えていた。 「さあ来い風切クン! 君の怒り、苦しみ、すべて私が受け止めてみせよう!」 「殺」  赤と黒の闘気が混じり合い、まばゆい閃光となって爆発した。  校舎と外のあちこちから聞こえる破壊音、爆裂音に保科の心が冷えた。  校舎にいる生徒全員が何らかの力に目覚めたわけではない。そういった者たちを守る ために保科のクラスメートたちが奮戦しているようだがいつまで持つか。  今の保科にできるのはことの大元であろう幼なじみの目を覚まさせて、いっこくも早 く争いを止めることだった。 「黒羽! お願いだからいつもの黒羽に戻ってよ!」 「何を言ってるの学子。私は何も変わってない。私はこんなにも力があるのに、世界を ひとつ作り上げるくらい魔力があるのに……それを信じなかったのは学子なのよ」 「これが、こんなのが魔法だっていうのかよ!!」  たとえ黒羽がうさん臭い呪いや占いに手を染めても、ここまで現実離れした現象を引 き起こすとは夢にも思わなかった。それよりも、他人を傷つけるようなことは何があっ てもしなかったはずなのに。 「もうやめろよ! こんなことして何になるっていうんだ!?」 「ふふふ……。わからない? 学子がわからないからこんなことになってしまうのに」 「そんな!」 「今回は顔見せに来ただけなの。でもまた来るわ。学子にもっともっと苦しんで、悩ん でもらって私の気持ちを知って欲しいから」  それじゃあね、と言い残して、黒羽が目の前から消えた。それと同じくして襲撃者た ちすべてがまるで陽炎のようにその姿を消した。  あとにはただ、傷つき倒れた生徒たちと壊れ果てた校舎が残るのみ。  保科は教室を見回すと、無傷の者が誰ひとりいないことに心を曇らせた。 「あたしは行くよ」  だからこそ心は決まった。  「待ってるだけじゃ何もわからないから、こっちから黒羽に会ってこんな馬鹿げたこと をやめさせてやる」  何より、すべての元凶が自分にあるならこれ以上の迷惑をかけるわけにはいかない。  だが、ひとり教室を出て行こうとする保科をクラスメートたちは許さなかった。 「バカ。ひとりで思いつめるんじゃねー。あたしらは仲間なんだから頼ればいいんだよ」 「その通りだ保科君。これは君ひとりでどうにかなる問題ではない」 「うん。ボクも一緒に行くよ。利ちゃんの気持ちをまだ聞いてないから」 「もー、私のこと置いていかないでよ。保科さんがいなかったら誰が私のメンテナンス をしてくれるの?」  木束が、レテティシアが、渡瀬が、ミサイルが、思い思いのことを口にすると、それ に応えるようにクラス全員が立ち上がった。  彼女たちの目はまだ死んではいない。


かくて少女たちは二手に分かれた 一方は、真相を求めて魔界の中心に向かう者たち もう一方は、悪魔の再襲撃から生徒と校舎を守る者たちに しかし、彼女たちは知らない その身に待ち受ける悲しき結末を


「科学部部長の魔界大冒険   lost children in the abyss.」

「ミサイルさんを止めてください! 彼女は魔界の中心部で自爆するつもりなんですよ!」 「何で、何でそんなことするんだよ!」 「保科さん。私、ようやく思い出したの。自分がこういう時のために生まれてきたことを。 私は兵器。すべてを破壊するためだけに造りだされた機械人形……」

Coming Soon...



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