次の日。曇り空の放課後。 「どうしたんだよ。弘樹。今日は静かだな」 「別に……」 帰宅部連中と一緒に校門をくぐる弘樹。 友人の言うとおり、朝から彼はずっとふさぎ込んでいた。 「姉ちゃんとケンカでもしたか」 図星。 「そ、そんなんじゃないって!」 ムキになるのが証拠だった。 「あー、そうかそうか」 「やれやれ。それでこの塞ぎようかよ。まったく……」 「だ、だから違うってば!お姉ちゃんなんか……あ」 その時、ポケットの携帯が震え出す。この着信は……。 「あ、あ。ちょ、ちょっと用事思い出した……。じゃあね!」 あたふたと、逃げるように立ち去る弘樹。 「なんだよ、あれ」 「ほっとけほっとけ。どうせ愛しのお姉さまからじゃねえの? あー、うらやまし」 少し走って小道に入る。 以前は普通の携帯だったが、しばらく前から瑞希のメンテナンス用にPDAも兼ねた 学生が使うにしてはゴツい代物に変えていた。 その画面に浮かぶ文字。 『いっしょにかえろ▽』 もちろん、姉からのメール。 弘樹は、少し悩んでから返信を選んだ。 学校から少し離れた路地裏。 待ち合わせの場所へ近づくと、背の高い、立っているだけで目立つ美少女が 俯いている。 弘樹の足音に気がつくと、ぱっと輝くような笑顔になった瑞希が全速力で駆けてくる。 「ヒロくぅん!来てくれたんだねっ!」 そのまま有無を言わせずむぎゅ、と弘樹を抱きしめる。 この体制になると、背の高さから丁度、弘樹の顔が瑞希の胸に埋まる形になる。 「お、おね……も、もうっ!」 真っ赤になりながら、離れる。 本当に、最近姉はおかしい。 「あ……。つい……。き、昨日は、その……ごめんね。あのときはちょっと……ね……」 ふぅ。とため息をつく。 「もういいよ、お姉ちゃん」 「……でも」 「いいよ。帰ろ」 自分でもちょっと冷たいかな、と思いつつそっぽを向いて歩き出す。 「……うん」 無言のまま、歩き続ける姉弟。 普段はバスで通う距離を歩くと小一時間かかる。 「……」 「……」 まして、暗い足取りで歩いているとその時間が何倍にも感じられる。 「ヒロくんっ!」 「お姉ちゃん……」 間が悪く、同時に呼びかける。 「え、えと……なに?」 「お、お姉ちゃんこそ……何」 「い、いいよ……ヒロくん先で……」 「……だったら。お姉ちゃん。体、大丈夫なの?」 「え?」 「本当に心配なんだよ。僕。だって、人間と違ってお姉ちゃんはほっといたら 治らないんだよ?故障はちゃんと修理しないと、壊れちゃうよ」 「だ、大丈夫……だよぉ」 「ウソだ!絶対どっか故障してるよ!それなのに……心配してるのに……僕のこと からかってる……」 「え……」 「そ、そりゃ。僕は子供みたいだろうけど……それでも、それでも……」 「あ……ち、ちがうよぉ……」 「お姉ちゃんなんか……お姉ちゃんなんか……」 瑞希は動揺していた。 違う!違うの! 心が叫ぶが、音声回路が働かない。 弘樹の次の台詞も予想がついた。 いや。その言葉だけは聞きたくない。そんな言葉を聞いたら、それこそ壊れてしまうかもしれない。 「い……ゃ……」 瑞希の目に涙が溢れそうになる。 その時。 ぽつ、ぽつと水滴が落ちてくる。と、おもう間もなく一気に雨量は増加する。 「うわっ!」 「きゃっ!」 スコールに会話を遮られる二人。 「お、お姉ちゃん、傘持ってない?」 「きょ、今日はもってないよ!天気予報晴れだったんだもん」 「あ、あそこ!あそこ入ろう!」 二人は弘樹が指さした、ブルーシートで覆われた無人の工事現場に駆け込んでいく。 建築中の鉄骨が立てかけられた横に、二人で駆け込む。 「あーあ。びしょびしょ……」 「すごい雨だね。お姉ちゃん……。っ!!」 瑞希を見ると、ずぶぬれのブラウスはくっきりとボディラインを写し出して、なんとも 大変なことになっていた。 