翌朝、俺は情報保全部のエージェントに連絡を取った。 どうやら一晩中近くで待機していたらしく(近所迷惑乙であります)、迎えの車はすぐにやってきた。 チエはさっさと支度を整え、俺は会社に欠勤届を出した。上司(巨乳)の声が怖ぇ! 昨夜はチエに散々っぱら絞られ、腰が抜けそうだったが(後ろの穴癖になっちゃったらどうしよー)、 なんとか出国まで見送る事ができそうだった。 俺達は情報保全部の黒塗りのオッカナイ車に乗せられ、某市郊外にある、アサカ社所有の 研究所に連れてこられた。 こういう場所には営業で何度か来たことあるが、薬品臭いというか何というか、 まぁ技術研究室だからしょうがないけど。 んで出てきたのが、これまた薬品臭い白衣来た技術者達。 恐らくは一連の事件の所為で3日くらい寝てないのかもしれない、顔色は酷いものだった。 だが彼らは俺達(正確にはチエの)顔見て、途端に目を輝かせた。 「おお!噂のタイプ1005だ!」 「コハル事件のヒーロー!よく来てくれました!」 「ボディの具合はどうだい?チセへのフォーマット書き換えは私がやったんだぞ」 うるせぇ。 「やかましい連中だな、こんな連中に私の体を触らせたのか」 初めてチエと意見が合いましたー! まぁ何はともあれ、こんな所にチエを連れてきたのにはちゃんと理由がある。 「今度のは凄いぞぉ〜、我が研究部の最高傑作と言って過言ではない」 「男のロマンって奴?」 ロマンでもマロンでもいいけど、うざいテンション何とかしてほしいぜ。 やがて研究員の一人が、倉庫の奥から白いシーツを被った何やらを運んできた。 高さは丁度小学生くらいか…まさか… 「アサカ社人型機器技術開発部の最新試作機!」 某青狸型ロボットのサブタイトルシーンみたいな音はしなかったが、研究員のノリはそんな感じだった。 かくしてシーツの中から現れたのは、銀髪ツインテールのょぅι゛ょ型メイドロボ…今のチエのボディを 完全に人型にしたような素敵ガイノイドだった。 男のロマン万歳!じゃなくてだな、こいつらこんな法律にふれちゃいそうなシロモノせっせと作ってたわけ? 最高だ! 「何の冗談だ?」 チエが凄く怖い顔で、自分と瓜二つのおにんぎょさんにガンつけてます。何てエロい光景だ。 「そのまま腕組んだりキスしてみてもイインだぞ?」 うっかり声に出して言ってしまったため、チエの鉄拳制裁×4を受けてあっさり撃沈される俺を尻目に、 さっきから黙ってた情報保全部のエージェントが説明を始めた。 「中国政府は○○省××村での集団中毒事件に対する、陸自の人道復興支援一切を突っぱねました。 もちろんこれは表向きで、我々も彼らも、この事件の原因が盗まれたタイプ2557によるものである事を 知っています」 はいはい、超分かりやすい解説。 表向き: 人民解放軍「日帝軍国主義者の置き土産で我が人民は苦しんでいる」 防衛省 「さーせんwwww救済支援するから簡便ねwwwwww」 人民解放軍「我が国人民は軍国主義者の手助けを快く思わない、資金面での賠償と謝罪を要求する」 防衛省 「wwwwちょwwwwwおまwwwww」 本音: 防衛省 「人ん家からモノ盗っといて、始末しきれなくなったら金よこせだ?ええ御身分ですのう…」 人民解放軍「い、いや…もとはと言えばそちらが作ったガイノイドが暴走したわけで…」 防衛省 「盗んだのは御宅やろ、われコラ、すぐ返せや国防機密の塊やぞ…それとも何か、返しとないか? なんならわてら直に行ってもええねんぞ?」 人民解放軍「いや、我が国人民は国民感情的に自衛隊の入国は…」 「という事ですので、サエキさんのタイプ1005には、NGO所有の人命救助ロボットとして中国に入国して頂きます」 「チエです」 「はい?」 「家のメイドはチエという名です、型番なんかで呼ばないでください」 「はぁ」 このエージェントのニヤケ顔がすこぶる気に障るので水を差してやった。 元はと言えば、こいつらがコハルの管理を怠ったのが原因だろ。 「話はわかった、ただし一つ条件がある」 チエのセリフに驚いたのは研究チーム連中だった。 自分らの作った炊飯器がいっちょまえに“要求”を出してくるのはさぞ仰天だろう。 家のチエはただのメイドロボじゃない。甲斐性なしの俺との生活と、三原則とのジレンマの カオスの中で、遂に自我に目覚めた、恐らくは世界で最初の家電製品だ。 つまり、俺のおかげって事だな! 「腕は4本にしろ」 いやぁああああああああああ! ××村から10q地点。リサイクル工場に対する制圧作戦の拠点となる臨時前哨キャンプが設置されていた。 リ中佐は大きなアンテナの据え付けられた仮設テント内で、モニター越しに上官と会議中であった。 『酷くやられたようだな、リ中佐』 「部下と015式戦甲者を3両やられました、もっと情報があれば、このような事にはなりませんでしたがね」 『その発言は、党への不満かね?』 「事実を言ったまでです閣下」 『まぁ、そういう事にしておこう…貴様の欲していた情報だ、電子戦部がオリジナルの特定に成功したそうだ』 それを聞いたリ中佐は、頬をつり上げて不敵にほほ笑む。 プライドの高い彼にとって、今回の失態は大きな汚点だったが、その分徹底的に礼をするつもりだったのだろう。 「では、早速第二陣を…」 『残念だが、時期を逸したようだぞ中佐』 「は?」 しかし彼の喜びは、将軍の一言で水の泡となってしまった。 将軍は声を落とし気味に続けた。 『今は一人か』 リ中佐は周囲を二度三度見渡す。 「…私だけです」 『口外するなよ…党公安部から通達があった、日本陸上自衛隊のトップが、外交筋を通さずに 我が軍に接触を図ってきたそうだ』 「日帝のトップですか…するとあの人形共は…なるほど、やっと筋が通りましたよ。 単なる侍女人形が、あんな高度な戦術行動を行えるわけがありませんから」 『3年前の日本での事件…我が軍は問題のガイノイドが、例の事件の際回収された物と同じ 筐体であると認識した。中身は日本防衛省のホストコンピュータから盗み出された、 無人兵器自律制御プログラムだそうだ』 再びリ中佐の顔に笑みが戻る。 この状況を楽しんでいるのが、心底見て取れる様だった。 「連中は何と言ってきているので?」 『“旧日本軍の置き土産である化学兵器は、我々が責任をもって処理する”だそうだ』 「受けるので?」 『突っぱねたよ…だが今度は“NGO団体を通じて平和的に処理しよう”と来た。 “民間所有の人命救助ロボット”が、明日の夜には重慶江北国際空港に到着する… まぁ、殺し屋と見て間違いないだろう』 将軍はこの時になってようやっと、リ中佐の笑みに気付いた。 『面白いかね?』 「は、久々に歯応えのある相手のようですな」 『直々に出迎えるかね』 「えぇ、是非…」