Sweet Home






それは、俺がハムレットの稽古に入る前であり、漫才王グランプリを終えた後のことだった。季節はも
うすぐ春を迎えるこの時季だが、まだ寒さが残る故、俺はソファーに腰掛け、ホットコーヒーを飲みな
がら、ハムレットの台本に目を通していた。
そこに、マンションのドアを開ける音が聞こえる。
湊が帰ってきたようだ。
前回のドラマに引き続き……というか、ほぼ掛け持ちで映画のオファーも受けているので、かなり忙
しい日々みたいで、実に三日ぶりの帰宅であった。
「湊」
 俺が名前を呼ぶと、湊は何とも言えない安堵した表情になり、こちらに歩み寄ってきた。
 こういうのって、なんか家族になったって、実感できるな。
 俺はソファーから立ち上がり、湊の首に手を回した。
「おつかれさま」
「ああ……お前もな」
 湊の手が俺の腰に回る。そして引き寄せられて。
 ……。
 ……。
 アレががちがちなのを、さりげなく主張している。
 そうとう溜め込んでいるみたいだな。
「俺は大したことしてないよ。舞台もこれからだしさ」
「でも漫才王グランプリは大変だったじゃないか。本当に吃驚したぞ。あのまま芸人に天職するんじゃ
ないかって、心中穏やかじゃなかったぐらいだからな」
「そんなわけないだろ」
 俺はそう言って湊の唇に自分のそれを重ねた。
 久々のキスだ。
 湊の舌がすぐに俺の唇を割って入ってきた。
 いつになく急いた行動に、少し驚いたけれども、溜め込んでいるのはこっちも同じだからな。
 今まで、会えなかった分、一秒でも早く湊と───

 きゅううう……
 ぐるるる……

 その時二人のお腹が同時に鳴った。 




 とりあえず腹ごしらえ、ということになり俺はあらかじめ作っておいたビーフシチューと、サラダ、それ
からフランスパンを切って出した。
「お前、どんどん料理のレベルが上がっていくな」
「そうか?でも市販のルーだし、市販のブイヨンだし。今回は思い切り手を抜いているんだけど」
「……待て、お前今までルーもブイヨンも自分で作っていたのか?」
「そうだよ。ブイヨンはまたあらかじめ大量に作って、冷凍庫に保管しとかなきゃいけないよなぁ」
「……」
 何故か、湊は目をまん丸くしてこっちを見ていた。
 何?
 その変わり者を見るような目は。
───お前、絶対女子とは結婚出来ないな」
「は!?」
「相手が俺で良かったな」
「何だよ、それ!?」
「そんな凝った料理平然としてのける男、今時の女子は嫌がると思うな」
「そんなことはないだろ!?どっちかつうと、何も出来ない男の方が駄目だろ」
「いや、何でも出来る男の方が実は結婚出来ないんだ……というか、結婚しないのかな」
 湊の言葉に、俺は言葉が詰まった。
 た……確かに。
 湊がいなかったら、俺、結婚とかしなさそう。
 女の子が家事やるの、黙って見てられない気がするし。
 それに何というか、今まで色んな娘と付き合ったけど……何というか、重いんだよな。
 舞台でラブシーン演じる度に、怒られるのも辛かったしなぁ。
 それとも俺がそういう女の子ばっかり選んでいたとか。
 そういや湊にも言われたな。
 年上にリードしてもらうか、積極的な年下しか選んでいないって。
「おいおい、何落ち込んでいるんだ?いいじゃないか、お前には俺がいるんだから」
「そうだけどさ。一応、男心としてもそうだし、俳優としても、結婚したい男優bPと言われたいんですけ
ど?」
「大丈夫だ。俳優としてのお前なら間違いなく、そう言われるようになる。何しろ、大衆はテレビや舞
台越しでしかお前を見ないからな。表面的なお前しか知らないわけだ」
「全然慰めになってない」
「俺だってbPになれたんだから、お前だってなれるさ」
「さりげなく自慢すんなよ」
 腹立ち紛れ、フランスパンにかじりつく。
 そんなこっちの仕草を、向こうは面白そうに眺めている。
 ───なんつうか、その余裕ぶったトコが腹立つ。
 大体、いっつもこいつはそうなんだ。
 生徒を見守る先生目線。
 元々の職業がそうだから、しょうがないと言えばしょうがないけど。
 いつかこの人を見返したい。
 永久に適わないとは分かっていても、そう思わずにはいられないことがある。
 この人は、俺の恋人で。
 演劇に於いては師でもあり。
 それでいて今は家族で。
 同時に。
 同じ舞台に立つ時にはきっと戦友になったり。
 そして好敵手、にもなるのだろう。
 今、この人は俺よりもはるかに先の道を歩んでいるけど。
  俺だっていつまでもこのままでいるつもりはない。
 今回のハムレットでも、また沢山のことが学べるはずだ。