「??」 「お、お姉ちゃん……は、はっくしょっ!」 頭と股間は火照っていても体は冷えたのか、おおきなくしゃみが工事現場に木霊する。 「ダメだよ!ヒロくん、そんなかっこじゃ風邪ひいちゃう。上脱がなきゃ」 「い、いいって!」 「ダメ!早く脱いでっ!」 「わ。わわわっ!」 瑞希は弘樹を捕まえると、ボタンを一つずつ外し始めた。 「な、なな、なっ!」 「じっとする!お姉ちゃんにまかせなさい!」 「は、はい……」 そのまま、瑞希は自分のブラウスも脱ぎ捨てて、ブラジャーにスカートだけになる。、 硬直して声も出ない弘樹をぴと、と抱きしめる。 「体温、上げるね」 (や、やわらかい……) たわわな二つの半球に包まれた弘樹は失神寸前だった。 小さな作動音が、胸の奥から聞こえる。 興奮で上がっている自分の体温。 自分を暖めるための姉の体温。 飛びそうになる意識の中、姉の心配そうな声が響く。 (ああ……そうか……。お姉ちゃんは……天然なんだよなあ……) ある意味人間以上に人間らしい瑞希だが、ロボットには違いない。 メンタルな面でちょっとアレとか羞恥心とか、そのあたりが抜けているのは仕方がないのかもしれない。 そう言うことをきちんと教えてやるのも自分の役目では無かろうか。 この……常識はずれで、可愛くて、とんちんかんで、とてつもなく愛おしい、世界でたった一人の姉に。 「おねえちゃん……ごめんね……」 「……」 「僕……さっき、酷いこと言おうとした……」 「いいの……いいんだよ、ヒロくん。大好きだよ」 「僕も……大好きだよ。でも、ちゃんと次のメンテでしっかり見てもらってできればオーバーホール してもらってね……」 股間は膨らませながらではあるが、真剣に姉のことを案じていた弟とは裏腹に、姉の方はすっかり 舞い上がっていた。 (嫌われてなかった!大好きだって!うれしいよおお!それに、それにっ!夢中で気がつかなかったけど、 私の胸!胸にっ!ヒロくんのあたまがっ!) きゅん、と胸の奥がうずくような感じ……というか、本当に胸の奥がうぃんうぃんとうごき、乳房が張り始める。 ちょっと、手に力を込めて弘樹の頭をずらすと、快楽信号が体を駆け抜けてくる。 (あうんっ!きもちいいよっ!しあわせっ!) 「……ちゃん、おねえちゃん?」 「え?な、なぁに?」 すっかり発情モードに入って、声が耳に入らなかった。 「そ、そろそろ……あついよ……。放して」 「ええー。……ちぇ。」 「もう、そういう風だから怒ったの!だめでしょ。そんな恥ずかしいコトしちゃ」 「だ、だってえ……誰もいないしいいじゃない」 「そういう問題じゃ……え?」 ぐらり、と足下が揺れる。。 「わ、じ、地震!」 かなりの揺れだ。 弘樹がふらつく。 同時に背後の鉄骨が滑り、弘樹めがけて何本か、倒れ込んでくる。 それほど大きなモノではないが、合わせたら数百キロはあるだろう。 「うわあああああっ!」 死んだ。 と思って目をつぶる。 しかし、痛みも衝撃もなにもなかった。 おそるおそる、薄目を開ける。 そこに飛び込んできたのは、弘樹をかばって鉄骨を支え、歯を食いしばる瑞希だった。 瑞希の全身のアクチュエーターは、最大出力にすれば人間の10倍以上のパワーを持っている。 だが、そんな力をつかえばフレームの方を痛めたる恐れがあるため、通常時には最大で人間の 倍程度になるよう、リミッターがかけられていた。 リミッターは瑞希自らの意志で外せない。それには本来人間の手による操作が必要だった。 しかし、今の瑞希は、最愛の人を救うため、本来使えないはずの力を意志の力だけで発揮していた。 いわば、火事場の馬鹿力であろう。 「お姉ちゃん!」 「ひ、ヒロ……くん……はやく、逃げて……」 やはり、長くは持たない。 不安定な出力では支えきれそうにない。 