「どうしたの?」
「い、いや、その…○○子さんが…アンドロイドだったなんて…」
「ふふ…今の世の中、そんなに珍しいかしら?」
「そりゃまぁそうですけど。」
△郎は手にしていた○○子さんの足を床に置いた。一見正常に見える膝関節部の中には、幾度となく火花を散らしたのであろう、焦げたパーツが点在している。
「△郎君、本当にありがとう。あなたに足を直してもらえなかったら、明日から仕事にいけなくなっちゃうところだったから」
「仕事、そんなに辛いんですか?」
「うん、基本立ち仕事だから」
「…他の関節、大丈夫ですか」
「流石ね…プロの目はごまかせないわ」
「茶化さないでください。それに…もう昔の話ですから」
「ごめんね」
「気にすることありませんよ。それより、他の部分を…ッ!!!?:
俯いていた視線を上げると、そこにはブラウスをはだけたさせた○○子がいた。するりとブラウスを脱ぎ去った後には、純白のブラジャーが残っているだけだ。アンドロイドの中でも最高級とうたわれているであろうSクラスの素体は、艶かしい鎖骨のラインまで完全に再現している。
「あら? 女の子の裸、見るの始めて?」
「そ、そんなこと知りませんから!! って、なんで裸になるんですか!?」
「さっきこけたとき、右肩をうっちゃったみたいなの。元々調子悪かったのに、とどめさしちゃったみたいで…」
目をこらしてよくみると、右肩が小刻みに震えている。肩を打った衝撃で内部の配線が外れたのか、それともショートしたのか? いずれにせよ、肩甲骨ユニットまで取り外し、原因の切り分けをする必要があった。
「…背面の右肩甲骨ユニットを外さないと駄目です。あの、ぶ、ぶ、ぶ、ぶら…」
「構わないわ、あなたが外しても。今の私の手だと、どうせうまく外せないから」
「わかりました…」
女性の下着を脱がせたのは、これが初めてではない。むしろ、この型の下着は手慣れたもので、今では目を瞑っていても外す自信がある。
「背面パネルを開けます。しばらく右肩から先の感覚がなくなりますけど、我慢してください」
「うん。ところで、△郎君、ちょっと聞きたい事があるんだけど…いい?」
「僕が答えられる範囲なら」
特殊工具を使い、○○子さんの背面パネルを開けた。人肌と見分けがつかない外見からは想像できない金属製のフレームと、そこに絡み付くように張り巡らされている特殊繊維製筋肉、人間の神経に相当する微細な配線が現れる。
「あたしの素体(からだ)、Sクラスなのは見てわかるでしょ」
「…はい」
人間と同じように、肩甲骨ユニットの裏へ張り付いている筋肉を工具でかき分け、フレームに接続されている部分から外す。特殊工具を使い、ユニットを固定しているボルトと軟質ファスナーを丁寧に外して行く。
「このクラスになると、メンテナンスが出来る技術者は限られてくるのよね」
「…」
「それに…この設備、予備パーツの数。△郎君、君ってまだこの仕事を続けたいとか思ってるんじゃない」
「!」
僕は思わず手を止めてしまった。そして、○○子さんにバレないよう、視線を押し入れにそっと移した。
彼女の推測は当たらずとも遠からず。でも、正解を言う訳にはいけなかった。あの押し入れの奥にある、”もう一人の○○子さん”の存在を知られては非常にまずい。そもそも、まさか○○子さんが本当にアンドロイドだったことを知ったのは、つい1時間程前の事だったのだから。
「ふふ…図星?」
「そういうことにしといてください」
止まっていた手を強引に動かし、肩甲骨ユニットを○○子さんの右肩から引き抜いた。
「…ひゃんっ!!」
「す、すみません!!」
「もう、変なとこの配線に触らないで」
僕の中指に微妙に引っかかった配線、あれは多分…右胸から伸びてるセンサー系だ。僕は思わず顔を赤らめた。