巴:6

それから、ざっと20分後…。

ご~~~ん!…という、お寺の鐘の様な、聞きなれた(爆)低く長く伸びる、えらく大きな
金属音がガレージ中に派手に響き渡り、
「ひゃん!痛ったぁい…!!」という、お馴染みの?巴の悲鳴が上がり、おれは思わず
頭を抱えてしまった。
…お~い…このシリアスな状況に…またかよ~。

正式な宿が決まるまで、おれの家を仮の宿に使ったらどうか…と提案し、最初は、そこまで
迷惑をかけられない…と、固辞していたバンだったが…。
何故かジェーンが賛成の意を示した事で、とりあえず今晩一晩の宿を…と話がまとまった。
で、そのまま家に着いたのだが…。
ダイレクトに、ワゴンをガレージに入れさせてしまったのが間違いの元だった。
…巴も迂闊だが…おれも迂闊だ。

「いたた…」
中腰の姿勢で、右手で天井の高さを測りながら、左手で頭をさすり、巴がばつの悪そうな顔で
おれの方を恐る恐る見つめる。
「おまえなあ…」
文句を言いかけたものの…思わず失笑が漏れてしまう。
「ごめんなさい…マスター」
頭をさすりながら、顔をくしゃくしゃにした巴が、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。
ふと、気が付くと…
先に下りていたバンとジェーンが、こちらを向いたまま、目を丸く見開いて固まっていたが、
やがて、ぷっと吹き出し、くっくと咽喉で笑い始めた。
「そんなに笑わなくたって、いいじゃないですか~!」
ぷーっと膨れた巴が、右手を天井から離して、小さく拳を固め、ふるふる振って抗議する。
おれも改めて吹き出し、笑いをこらえながら言った。
「本当に…そんなに何度も頭ぶつけてると、シャレじゃなく、本当にパーになっちまうぞ」
巴のそばに寄り、黒髪の頭に手をあて、そっと撫でてやる。
「…だから…マスター…本当に大丈夫ですってば」
少し顔を上げ、巴はにこっと愛らしく笑った。
この笑顔が…クセモノなんだよな。
だって…見ていると…何だか癒されるというか…本当に萌えちまうんだよなぁ。
「頭蓋骨はチタン合金製、皮膚は特殊フォームラバーですから…」
「それは一度聞いた」
「それに、南米に行った娘は、目の前で500キロ爆弾が炸裂して、200m飛ばされても、
かすり傷で帰って来てますよ…ちなみに水平距離200mですが…」
「……さっきは高さ20mとか言ってなかったか?」
「それは、中東にいった娘です」
「………」
予想外に切り返されて、おれは一瞬、言葉を失った。
そ~っと横を向くと、バンとジェーンが口に手を当てて、笑いをこらえている。
「ああ、わ~ったわ~った…」
おれは頭を掻き…溜息まじりに苦笑しつつ、右手をひらひらと振った。
先刻の凛とした態度で説明をした時との落差が凄いけど…。
やっぱり巴は巴だな…。
良くも…悪くもだが?(笑)
「ともかく、茶でも淹れてくれ」
「はいです」
巴は満面の笑みでうなずいた。

いつも、巴と二人っきりのリビングに、二人の来客が増えると何だか賑やかな感じだ。
テーブルを挟んで正面の三人掛けソファに、バンとジェーンが腰掛け、辺りをちらちら
見回している。
「……独身男の家にしては広いだろ?」
厳密に言うと、当然、巴との二人暮らしだがね。
「あ、いや」バンがそっと首を振った「…本国のおれの家も、こんな感じだったんでな」
「だった…ってことは」
「…ああ…今は…もう無いがね」
あ…悪いことを聞いちまったか?
ちょっとばつの悪い感じで思わず視線を逸らすと、バンはふっと寂しげに苦笑した。
「気にするな…昔のことさ」
ちらとジェーンを見ると、やはり少し暗い表情をしている。
…昔の家のことで…何か悲しい思い出でもあるのだろうか?
今は無い…って…。
まるで、存在そのものが無いような言い方じゃないか…。
その時、何故か…ふっと、バンがテロリストへの怒りを表わした時の事が脳裏に浮かんだ。
まさか…テロリストに…やられた…とか?
だとしたら…一緒に居た家族も……まさか…。

…だが、二人の沈痛な表情に、おれにはそこまで尋ねる勇気が湧かなかった。

「お茶が入りましたよ~!」
丁度タイミング良く、キッチンから巴の声がして、おれはホッとした。
あくまで偶然だろうけど、巴、ナイスアシスト!!
お盆に、茶たくに載った温かそうな湯のみが四つと、らくがんの入った器がひとつ載っている。
…って、ちょっと待て、ふたつで十分じゃないのか?
『ちゃんと』飲めるのは男二人だけだろ?
思わず指先で、テーブルに置かれたお盆の上を、ひとつふたつと数える仕草をして、巴とジェーンを
交互に指差す。
「まあ…気は心ですから~」
にこにこしながら、巴が言葉で答える。
まあ…確かにね…って…いいのか?それで…。
だが、バンは、テーブルの上のお盆から、湯のみが載った茶たくをひとつ手にすると、そっと、
ジェーンに差し出した。
「折角のご厚意だしな…君も、付き合ってくれないか」
「え?」
一瞬、とまどいの表情を浮かべるジェーン、そして…一瞬後、彼女の瞳から、何だかじわっと
こみ上げてきている様に見えて、おれは思わず息を呑んだ。
「…あ……は…はいっ!」
…本当にドロイドなのかと思えるような…ちょっと何かしたら泣き出しそうなのに…それでいて、
とても嬉しそうな笑みを微かに浮かべ…ジェーンは湯のみを手にした。
まるで…感極まって嬉し泣きしそうな…そんな感じじゃないか。
……何だろう…この娘は…。
間違いなくドロイドなのだが…まるで…バンに対して、単なるマスター以上の感情を持っている
みたいに思える。
いや…バン自身も…見ていると、ジェーンが大切なのに…時々、わざと一線を引いているように
見える気がするのだが…。

だが、二人並んでお茶をすすっている様子を見ると…何だかちょっと良い雰囲気だ。
…こういうのって…悪くないな。

ふと気が付くと、巴がおれに、そっと湯のみを差し出していた。
黙って頷きながら受け取ると、小さく小首を傾げて笑みを浮かべてみせる。
黒い瞳が僅かに悪戯っぽく輝いている様に見え…おれは心底どきっとした。
それに対して巴は口元に手をあててくすっと笑う。
…まさか…巴の奴、ここまで読んでいたわけじゃないだろうな?

とりあえず一息、つきはしたものの…日が暮れて、今日はどのみち、これ以上の調査は無理だし、
詳しい説明をすると長くなるから…というので、ともかく今日は一旦、話を打ち切ることにした。

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