『Break Bravehart!!』

「ハッハッハ! それじゃあお先に風切クン!」 「ずるいっスよ西京! ちょっと待つっス!」  賑やかな声が脱衣所の中で弾んだ。ひとり浴室の向こう側へ行ってしまった西京比呂と、 彼女に遅れて服を脱いでいる風切嵐子が声の主だった。  週末の休みを利用して西京を自宅に誘った風切は、午前中ふたりで雪合戦をして遊んだ。 白熱した戦いは昼過ぎまで続き、お互いの腹の虫が鳴ったところで休戦した。そして、い まは昼食の前に汗と雪まみれの体を洗い流すべく浴室にいるのである。 「ぬ、脱ぎづらいっス」  たっぷりと水気を吸ったトレーナーを苦労して脱ぎ捨てると、風切は肌に張り付いた下 着を無理やり剥いだ。そのとき、布地が引き裂かれるような音が聞こえたが風切は気づか なかった。  風切の触れるものすべてが破壊されることは珍しくない。そもそも本人が異常なまでに 発揮される腕力の存在を意識していないのだから手加減しようもないのである。たいてい は後で破壊の惨状を見て首を傾げるばかりだった。 「ようやく入れるっスよ」  服を脱ぎ終えると風切が勢いよく浴室の戸を開けたが、さすがに風切家の中は通常より も強度を高めてあるのか実害はないようだ。 「西京、お待たせっスよー」  風切が浴室に飛び込んだ瞬間、 「ブレイヴレーザーガン!!」 「ぷはぁっ! 何するっスか!?」  どうやら西京が待ち伏せしていたらしく、いきなり顔面に水飛沫をぶつけられた。浴室 に置いてある水鉄砲を使ったようで、中身は幸いなことに温水だった。 「それにしてたって不意打ちとは卑怯っス!」 「なにごとも先手必勝だよ風切クン……いや、マスク・ド・洗面器!」  その名は、かつて保科学子の家で勉強会を開いたとき、西京とヒーローごっこで遊んで いる最中に風切が口にした架空の怪人のものだった。  西京はその時のごっこ遊びを再現しようとしているのだろう。 「久しぶりっスねブレイヴレッド! 今日こそ決着をつけてやるっスよ!」  風切はすぐに調子を合わせ、洗面器を頭に被った。そして、大げさな身振りで西京に襲 いかかろうとすると、 「お前の弱点はすでに知っている! くらえ! ブレイヴダブルレーザーガン!」  もうひとつ隠し持っていた水鉄砲とともに股間を集中的に攻撃された。  以前は、そこで腰が砕けてしまうような感覚に襲われて降参したものだ。だが、風切は 不敵な笑みを浮かべると股間を隠すことなく、むしろ積極的にさらけ出した。 「甘いっスよ。怪人に同じ技は効かないっス!」 「なんだって!?」  驚く西京を尻目に風切はシャワーを手にすると最大限に蛇口をひねった。 「洗面器奥義! 雪下ろし大水流っス!!」  猛烈な勢いで湯を出すシャワーをお返しとばかりに西京の股間へ向ける。水鉄砲など比 べようもない水圧が西京に襲いかかった。 「きゃっ、あっ……ん!」  風切がいままで聞いたことのない声を西京が上げた。それは女の子としての素の声だろ うか。なおもシャワーの湯を西京に浴びせると、色気づいた声音が浴室に響き渡った。 「あ……ぁっ、やめ、んっ、かぜ……きりク、んぁっ!」 「あたしは風切じゃないっスよー? マスク・ド・洗面器っス。だから、やめてあげない っス」 「そん……ぁっ」  西京が悶えるたびに風切の悪戯心が加速していく。すでに立つこともできず床に座り込 んだ西京に向けて容赦なくシャワーを浴びせ続けた。  そのうち、西京が両腕で守るように体を縮こませるのを見て、風切は彼女の脚の隙間か ら間接的に股間を責め立てる。細やかな温水の飛沫が恥部を刺激するたび、西京は体の中 から沸き起こる感覚に翻弄されていた。  もはやごっこ遊びどころではない。 「やめ……たまえ、あんっ……んんっ、はぁ……はぁ」  西京は風切を制止させようと弱弱しくも声を出すが、いっこうに攻撃の手が緩められる ことがなかった。  そして、ついに西京は抵抗することすらやめて押し黙ってしまった。