それからの夜
「うわ、すご……」
ホテルの部屋にたどり着いて、真っ先に視界に入ったのは窓からの夜景。
あれから 航たちと別れ、近くのレストランで食事を済ませてから、俺たちはこのホテルにチェックイン
をした。
洋樹は、子供みたいに真っ先に窓に歩み寄り、食い入るように夜景を眺めていた。
何とも意外な反応だった。
「お前のことだから、この程度のホテルだったら慣れていると思ったんだがな」
荷物おきの棚の上にバックを置きながら、俺は苦笑した。まぁネット予約で一万円にしてはいい部
屋だ。33階からの景色もいいし、部屋も広々としている。
「そんなことないよ。家、忙しかったからこんなホテルに泊まるような旅行もなかったし。俺は勉強、勉
強ばっかだったからさ」
洋樹の実家は大病院を経営している。院長である父親は当然多忙、母親も様々な会合に顔をだし
ていて、家に帰ってくるのも週一度がいいところだと、言っていた。
ほとんどお手伝いの鈴木さんに育てられたようなもんだ、というだけに洋樹は坊ちゃんの片鱗を見
せることもあるかと思えば、どこか庶民的な感覚もあったりする。
そう、たとえば永原さんに高級レストランに連れて行って貰った時も、テーブルマナーは心得ている
らしく、ナイフやフォークを持つ所作も綺麗だったし、あの重厚な雰囲気に物怖じしていなかった。ま
ぁ、元々そんなに物怖じするタイプじゃないのだけど。
かと思えば、服装はアウトレッドで買った安物だ。
今もTシャツとジーンズという、ある程度名のあるホテルに入るには、あまり似つかわしくないラフな
格好である。
「洋樹……」
俺は夜景を見つめる洋樹の後ろ姿が、なんだか愛しくなり思わず後ろから抱きしめる。
「湊」
洋樹が俺を見上げる。
白い頬はわずかに朱に染まっていた。
どこか虚ろな上目遣い。
いつから、こいつはこんな目を覚えるようになったのか。
恥じらいながらも、陶然とこちらを見上げるまなざしは、少女のような無邪気さと遊女のような色気
がある。
それは男をくすぐる表情、どちらも兼ね備えた極上の表情だ。
俺は洋樹の顎を持ち上げ、キスをした。
「ん……ふ……」
熱い吐息が漏れる中、唇を割って舌を入れると、洋樹もそれに答えるように絡めてきた。
最初のキスのことを思うと、考えられないぐらいの進歩だ。
教えたら飲み込みが早いというか。
舌使いも息づかいも巧みになってきている。
俺は洋樹のシャツをたくし上げ、右胸の乳首を軽くつまんだ。
「う……」
洋樹は思わず唇を離し、うめき声を上げる。
全身は電流が走ったかのように、びくんと震えた。
左胸の乳首も同じように摘んで指先で転がす。
洋樹は恨めしそうに俺を見上げる。
その表情はさらに俺の欲望を煽った。
「───え」
ジーンズの前ボタンを外し、脱がせると洋樹は驚いたように俺の顔を見た。
「ま、待って。脱がすならベッドで……」
「駄目だ」
「だってこんな窓辺じゃ」
「誰も見えやしない。ほら窓に手をついて」
「い……嫌だ!は、恥ずかしすぎる!」
洋樹は激しく首を横に振り、抱擁から逃れようと身をよじらせる。
悪いがそんな微弱な抵抗は、抵抗のウチには入らない。
ここは33階だし、腰窓だから下までは見える心配はないのだが、それでも洋樹は恥ずかしいようだ
った。
「その恥ずかしい顔がいいんだけどな」
「そ、そんなのあんたがいいだけだろ!?」
「お前も良くなる」
俺は下着越し、洋樹自身に触れながら囁いた。
「う……」
洋樹の身体がとたんに硬直する。