 俺はいつか絶対あんたに追いついてみせる。
「湊、明日も撮影なんだろ?代読しようか?」
「俺よりお前だろ。この前の自主稽古の演技は全然なってなかったぞ」
「いや……それは、漫才モードがまだ抜けなくて」
「言い訳無用。今夜、みっちり稽古するからな」
「……」
 
 追いつくのは、まだ時間が掛かりそうだけど。



 夕飯を済ませ、一風呂浴びた俺は、さっそく台本を手に持った。
 ハムレット───
 俺は何だか胸が一杯になり、思わず台本を抱きしめる。
 こんなに早く、プロの舞台でシェイクスピアを演じる事が出来るとは思わなかった。
 きっとまた今さんに滅茶苦茶叱られるんだろうけど。
 ああ、でも、わくわくしている。
 今さんは一体どんなハムレットの世界を見せてくれるのだろう?
 そんなことを考えた矢先、不意に後ろから湊の手が伸びてきて俺の身体を抱きしめてきた。
「台本に妬きそうなんだけど?」
 くすくす笑いながら耳元で囁いてくる。
 ぞくっとするぐらい、よく通る声。
 吐息も熱くて、俺の胸は次第に早鐘を打つ。
 しかも湊の奴、上半身は裸だ。
 こいつ、年がら年中風呂上がりは上が裸だから。
 や……やばい。
 これから稽古だっていうのに、その前に変な気持ちになりそうだ。
 こうして抱き合うのすら久々なんだ。
 それに腹が減っていたとはいえ、お預け状態だったわけだし……お預けって何言ってんだ!?俺。
「湊……離して」
「どうした?」
「こ、これから稽古だろ。あんたにこんな風にされたら、俺───
 顔がだんだん熱くなる。
 心臓がこれ以上になく高鳴って、湊にもばれそうだ。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか。
「役者はどんな状況でも、ちゃんと演じなきゃいけないんだぞ」
 耳を軽く噛まれた。
 知ってか知らずじゃない。
 明らかに知っている。
「ば……馬鹿!こんな状況、あるわけないだろ!?」
「俺はこの前あったぞ?今日だって演じる前は、ずっとお前としていること考えていたし」
「じょ、女優とのラブシーンを前にか!?」
「ああ、お陰でいい感じで演じられたけどな。相手がガキでも、そういう気持ちに持って行けたからな」
「……あのな」
 そういえば、今回の湊の相手は確か15歳の少女。
 まぁ、濃厚なラブシーンは年齢が年齢だからないものの、10歳離れた青年がそんな少女に本気で
恋をするという設定。
「大体、恋愛映画だからいいじゃないか。俺が演じるレアティーズは、ラブシーンのラの字もないんだ
ぞ」
「ハムレット自体、ないもんな、そんなシーン」
「だ、だから、こういうことは稽古の後にして」
「そんな溜め込んだまま稽古できるのか?」
「……」
「お互い満足してから、じっくり稽古に取り組めばいいだろ?」
 言いながら、湊は俺の寝間着のボタンを外しに掛かる。
 抵抗は出来なかった。
 湊の言う通りだったから。
 きっとこのままじゃ、本当にすることばっかに気を取られて稽古どころじゃなくなりそうだ。
 はらりと寝間着が床に落ちる。
 俺は台本を一度傍にあるテーブルの上に置いた。
 その間に、湊は履いているズボンと下着を脱いで裸体になる。
 いつみても良い身体だ。
 前よりも腕の筋肉がしっかりしてきているような気がする。
 アクション映画の出演が決まって、今まで家で体力作りをしていた湊も、トレーナー付きのジム通い
を始めていた。
 湊の手が腰に回ってくる。そして、俺の尻を撫でながらズボンを下に下ろす。
 完全に勃ってしまっている俺自身が現れて、かなり恥ずかしい気持ちになる。
 やめろ、と言いながらも、こんなになっている自分が情けないというか。
 俺がこいつにどうしようもなく欲情しているのが、これでばれてしまうわけだし。
 だけど、湊自身もしっかり硬く、屹立しているからそれはお互い様なんだけどな。
 湊自身が俺自身にこすりつけてきた。
 あ……湊の熱い。
 独りでに腰が動いてしまう。
 快楽を求めようと、俺自身もまた湊にこすりつけて。
 そのままの状態で、傍にあるソファーに押し倒された。
 性器を擦りあい、お互い透明な先走りが滴り、それが絡み合ってぬめる感触がますます刺激になっ
て。
 その時、湊の長い指が俺自身にからまり、親指で先端を押さえつけてきた。
「み……みなと、それきつい……」
「少し我慢しろ」
 言いながらもう一方の手は、俺の後孔にあてがわれ、指二本が奥まで挿入される。
「……っ」
「しばらくしていないんじゃ、少しは慣らさないと駄目だろ?」
「そ、そうだけど」
「指だけでもきついな。初めて抱いた時のこと思い出した」
「そ、そんなの思い出さなくてもいいよ」
 俺はますます顔が熱くなる。
 湊の指がかき回すように、弄くり回してくる。
 一番感じる部分に刺激をあたえられ、反射的に身体がびくつく。
 その間にも俺自身はますます高みに追い上げられ、しかもいかせないように押さえられているか
ら、はち切れそうな状態だった。
 湊の硬くなったものが、あそこにあてがわれる。
「湊……はやく……」
「分かっている」
 湊は頷いて、ゆっくり腰を推し進める。
 久しぶりで、少し硬くなった後ろの入り口を気遣うように。
 だけど、俺はもう前の方ががちがちで、後ろも早く奥まで来て欲しくて。
 湊の首にすがり、気を紛らすかのようにキスを求める。
 唇が重なり、舌が絡み合う。
 あ……駄目だ。
 舌の感触だけで、またいっちゃいそう。
 無意識に涙が滲む。
 泣きたくもないのに、独りでに涙が零れる。
 感じすぎると泣きたくもなるのか。
 これ、演じるときに使えるかな……などと頭の隅っこで考えている俺、やっぱり役者馬鹿だ。
───っ!」
 湊が中で動き出した。
 うわ……激しい!
 俺の中で滅茶苦茶動いているのが分かる。
「あ……あっ、ああ……」
 湊が腰を打ち付けてくる
 部屋の中、濡れた音と身体を打ち付ける音が同時に響く。
 こんなに突かれているのに、痛いどころか、気持ちよすぎて俺はあられもない声をあげてしまう。
 そして今までになく、奥まで湊自身が来た時、俺は硬く目を閉じた。
 だめだ……っ!!
 もう、限界。
 そう思った時、湊が不意に先端を押さえていた親指を離す。
 瞬時に、俺は溜め込んでいたものをすべて解放した。
 湊もまた最奥に、熱い奔流を注いできた。
 俺は後ろも前も、同時に満たされ、何とも言えない開放感と、充足感に一瞬、気が遠のくのを感じ
た。
 