その様子に見て、 いまさらのように不安を覚えた風切は、いったんシャワーの狙いを外して西京に近づいた。 「や、やりすぎたっスか?」 「スキあり!」  西京は手を伸ばして風切からシャワーを奪うと、唐突にナレーター口調で話し始めた。 「ついに怒涛の大反撃に繋がる勝利の鍵をもぎ取った勇気の戦士……。負けるなブレイヴ レッド! 戦えブレイヴレッド! 悪の怪人を倒すその日まで! 来週もお楽しみに!!」 「えー!? なんスかそれー!」  西京の起死回生の一手に風切は不満の声を上げた。 「残念だったね風切クン。勝負は一週間後に持ち越しだ」 「しかたないっスねー。でも、今度は必ず白黒つけるっスよ?」 「もちろんだとも」  他人が聞けば頭を抱えたくなるような脈絡のない話でも、ふたりの間では通じ合ってい るようだった。 「それにしても弱点を克服するとはなかなかやるね風切クン」 「これも修行の内っスよ。武道家たるものいつまでも弱い自分のままではいられないっス」  そう言って風切は股間に手をあてがうと、縦すじに指を這わせた。 「ここを触ると変な気分になるっスけど、何度か触ってるうちに慣れてきたんスよ」  裂け目に沿うように指を上下に動かし、かすかな隙間に滑り込ませると内側を押し広げ るようにして、風切は性器を西京にさらけ出した。 「か、風切クン……」  西京は息をのんだ。  自分のものですらまともに見ることがないというのに、友人の最も大切なところを目の 当たりにして言葉もなかった。健康的な小麦色の肌とは違う、薄紅色の艶かしい肉質に目 が眩み、胸の動悸が激しくなるのがわかった。  その間にも風切は秘肉を弄り、愛液を滴らせ、その顔を上気させている。  勉強会で淫らな気持ちを覚えてから自然とするようになった行為。はじめはもどかしさ しか得られなかったが、 「んっ……いまはこれくらいしないと、あっ……気持ちよくないっス。んんぁっ!」 「か、風切クン! もういいから! 何だかつらそうじゃないか!」  いきなり始まった風切の奇行に西京は動揺するのと同時に、いつもとは違う友達の艶め いた声に動悸が激しくなった。  風切はこの行為の正体を知らなくて誰かに聞いてみたかっただけが、どうやら西京も知 らないらしい。とりあえず慌てふためく友達の言うことを聞いて、股間をまさぐるのをや めた。 「ぁ……いちど始めるとなかなかやめられないんスよコレ」 「あまりびっくりさせないでほしいな! それに……あ、ああいうことをあまり人に見せ てはいけないような気がするぞ!」  床に座り込んだまま西京は顔をふせた。風切の痴態が我が身のことのように恥ずかしく なったわけだが、落とした視線の先に自分の性器が飛び込んできて心臓が大きくはね上が った。  いったいどうしたことだろう。いままで何も感じていなかったのに、恥丘の向こう側に ある割れ目が気になってしかたがない。 「西京?」 「な、なんでもないぞっ!」  おそらく赤面しているはずの顔を見られたくなくて、縮こまるように西京は身を固めた。 そんな彼女の姿を見て、風切があることに気づいた。 「あれ? その痣どうしたっスか?」  西京の体がいくつか赤く腫れ上がっていた。  それは、雪合戦で風切の投げた雪玉がかすった際につけられたものだった。風切自身は 軽く投げたつもりでも尋常ではない速度で向かってくるのだから、まともに当たれば石を つめた雪玉なみの威力があったに違いない。幸いにも風切のコントロールが下手だったお かげで痣程度ですんだのだが。  ちなみに西京は球威が低い上に命中率も悪かったが、狙いの外れた玉が屋根や庭木に積 もった雪の固まりを風切の頭上に落として、彼女の服をずぶ濡れにするほどで、雪合戦は 痛み分けといったところだった。 「西京、だいじょうぶっスか……」 「気にするな風切クン! こんなもの舐めればすぐ直るさ!」  心配する友人を安心させるように声を上げた。