相変わらず感度がいい。
だんだん熱くなる掌のものに、全神経が集中しているのが分かる。
「あ……やめ……」
なんとか抵抗の言葉を口にするも、吐息が熱い。
俺はジーンズ同様下着を下ろし、直にその部分に触れる。
「み……みなと……」
洋樹が俺の名を呼んだ。
俺はうなずきながらすっかり固くなったものをさらに扱いた。
「あ……あ……」
全身の力が抜け、洋樹は窓に寄りかかるように手をついていた。
先端には透明な液がしたたり掌を濡らす。
俺は洋樹の腰を自分の方に引き寄せる。
「や……湊……」
かすかに抵抗の声を上げ、潤んだ目で俺を見る。
それがますます、男をそそることを意識せずに。
俺は掌を洋樹自身から離し、透明な液で濡れた二本の指を蕾の入り口にあてがう。
「あ……」
中に潜り込んだ瞬間、洋樹はかすかに甘い声を漏らした。
わずかな抵抗も、完全になくなる。
その先にある、いいようも無い快感はどんな羞恥心もかき消してしまう。
無意識に洋樹は中をほぐす指の動きに合わせて腰を振る。
「は……うんっ……」
最も感じる部分を指の腹でこすると、洋樹の洩れる声がますます艶めく。
三本目の指を入れる。
「ひ……っ!み、湊。もう……」
「どうした?」
俺は洋樹の顔をのぞき込み、問いかける。
「わ、分かっているだろ?」
「俺には分からない」
指先で性感帯をこすりながら、俺はにやりと笑う。
「嘘言うな……もう……頼むから……」
「人にものを頼むときには、用件をはっきりと言いなさい」
「……う……」
洋樹は窓のカーテンをつかみ、何度も肩で息をする。
そして、哀願する眼差しをこちらに向けて。
「もう……入れて」
「ん?指が入っているじゃないか。三本も」
「う……っ、馬鹿……!!わ、分かっているくせに」
洋樹は泣きそうな顔になりながら、抗議をする。
しかし、俺は分からないと首を横に振った。
洋樹は悔しそうに唇を噛む。
けれども中にある指で最も弱い部分をこすられ、その表情も長くは続かない。
全身を震わせて、俺の目を見上げて言った。
「湊の、入れてほしいんだ」
熱い吐息とともに、洋樹の唇からその言葉が洩れた。
俺は洋樹の額にキスをし、囁くように言った。
「よく出来ました」
それこそ教師が生徒を褒めるような口調だ。
俺は指を引き抜いて、自分のジーンズを下ろした。
そして既に固くなった分身を、ほぐれた入り口に押し当て、一気に突き立てた。
「───」
声にはならない声。
洋樹はカーテンをますますきつく握り締め、全身を震わせる。
慣らされた狭い後孔は何の抵抗もなく、すぐに俺自身を飲み込み奥まで導く。
洋樹の中は熱く、俺自身を拘束するかのように締め付けた。
抜群に締まりがいい。
「本当にお前は最高だな……」
俺が囁くと、洋樹が頬を紅潮させ涙ぐんだ目をこちらに向ける。
その表情も、声も、そして身体も。
すべてが極上品だ。
そこらの女優など、お前の足下にも及ばない。
お前はおそらく、これからも多くの人間を引きつけるだろう。
お前の中にある魔性がきっとそうさせる。
「あ……あっ!!」
首をのけぞらせ、声を上げる洋樹。
俺自身も意識しないウチに、深くまで突き立てていたらしい。
もし、洋樹が俺以外の人間とこんなことをしたら。
こんな、いやらしい声を他の人間に聞かせたりしたら。
そう考えてしまうと、普段は胸の奥底に封じている独占欲が急速に突き上げ、洋樹と奥深くまで求
める行為に走っていた。
そして、俺は洋樹の奥へ、たまっていた白濁の液を放った。
