「おい、起きろ」
俺の心地良いまどろみを切り裂く、柔らかい声。
某有名声優の超萌えボイスだが、その口調は心底冷たい。
「起きろと言っている」
この後は確か「起きろ肉団子」「さっさと飯を食って稼ぎに行け」「穀潰しめ」だったか。
ふふふ、ナメンナよ。こちとら伊達に凶悪メイドロボと同棲してるわけじゃない。
この程度で起きるもんk
ギュイイイイイイイイイイイイインンンンッ!
「はい起きます」
目の前に唸る丸ノコが迫ったあたりで、俺の空しい抵抗は終了した。

朝チュンとはよく言ったもので、窓の外では可愛らしいスズメのツガイが乳繰り合ったりなんなり、
とても気持ちがよろしい。
「もう少し大きけりゃな」
我が家の最凶メイドロボは、あの可愛らしいスズメを食材的な意味で見ているご様子です。
本当にありがとうございました。
今朝の朝食は厚焼き卵とシメジの味噌スープ。あと大豆を発酵させた物とアジの開き。
おぉ、これを作ってくれたのがボインのねーちゃんならどれだけ良かったろうか。
「5分以内に平らげろ、残すことは許さん」
四本腕で俺を指差すのは、白髪ツインテールの可愛らしいメイド服着たょぅι゛ょ…の上半身に
ガンタンクとロボットアーム四本くっつけた物体X的なメイドマッスィーン。
アサカタイプ1005チエ…えー今は故あって少し新型でキモ…特殊な形状のアサカタイプ2005チセの
ボディを使用しています。
はい、元炊飯器です。
作る飯は最高に美味いのだが、性格にかなりの癖があり、こちらは毎日スリリングな生活を送っています。
「いただきます」
顔は良いんだ。後声も。
昔は完全に炊飯器でこの性格だったからな、贅沢は言うまい。
「貴様の貧しい収入をやりくりして作った朝食だ、ぞんぶんに味わえ…後4分36秒以内にな」
ごめんなさい性格もなんとかしてください。
チエはリモコンを操作し、立体テレビのチャンネルを神聖なるNHK様から騒がしい民放の朝番組に合わせた。
若手芸人が朝から鬱陶しいテンションで画面に映るのは、心底不快極まりない。
『今朝の目撃DQNはこちら!じゃん…アナタの携帯電話は大丈夫?電子産業の裏事情!』
朝から何ちゅう番組流してんだ。
「チャンネル変えろよ」
チエは黙ってテレビの方を見ている。こいつの暇つぶしと言えばネット徘徊かテレビだ。
おかげで要らん知識ばっかり集めて、たぶんこいつ一台で戦争できる…いや、まじで。
『今、日本製の中古精密機器の多くが、中国などの国外に流出しています。その目的は
半導体などに使われているレアメタル…』
画面には中国の田舎特有の小汚い建物と、山積みになった家電製品やらガラクタやらが映っている。
『中にはこんな物も…』
いきなり女の生首映ったので悲鳴をあげそうになったが、良く見ればガイノイドの頭部だった。
まぁ、イイ気分じゃない事に変わりはない。

『日本製のロボットは特に高値で取引されるね。材質がいいから…』
画面に映っている中国人の下に流れる字幕を追いながら、俺は朝飯を味噌汁で流し込んだ。
ふと、チエの表情を窺う。
「なんか気になるか」
「…」
チエは無言だった。
切れ長の目を刃物のように鋭く尖らせた表情は、俺が今の一度も見た事のない、キミの悪い様だった。
「チャンネル変えろよ」
「そうだな」
テレビのチャンネルが切り替わる瞬間、ガラクタの中に見覚えのある顔が映ったような気がして、
どうも気持ちが悪かった。
チエはテーブルの食器をせっせとシンクに放り込み、同時に洗濯機を回し、同時に布団を庭に干し、
同時に掃除機をかけ始めた。
いやっほーう、超高性能メイドロボーかっこいいー!俺の股間は全然反応しませんがね!
そんな俺の心中を見抜いたか、チエは玄関で靴を履く俺の背中に冷たく放った。
「間違ってもソープになぞ寄るなよ主人」
「いいぇっさー!」
ふふふ、行くなと言われて引き下がる俺ではないわ。


