俺の家のメイドロボははっきり言って性格が悪い。 まぁ、その性格の悪さが欠陥だったのだから諦めるしかないが・・・ ああ、少しは俺のことについて説明しておこう。 名前は・・・流石に言えんな。 容姿、家柄共に人並みと言っておく。 収入は、普通よりやや多いが会社では安い方だ。 え?なんの会社か? キサラギってあるだろ?ほら、メイドロボの大手メ−カ−だよ。 あそこの支店の営業係な訳だ、俺は。 結構太っ腹な会社でな。 入社するとメイドロボを一台くれるんだよ。 まあ、欠陥品しかくれないけどな・・・ 同僚の中には表情に欠陥のあるのをもらったやつがいてな。 笑顔が作れないって毎晩泣くから金貯めて修理してやったらしい。 修理できるような欠陥はいいが、性格はどうしようもないからなぁ・・・ 「ますた−。飯できたぞ−。早く食べに来んと朝飯抜きだぞ−。」 ったく・・・そういや明日はクリスマスか・・・ 行くとこもないし家で寝ようかなぁ・・・ 「そうそう、今夜毛糸玉八個買って来てくれ。赤を六個と緑を二個で。」 人使い荒いな−も−・・・仕舞いにゃスクラップ回収に出すぞ・・・ 「気にせず行って来る!あ、今夜すき焼きね。」 じゃあ早く帰るか・・・ 「毛糸玉忘れたら食べさせないけど。」 鬼かおまえは・・・ ・・・ああは言ったが、しっかり毛糸玉を買ってしまった・・・ ・・・すき焼きには代えられないとはいえ、 どちらが主人だか分からなくなってくるような行動はやはりすこし悲しいものがある。 「兄さん兄さん!シルバーアクセ買っていかないかい?」 クリスマスイブでも道端には露店商がアクセサリーを売っている・・・ 今年はこれでも買って帰るかな? 去年はケーキを買って家がひっくり返るかと思うほどどなられたが・・・ これならあいつも喜ぶだろう・・・たぶん。 ・・・このネックレスをくれ。 「兄さんお目が高いねぇ!そいつはざっとこのくらいだ!」 おいおい!ンな値段だったらそこの宝石屋でブローチ買った方が安いぜ!?高すぎる!このぐらいにまけろ! 「それじゃあ今度はオレがまいっちまうよ!このくらいだ!」 んな・・・ネックレス一個がなんでそんなに値が張るんだよ!せいぜいこの辺が相場だろ!? 「ウチの商品は特別製なんだ!この値段!これ以上はお釈迦様にだって値引きしないぜ!!」 ・・・・・・・・・・気分が重い。ダンベルを背負って歩いてる気分だ。 結局普通のネックレスの二倍の値段で売りつけられちまった・・・ オマケに指輪まで買わされたし・・・ アイツが知ったらどんな顔するかねぇ・・・ ・・・・・家、ひっくり返るな。きっと。 そんなことを思いつつ家に帰ると・・・ 「お帰りなさいませ!!ご主人様!!」 ・・・・・いきなり知らないメイドロボにタックルされて柱に叩きつけられた。 ・・・ヤバイ。なんか走馬燈が見える。 メイドロボのタックルで人生を終えるとは・・・ せめてキサラギ製のメイドロボだったらタックルせずに玄関に座って出迎えてくれるんだがなぁ・・・ 「・・・何やってんの?アンタは。」 ・・・この口調はアイツか・・・起こすときにはますた−なのに普段は何故かアンタとか言うんだよなぁ・・・ 「すいませんお姉さま・・・お出迎えしようとしたらぶつかっちゃって・・・」 「良いの良いの。どうせ家のマスター無駄に打たれ強いのが取り柄だし。」 ・・・人の事ボロクソに言うなコイツ・・・ 「交通事故にあっても受け身取れる人間がメイドロボのタックルで死ぬわけないでしょ。」 ・・・あれは車が来ると三秒前に分かってたから受け身がとれたんであって・・・ ・・・ん?そう言えば凄まじく気になる単語が聞こえたような・・・ 「お姉さまがそう言うなら大丈夫なんですね。」 ちょっと待てぇえい! 「ね?起きたでしょ?」 「すごいです!お姉さま!」 ・・・すまん。事態最初から説明してくれ。 ・・・・・ツッコミを入れたとき、視界に浮かんだ走馬燈は消し飛んだことを追記しておく。 野良メイドロボ 主人が死亡したりして自立したメイドロボのことをそう言うらしいが・・・ たいていは道端でエネルギーが無くなって朽ち果てたり、 自分でサ−ビスセンターに連絡して回収を頼むらしい。だが・・・ メイドロボがメイドロボを拾ってくるなんて話、豚が空を飛ぶより有り得ない話のはずだ。 ・・・遺伝子組み替えで空飛ぶ豚を作った科学者がいたがそれは無視して。 しかし、俺の目の前には拾われてきたメイドロボが正座してこっちを見つめてるわけで。 ・・・・・なんで自分の家がこんなに居づらいんだろう・・・ 拾ってきた当人は「後は若い者に任せて」とか言って引っ込んでいったし。 ・・・・・何故に外見十歳で生産後三年の奴に若い者とか言われるんだよ・・・ 「私を、この家に置いていただけませんか?」 二人きりになるなりこの変なメイドロボはそう切り出した。 断言する。 これ絶対アイツの入れ知恵だ! 同僚が言うには、俺は押しが弱いらしい。 そんな押しの弱い俺が期待に満ちた眼差しで見つめられて拒否できるはずがないわけで・・・ 十五分後、部屋ではその新しいメイドロボの歓迎パーティーが始まっていた。 参加者三人で一人は蚊帳の外のこの状態をパーティーと言うのならだが。 なんだかんだで楽しいパーティーだったし、それは良しとしよう。 だが・・・これを渡すっつー目的忘れるわけにはいかねぇな。 露店で少し買い物してきたんだが・・・ 「またケーキ買ってきたとか?」 ・・・露店で売ってるのか?ケーキって。 買ってきたモンはこれだよ、これ! 「・・・指輪?」 ・・・ありゃ?間違えたかな・・・ 「しかもこれ、結婚指輪じゃん!」 ワリィワリィ、間違った。 でもそれ、結婚指輪なのか? 「・・・どっからどーみても結婚指輪だよ。」 プレゼントはこっちだ。ほら、ネックレス。 「へぇ・・・二つに別れる仕組みなんだ・・・あの娘とペアで付けられるね、これなら。」 しかし・・・結婚指輪のほうでもよかったんだけどな、俺としては。 「・・・え?」 なんでもないなんでもない! 「もう一回言ってみてよ〜」 なんでもないっての! 「素直にならなきゃ駄目だって!」 そう言ってアイツが俺の後頭部に手刀をかましたところで、俺の意識は途切れた。 なんだ、夢か・・・しかし、懐かしい夢だったな・・・ そう、俺は目が覚めるとベッドに寝ていた。 夢の中のように朝飯抜きなどと起こされることもない。 「・・・ったく・・・いくら休みの日でも寝過ぎでしょ、これは。」 一晩中寝かせ無かったヤツが何を言うか。 「だって・・・せっかくこの指輪もらった日だったし・・・」 「御姉様、充電が切れるまで続けるのは止めてください・・・」 そうそう、結局二人がかりで運ぶハメになったんだぜ? 「・・・反省してます・・・」 今、オレはこうして楽しく生きている。 最高の人生の伴侶と共に。 そう、要するにそう言うことだ