「う……」
同時に洋樹も果てたのか、びくんと身体が震えた。
俺はしばらく中に入ったまま、ぐったりした身体を後ろから抱きしめていた。
「変態」
「誰が変態だ」
「あんた以外いないだろ」
「男はフツーこれぐらいのことはやる」
「俺だって男だよ!?」
「お前は経験値が浅いんだ」
「う、うるさい!どうせ、俺はあんたが初めてだよ!!」
事に及んだ後、俺たちはそのままバスルームに向かった。
ざっとシャワーを浴びて、今は二人で湯船につかった状態なのだが、洋樹はまだ恥ずかしさが抜け
ないのか、さっきから耳まで真っ赤になっていた。
「だいたい、あんた自分の弟のこと、ど変態っていうけど、あんたも十分そうじゃねぇか」
「俺は“ど”はつかない」
「───変態は否定しないんだ?」
「否定しない。お前と一緒にいると変になるからな」
俺は洋樹の腕を引き、自分の方に抱き寄せた。
背中に手を回し、きつく抱きしめる。
「湊……」
「好きだ、洋樹」
普段はあまり言えない言葉も、この空間でなら言える。
湯気で何もかもがぼんやりと見えるこの空間なら。
「湊、俺も」
洋樹の手が俺の背中に回る。
「俺も、湊が好きだ」
洋樹の口からはっきりとその言葉が聞けるのは、本当に嬉しい。
俺はその唇に、自らの唇を重ねる。
軽いキスで済ませるつもりだったが。
洋樹の唇が僅かに開いた。
そんな風にされたら、答えないわけにはいかない。
一方の手を後頭部に回し、僅かに緩んだ箍を舌でこじ開けた。
唾液と舌の絡み合う、何とも言えないみだらな音が風呂場に響く。
唇が離れた時、かかった吐息が熱かったのは湯気のせいか、それとも。
「本当にお前のせいで俺は変になる……」
洋樹の首筋、鎖骨に口づけながら、俺は言った。
「俺のせいかよ」
「お前のせいだ」
「そんなこと言って。どうせ今まで付き合ってきた奴とも同じ事してるんだろ?」
自分で聞いておきながら、むっとする洋樹に苦笑しながら、俺は首を横に振る。
「それはない」
「嘘だ」
「嘘じゃない。俺は正直、セックスがあんまり好きじゃなかったからな」
「へ……?」
俺は一度キスを中断し、自嘲めいた笑みを浮かべた。
「あんまりしたいと、思ったことがなかった。相手が要求してきたら答えたけど」
「でも……」
「お前が初めてだよ。こんなに欲しいと思ったのは」
俺は洋樹の乳首を吸いながら、一方の手は腰から下に回る。
洋樹は今俺の膝の上にまたいで座った状態だ。
固くなった中心部は洋樹の下腹部に当たる。
「み、湊……」
洋樹の頬が赤くなるのは逆上せているのか、それとも。
俺はじっと洋樹の目を見て尋ねた。
「いいか?」
「いいけど……このままだと逆上せる」
「ああ、そうだな。ベッドに行くか」
結局、翌朝含めて三回、俺は洋樹を抱いた。
本当に自分でも驚いている。
自分は本当は淡泊で、セックスも一回で十分だと思っていたのだが。
どうも洋樹が相手だと勝手が違う。
こいつの魔性がそうさせるのか?
いや、それ以前に。
俺は今まで本気に人を好きになっていなかったのかもしれない。
付き合っても長く続かなかったのもそのせいか。
「湊……」
不意に呼ばれて俺は隣で寝ている洋樹の方を見た。
規則正しい寝息、無邪気な寝顔がそこにある。
なんか、寝ていると猫みたいな顔だ。
寝言で名前を呼ばれるのも悪くないな。
しかし、洋樹は僅かに眉間に皺を寄せて、次の寝言を言った。
「湊……もう、駄目……」
………………。
……少しやりすぎたか?