「リ中佐、出頭しました」
「御苦労」
中国人民解放軍陸軍、某基地。
オフィスの一室で、オリーブ色の物々しい軍服を着た男二人が対峙していた。
敬礼している、やせ形で冷たい目つきの男は中佐の階級章を付けている。
両肩にゴテゴテと肩章を蓄えた、小太りの将軍は、リ中佐の方を見もせず、ただじっと机の
ディスプレイを見つめていた。
一しきり映像が終わると、小太りの将軍はリ中佐の方に向きなおり、手を組んで小さくため息を吐いた。
「何故呼んだかわかっているな」
「は、例のリサイクル施設での騒動と認識しておりますが」
「武警の一個小隊が制圧に投入された、一時間前だ…」
机のディスプレイが回転し、リ中佐の方を向く。
映っているのは、武装警察のヘルメットに取り付けられた、カメラの映像だった。
『ガイノイドを確認しました…制圧します』
メイド服を着たガイノイドが、ガラクタの中で座り込んでいる。
武装警察は銃口を向けたまま、背後から油断なく近づいていったが、ガイノイドが振り向いたとたん、
その手の中にある物を見た隊員が悲鳴をあげた。
『なんてことだ!人殺しめ!』
ガイノイドが手にしていたのは、まだ血の滴る人間の頭部だった。
錯乱した隊員が銃を乱射したのか、画面はオレンジ色の炎で覆い尽くされ、その炎の向こうで
ガイノイドは穴だらけになって行く。
『隊長!周辺全方位に動体反応!味方識別信号ありません!』
『一体じゃなかったのか!?』
『囲まれてるぞ!』
画面の景色が次々に移り変わり、先ほどスクラップになったのと同型のガイノイドの姿が、
一つ、また一つと映し出されていく。
『本部!数が多すぎます!本部!』
その後の映像には、ただただ赤い光景が映し出されていた。
聞こえてくるのは怒号と銃声、そしてガイノイド達の不気味な声。
『千客万来、熱烈歓迎、千客万来、熱烈歓迎…』
ひと際大きな悲鳴の後、映像は途切れた。
「酷いですな」
リ中佐は顔色一つ崩さない。
彼にとっては、相手がガイノイドであろうが、地方自治区の少数部族であろうが大差ないのだ。
「お任せください…なに、イカれた人形等、すぐに退治してみせますよ」