ひときわ大きな声を出したのは、おかし な雰囲気を振り払うためだろうか。だが、そんな西京の思いを気づかず、風切はおもむろ に痣になった肌を舐め上げた。 「なななな何をするんだ風切クン!」 「舐めれば直るって言ったのは西京じゃないっスか。ん……」  風切はしゃがみこんで西京の肩口にできた腫れ物に吸い付いつき、優しく舌を這わせた。 「ひゃっ……!」  生暖かくざらついた舌の感触に西京が思わず背筋を伸ばすのを見て、そのまま二の腕、 手首へと唇を移動させる。 「んむ……ん……どうっスか? 少しは痛いのがどこかへ飛んでいったりしないっスか?」 「そんなこと言われても……!」  痣が舐められたくらいで直るわけがない。だから、これはいつものじゃれ合いだと思い たかった。だが、西京は風切にひと舐めされるたび、未体験の感覚に身を震わせた。 「ふ……ぁ、ひぅっ! んんっ!」  胸の奥が締めつけられるような、腹の下の辺りがうずくような、はっきりとしない衝動。 それを性欲と知るには西京はあまりに無知で幼稚で未成熟だった。    一方の風切も最初は冗談のつもりで舐めていたが、西京の扇情的な反応に欲情してしま った。ひとりで淫行に耽っていたときと違って、他人のあられもない姿を目にすることは この上なく刺激的だった。 「ほら西京ぉ、もっとよく見せるっス」 「だめ、ぁっ! かぜき、ぃ……ぅんっ! あっ……」  うなじに唇を寄せながら、風切は力にまかせて強引に西京の体を抱きかかえると、壁際 まで追い詰めた。そのまま身動きのとれない西京に対して、ついばむようなキスを体中に 降らせる。その度に西京が可愛らしい声を上げるのを聞いて、自然と鼻息が荒くなった。  さらに風切は西京の薄い胸板に顔を寄せ、恥辱に震える小さな乳首に吸いついた。 「ここも腫れてるっスよ?」 「そこぁっ! ちが……ひぁっ!」  固く尖った先端が刺激に敏感なことは風切も実体験で知っていために、痛みを与えない よう普段にはない慎重さで乳首を責め立てた。  それがかえって西京には具合がよかったのか、 「はぁ……あぅ、ん……ふ……」  甘く切ない吐息と風切の口元から漏れる水音が絡み合って浴室の中に響いた。  ひとしきり風切がふたつの乳首を蹂躙すると、次なる征服地を求めて舌先が西京の体の 上で躍った。首元からへそにかけた正中線を通り、うっすらと見える肋骨の窪みに沿うと、 「ひゃぁっ!」  ある一点で叫び声が上がった。 「そういえば西京はここが弱かったっスね」  よほど鈍感でなければ誰でもくすぐったがる腋腹。そこから上に昇った腋の下が西京の 最も敏感な場所だった。かつて腋をくすぐられた西京が、触覚めいた特徴の髪を触られた 二季草のような反応を見せていたのを思い出す。  風切は西京の手首をとって頭の上で壁に押しつけると、右の腋下に顔を突っ込んだ。 「西京の匂いがするっス……」  運動したばかりで体を洗ってないだけあって汗臭さが目立ったが、乳製品めいた独特の 体臭もまた鼻をついた。 「こんなっ……こんなことはやめるんだ風切クン!」  西京が嫌がるように首を振るのは無理もない。服の上からくすぐられただけでも鋭敏に 反応してしまうというのに、素肌を直に触れられた場合を想像しただけで鳥肌が立った。  そんな怯えた表情すら浮かべる西京を風切は嗜虐的な瞳で見上げ、 「これでトドメっスよ……ん」 「や、やめっ!?」  躊躇することなく西京の腋に舌を伸ばすと、いままでにない激しさで汗ばんだ肌を舐め まわした。 「は――――んぁあああああ!!」  つんざくような悲鳴を上げながら、西京の意識が飛んだ。頭の中で閃光が弾けるような 感覚に襲われ、快感を通り越した極大の高揚感に包まれた。  なおも風切に腋下を舐めたくられると、毛穴から汗がにじみ出て唾液と混じる。粘り気 を帯びたその液体は起伏の少ない体のラインを伝い、西京の股間へと流れ落ちた。