家に届いた女性型の介護ロボと初めて過ごす夜。俺は、やたらとドキドキしていた。 俺は老齢ではないし、何か日常生活に支障を来たす病や怪我や障害を負ってるわけではない。 なのになぜ大学生の一人暮らしのアパートに介護ロボがいるかというと、懸賞が当たったのだ。 安酒でベロベロになりながら気まぐれに書いた葉書が当たるとは、世の中怖ろしい。 ふにゃふにゃの字が、介護が必要な青年が一生懸命に書いたと判断されでもしたのだろうか。 だとしたらちょっとだけ申し訳ない話だった。 とにかく、一人暮らしで年頃でヒャッハーな大学生男子の元に、女性型の介護ロボがいる。 素朴で美しい親近感の湧きやすい顔立ちと、黒髪を三つ網にした清楚な佇まいは、老人ウケが良さそうだ。 そんな冷静な分析も出来るナイスガイな俺様だけど、もう一方では困り果てていた。 ロボットやらアンドロイドやらの知識が無い俺にとって、このロボは人間の女の子同然だったのだ。 彼女を起動してから眠るまでの時間は、そこはかとなく地獄だった。 どう接していいかわからず、相手も介護の必要のない相手にすることがなく、気まずい沈黙が続いた。 指示を待つようにこちらをジッと見つめ、ふわりと微笑んで小首を傾げる姿に赤面した自分が恥ずかしい。 へらへらりと笑顔を返した後に壁に頭を打ちつけ、その様子を困惑気味に見られたのも痛い思い出だ。 時間を持て余すことが予め考慮されているのか、彼女は静寂の中で過ごす佇まいが異常に美しかった。 聞いてみたら余暇に編み物や読書もするらしい……きっと、製作サイドが異常に力を入れたに違いない。 こんなロボに介護されたらそりゃお年寄りも大満足で大往生間違いなしって感じだ。 とにかくグッとくる感じの女の子と最初に過ごす一夜。緊張しないわけがない。 まだ名前を決めていない介護ロボは、コンセントを差し、椅子に座って、スリープモードに入っている。 ドキドキしまくってる俺は彼女を視界に入れないように背を向けてベッドに横になるが、目は冴えていた。 ロボの知識なんて全然ないせいで、背後に座って眠るのは、人間のようにしか感じることができなかった。 それも、黒髪で、清楚で、苦しんでいる老人や障害者に、献身的な介護を行う天使のように優しい女性だ。 そんな素敵すぎる彼女が、どんなわけか俺の家に転がり込み、共に生活することになってるわけで。 そんな風に考えたら、それなんてエロゲ? という感じの精神状態にならないわけがない。 すげえやらしいことしたい。抱きついたりしたい。スカートの中に顔突っ込んでクンカクンカしたい。 ベッドの上で丸まってる俺ですが、チンコはギンギンです。それが何か? と逆ギレしたいほどだった。 時は流れて深夜二時。 葛藤に疲れた俺はなんとか深呼吸を繰り返して性的な欲求を鎮め、明日に備えての睡眠を選択する。 そうして、やがて、やっとうつらうつらできはじめたとき――背後で微かな駆動音がした。 軽く柔らかそうな手が、そっとベッドで眠る俺の身体に触れて、ゾクゾクッと甘美な震えが走る。 (ちょっ、なっ!? 夜、夜這い!? やべーってマジそれやべーって!!) 突然の展開に涙目になり、再びギンギンになったちんこを隠すようにギュッと丸まる。 だというのに、そんなこちらの怯えに構うことなく、布団に潜りこんだ手が俺の身体に触れた。 (なんだこれ、なんだこれ、俺エッチしろって命令してねーのに、まさか察して行動できたりすんの!?) 中くらいの恐怖とドデカイ期待に頭がグルグルになり、身体がカッカと熱くなっていく。 そして俺は、されるがままに。楚々とした美女の甘く優しい手解きによって、眠る姿勢を変えられた。 「…………あの。本当に何してるんですか?」 「その、床ずれがしないように眠る姿勢を変えたのですが……」 語尾を濁したファジーな回答。日本人的な配慮に溢れたAI設計に脱帽。 自分の胸にそっと手を当てて伺いを立てる仕草なんて、健気すぎて涙が出そう。ですが。 「いや、俺別に寝たきりじゃないですから」 「そうですよね、すみません。……………………………………その、お仕事が、ない、から…………」 ベッド脇に正座してごにょごにょと言う介護ロボに困ってしまう。どうにも前途は多難そうだった。おしまい。