帰りが少し遅くなったが、仕方ない…えぇ、今日は「エリー」でしたよ?
間違っても石鹸の匂いを解析される事のないよう、ちゃあんとコンビニで買った安い石鹸を
使ってくれる気の利いた子です。
「御帰り主人、貴様の携帯電話のGPSは衛星経由で逐一トレースさせてもらった、言いわけは無用だ」
「大変申し訳ございませんでした」
どっかの政治家みたいにその場に土下座する俺を、チエは無表情で見降ろしてくる。
無表情なのが怖いんだよ!
「いやね、同僚との付き合いってやつもあだだだだだだだだ」
チエが四本アームで俺の四肢を掴み、そのまま逆さまにしてぐいぐいとアシュラバスターですねわかります。
「言いわけは無用だと言ったはずだ肉団子」
肛門裂けたっぽい。
ようやく解放された俺の背後で、立体テレビのバラエティ番組が夜間らしく素敵なプログラムを流している。
『夫の帰りが遅いと思ったことはありませんか?』
『家は大丈夫です。もう外出る時は枯れた状態ですから浮気は無理』
『HA−HA−HA−HA−HA!』
民放のド畜生め。
物凄く嫌な予感がしたので、俺は足音を立てないようその場を離れようとしたが、見事に
チエのアームに首根っこを押さえられた。
振り向くとチエの奴、体はテレビの方で頭だけ180度俺の方見てやがんの。どこのホラー映画ですか。
「落ち着けチエ…話せばわかる、そして放して」
「議論の余地はないようだな主人、貴様にこれ以上浪費させないようにするには、
残念ながらこの方法しかない」
「うん、お前は大きな勘違いをしている、そして放して」
「服を脱げ、たまっているなら抜いてやる」
チエはアームをクイクイ卑猥に動かす。
これがちゃんとしたおにゃのこならスーパーフルボッキタイム発動ですよ?
でも相手は物体Xで、オマケに今日はもうスッキリした後なんで立つわけがない。
「ふふん、なめんなよお化け炊飯器、たかだかネットで調べた程度のエロテクでこの俺様を
攻略できると思っているのか」
挑発されたのがムカついたので、さっさとすっぽんぽんになって、ぴくりともしない息子を
チエの鼻先にぶらさげてやる。
チエは俺のナニをマジマジと見つめた後一言
「何度見ても粗末だな」
だまらっしゃい。
チエはさっそく、ちっこい口で俺をくわえこんだ。
途端に鈴口にざらっとした感触が走る。
「お、生意気に巧い舌使いだな」
「もはっ…黙らんと噛み千切るぞ」
「ごめんなさい」
しゃぶられて謝る俺どうなの。
ぐちぐちと卑猥な水音をたてて、俺の分身を奉仕する白髪ツインテールのRORIメイド(上半身だけ)。
御近所とかに見られたらお巡りさんのお世話になっちゃう系の構図だが、この程度じゃ「エリー」に
さんざんっぱらサービスされた俺の息子は反応しやしない。
生身の人間だね〜☆やっぱ!
「ふふ、口ほどにもないなぁチエよー、俺を枯らすんじゃなかっらめぇえええええぇぇっ!」

説明いらないよね。うん。あれは反則だよ。
前立腺直接ブッコまれりゃ、誰だってね。

「うぅ、うぅぅ…汚されちゃったょぅ」
「みっともない声を出すな」
うつ伏せのまま尻を押さえた恥ずかしい姿勢の俺を見下ろすチエ。
顔だけ見れば白濁まみれでエロゲのヒロインだけどね、表情が完全に素だからどっちが
リョージョクされてんだか、わっかんね。
くやしぃっ…でも…
「ほれ、続きだ駄犬…その粗末なモノが本当に使えなくなるまで、たっぷり付き合ってやる」
チエはマニピュレータの先で白い糸を伸ばしたり縮めたりしながら言った。
このドMホイホイめが!

20分後、ベッドの上で完全に枯渇している俺を尻眼に、チエは絞り取った分をパック詰めにして
洗面台に持っていった。
気だるい視線を横に移し、立体テレビを見やる。
臨時ニュースのようだが、どうも内容がはっきりしない。
『えぇ、こちら中国○○省東北部の山村から10キロ地点の上空、中継ヘリからの映像です…』
映像といっても駄々ぴろい中国の山岳地帯と、報道ヘリを威圧するように飛ぶ、黒くてバカでかい
軍用ヘリが映るだけでなにが言いたいのかわからない。
『ごらんの通り山村の周囲は地上上空共に、広範囲に渡り人民解放軍によって封鎖されています!
中国共産党政府からの発表は依然としてないまま、各国の報道機関も現場に近づけない状態が続いています!
いったいここで何が行われているんでしょうか!』
気がつくと、チエが洗ったばかりの髪をぼさぼさにしたまま、バスタオル一枚でベッドの横に立っていた。
畜生、これで体全部人型だったら喜んで絞り取られてやるのにな。
「チエー」
チエは映像をじっと見つめたまま答えない。
その目付きは、今朝と同様刃物のような鋭さだ。
「なぁチエー、聞いてる?」
「なんだ」
「ガイノイド型に魔改造しよーぜ」
「寝ろ」
「はいはい」
これ以上言うと鉄拳制裁されそうなので寝る事にした。すげー疲れた。

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