なんとか弘樹が這い出すまでは支えなくては。 おそらく、自分はつぶされるだろう。 その時にAIが破損すれば……死だ。 でも、上手くすれば修理可能な損傷ですむかもしれない。 たとえバラバラになったとしても、弘樹がそうなるよりはずっとマシだ。 「大丈夫、お姉ちゃんは壊れても、修理できるから……おねがい……逃げて……」 「い、いやだ!お姉ちゃんも逃げなきゃ!もっと力でないの!?」 「パワーリミッターを……切らないとだめ……。それまで持つか……わかんない……くっ!」 鉄骨がすこし下がっていく。 「リミッター……ちょ、ちょっとまって!マニュアルで調べるからっ!」 携帯を取り出してマニュアルを呼び出す。 「たぶん……これで……え!ち、ちがうの?」 「リミッター……私も切ったことなんか無いから……どっかわかんない……お願い、早く逃げて…… お姉ちゃん、お姉ちゃんはヒロくんが……大事なの……う……」 「胸部メンテナンスハッチからの操作、って書いてある!どうやって開けるの! ……、きょ、きょ、きょうぶ、ってひょっとして……」 ブラジャーにつつまれた、大きな二つの膨らみを見つめる。 「……ひ、ヒロくんなら……いいよ……。開けて……」 「わ、わかった、わかったけど……ご、ごめん!お姉ちゃん!」 そう叫ぶと、弘樹はブラジャーのフロントホックに手を伸ばして外していく。 やわらかい、暖かな感触が伝わり、ぷるん、と揺れながら乳房がむき出しになる。 「……!!!」 二人の命に関わる緊急事態ではあったが、弘樹の股間も爆発寸前だった。 確かに、童貞高校生にはあまりの刺激ではあるが。 「み、み、右の……その、乳首……そこ、スイッチだから……。おへその時と同じに回してから押し込んで」 「う、う、うっ、うん!!」 震える手で、尖った乳首を摘む。 注意してみないと解らないが、乳輪と乳首の間に溝があり、独立したパーツになっているのがわかる。 金庫を開くように、クリ、クリと左右に回すと、乳首から内部の機構を動かす感触がかすかに伝わってくる。 その動作は、胸部メンテハッチの解除キーであると同時に、多大な快楽信号を瑞希に送り込んでいく。 「ひゃっ!ふぁああああ!ひ、ひろくぅんっ!ひあんっ!」 小刻みに瑞希の体が震える。 「ご、ごめん、ごめんねっ!」 最後に乳首を押し込むと、押しボタンスイッチのような感覚と共に乳首が沈み込む。 すると、瑞希の右乳房がモーター音と共に開いていき、乳房よりふた周り小さい 半球状の機構が現れる。 「ふぁあああ……だめぇえ……」 「こ、ここ、これ、開くんだよ、ね……」 銀色に輝く、小さな乳房を開こうと弘樹の手が触れる。 しかし、そこはまさにむき出しの性感帯とも言うべき、センサーの塊だった。 さきほどよりも強烈なピンク色の波が、瑞希の回路を駆け抜ける。 「ひぁあああああああっ!PI、GA、あああん!」 たまらず、ノイズ混じりの嬌声が響き、機械の乳房は音を立てて膨らんでいく。 「そ、そっと……そっとひらいてえ……」 「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」 手が震えてうまく動かない。 その震えさえも快感に変わって瑞希を貫く。 「あぅんっ!ふぁあああっ!BEEEP!だめえっ!」 回路が焼けそうに熱くなって、瑞希の股間が濡れていく。 女性器ユニットが音をたてて動いている。 開いた裏側になって、弘樹からは見えない乳首がぴく、ぴくと動いている。 股間の滾りが雨水にまみれて目立たないのが救いだろうか。 弘樹が自分の胸を、まさぐっている。 その事実だけで意識が飛びそうになるのに、胸のセンサーから 送り込まれてくる刺激で腰がくだけそうになっていた。 でも。 絶対に、鉄骨を支える手は動かさない。 