そこで また止めどなく溢れる愛液と混じり合い、ついには浴室の床を濡らした。そして、西京の 流した液体と自然に零れている風切自身の愛液は、ふたりの足元がうっすらと浸かるほど の水溜りを作った。  「んっんっ、ふぁは……はっ、はっ」  風切はまるで興奮した犬のように舌を這わせたかと思うと、餌を欲しがる鳥の雛のよう に唇を突き出している。その激しい責めに西京はたまらず風切に身を預ける形で脱力した。 そのせいでさらに密着度が高まり、より責め苦を受けるはめになってしまったが。 「やっ、はっ……あぁ、ひゃぁあっ、あぁぁあん!」  西京はしっかりと抱え込まれたまま逃げることも出来ず、ただ風切の頭をかき抱くこと しかできなかった。  いつしかふたりは互いの脚を絡ませ合い、その太ももに股間を擦りつけていた。無毛の 恥丘が上下するたびに形を変え、秘裂の隙間から肉芽が小さく顔を出した。その剥き出し になった秘芯が太ももに押しつけられると、西京は軽く達した。 「んはぁっ、はあああぅ……変だっ、なにか変だぞっ、風切クン!」 「西京……大丈夫っスから、もっと気持ちよくなるっス……ぁん、む……ん」  風切が腋から頭を外すと、西京の唇を奪った。情緒のかけらもない不器用なキス。唇と 唇がぶつかっているだけの稚拙な口づけは、知識と経験の足りないふたりの間でそれ以上 の進展を見せなかった。  それでも西京の顔は少女というより快楽に溺れた雌のものになって、風切もまた同様だ った。重なり合った唇の端から涎を垂れ下げ、目尻に涙を浮かべて瞳を潤ませている。そ こから普段は性や欲情といったものから無縁なふたりを想像することは難しい。  平坦な胸の上にある乳首同士を痛いくらいにぶつけ、肉を喰い込ませんばかりに股間を 擦りたて合う様は、子供じみた体には不釣合いなほど淫らだった。  「あ、やっ、あっ、んっ、熱いっスよ……? 西京……すごく熱いっス、ふぁっ」 「そんな、ことっ……ああっ、風切クンだってぇ……ひぁああっ!」  思いもかけず、風切の膝頭が西京の陰核を潰してしまった。頭の芯から足先までを貫く 快感が痺れとなって西京に襲いかかった。 「なに……なんだコレ!? やだっやだっ、風切クン風切クンっ! やあぁぁぁぁっ!!」 「あっ、はぁんっ、あたしももうダメっス! 西京っ、さいきょ……んぁあああああ!!」  西京の絶頂につられて風切も背筋をのけ反らすと、溜めに溜めた気を吐いた。その瞬間、 熱い飛沫が下半身を濡らすのを感じた。西京が感極まって失禁してしまったようだ。 「はふぁあああ……」  放心したまま西京が長々と尿を垂れ流し続ける。そんな彼女を風切は快楽の余韻に浸り ながら見つめていた。きつい臭いが鼻を刺激するが不思議と嫌悪感はない。なぜなら、 「あ……おしっこしてるのはあたしもっスか……」  見下ろせば自分の股間からも黄色く濁った液体が幾筋も足を伝って流れ、床を濡らして いた。汗を流すために浴室に入ったというのに、ここをトイレと勘違いしてしまったのか と苦笑してしまう。  「何はともあれお疲れっスよ、西京」  いつの間にか気絶してしまったのか、西京が安らかな寝息を立てていた。 「西京ぉー、まだ怒ってるっスかー?」  困った口調でいつもの笑顔を多少ひきつらせたまま、風切が西京の機嫌を窺った。  広々とした湯船の隅で長髪を無造作に水面に浮かべて、先ほどから西京が背中を向けて 口を利こうともしなかった。  気を失った西京はほんの1分程度で意識を取り戻した。その後はお互いに気まずい雰囲気 のなか、シャワーを浴びて体を洗い、無言のまま風呂に入ったのである。  それから10分が経過したが、西京の態度はいっこうに変わらなかった。  実のところ、西京は怒っているのではなく、ただ気恥ずかしくて風切にどんな顔をして 見せればいいのかわからないだけだった。 「ごめんっスよ。