いや、でも俺より若いんだし、もう少し頑張ってくれても。
その時、洋樹は不意に目を開いた。
何度か瞬きをし、目をこすってから寝ぼけ眼で俺を見上げる。
「おはよ……」
「おはよう」
「湊今日、仕事は?」
「今日はお互いオフだろ。午後から引っ越しの続きだ」
「じゃあ、午前中は寝てていいんだな」
「まぁな」
「おやすみ」
「…………」
程なくして洋樹は寝息を立て始めた。
ま、考えても見たら、引っ越しの準備をした後に、あれだけやっているのだから疲れるのも無理はな
いか。
シーツを洋樹の肩までかけてやりながら、俺は苦笑する。
枕元のデジタル時計は八時半を指していた。
俺ももう一眠りするか。
明日からまた仕事だし。
次、いつこんなにのんびり寝られるか分からないからな。
そんなわけで、俺は久々の休日をもう少し満喫することにした。
ホテルの部屋にたどり着いて、真っ先に視界に入ったのは窓からの夜景。
あれから 航たちと別れ、近くのレストランで食事を済ませてから、俺たちはこのホテルにチェックイン
をした。
洋樹は、子供みたいに真っ先に窓に歩み寄り、食い入るように夜景を眺めていた。
何とも意外な反応だった。
「お前のことだから、この程度のホテルだったら慣れていると思ったんだがな」
荷物おきの棚の上にバックを置きながら、俺は苦笑した。まぁネット予約で一万円にしてはいい部
屋だ。33階からの景色もいいし、部屋も広々としている。
「そんなことないよ。家、忙しかったからこんなホテルに泊まるような旅行もなかったし。俺は勉強、勉
強ばっかだったからさ」
洋樹の実家は大病院を経営している。院長である父親は当然多忙、母親も様々な会合に顔をだし
ていて、家に帰ってくるのも週一度がいいところだと、言っていた。
ほとんどお手伝いの鈴木さんに育てられたようなもんだ、というだけに洋樹は坊ちゃんの片鱗を見
せることもあるかと思えば、どこか庶民的な感覚もあったりする。
そう、たとえば永原さんに高級レストランに連れて行って貰った時も、テーブルマナーは心得ている
らしく、ナイフやフォークを持つ所作も綺麗だったし、あの重厚な雰囲気に物怖じしていなかった。ま
ぁ、元々そんなに物怖じするタイプじゃないのだけど。
かと思えば、服装はアウトレッドで買った安物だ。
今もTシャツとジーンズという、ある程度名のあるホテルに入るには、あまり似つかわしくないラフな
格好である。
「洋樹……」
俺は夜景を見つめる洋樹の後ろ姿が、なんだか愛しくなり思わず後ろから抱きしめる。
「湊」
洋樹が俺を見上げる。
白い頬はわずかに朱に染まっていた。
どこか虚ろな上目遣い。
いつから、こいつはこんな目を覚えるようになったのか。
恥じらいながらも、陶然とこちらを見上げるまなざしは、少女のような無邪気さと遊女のような色気
がある。
それは男をくすぐる表情、どちらも兼ね備えた極上の表情だ。
俺は洋樹の顎を持ち上げ、キスをした。
「ん……ふ……」
熱い吐息が漏れる中、唇を割って舌を入れると、洋樹もそれに答えるように絡めてきた。
最初のキスのことを思うと、考えられないぐらいの進歩だ。
教えたら飲み込みが早いというか。
舌使いも息づかいも巧みになってきている。
俺は洋樹のシャツをたくし上げ、右胸の乳首を軽くつまんだ。
「う……」
洋樹は思わず唇を離し、うめき声を上げる。
全身は電流が走ったかのように、びくんと震えた。
左胸の乳首も同じように摘んで指先で転がす。
洋樹は恨めしそうに俺を見上げる。
その表情はさらに俺の欲望を煽った。
「───え」
ジーンズの前ボタンを外し、脱がせると洋樹は驚いたように俺の顔を見た。
「ま、待って。脱がすならベッドで……」
「駄目だ」
「だってこんな窓辺じゃ」
「誰も見えやしない。ほら窓に手をついて」
「い……嫌だ!は、恥ずかしすぎる!」
洋樹は激しく首を横に振り、抱擁から逃れようと身をよじらせる。
悪いがそんな微弱な抵抗は、抵抗のウチには入らない。
ここは33階だし、腰窓だから下までは見える心配はないのだが、それでも洋樹は恥ずかしいようだ
った。
「その恥ずかしい顔がいいんだけどな」
「そ、そんなのあんたがいいだけだろ!?」