 「……」


 何、この脱力感。
 溜まりに溜まっていたとはいえ、お互い早くいってしまった。
 俺たちはしばらく、ソファーに横たわりながら、ぼうっと天井を見上げていた。
 湊はテーブルの上の台本に手を伸ばし、それを手にとった。
「父と妹の復讐に燃えるレアティーズ。お前がどんな風に演じるのか楽しみだな」
「ああ……俺も早く演じたいと思っている」
「じゃ、さっそくやるか。俺がオフィーリアで」
「こんな裸のままでか?」
「どんな状況でも演じるのが俳優だ」
「裸体は絶対無い。逮捕されるから」
 俺はゆっくりと起き上がり、寝間着に手を伸ばした。
 だけど、それを止めるかのように湊が後ろから抱きついてきて。
「な、なんだよ……」
「稽古の前に、もう一回」
「おい……」
「今の一回だけじゃ物足りない」
「……」
湊が一度で終わらないのは、今に始まったことじゃない。
だけど、今回は稽古もあるし、ここで終わりに───と俺は思いかけていたのに。
けれども、湊の手が俺の首筋を、そして胸の先端を転がしてきた。もう、そんな所を触られてしまった
ら、俺自身もまた硬くなってきてしまう。
「あと、一回だけだからな」
 そう言って、俺は湊の身体に重ねるよう、ソファーに身を沈めた。

結局何だかんだで、俺たちは三回セックスした。
それから、ハムレットの稽古を始めたもんだから、身体はふらふら、台詞の声もかすれがち。  
レアティーズが旅に出る前、妹と別れを惜しむシーンでも。
「では行ってくるよ、オフィーリア。いいか、さっき言ったこと忘れるん……いよ」
「はい、この胸の内、しっかり錠を掛けて鍵はそちらに預けておきます───って、そんな声が上擦
った情けない声だと、オフィーリアも心配で寝られなくなるだろ」
一方、湊は涼しい顔で、俺にだめ出しをしてくる。
誰のせいでこんな声になったと思っているんだ!?
あんたが何度も攻めるから、こっちだってあり得ないぐらい高い声が出てしまって、声ががらがらなん
だよ。
大体、何平然としてんだ!?
男は一回いったら100bダッシュしたと同じぐらいの体力消耗に襲われる筈なのに。
計300bダッシュしたと同じである今のこの状態で、顔色一つ変えない湊って一体。
体力からして当分、この人には勝てそうもない。
芝居とか演技とか以前に、俺も体力作りをしなければいけない、と思うのであった。





おしまい        











































































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