たとえ、この体がバラバラになっても弘樹だけは守る。 その想いが、瑞希の腕のアクチュエーターを全力で駆動させていた。 弘樹も姉とそっくりな状態だった。 一瞬でも早く、リミッターを解除して楽にしてやりたい。 そう思って必死に胸を開こうとするが、興奮と震える手で操作がたどたどしくなる。 どこかに触れる度に響く嬌声でますます作業が遅れる。 そして。 弘樹の股間も限界だった。 とっくに先走りったものが雨水と混じり、その先にあるものも時間の問題となっていた。 「お、お姉ちゃん、ひ、開いた……よ、操作は……」 機械の乳房がさらに開き、携帯のものと似た、小さな液晶パネルと回路が胸から覗く。 「え……ここんな操作……。ご、ごめん、お姉ちゃん!もうちょっとだけ我慢して!」 「ど、どうしたの……。や、やぁんっ!あああああっ!!!」 弘樹は尖った姉の左の乳首を摘むと、小刻みに上下に動かし始める。 それに合わせてパネルのカーソル表示が上下していく。 「!!ひゃんっ!ひゃんっ!ひ、ひろくぅん!おねえちゃん、おねえちゃん、だめになっちゃうよぉ!あひぃ!」 「ご、ごめん。ごめんねっ!これがスイッチなの!もうちょっと、もうちょっと……うぁあああ……ぼ、僕も だめ……」 股間に熱い波が押し寄せる。 「ひ。ひろ、ろ、ろ、くぅんっ!おねえちゃん、おねえちゃん、もう、だめえええ!だめになっちゃううう! きもちよくて、きもちよくて、こわれちゃうよお!」 「おねえちゃん、おねえちゃん、いくよっ!」 カーソルを「リミッター解除」に合わせて乳首を押し込む。 その操作が、瑞希にとどめをさし、意識が弾けそうになる。 同時に、弘樹も耐えきれずに欲望を下着の中に吐き出していた。 「ふぁああああああああっ〜!?」 「う……あああっ……っ!」 同時に、瑞希の体に力が溢れていく。 「う……わぁあああっ!」 どん。どん。 轟音を建てて辺りに鉄骨が散乱していった。 「はぁ……はぁ……」 「お姉ちゃん……お姉ちゃん……ごめんね……。ごめんね……」 男と女の臭いが辺りに立ちこめている。が、二人とも自分の発したものは恥じていても、 お互いがながした臭気には気がついていない。 「あ、謝らなくても……いいんだよ。ヒロくん。ヒロくんなら良いっていったでしょ。ありがと……助けてくれて」 「で、でも……」 くす。と笑ってから弘樹を抱きしめる瑞希。 胸の中の回路とパネルが弘樹の目にアップになる。 「……お姉ちゃん。ロボットだよ。ううん。お姉ちゃんじゃない。私は弘樹さん、マスターの所有物です」 弘樹の顔が凍り付く。 「や、やめてよ!そんなしゃべり方!」 「……ごめんね。ヒロくん。基本設定に従うとこうなっちゃう。 でも、私は……ヒロくんの家族になって。こんな格好だから「お姉ちゃん」になった。 もっと幼いかっこだったら、妹だったかもね。でもね。それで……この体があって。 ヒロくんにお姉ちゃん、って呼ばれて……私は、私、青島瑞希になれたの」 「……」 「それでね。最初は「弟」として見ていようとした。今でも……基本はそうよ。 でもね。それだけじゃ処理できない感情が……できちゃった。……私は。ヒロくんを。 一人の男の子として。愛しています」 「……お、おねえちゃん……」 「マスターとして。弟として。男の子として。全部好き。ヒロくんのことが好きで好きでたまらなくて、故障 しそうなくらい好き」 「お、おね……おね……」 「すぐにはとは言わないけど……前向きに考えてくれると嬉しい、な。丈夫で長持ち。 ずっと面倒見ちゃうよ?……あ、面倒見てもらっちゃうのかな、あは」 「おねえちゃん……僕も……だい……すき……」 そこまでいうと弘樹は真っ赤になって……気を失ってしまった。 「ああああっ!しっかりしてぇ!ヒロくぅんっ!」 雨上がりの工事現場に、日が射し込んでいった。