「お前も良くなる」
俺は下着越し、洋樹自身に触れながら囁いた。
「う……」
洋樹の身体がとたんに硬直する。
相変わらず感度がいい。
だんだん熱くなる掌のものに、全神経が集中しているのが分かる。
「あ……やめ……」
なんとか抵抗の言葉を口にするも、吐息が熱い。
俺はジーンズ同様下着を下ろし、直にその部分に触れる。
「み……みなと……」
洋樹が俺の名を呼んだ。
俺はうなずきながらすっかり固くなったものをさらに扱いた。
「あ……あ……」
全身の力が抜け、洋樹は窓に寄りかかるように手をついていた。
先端には透明な液がしたたり掌を濡らす。
俺は洋樹の腰を自分の方に引き寄せる。
「や……湊……」
かすかに抵抗の声を上げ、潤んだ目で俺を見る。
それがますます、男をそそることを意識せずに。
俺は掌を洋樹自身から離し、透明な液で濡れた二本の指を蕾の入り口にあてがう。
「あ……」
中に潜り込んだ瞬間、洋樹はかすかに甘い声を漏らした。
わずかな抵抗も、完全になくなる。
その先にある、いいようも無い快感はどんな羞恥心もかき消してしまう。
無意識に洋樹は中をほぐす指の動きに合わせて腰を振る。
「は……うんっ……」
最も感じる部分を指の腹でこすると、洋樹の洩れる声がますます艶めく。
三本目の指を入れる。
「ひ……っ!み、湊。もう……」
「どうした?」
俺は洋樹の顔をのぞき込み、問いかける。
「わ、分かっているだろ?」
「俺には分からない」
指先で性感帯をこすりながら、俺はにやりと笑う。
「嘘言うな……もう……頼むから……」
「人にものを頼むときには、用件をはっきりと言いなさい」
「……う……」
洋樹は窓のカーテンをつかみ、何度も肩で息をする。
そして、哀願する眼差しをこちらに向けて。
「もう……入れて」
「ん?指が入っているじゃないか。三本も」
「う……っ、馬鹿……!!わ、分かっているくせに」
洋樹は泣きそうな顔になりながら、抗議をする。
しかし、俺は分からないと首を横に振った。
洋樹は悔しそうに唇を噛む。
けれども中にある指で最も弱い部分をこすられ、その表情も長くは続かない。
全身を震わせて、俺の目を見上げて言った。
「湊の、入れてほしいんだ」
熱い吐息とともに、洋樹の唇からその言葉が洩れた。
俺は洋樹の額にキスをし、囁くように言った。
「よく出来ました」
それこそ教師が生徒を褒めるような口調だ。
俺は指を引き抜いて、自分のジーンズを下ろした。
そして既に固くなった分身を、ほぐれた入り口に押し当て、一気に突き立てた。
「───」
声にはならない声。
洋樹はカーテンをますますきつく握り締め、全身を震わせる。
慣らされた狭い後孔は何の抵抗もなく、すぐに俺自身を飲み込み奥まで導く。
洋樹の中は熱く、俺自身を拘束するかのように締め付けた。
抜群に締まりがいい。
「本当にお前は最高だな……」
俺が囁くと、洋樹が頬を紅潮させ涙ぐんだ目をこちらに向ける。
その表情も、声も、そして身体も。
すべてが極上品だ。
そこらの女優など、お前の足下にも及ばない。
お前はおそらく、これからも多くの人間を引きつけるだろう。
お前の中にある魔性がきっとそうさせる。
「あ……あっ!!」
首をのけぞらせ、声を上げる洋樹。
俺自身も意識しないウチに、深くまで突き立てていたらしい。
もし、洋樹が俺以外の人間とこんなことをしたら。
こんな、いやらしい声を他の人間に聞かせたりしたら。
そう考えてしまうと、普段は胸の奥底に封じている独占欲が急速に突き上げ、洋樹と奥深くまで求
める行為に走っていた。
そして、俺は洋樹の奥へ、たまっていた白濁の液を放った。
「う……」
同時に洋樹も果てたのか、びくんと身体が震えた。
俺はしばらく中に入ったまま、ぐったりした身体を後ろから抱きしめていた。
「変態」
「誰が変態だ」
「あんた以外いないだろ」
「男はフツーこれぐらいのことはやる」
「俺だって男だよ!?」
「お前は経験値が浅いんだ」
「う、うるさい!どうせ、俺はあんたが初めてだよ!!」
事に及んだ後、俺たちはそのままバスルームに向かった。
ざっとシャワーを浴びて、今は二人で湯船につかった状態なのだが、洋樹はまだ恥ずかしさが抜け
ないのか、さっきから耳まで真っ赤になっていた。