ちょっと調子にのりすぎったっス……」  西京の心情を知らない風切はひたすら謝ることしかできず、いつになく弱気にになって いる。そんな低姿勢の態度にようやく西京は口を開くきっかけを見つけた。 「その通りだ風切クン。まさかキミがあんなイジワルだとは思わなかったぞ!」 「う……」  そうなった元々の原因は西京にあったわけだが、ここはひとまず穏便に話を進めようと 風切は黙っていた。 「何だか変な気持ちになるし、キミの家の中でお漏らししてしまうし、まだ胸がドキドキ してるぞ!?」 「……ごめんっス」  水面下に顔を沈めそうなほど頭を下げる風切になおも西京は問い詰める。 「だいたい何であんなにイジワルだったんだ!?」 「だって西京が可愛かったっスから」 「なー!?」  思わぬ反撃につい言葉を失った。 「かかかかカワイイだなんて何を言い出すんだ!?」 「だって本当のことっスから」  動揺する西京とは反対に落ち着いて風切は答えた。事実、初体験の行為に戸惑っていた 西京はいつもと違う新鮮味に溢れていて、羞恥に震えていたときの彼女はさらにいたいけ で心をくすぐるものがあった。 「それに髪を下ろした西京は可愛いっスよ。たまにはそのまま学校に行ってもいいくらい っス」 「わ、私はヒーローなんだからカッコイイと言って欲しいぞ!」  顔を真っ赤にしながら、慌てふためくその姿もまた愛嬌があることに西京は気づいてい なかった。風切の台詞がよほど不本意だったのか、不機嫌そうな顔をしているが、それは 照れているからだろう。  ようやく賑やかな雰囲気が戻ってきて、風切も本来の笑顔を取り戻した。 「ずるいぞ。風切クンはいつもそうやって笑ってごまかすんだからな!」  ある意味、風切の笑顔はその腕力よりも圧倒的な破壊力を秘めていた。天真爛漫の言葉 が似合いそうな笑顔を浮かべられたら、何ごとも許してしまいそうな気持ちにさせられる。 「いつも笑っていれば、守るべき相手には安心を与え、戦うべき相手には恐怖を見せる。 それが師匠の教えっスから」  そこでよりいっそう笑みを深めて、もういちど謝罪の言葉を口にした。 「だから、本当にごめんっス。友達なのに西京の嫌がること無理やりしちゃったっスから」  真っ直ぐ西京の瞳を見据えた風切の表情は確かに笑っていたが、冗談で済ませてしまう ような感じはなく真剣そのものだった。 「そんな顔をされたら怒る気になれないじゃないか! もういいさ! 私はキミを許す!」 「ありがとうっスよー!」  喜色満面の顔で風切が西京に抱きつくと、勢い余って湯の中に沈めてしまった。 「ぶわはぁああっ!? 危ないじゃないか! もう少しで溺れるところだったぞ!」 「だって嬉しいっスから!」 「ぐぉおおお! 締まるっしまっ、ぐるじい……」  万力のような締め上げをくらい、西京が目を白黒させた。だが、そんな様子を無視して 風切は頬ずりさえして喜びを表現するのに熱中していた。 「西京の体って柔らかいっスねー。朝、食べた餅みたいっス」  心底羨ましそうな表情を風切は見せた。常日頃から鍛錬を怠らない風切の体は、同年代 の少女と比べて引き締まるところが引き締まりすぎて、筋肉質な部分がいくらかあった。  それはそれで充分魅力的だと西京は思っていたが、口に出そうにも息が続かなかった。 「ぐ、げふっ、く、苦しいぞ風切クン……」 「西京、これからもよろしくっス!」 「……」  返事をすることもできないまま、西京は風切の腕の中で失神してしまった。  圧倒的な腕力と無垢な笑顔に身も心も破壊された昼下がり。自称最強ヒーローの復活は 往年の特撮番組が再放送される夕方まで待たなければならなかったという。                                      (Fin)

                                     [目次へ]



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