「だいたい、あんた自分の弟のこと、ど変態っていうけど、あんたも十分そうじゃねぇか」
「俺は“ど”はつかない」
「───変態は否定しないんだ?」
「否定しない。お前と一緒にいると変になるからな」
俺は洋樹の腕を引き、自分の方に抱き寄せた。
背中に手を回し、きつく抱きしめる。
「湊……」
「好きだ、洋樹」
普段はあまり言えない言葉も、この空間でなら言える。
湯気で何もかもがぼんやりと見えるこの空間なら。
「湊、俺も」
洋樹の手が俺の背中に回る。
「俺も、湊が好きだ」
洋樹の口からはっきりとその言葉が聞けるのは、本当に嬉しい。
俺はその唇に、自らの唇を重ねる。
軽いキスで済ませるつもりだったが。
洋樹の唇が僅かに開いた。
そんな風にされたら、答えないわけにはいかない。
一方の手を後頭部に回し、僅かに緩んだ箍を舌でこじ開けた。
唾液と舌の絡み合う、何とも言えないみだらな音が風呂場に響く。
唇が離れた時、かかった吐息が熱かったのは湯気のせいか、それとも。
「本当にお前のせいで俺は変になる……」
洋樹の首筋、鎖骨に口づけながら、俺は言った。
「俺のせいかよ」
「お前のせいだ」
「そんなこと言って。どうせ今まで付き合ってきた奴とも同じ事してるんだろ?」
自分で聞いておきながら、むっとする洋樹に苦笑しながら、俺は首を横に振る。
「それはない」
「嘘だ」
「嘘じゃない。俺は正直、セックスがあんまり好きじゃなかったからな」
「へ……?」
俺は一度キスを中断し、自嘲めいた笑みを浮かべた。
「あんまりしたいと、思ったことがなかった。相手が要求してきたら答えたけど」
「でも……」
「お前が初めてだよ。こんなに欲しいと思ったのは」
俺は洋樹の乳首を吸いながら、一方の手は腰から下に回る。
洋樹は今俺の膝の上にまたいで座った状態だ。
固くなった中心部は洋樹の下腹部に当たる。
「み、湊……」
洋樹の頬が赤くなるのは逆上せているのか、それとも。
俺はじっと洋樹の目を見て尋ねた。
「いいか?」
「いいけど……このままだと逆上せる」
「ああ、そうだな。ベッドに行くか」
結局、翌朝含めて三回、俺は洋樹を抱いた。
本当に自分でも驚いている。
自分は本当は淡泊で、セックスも一回で十分だと思っていたのだが。
どうも洋樹が相手だと勝手が違う。
こいつの魔性がそうさせるのか?
いや、それ以前に。
俺は今まで本気に人を好きになっていなかったのかもしれない。
付き合っても長く続かなかったのもそのせいか。
「湊……」
不意に呼ばれて俺は隣で寝ている洋樹の方を見た。
規則正しい寝息、無邪気な寝顔がそこにある。
なんか、寝ていると猫みたいな顔だ。
寝言で名前を呼ばれるのも悪くないな。
しかし、洋樹は僅かに眉間に皺を寄せて、次の寝言を言った。
「湊……もう、駄目……」
………………。
……少しやりすぎたか?
いや、でも俺より若いんだし、もう少し頑張ってくれても。
その時、洋樹は不意に目を開いた。
何度か瞬きをし、目をこすってから寝ぼけ眼で俺を見上げる。
「おはよ……」
「おはよう」
「湊今日、仕事は?」
「今日はお互いオフだろ。午後から引っ越しの続きだ」
「じゃあ、午前中は寝てていいんだな」
「まぁな」
「おやすみ」
「…………」
程なくして洋樹は寝息を立て始めた。
ま、考えても見たら、引っ越しの準備をした後に、あれだけやっているのだから疲れるのも無理はな
いか。
シーツを洋樹の肩までかけてやりながら、俺は苦笑する。
枕元のデジタル時計は八時半を指していた。
俺ももう一眠りするか。
明日からまた仕事だし。
次、いつこんなにのんびり寝られるか分からないからな。
そんなわけで、俺は久々の休日をもう少し満喫することにした。
おしまい。
───────────────────────────────────────
ヤマナシ イミナシ オチナシSSでした。
来嶋の一人称は苦手だなー(汗)
あんまし、内面を表に出さないキャラだけに
しかし来嶋兄妹というタイトルからすると、ここは弟のど変態ぶりを書いた方が良かったのだろうか。
でも長い人生、知らない方がいいこともありますので。
少なくともワタシは知りたくない(汗)